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#1412 「絶句・・・」(m3.comより) Mar. 10, 2011 [40. 医療四方山話]

  今回も前回に引き続き特別養護老人ホームでの医療事故裁判事例です。親切なドクターが誤嚥事故に関わる解説をしてくれています。(コメント欄への投稿記事より)

「絶句・・・」(m3.comより)
ホームで誤嚥し死亡、和解金1400万円

昨年9月に傍聴し、先日和解が出ていた事件です。事件番号は東京地裁平成21年(ワ)第18816号です。

特別養護老人ホームにショートステイしていた、推定90代(尋問中に「100まで生きると頑張っていた」
との発言があった)の女性が、誤嚥で死亡した事例。原告は息子(推 定70代)、被告は老人ホーム。
まずは亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。
傍聴から推察された事件概要:
亡くなられた推定90代の方は、認知症あり、声上げ(意味不明の奇声を上げる)あり。平成19年12月と平成20年1月に、別の老人ホームで誤嚥事故を2回繰り返したため、その老人ホームから預かりを断られたところ、被告老人ホームで受け入れOKとされ、 利用することとなった。
平成20年8月に、介護士(推定)が通常通りに朝食を食べさせていた。普通なら飲み込んだあとに声上げをすることから、ちゃんと飲み込めていることを確認していたのだが、あるとき、口に入れたあとに声上げがなく、顔色が白くなっていくので、何かがおかしいと思って他の人を呼んだ。看護師などが集まって、看護師が吸引で誤嚥物吸引を試みたが奏効せず、救急車を呼んだが、結局亡くなられた。
原告側は、誤嚥物は吸引器では吸引できないのであって、ただちに救急車を呼ぶべきだった、とか主張している模様。原告本人尋問の最後に、裁判長から最後の一言を求められて 、「今日は9月9日で救急の日。なぜすぐ救急車を呼んでくれなかったのか。救急体制の不備を感じた。そういうことを知り合いには話している。」と言うようなことを述べてい ましたが、なんだかなぁと思いました。しかも奥さんは元看護師だそうです。
原告代理人は看護師に対して、他にも、ハイムリック法をやったのかとか、マウストゥーマウスはやった
のか、とかも聞いていました。で、最終的に和解金が1400万円となったものです。
誤嚥事故を起こしたことがある人を受け入れることは、大変なリスクがあると感じましたのでご紹介する次第です。

このケースも医師から見れば滅茶苦茶な話です。因みに”ハイムリッヒ”と言うのは喉を詰まらせた際の対処法で、患者を背部から抱き組んだ両手の拳で鳩尾部を突き上げる行為です。一般的には固形物の誤嚥の際に有効な方法とされています。しかし老人に下手に行えば肋骨ボキボキですよ。またマウス ツー マウスは御存知のように無呼吸の患者の肺に空気を送り込む処置ですが、気道閉塞がある時にはそれを解除しないで行うと、閉塞物を更に奥に送り込む事に成り禁忌です。「真っ先に救急車を呼べ!」との仰せですが、救急車が到着するまでに恐らく早くても5~6分は掛かるでしょう。その間何もしなければ、救急車が着く頃にはもう万事休すなんですがね。そして救急車が辿りついてもやる事は同じです。この事から原告側代理人が如何に医療に疎いかが容易に想像できます。

ここで何時ものように、この件に対して書き込んだ医師のコメントを1人だけ載せておきます。

90過ぎの方にハイムリッヒやら、逆さ吊るしやら、背部叩くのって、できますかね。私なら恐くてできません 、骨が折れそうで。 やはり吸引をする程度かな。
後は輪状軟骨穿刺でしたっけ、それをするのでしょうけどね。
何度も誤嚥があって断られていたのを引き受けたのが間違いでしたね。このホームの失敗はそこでしょう
それにしても、やっと受けてくれたホームを訴えるとは、誤嚥による事故を狙っていたのでしょうかね?

(付け足し)因みに”輪状軟骨穿刺”と言うのは、気管切開が必要な際にメス等の切開道具が無い場合(或いは経験が無い場合)に、とにかく少しでも早く肺に空気を送り込むために気管切開部に注射針を刺す事です。実際には慣れていないと刺すには度胸が要ります。
これは余談ですが、先日終了したアメリカの人気TVドラマ「LOST」の第1話にこの話が出てきます。主人公達の乗った飛行機が浜辺に墜落。そこには地獄さながらの修羅場が展開されています。心肺停止状態の黒人女性に対して若い救急救命士が蘇生を試みている所へ外科医である主人公のJackが近寄り、見かねて自分が蘇生を始めます。むっと成った救命士が自分の身分を告げるとJackは「それなら免許を返せ」と怒ります。そこで救命士が「じゃあペンを探してくる」とその場から立ち去ります。これはペン(ボールペン)が有れば芯を抜いたケースで喉を刺して注射針の代わりに出来るんだ、と言う意味です。またこれも有名なアメリカのTVドラマに「グレーズアナトミー」が有ります。途中から主人公達に陸軍の軍医が合流しますが、この軍医が登場する場面で、救急車で運ばれてきた患者の喉にペンが刺さっていてそれを見た主人公達は「何て医者だ!」と呆れます。勿論その軍医は何も無い現場でペンを注射針の代わりに輪状軟骨を刺して命を救った訳です。

