SSブログ

#5132 公理を変えて資本論を書き直す⑥:生産性アップと労働価値説 Dec. 20, 2023 [A2. マルクスと数学]

 前回の生産性アップのシミュレーションの続編です。

産業用・軍事用エレクトロニクス輸入専門商社の生産性を1.5倍にアップしたポイントは
●為替変動に応じて3か月に一度更新される円定価制度・システム導入
●受注残・納期管理システム開発・導入
●売上の平均化による月変動幅の縮小のもたらした効果
●人:東京営業所長遠藤課長の重要な役割
●利益重点営業委員会と電算化推進委員会、そして収益見通し分析委員会、為替対策委員会、長期経営計画委員会、資金投資委員会の連携

  遠藤さんの自分の配下の営業マンの仕事観察:
 営業マンは時間の半分以上を見積書作成や納期問い合わせの英文レター作成に使っています。そこで、
 目標:事務作業時間を10%に短縮

 そのためには何が必要か?

 仮説・検証作業と戦略思考が重要なのです。
 仮に営業マンが社員150人中100人とすると、50%を事務作業に使っていれば、50人分です。それを90%営業活動につぎ込めたら、「100人×90%=90人」となるので、「90/50人=1.8倍、一人当たりの売上高が変わらないとしたら、売上高はいままでの1.8倍ですから、実質的に営業マンを1.8倍に増やしたのと同じ効果が出せます。もちろん、スループット(処理量)が増えれば、それを処理するバックヤードの人員を増やさなくてはならないので、そちらの生産性もシステム化で向上させます。
 案外単純なことなのです。問題はこの目標を達成する戦略です。
 3か月ごとに定価表をコンピュータでプリントアウトすれば、見積書は営業事務の女性社員が独力で作成できます。
 問題は決算月の処理でした。通常の2倍を処理しなければならないので、決算月に受注済みの製品が入荷できるかどうかの確認に追われて、営業マンは営業活動ができなくなります。受注が決算月の前月から激減します。決算月の翌月は気が抜けたようになっているので、そこも受注が通常月に比べて60%くらいしかありません。そうすると受注が減少して売上がいつもの月より増えるので、受注残が激減します。受注残がどうなっているかを把握するのに、また営業マンに負荷がかかります。データをもっているのは業務課員と営業マンです。両方から情報が出てくると整理に時間がかかるだけでなく、精度に影響します。これが難題でした。
 それで、受注実績を管理するためにシステム開発をします。
 受注⇒納品⇒仕入⇒売上⇒仕入のドル決済
 納品と仕入は同時ですがモノの処理(納品・検収作業)と会計処理(仕入)は別です。
 仕事を課題別に整理すると、
 受注管理⇒収益見通し分析委員会&利益重点営業委員会
 納品⇒納期確認は業務課の仕事:電算化推進委員会
 仕入⇒仕入処理の電算化:電算化推進委員会
 売上⇒電算化推進委員会
 外貨決済⇒為替対策委員会

