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#4952 落語 THE MOVIE:「子は鎹」 Mar. 26, 2023 [48. 想像力と語彙と表現力]

 標記の番組の新作「子は鎹(かすがい)」を見た。春風亭一之輔の語りで坂東弥十郎や雛形あきこが口パク演技で語りに合わせている。落語は早口なので、合わせるのがたいへんなようだ。

 腕の良い大工の主人公は酒に飲んだくれ、吉原にも入り浸り。しまいには女房へ八つ当たりし、愛想をつかした女房殿は男の子を連れて家を出ていく。
 吉原から馴染みの女を身請けして一緒に住み始めるが、何もせず朝となく昼となく夜となく、ごろごろするばっかりでなにもしない。しまいには朝酒を飲み始める。自分が朝酒を飲んでいるうちは何とも思わなかったが、女房殿が何もしないで朝酒かっ食らうのを見て嫌になってしまう。昔の自分を見ているようだ。しまいに喧嘩別れで、のち添えの女房殿も出ていく。
 主人公は酒をやめまじめに働き始めるが、もともと腕のいい職人だから、酒をやめたと噂が広まり、仕事を世話してくれる人が増える。まじめに働く一方だから棟梁にはなれなくても一人前の腕のいい職人だから、金はたまるが使うところもない。
 ひょんなことから出先で自分の息子が遊んでいるところへ出くわす。...

 落語を聴いていると小学生高学年の頃(昭和33~35年)を思い出す。極東の町の緑町三丁目交差点の角にはポンポン屋という店があり、釣り道具や模型を商っていた。そこでゲルマニウムラジオを買って、天井からぶら下げてイヤフォンでNHKラジを番組を毎日聞いていた。ゲルマニウムラジオは乾電池が要らないから、便利だった。次の年にもう1つ、もっと性能の良いのを買った。
 古典落語、講談、浪花節をよく聞いた。3年間も聞き続けて江戸情緒にどっぷり浸っていた。ラジオだから、場面は心の中で想像するしかない。テレビを見るよりも創造力がいるから、その部分の能力が自然に鍛えられる。語りから、ありありとそのシーンを脳内に組み立てられるようになるので、大脳の働きがよくなる。
 小説を読んでも場面が脳内にありあり思い浮かぶようになる。俳句や短歌も同じことで、作者が思い描いた場面を通して、情緒が伝わってくる。こういうことを繰り返しやっていると、図形の問題などが頭の中で操作できるようになる。むずかしい問題は頭の中に丸ごとしまっておいて、ちょっとした暇な時間ができると、頭の引き出しから引っ張り出して、ある程度に詰まると答えがポンと飛び出してくるので、紙に書いて確認してみるようなことができるようになる。

 「落語THE MOVIE」を視聴して、小学生は古典落語や講談や浪曲に興味をもってもらいたい。そしてたくさん聴いてもらいたい。世の中が殺伐としているのは、こういう文芸に触れる機会が少なくなっていることも影響があるのではないかと、疑っている。
 落語家の台詞回しは、名人クラスの俳優の台詞回しに匹敵することがよくわかる。刑事ものの番組で主役の台詞がとっても単調な人が多いことにあらためて驚く。
 古典落語を聞いて、センスが磨かれてきたら、見るのが苦痛になる番組が多くなる。視聴する側の目が肥えてきたら、俳優の演技のレベルもアップするのではないか?
 政治も、国民の政治家を見る目が肥えてこないと、いつもインチキ公約にまんまと騙されて、いつまでたっても政治はよくならぬ。


春風亭一之輔「子は鎹」
**「死神」「初音の鼓」


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