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#4739 気候変動から見たロシアのウクライナ侵攻:斉藤幸平 April 15, 2022 [8. 時事評論]

<更新情報> 4/16朝8:38追記 砂川文次著『小隊』

 4/17朝8時半追記:数学と経済学について

 『人新世の資本論』の著者である斉藤幸平氏が、今朝(4/15)NHKラジオ番組(6:45~54)でウクライナへのロシア侵攻の原因に気候変動の観点からインタビューに答えていた。
 なるほどこういう見方もあるのか、巨視的な視点からではないと見えてこないものがある、アイデアが斬新なので紹介する。
(視点の転換は数学の分野では、フェルマーの最終定理、ポアンカレ予想、ABC予想などの難問を証明するときにも、重要なカギとなっている。経済学でも視点の転換が新しい経済理論をもたらすことになるというのは容易に推察できよう。斉藤幸平氏の『人新世の資本論』とマルクス『資本論』を採り上げながら、弊ブログで新しい経済理論についておいおい解説していきたい。イメージを人に理解できる言葉で伝えるというのはなかなか容易なことではない。)

 原油、天然ガス、石炭などの化石燃料の大量輸出国であるロシアにとって困った問題が発生している。
 ①再生エネルギーへの大転換で化石燃料への需要減がはじまる
 その上、面積が広いゆえに次のような大きな問題を抱えることになってしまった。
 ②温暖化でロシア領土の65%を占めるツンドラ地帯でインフラ危機がはじまっている
 天然ガスや原油のパイプライン、道路、ビルなど、凍土が溶けてしまうと数メートルから十数メートルの地盤沈下を起こして、構造物が破壊されたり使用できなくなってしまう。
 ③電子産業やソフト産業などの最先端産業が育っていない
 この点は気候変動とは関係がない。国家戦略としてこういう分野に重点投資して来なかったので、最先端分野の民間資本や技術者が育っていない。ロシア産業構造の弱点だ。農業や天然資源に偏った経済構造のままである。

 他方で、ウクライナにはこれからロシアが必要な二つのものがある。
 ④肥沃な穀倉地帯
 ⑤「東欧のシリコンバレー」であるウクライナには最先端産業と高度な技術者が多数存在している

 プーチンでなくても、気候変動への対処という理由から、ロシアにはウクライナへ侵攻する理由があるというのが、齊藤幸平氏の主張だ。この戦いに負けたらロシアは北朝鮮のような経済レベルの国へと凋落しかねないのだろう。ソフトや電子産業の発達ぶりを中国と比較すると、長期的にはロシアは北朝鮮と同様に中国の属国に転落するだろう。気候変動と最先端分野の産業の遅れからロシアの覇権は失われていく。
 気候変動で、これから水・食糧・資源をめぐってその争奪戦としての戦争が地球上のあちこちで起きると斉藤氏は主張している。
 それを避けるには、ロシアも脱炭素化を進めるしかない。ロシアや中東諸国のような化石燃料に依拠した経済社会は重大な危機に直面しつつあるというのが斉藤氏の言いたいことだ。気候変動への対処という点から見ると、プーチンは化石燃料の依存した経済を脱酸素経済へと転換を図るのではなく、ウクライナを無理やり手に入れるという戦略を選択したということ。無理やり手に入れたって、高度な技術をもつ者たちはロシアの支配地域から逃れて他の国で働くだろう。そして火種は残り続け、ロシアへの恨みは何世紀も受け継がれる。ロシア人の中にそうした政治体制を嫌う人が増えていくことを期待したい。

 斎藤幸平氏は「2084年 地球温暖化の口述記録」という小説を読むことを勧めている。256ページしかないのに価格は4000円を超えるバカ高い価格設定となっている。原書が読める方は2604円なのでそちらでどうぞ。

2084年報告書: 地球温暖化の口述記録

2084年報告書: 地球温暖化の口述記録

  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2021/10/24
  • メディア: 単行本
The 2084 Report: An Oral History of the Great Warming

The 2084 Report: An Oral History of the Great Warming

  • 作者: Powell, James Lawrence
  • 出版社/メーカー: Atria Books
  • 発売日: 2020/09/01
  • メディア: ペーパーバック

 元自衛隊員で対戦車ヘリのパイロットだった著者による、ロシアが北海道へ侵攻してきたという状況設定で書かれた小説である。現実にロシアがウクライナへ侵攻して、戦争を起こしている。北海道の住民にとってはウクライナは他人ごとではないのである。
小隊 (文春e-book)

小隊 (文春e-book)

  • 作者: 砂川 文次
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/02/12
  • メディア: Kindle版


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シリカゲル

×脱酸素○脱炭素
by シリカゲル (2022-04-17 19:16) 

ebisu

シリカゲルさん

チェックありがとうございます。
早速修正しました。
by ebisu (2022-04-17 20:15) 

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