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#4925 「複素数平面」の重要性:高校数学 Feb. 12, 2023 [53. 数学四方山話]

オイラーの公式という有名な等式があります。
  e^iθ=cosθ+isinθ
 eはネイピア数。自然対数の底として数Ⅱでちょっとだけでてきます。
 この公式にθ=π(パイ)を当てはめると、
  e^iπ=-1

 指数関数と三角関数と超越数のπが、複素数の世界ではこういうシンプルな関係式が成り立ってしまうのは何とも不思議です。指数関数が三角関数で表現できてしまうなんともすごいことになっているのです。神が数学の世界をデザインしたとしか思えません。

 高校数学では数Ⅲの複素数平面の章で複素数と三角関数の関係が扱われていますが、複素関数は大学で扱われます。定義域の複素数平面から値域の複素数平面ωへの対応ですから、グラフに落として理解するなんてことができないので、具体的なイメージがなかなかつかめません。高校数学で、グラフイメージを手掛かりに、学んできた学生はここで試練に遭うことになります。

 とはいえ、高校で扱われる複素数平面は初歩的なものですから、複素数平面座標を利用して理解できます。オーソドックスな高校数学の関数の方法論が通用する世界です。

 複素数同士の掛け算は、絶対値の掛け算と極座標での「角度の足し算=回転」になります。割り算も成り立ちます。もちろ絶対値の割り算と同時に角度の引き算になります。指数計算によく似ています。累乗は指数部の掛け算に、掛け算は指数部の足し算に、足し算は指数部の引き算に...という具合に。

 高校数学は複素数平面から面白くなるのですが、数Ⅲの範囲なので理系大学志望の生徒しか履修していません。もったいないですね。高校数学で複素関数まで扱ってほしいとは思いませんか?
 数学の得意な生徒は普通科だけではありませんよ。簿記は特殊数学の分野でシステムが美しい、だから商業科の優秀な生徒は、理系コース選択の生徒と同じくらいに数学能力も高いのです。
 わたしの母校の根室高校では毎年数Ⅲ選択は毎年十数人(普通科120人中、商業科40人、事務情報科40人の定員、合計200人)だから、複素平面の面白さを知らずに卒業する生徒がほとんど。

 日本の産業、特に情報産業を支えるには、優秀な理系人材が不可欠ですが、1割以下しか数Ⅲを履修できないというのは長期的な教育戦略を考えるときに由々しき問題です。
 文系志望の生徒も、能力の高い生徒は数Ⅲは履修しておいた方がいいのです。経済学や統計学では数学の素養がないと研究の幅が極端に狭くなります。高校で行列式をやっていないと線形代数を理解するのは困難ですが、昔は数Cの分野で高校で教えていましたが、現在は消滅しています。原価計算だって適正在庫の計算問題で微分方程式が出てきます。だから、商業科の生徒にも数Ⅲ程度の数学は不可欠なのです。日商簿記一級合格レベルの高校生は原価計算の分厚い専門書も読むでしょうから。

 日本企業が地盤沈下しているのは理由のあることのように思えます。微分積分も重要ですが、複素数平面は三角関数と指数関数と複素数を結びつける重要な章であり、数学への強い好奇心を育む分野であるから、もっと重要性が高いと思います
 文科省の官僚はそのほとんどが文系出身者ですから、こういうところへ目がいかないのはとても残念なことです。日本人がとくに優秀な分野は文学と数学です。日本の古典文学は宝庫です。江戸時代に日本人の識字率が高かったことが影響しているのでしょう。読み手がわんさかいなければ質の高い文学は育ちません、江戸期の識字率は圧倒的に世界最高でした。日本へ来た外国人たちが目撃して多数書き残しています。町の貸本屋の店の前で本を読んでいる女の子がいるなんて、ヨーロッパ人には信じられないことでした。たとえば、書き言葉のドイツ語が成立したのは、マルチン・ルターの聖書のドイツ語訳ができたとき(16世紀)ですから、それまでは書き言葉としてはラテン語ですので、僧侶や貴族しか読めません。庶民が、それも子どもが貸本屋の店先で、本をむさぼり読んでいるなんて信じられない光景で、だから書き残しています。ペリーも驚ろいて書き記しました。
 数学は和算が発達しています。江戸期に私塾が30000もありました。難解な問題を出し合って競って解いて遊んでいました。むずかしい問題を解いたときには、絵馬にして神社に奉納しているので、残っています。知的な遊びの大好きな国民性は、江戸期に培われたものと思います。

