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#1413 市立根室病院へ公営企業法全部適用とは?(1) Mar. 10, 2011 [26. 地域医療・経済・財政]

 昨日(3月9日)の市議会で佐藤敏三議員の質問に、市長が市立根室病院へ地方公営企業法全部適用を検討していると答弁した。質問した佐藤議員は突然の答弁に絶句しただろう。
 地方公営企業法全部適用が、諸々の制限のために病院の経営改善に効果のないことはとっくに検証済みである。ナカミをきちんとしないでメサキを変えて糊塗し、問題を先送りするというH市政の性格がよく出ていると言わざるをえぬ。市立根室病院の経営はまもなく危険水域に入るから、多治見市の検証レポートを読んで、H市長、ナカミをきちんと整えよう。

 市立根室病院
 公営企業法 全適用へ
    市長方針 院長を事業管理者に

【根室】長谷川俊輔市長は9日、市立根室病院に地方公務員企業法を全部適用し病院経営の自立化を図る方針を明らかにした。院長を事業管理者に任命し、市長が持つ人事権や予算の編成権を与える方向で検討に入る。2013年度末までに結論を出す予定だった経営形態の検討作業を前倒しする。(栗田直樹)

 9日に再開した市議会本会議の代表質問で、佐藤敏三氏(新風)の質問に答えた。
 市は08年度、市立病院の不良債務10億5千万円を解消するために公立病院特例債を借り入れた。この記載では「病院事業改革プラン」を定め、抜本的な経営改善をすることが条件になっており、市は同年度にまとめた改革プランで13年度中に経営形態見直し策をまとめることにしていた。
 市立根室病院では現在、地方公営企業法を一部適用しているが、全部適用を採用することで経営の際先生を高めることができる。院長を事業管理者にする「全部適用」方式について、長谷川市長は「院長が議会答弁を行うなど結果責任が問われるシステム」と説明した。
 現在、同病院の医師14人中、院長も含め5人が札医大からの派遣医で、長谷川市長は「導入には、院内セクションの合意形成や、派遣する医科大学の合意が前提」として上で「早急に検討を進めたい」と述べ、新病院が開院する12年秋以降の早期に実現する考えを示した。
 経営形態はほかに「地方独立行政法人」や「指定管理者」の選択肢もあったが、経営改善効果や委託先確保が不透明なため採用しないことにした。
 道内ではすでに、札幌、旭川、稚内、留萌の各誌が市立病院経営に地方公営企業法の全部適用をしている。


< コメント >
 地方公営企業法の全部適用の事例がネット上で検索できる。平成18年度に適用になった岐阜県立多治見病院(185ベッド)を例にとって簡単に解説したい。
*「病院事業に係わる地方公営企業法の全部適用の検証」レポート:
http://www.city.tajimi.gifu.jp/shimin-byoin/zenteki-hyouka/kensho.pdf

  最大の眼目は「事業管理者」を定めて経営責任をもってもらうことだ。権限を譲る替わりに責任を負ってもらう。だから、人事権を事業管理者がもつことになる。経営成績が悪ければ、ボーナスや給与に反映される・・・というのは建前である。
 職員の身分は「地方公務員」のままだから、経営成績が悪くてもドラステックなボーナスカットや給与カットは実質上できないことを先行する多治見市の例が教えてくれている。業績が悪化してもボーナスや給与に響かなければ職員へのインセンティブもないということになるだろう。
  15年前くらいの厚生省の資料だったと思うが、例えば、自治体病院の看護師さんたちの平均給与は6百万円台、民間病院のそれは4百万円であるが、おいそれと民間病院並みには出来ないから、この点からの「経営改善」は無理となる。多治見病院の検証レポートもそのことを指摘している。「7総括」の太字部分をごらんいただきたい。
 いままでこれといった経営改善はなされてこなかったから、病院事業赤字はH市長に代わってから今年度13億円弱にまで増えてしまった。そして、コストカット作業を怠り、32個の外来診察ブースに見られるように積み上げ方式で膨らむだけ膨らんだ総事業費のせいで建て替えが終わるとさらに2.5億円ほど赤字が増える。
 多治見病院の資料を見れば分かるが、全部適用になってから患者負担(外来患者の単価)が10%ほど増えている。「経営改善策」は一人当たり単価を上げることだったようだ。これにはいろいろ手がある。そうやって売上を増やしても病院経営の改善にはなっていない。
 7ページを見て欲しい。185ベッドの多治見病院への一般会計繰出金はわずか2.9億円である。「同規模病院の平均」は178ベッドで2.3億円に過ぎない。市立根室病院は135ベッドに減床したが今年度12.8億円もの一般会計繰入を実施する。規模から考えると6倍、7倍もの赤字を出していることになる。赤字の規模をせめて半分程度にできないものだろうか?現在、1世帯あたり年額15万円ほどの負担になっている。

