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HP 35s 便利な道具 [57. 塾長の教育論]

HP 35s 便利な道具

 一月ほど前にヒューレッドパッカード社製のHP35sを購入した。科学技術計算用のプログラマブル・キャリュキュレーターである。10年ぶりくらいでHP-49gから買い換えた。
 高校数学は科学技術計算用のプログラマブル・キャリュキュレータを使うと理解が深めやすい。たとえば、ベクトルの内積計算はコサインを使う式と座標成分の掛け算の式があるが、この計算機を使うと任意の座標から簡単に計算ができ、両方式の計算値の一致を確認できる。対数計算も指数部が分数の場合の指数計算も簡単にできてしまう。三角関数は特殊角にこだわる必要がなくなる。なにより、理系大学へすすんだときにこのようなプログラマブル・キャリュキュレータを使うことになるから、その点からもよい。もちろん、文系への進む者にとっても社会へ出ると仕事上、基礎的数学の素養は不可欠である。

 私は1979年10月頃にHP-67、その一月後にHP-97を、84年にHP-41Cx、90年頃にグラフ機能付のHP-49gを、そしてHP-35sが5台目である。スタック4段、RPN方式の操作に慣れると手放せない。なにしろ昔はマニュアルが最高だった。キャリュキュレータのみならず、計測器制御用のコンピュータの世界でもHPのマニュアルのわかりやすさは世界最高水準だった。過去形で書かなければならないのが残念である。


 文系でも基礎的数学、統計学、プログラミングなどの知識が必要な理由を書いておく。
 私は文系だが、たまたま仕事で最初に使った計算機がHP-67だった。電卓を使って一日計算しているのを見かねて当時勤務していた会社の社長がすぐにHP-67を買ってくれた。1979年10月のことだ。分厚い英文マニュアルが2冊ついていた。一冊350ページほどもあったのではないだろうか。キャリュキュレータの使用法と、RPN方式のプログラミング教本だった。英文はとてもわかりやすいこなれたものだった。わたしでも1週間で2冊丸ごと読んでキャリュキュレータが自在に使えたくらいだから。ただし、基礎的数学と統計学などの知識はマニュアルを理解するために必要であった。
 自社の5年分の財務諸表を使って5つの分類(収益性指標群・財務安定性・成長性・生産性・活動性指標群)で24項目の基本統計量を計算し、レーダチャートにあらわすと共に、24項目をベースに総合偏差値を計算していた。さらにその結果を使って年次予算管理をした。総合偏差値での目標管理である。結果は月次・四半期・半期ベースで5つのディメンションに分けて24項目の目標値と突き合される。
 毎月、月次データや四半期データ、半期データで基本統計量を計算していたから、電卓では2ヶ月で限界だった。時間がもったいない。会社の収益性の向上、為替差損回避、財務体質改善、長期経営計画の作成、月次経営分析、年次計画の管理など、やるべき仕事や解決すべき課題が山積みだった。そのような中で月次決算が出たら、1日中電卓を叩かないといけなかった。
 HP-67を使うと毎月計算に丸2日ぐらいかかっていたのが、1時間足らずですんだ。入力データをチェックするだけであとは自作のプログラムにお任せだった。
 この計算機は1センチ×8センチぐらいの磁気カードでデータとプログラムを保存できる優れものだった。当時はPCの黎明期で、とても仕事に使えるレベルではなかった。もちろん表計算ソフトはまだなかった。コモドール製のPCがあったが、押しても戻ってこないようなキーのある代物だった。計測制御用のPCがあったが200~400万円もした。いまなら400万円くらいどうってことはないが、当時は高かったのである。レーダチャートを描くためのプロッターも200万円近かった。手で描いた。