老人が誤嚥などで気管を閉塞した場合一刻を争いますが、固形物などは背中を叩く事で結構効果があります。しかし餅の様な物は掃除機のような吸引機が(何処にでも有り)役に立ちます。
by 医療四方山裏話 (2011-03-09 11:35)


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医療四方山裏話

「これでも裁判官?」(m3.comより)
救急搬送訴訟で市逆転敗訴 広島、550万円賠償命令 11/03/09記事:共同通信社提供:共同通信社

 救急搬送先の市立病院と県立病院に受け入れてもらえず重い脳障害が残ったとして、広島市の男性の遺族が市と広島県に約1億1千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁は9日、市に約550万円の支払いを命じた。一審は原告の全面敗訴。
 判決によると、男性は2001年12月、狭心症の発作で救急車で運ばれたが、広島市民病院に電話がつながらず、県立広島病院も満床で受け入れを拒否された。
 判決理由で上原裕之(うえはら・ひろゆき)裁判長は「蘇生措置があと1~4分早ければ障害が軽くなる可能性があった」と判断。市民病院の電話機のコンセントが外れていたことを挙げ、「緊急を要する患者の生命を軽視しており、救急医療機関として著しい過失。患者の期待権を侵害した」と認めた。過失と障害との因果関係は認めなかった。
 07年の一審広島地裁判決は「最短時間で蘇生措置を開始したとしても、障害が残った可能性が高い」と請求を棄却。男性は09年に死亡した。
 広島市民病院は「一審で認められた主張が認められず残念。判決をよく検討した上で対応を決めたい」としている。

先ず最初に、全く話にならない判決です。何故なら通常”狭心症”で”蘇生”の必要は起きないからです。
勿論狭心症の発作が長時間に渡る場合に補助的に心臓マッサージをする事は有り得ます。しかしそれは蘇生とは言いません。

(Wikipediaより)
蘇生(そせい、甦生)とは、一度死亡した、あるいはそれに類する状態になった人間が再び生命を取り戻すことである

つまり激しい胸痛はあっても通常は狭心症では心停止には到りません。それなのに「蘇生が遅れた!」?
この記事の通りなら、広島高裁の判事の知的レベルは、前述の毎日新聞の記者並みのレベルです。
それに1~4分遅れたと有りますが、それならば何時症状が出て何時救急車に収容されて、何時病院に到着したかの時系列が分からなければ、意味が有りません。何時の時点からの1~4分の遅れなのか。また何故「1~4分の遅れ」と言う数字なのか。医師の立場からは全く分かりません。
もしこのケースが”狭心症”ではなく”心筋梗塞”ならば話は何とか理解できます。心臓が止まれば一刻も早い蘇生が必要で、手遅れになれば長時間の心停止による脳への血流低下が脳の組織を損傷を引き起こす可能性は有ります。そしてその脳への血流停止が約4分間で脳損傷が始まるとされています。ですから一刻も早く蘇生を開始するために救急車には”救急救命士”が乗っているわけです。勿論このケースでも救急車には救急救命士が乗っていたはずです。彼は”蘇生”をしなかった!? それはそうです。狭心症ではやる事は亜硝酸剤(ニトロ)の投与で、”蘇生”の必要な事態は起きませんから。つまりニトロがあれば、「1~4分の遅れ」は重要な事では有りません。

最近医療に関する裁判の記事を続けてネタにしています。これを読まれている皆さんの中には、またかと不愉快に思われる方が居るかも知れません。しかし考えても見てください。医療に関する裁判や記事なのに、先ず単語一つ取ってもいい加減(不正確)な有様です。しかし一度でもマスコミの報道に載ってしまえば、裁判所は厳正でマスコミは正しいと信じている多くの一般の人は素直に信じてしまいます。そして「何と酷い病院だ!」「何て医者だ!」etc

こんな状態を放置すれば、やがては心ある医師は仕事からますます離れていくでしょうし、また医療機関も門戸を閉ざして行くでしょう。そうなった時には一体誰が不利益を蒙る事になるのか・・・。

by 医療四方山裏話 (2011-03-10 13:29) 

ebisu

医療問題を考えるために、専門家がコメント付で医療裁判を紹介してくれるのは世の中の関心を集め、市民への啓蒙活動にもなるでしょう。
専門知識の欠如によるトンチンカンな判例が積み重なっていったら、裁判は判例主義ですから将来が憂慮されます。
新聞記者も不勉強ときては、どうしたら良いのか分かりませんね。
取材を重ねるうちに専門家と同等の知識を獲得してほしいものです。
裁判官の基礎学力も問題です。医療分野の専門知識をもたずに裁判を担当するのでは話しになりません。

ナレッジ・エンジニアという言葉を思い出しました。システム開発を担当するうちに、そのアプリケーションの分野の専門家と同等の知識を獲得してしまうレベルのエンジニアです。システム・エンジニアの一段上をいく、ウルトラ・スーパーSEです。
基礎学力の高さが問われますね。

by ebisu (2011-03-10 23:57) 

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