 これら処理のすべてを、「受注残管理・仕入処理・外貨決済」システムを開発して解決することになりました。利益重点営業委員会以外は、実務担当は私一人ですから、実務を調査しそれぞれの分野の専門書を2冊以上ずつ読み込んで、新しい実務設計をしながら外部設計書を作成していきました。
 外貨決済は平均納期で6か月、受注生産の納期の長いものは12か月を超します。だから、100%正確にその時の情報を入力しても、実際の納期とずいぶん離れますので、別途計算して、経理課長に為替予約をしてもらって、為替相場の変動の影響を消していました。外貨決済の90%前後が為替予約できるようになり、経理課長のNさんは喜んでいました。運転資金が売上の1か月を切っており、外貨決済の資金繰りたいへんでしたので。
 このシステムが三菱電機製の2台目のオフコンで円定価表システムと同時に動き出し、受注残レポートが毎月プリントアウトされるようになると、受注残からこれまでよりも精度の高い売上推計もコンピュータ処理されて出力できるようになりました。それで、10月に通常月の2倍の処理量をこなす必要がなくなりました。決算月も通常通りの営業活動ができるようになりました。
 英文レターは営業マンと業務課員から、「何が言いたいのかよくわからない」と海外メーカーからクレームがよくあったので、LAに別会社を作って、そこを経由してやり取りするようにしました。これは社長の関周さんのアイデアです。ハーバードビジネススクール出の女性が社長に就任していました。仕事のできる人で、とってもわかりやすい英文で、速いものでは返事が翌日には届くようになっていました。1978~1983年ですから、当時はインターネットは使えず、テレックスでした。
 この会社の生産性は50%アップしました。長期計画委員会で、予算オーバーの成果がでたら、1/3は社員のボーナスへ配分する案をオーナー社長に飲んでもらっていましたので、ボーナスが増えただけでなく、円安の時でも安定して出せるようになったので、「家のローンが組める」と喜ぶ社員がいました。
 高収益企業となって、内部留保がどんどん厚くなり、自己資本比率が急激に上がったので、資金繰りはとっても楽になり、あの当時10億円の外装がレンガ様の立派なビルが売りに出て、買おうかと社内で協議したくらい財務安定性もしっかりしてました。
 この間の変化を経済学的に眺めると、生産性を1.5倍に、ボーナスは年間100200万円ほど増やしています。労働強度は大きくなるどころか、軽減されています。
 受注残の確認は、ふだんシステムに入力されたデータを納入確認月ごとにプログラムで整理した出力するだけですから、営業と業務課でやっていた集計作業がなくなりました。ゼロになったのです。ゼロになったら、マルクスが生産性向上について主張しているように、労働強度が大きくなったかというと逆です。作業はゼロになったものが多いのですからね。
 仕入処理も電算化しましたから、その部分(検収・仕入処理作業)は業務課員の仕事は入力だけの単純作業になりました。ここでもコンピュータシステムを開発することで仕事が軽減できたということ。外貨決済予定も確定した値が月別に出力されていました。納期が到来していないものも月別に納入予定が出力できるので、受注残から外貨決済額全体は計算できるので、それをベースに季節変動を入れて外貨決済予約をしてました。

 生産性の向上は労働強度の強化によってなされるというのがマルクスのように労働価値説の立場ですが、実際に1.5倍の生産性アップはさまざまな労働をゼロにし、いままできつかった仕事を平準化したり単純化することで精度を向上させつつ、軽減することが多いことがわかります。生産性向上をよく観察すれば誰にでも労働価値説が破綻していることが理解できます。生産性向上は労働強化を伴なわないのです、逆です、軽減もしくはゼロにします。

 労働価値説の立場に立てば、生産性向上は労働強度の拡大ということになるので、ソ連や中国(20年前まで)は経済成長(=生産性向上)が遅れました。マルクス資本論は虚構の労働価値説に基づき、『資本論第一巻』で理論的に破綻した経済理論でした。
「売り手よし、買い手よし、従業員よし、世間よしの四方よし」の新しい経済社会をデザインするためには、労働価値説に基づかない経済理論が必要なのです

 結果として眺めると、遠藤さんという優れた営業マン、東京営業所長の存在が大きかった。TDK50億円もの設備投資の受注をしたことのある伝説の営業マンでした。10年間毎年5億円ずつ。小さい受注を嫌がらずに、コツコツこなして、大きいプロジェクトの匂いを嗅ぎつける。京セラの黎明期に創業である稲森和夫の薫陶を直接受けた人でした。遠藤さんを見て、京セラの稲森和夫、ただものではないと思いましたね。彼と初めて話をしたのは1978年のことです。為替業務では業務課長のY田さんという女性が協力してくれました。
 毎月開催される海外メーカー50社の新製品説明会にはもれなく出席してましたので、すぐに技術営業と技術部に友人がたくさんできました。それぞれ遠藤課長と技術部中臣課長が引き回してくれたからです。
 世界最先端のマイクロ波計測器や時間周波数標準機、質量分析器、液体シンチレーションカウンター、電子線シミュレータなど、男の子にとっては興味津々の数々ですが、それを開発に携わったエンジニアから直接説明が利けるのですから、これを逃してはならない、そう思いました。6年間最低毎月1回は開催されていました。他に東北大の助教授が勉強会の講師としてきていました。技術営業の連中と一緒に毎月マイクロ波計測器の測定原理を教えてもらい、講習会の後は一緒に飲み会へ流れるということになってましたね。マイクロ波計測器はディテクターと制御用とデータ処理コンピュータとインターフェイスから構成されています。案外単純なのです。コンピュータ部分の処理は聞いていてよくわかりました。大学卒業してから、理系分野でこんなに勉強の機会に恵まれるなんて、なんて幸せなのでしょう。知らぬ間に門前の小僧は勉強になりました。刺激的で楽しかった。


#5117 公理を変えて資本論を演繹体系として書き直す① Nov. 18, 2023 




 


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。