 日本人や日本の企業が国際競争力を高めるには、数学教育にもっと力を入れる必要がありそうです。文系出身の文部科学省の官僚は残念ながら英語に目が行ってしまい、数学教育に関心が薄いのはモノの道理でしょうね。視野の広い官僚の一人がそのうちに気がついてくれるでしょう。密かに期待しています。

*複素平面


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 簿記もそうだが、数学も鉛筆もって問題解くのが一番いい。眺めただけでは芯のところが見えてきません。

<HP社のプログラムのできる計算機>
 複素数の計算ができる計算機があります。HP35sです。20年ほど前に購入したときには10000円ほどでしたが、いま29,580円です。青字をクリックするとamazonの該当ページへ飛びます。
 便利ですから使ってみてください。わたしはこれでHPのプログラマブル・キャリュキュレータは5台目だったかな。1978年から45年間使い続けています。数値プログラミングが簡単にできます。逆ポーランド方式(RPN)です。
 amazonで取り扱っています。

 ●HP-67&HP-97(プリンタ付き)⇒1978年
 ●HP-41cx ⇒1984年
 ●HP-49g ⇒1999年
 ●HP-35s ⇒2009年5月

 HP-97は1978年当時22万円でした。HP-67はその半額の11万円。オーナー社長の関周さん(産業用エレクトロニクスの輸入商社「関商事」のちに「セキテクノトロン」に変更し上場、2010年頃業績不振で他者へ吸収合併され上場廃止)が、仕事で必要なので入社1か月目くらいにプレゼントしてくれました。経営改革のために経営分析で推計計算や相関分析に線形回帰分析を多用していたからです。電卓で一日がかりの計算が、プログラミングすることで30分で終わるようになりました。うれしかったと同時に、コンピュータを使うことで生産性が飛躍的にアップできることを体験できました。入社1週間後に5つのプロジェクトを任されました。メンバーのほとんどが社長や取締役なので、プロジェクトの仕事するのはわたしだけ、3年間他のメンバーは報告を聞くだけでした。(笑)
 経営分析委員会、資金投資委員会、為替対策委員会、電算化推進委員会、長期計画委員会の5つでしたが、利益重点営業委員会の方も円定価システムをつくる相談を担当者であった東京営業所長から受けたので、そちらも半分わたしの仕事になりました。お陰で、3年間でスキルが飛躍的にアップしました。ありがたかった。分析して、問題点を挙げ、同時に改善案をつくり、説明して実施。ほとんどがシステム開発案件になりました。オービックとNECのトップレベルのSEと6年間じっくりお付き合いさせてもらいました。一緒に仕事するとトップレベルのSEのスキルをコピーできます。ありがたかった。
 HP-41cとHP-35sはいまも使っています。HP-49gはグラフィックディスプレイで、よかったのですが、3年ほどで壊れました。

 2009年5月30日に弊ブログで採りあげていました。
「HP-35s便利な道具」


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ebisu

 e^iθ=cosθ+isinθ
以下は千葉大学の物理学者のご意見です。
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千葉大では入学者への補習として高校数学から複素平面の応用として交流回路インピーダンスあたりまでしました。自由聴講なのですが、多くの学生が熱心に最後まで受講しました。後に大学院生になり「あの時の講義が研究に一番役に立っている」と言いに来た方もいます。

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オイラーの定理の説明を次のようになさってます。
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●以上、私の説明は「波には自由度が2つある例」に過ぎないと思って下さい。
なお、この点は、最先端研究でも議論のあるところで、光の波をcosとsinの自由
度に分けて「量子輸送」をして「量子情報」を取り出す、という「量子実験」が、
「実は電波で以前から行われていた『ホモダイン測定(受信)』と同じではない
か?」という反論にぶつかっています。
by ebisu (2023-02-15 17:01) 

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