 1ヵ月後(79年11月)にはプリンタのついたHP-97が手に入った。これは当時22万円した。社長が米国出張のお土産に買って来てくれた。あるとき昼休みが終わって席に戻ると、机の上に置いてあった。どうしたのかと聞くと秘書が「社長からです」という。嬉しかった。
 プログラミングの基礎はHP-67とHP-97で覚えた。
 その1年後にはダイレクトアドレッシングのプログラム言語(オフコン専用言語)を、さらに1年後にはPROGRESSⅡというコンパイラー言語(これもオフコン専用言語)を覚えた。輸入商社の統合システム開発を83年に担当させてもらったのは開発技術を磨くのにたいへん役に立った。この時期にNECのシステム開発技術の解説書シリーズや"Accounting Information System","Structured COBOL","Sftware Engineering"などの原書数冊を読み漁った。人工知能への興味から"Artificial Intelligence"を、数年経ってからチョムスキーの"Knowledge of Language"まで読み漁り、知的興味は尽きることがなかった。
 なにより一人で任された統合システム開発が技術レベルを上げてくれた。優秀なSEとのコラボレーションは何物にも換えがたい経験だ。
 外国為替管理や納期管理、円定価システムと会計システムが統合された統合システムで、個別にはすでに開発していた。取り扱い製品は輸入品であるにも関わらず、会社の利益は為替変動からフリーとなった。それどころか日米金利差から為替予約と組み合わせることで、売上の1~2%程度の為替差益が仕組み上でるようになった。利益は増え、財務体質は急速に改善された。
 開発したサブシステムの統合作業だけが残っていた。経営管理にはそれらサブシステムとHP-97による経営分析ツールと年次計画が組み合わされていた。目標総合偏差値が設定できて、5つのデメンジョンに分類して四半期計画や半期、年次計画がコントロールできるのである。これは利益拡大にたいへんな効果を生み出した。粗利益率が28%から40%へ拡大した。仕組みを変えることで何もかもが変わってしまった。
 粗利益管理のために円定価制度を提案した営業課長がいなかったらこうはいかなかっただろう。複数の会社に勤務したことのある私の知る限りで一番優秀な営業管理職はこの男である。この会社(産業用エレクトロニクスの輸入商社)はその後、店頭公開を果たした。
 (この数年間に培った技術が次の会社で業界初の統合会計情報システムを開発(84年)するのに役に立った。コア部分の財務会計システムと各サブシステムとのインターフェイス開発を8ヶ月でやり遂げたのは広汎な技術的基礎があったからである。富士通製の当時最大クラスの汎用大型機を使い、臨床検査業界初の統合会計情報システムとなった。開発費は外部支払分だけで5億円を超えた。)
 社内で毎月開催される、東北大学助教授の講習会や海外の取引先の新商品説明会へも参加した。マイクロ波回路と測定についての講義だったが、ディテクターとコントローラ用のPCの接続に過ぎないから、理解は容易だった。ディテクターはマイクロ波、ミリ波、光と、順次波長が短くなる。医療機器もディテクターとコントローラからなっているので、マイクロ波計測器の知識が後に別の会社で医療用検査機器の理解にも役に立った。ただ、医療用検査機器はバスが原始的だった。マイクロ波計測器が双方向のGP-IBだったのに、90年頃でもシリアル・インターフェイス・バスだった。医療用検査機器業界がインターフェイス・バスに関しては遅れていたといえるだろう。

 HP-97の次に使ったのはHP-41Cxである。1984年のことだった。これは別売りの統計パックソフトとあわせて4~5万円だった。90年頃になると子会社管理用の経営分析ツールにはEXCELが使える時代になったた。PCが強力になり、表計算ソフトが充実したからである。レーダーチャートもEXCELからそのまま出力できた。子会社相互の経営状況比較が5つのディメンションから総合偏差値で比較された。改善点も5つのディメンションから年次計画レベルで目標管理できるような仕組みだった。
 会社がニューヨーク州から取り寄せた出生前診断用のMoM値に関する資料に載っていたグラフとデータからカーブフィッテングで計算式を逆算して、パソコンシステムを開発したときにHP-41Cⅹが役に立った。

 ちなみに、HP社は90年代にキャリュキュレータ部門を売却した。HP-49gを買ってから2年ほどで故障したが修理できずに困っていた。数年前からまたヒューレットパッカードでキャリュキュレータを生産し始めたので最新機種を買った。アメリカでは大学資格試験に持込が許されている。高校の数学の授業でもこうしたキャリュキュレータを使っている。
 日本でも授業で使う高校があってもいいのではないかと思う。もちろん文系進学予定の学生や就職する予定の学生にも。

 社会人になったら、どの部門で働いていても会社の商品を知らなくてはならない。その製造過程も販売も、社内の仕組みやコンピュータシステムもである。何をどうすれば利益が上がるのかを考えるためには会社がいま関係するもの、さらに未来に会社が関係するものにまで興味を広げる必要があるのだ。異部門の人々とのコミュニケーションは相手の仕事が理解できなければスムーズには行かない。だから、文系の人は理系の人たちの仕事を理解しなければならず、理系に人たちは文系の人たちの仕事を理解しなければならない。そういうことのできる社員が3%いればその会社はその業界でトップクラスの利益をあげられるだろう。
 自分の給料を上げたかったら、会社を数億円あるいは数十億円儲けさせろ。その過程で自分の仕事のスキルが著しく上がる。上がったスキルは一生自分のものである。
 ひたすら仕事をすること、それだけで気分がいいぞ。
 話しがまとまらない、社会人予備軍の高校生諸君にいろいろ伝えたいことがあって長々と書いてしまった。
 ・・・“悪い癖です、また文章が冗長になっていますよ”という「天の声」が聞こえる。
               ...m(_ _)m

*HP-97
http://www.hp.com/hpinfo/abouthp/histnfacts/museum/personalsystems/0041/0041threeqtr.html

*HP-35s
http://www.july.co.jp/index.php?main_page=product_info&products_id=226

*HP-35s日本語マニュアル
http://www.july.co.jp/hpcalc/35s_Jpn_Part1_071113b.pdf

 2009年5月30日 ebisu-blog#595
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