 全部適用にして事業管理者を定めても実質的な変化はないというのが、岐阜県立多治見病院の検証レポートにあった。その結果年々事業維持が厳しくなり、病院は存続の危機に立たされている。全部適用は病院経営改善の魔法の杖ではないのだ。何の効果もなかったことを選考する多治見病院の経験が教えてくれている。

 「検証」レポートの最後のページから抜粋する。

7 総括
 地方公営企業法全部適用は、一部適用と比較すると、機動性・柔軟性という点で管理者に一定の権限が付与されることにより、柔軟に組織を設置し職員を配置することができ、管理者が契約を締結できることから機動的な業務運営が可能となった。しかし、経営状況から判断すると、一部適用と全部適用と比べて、経営が大きく改善されたとはいえない状況である。予算の単年度主義、契約制度上の制約、公務員制度上の制約等の課題が依然として残っている。
 医師不足の中、今後も大学医局からの招聘は厳しいことが予想され、大学医局とのつながりを今後も継続しながらも、医師招聘方法について、大胆な見直しが必要である。
 施設が老朽化しており、多治見の地域医療の確保、患者の療養環境、医師・看護師の人材の確保、職員の働きやすさなどの観点から、新病院建設は不可避であり、第6次総合計画の新病院建設条件である経営健全化の道筋をつけなければならない。
 平成 19 年12 月に総務省から公立病院改革ガイドラインが公表され、病院事業を設置する自治体は、公立病院改革プランの策定を求められている。改革プランには経営の効率化、経営形態の見直し等について掲載する必要があり、経営形態の見直しが不可欠である。
 以上の状況から、地方公営企業法全部適用で経営を継続することは、多治見地域の医療を守るには限界がある。市民病院として、市民・患者のニーズに応じた医療を提供するにあたり、地方公営企業法全部適用よりも将来にわたり安定的かつ継続的に医療を提供でき、より機動性・柔軟性に優れた経営形態にする必要がある

 太線部分を見ればわかるように、全部適用の限界は明らかになっている。全部適用になっても病院の経営改善はできないから、時間の浪費になり事態を悪化させただけである。

 ネットで拾った別の病院の検証レポートから
(4) 企業職員としての意識改革
 病院経営を継続的に改善し続けるためには、全職員が高いモチベーションを持ち、経営に参加する運営体制の構築が必要です
 従って公立病院経営を支える職員には、公務員としての自覚に加え、企業職員としての意識を継続して持つことが求められます。病院事業庁ではBSC(バランス・スコアカード)等を活用し、職員の意識向上に取り組んできました。
 しかしながら、平成18年度の職員アンケートにおいて、病院のビジョンや戦略に関する重要性の認識度は、勤務条件や職場環境の項目に比べ極めて低い順位となっており、職員の経営に対する意識やモチベーションについて改めて評価し、改善を図ることが課題となっています


*「県立病院調査特別委員会」H19年10月10日
http://www.pref.mie.lg.jp/topics/200903055611.pdf

 一部適用で経営改善できなければ、全部適用になってもできないし、職員の士気も全部適用になったから上がるものではない。そうする前からやるべきことがあるはずで、そこをすっ飛ばして全部適用にし、事業管理者に責任を負わせても、病院の経営改善はできないということだ。
 病院は中小企業であり、オヤジの役割が強い。現院長に経営の才があればいいのだが、あったらとっくに経営改善に手をつけているだろう。何をどうしたら経営改善となるのかわからなくて右往左往しているのだ。事務系管理職は市役所の管理職をたらいまわしにするので医療のこともわからないうちに異動になっていなくなってしまう。
 一体誰が病院の経営改善を担うのだろう?

*#1409 医師着任と退任: 市立根室病院収益はどうなるのか?
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-03-08


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