SSブログ

ワークシェアリングの時代(3) [A4. 経済学ノート]

ワークシェアリングの時代(3)

 ワークシェアリングについて採り上げるのは3回目である。昨日と今日、経団連御手洗会長と橋下大阪府知事が発言している。それぞれを採り上げてみよう。

 日本経団連の御手洗冨士夫会長は6日、東京都内で開かれた経済3団体トップによる共同会見で、深刻化する雇用問題に関連して「ワークシェアリングみたいな考え方も一つの選択肢になる」と述べた。社員1人当たりの労働時間を短縮し雇用を確保するワークシェアリングは連合の高木剛会長も検討課題としており、09年春闘でテーマの一つになる可能性も出てきた。(1月7日毎日新聞)

 まるで評論家のような口ぶりである。御手洗氏はキャノン社長であり、ワークシェアリングの具体的な検討を社内に指示できる立場にある。ではキャノンはワークシェアを検討しているであろうか?とんでもない、キャノンは九州の工場で派遣切りをしている。経営者として極めて無責任な発言といわねばならない。
 御手洗氏は自分の会社ではワークシェアリングが不可能だと見ているのだろう。そのような情熱も根気もないというのが実感なのではあるまいか。見方を変えると、正直な人であるとも言える。「必要はわかるが理想論だ、できっこないよ」というつぶやきが聞こえてきそうだ。

 橋下大阪府知事はどうか。
 大阪府の橋下徹知事は7日、府独自の緊急経済対策として今年4月から、国からの定額給付金について、年収400万円未満の人を給付対象とするなどの所得制限を府全体でかけて、余った金額を学校の耐震化などに充てる意向を示した。さらに、府と府下43市町村で計4000人近い職員を一時雇用するワークシェアリングを実施する考えも表明した。ただ、給付金の所得制限には法律上の障害なども予想され、実現するかは微妙だ。

 橋下知事はこの日、経済対策に関する府下市町村の首長らとの意見交換会に出席。その中で「公務員には首を切られないという大きなアドバンテージがある。人件費総額はそのままで、府と市町村がワークシェアリングをやれば、4000人ぐらいの職員を雇用できる」と、ワークシェアリングの導入を首長らに呼びかけた。

 橋下知事は今日(7日)府下の首長にワークシェアリングの導入を呼びかけた。権限をもつ者=当事者として、具体的実行策の検討を呼びかけたところが偉い。橋下知事らしい、こんなことは「めくら蛇に怖じず」でなければやれない。

 しかし、実際の導入はたいへんだ。現職員の仕事と給与をカットして非正規職員に仕事を給与を分け与えるのだから、労組の反対は目に見えている。もろ手を挙げて賛成できる労組はほとんどないだろう。非正規労働者とワークシェアして、給与が減ってにっこりできるほど余裕のある正規労働者も少ない。そして同じ労働者でありながら、労組は特権階級化している。労組=正規職員である。
 特権を棄てることはたいへんな痛みを伴う。正規職員が非正規職員を同じ働く仲間と認め、痛みを分かち合う決意ができるかどうかは、正規職員のこころにかかっている。戦後、日本的情緒(たとえば惻隠の情)を棄ててきたことを考えれば困難であることを認めざるを得ない。労組の自己改革、新たな役割を担う時代が来ている。
 同じ仕事をしている非正規社員が社員の給与の半分以下であることになんらの疑問も抱いていないのが普通の企業の普通の社員だろう。今はこれが現実である。だから、労組にとっては自己改革と試練の時代の幕開けだ。時代の要請があるから、人間として判断を間違えない人材が労組からも出てくるだろう。期待したい。

 前にいた会社には労組があったが、社内にワークシェアリングを導入しようとした場合に、この組織が最大の抵抗勢力となるだろうから、経営側がどのように労組を説得するかが鍵だ。

 労組の幹部になることが出世の手段と考えているような輩が当たり前になっている企業では労組が最大の抵抗勢力となるだろう。根本に自己の利益しか考えない輩が労組を支配しているからである。でも、それは当たり前の人間の心情だろう。私的利益よりも公的な利益を優先すれば誰しもこころに葛藤が生まれる。自分ひとりだけではなく、家族も説得しなければならない。組んでしまった住宅ローンの返済をどうするという問題もあるだろう。そこを乗り越えなければならないのだから、難事業なのだ。個々の具体的な政策を検討することなしに実現はできない。うんざりするほどいろいろ発生する具体的問題をひとつひとつ解決してゆかなければならない。

 経営者・労組・非正規労働者がひとつの会社で、まとまろうとする努力が必要だ。それゆえ、役員給与から手をつけるべきだ。30%程度をワークシェアリングの原資として供出することを宣言してから労組の説得に当たるくらいの心配りはすべきだ。

 そして、ワーシェアリングの結果、製品の品質が向上するように非正規社員に協力を呼びかけ、巻き込まなければならない。正規社員のやる気の低下を防ぐ具体策も考えなければならない。社外への広報活動も重要である。ワークシェアリングを導入している会社の製品を優先して買う消費者が増えていくことが予想されるからだ。

 ここまで書いてようやく気がつく。私たち消費者がワークシェアリングを導入した企業の製品を優先的に買うようにすれば、企業をそして日本の社会を変えることができることに。

 ワークシェアリング導入は、企業側に不退転の決意とたいへんな根気が必要だ。さて、どこが先鞭を切るだろう。
 ヤマトの国は、話し合いで国譲りが行われたと古事記にはある。利害の異なる経営者・正社員・非正規社員は、大きな和=国造りを実現できるだろうか。

* 12月21日#453『ワークシェアリングの時代(2)』
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-12-20-1
* 12月10日blog#434『ワーク・シェアリング(1)』
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-12-10

 2009年1月8日 ebisu-blog#479
  総閲覧数:62,523/409 days(1月8日0:00分
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0