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#1386 医療四方山裏話 (2) Feb. 19, 2011 [40. 医療四方山話]

 医療サイドからの現行保険点数制度の矛盾について具体例を引いた解説がコメント欄に寄せられた。こういう解説にはメッタにお目にかかれない。やってられないな~という声が聞こえてきそうである。相互理解のためにはおおいにぼやいてもらわねばならぬ。
 「医心伝信ネットワーク」もこういうコミュニケーションがしたかったのかも。「なるほど、そうですね」と肯くだけでもずいぶんストレス解消にはなるでしょう。たまには共感を持って相手の話に耳を傾け、うなずく。医者だって人間です。


[医療保険とは]2
 日本の健康保険制度の根幹を成しているのは減価償却主義です。高い機械や使い捨て器具を使えば点数が高く成ります。極端なケースで考えてみましょう。
 貴方が急に胸が苦しくなり倒れたとします。市立病院に搬送され、いわゆるCPR(以前はABCと呼んだ救急蘇生)が始まります。心臓が止まっていれば心マッサージ(30分までは2500円)、余裕が有れば気管内挿管(5000円)、どうしても心臓の拍動が戻らない時に除細動(=カウンターショック。備え付けのAEDを使えば25000円。AED以外の器械なら35000円。しかし病院内で医師以外の者がAEDを使った場合は”無料”)。もちろんこれらの経過中には昇圧剤やアルカリ化剤の静脈内投与が行われ落ち着いたら中心静脈補液ルート確保がなされ、場合によっては人工呼吸器に繋がれる事も・・・その場合は更に諸経費が加算されては行きますが。
 心臓マッサージに器械は不要です。両手のマンパワーだけです。気管内挿管は技術的には難しい手技ですが、道具は喉頭鏡と気管チューブがあればOK。AEDは20万前後で購入すれば、後は使い捨ての1万くらいの電極の代金だけです。つまりこの一連の手技は技術的には結構難しいのですが、使う道具に金がそれ程掛かりません。その事が保険点数に反映されています。
 以上何とか心臓が動き出した(一命を取りとめ)段階で、取り敢えず2500+5000+25000=32500円。ざっと考えても50000円程度でしょうか。50000円で何が買える(何が出来る)でしょうね。「人命は尊い。金には代えられない!」

 一方で、90歳を越えた老人を弱ったからと無理矢理入院させ、肺炎にでも掛かって亡くなろうものなら「肺炎で死んだのは病院の管理が悪いからだ」と病院を訴え、また裁判所も何故か2~3000万もの賠償金を命じるケースが最近続出しています。医師専用のm3の掲示板には、そのような家族や裁判官に対する怒りが何時も渦巻いています。

 若い働き盛りの命を取り留めて50000円と言う保険点数も異常なら、寝たきり老人に当たり前の合併症を病院の責任にされ裁判官もそのように認定する。
 今までお互いの性善説でやって来た日本の奥ゆかしい文化は一体何処へ行ってしまったのでしょう。

by 医療四方山裏話 (2011-02-17 17:55) 

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医療四方山裏話

「M3.com」
So-Netが経営するm3ドットコムと呼ばれる医療専門のサイトが有ります。その中の一部は「医師限定コンテンツ」として一応医師でないとアクセスできないことに成っていますが、実際にはかなり多くの医師以外の方が見に来ているようです。その「医師限定コンテンツ」の中で最も有名なのが「Doctors Community」と言う掲示板でしょう。ここはm3に登録している医師なら適当なハンドル(一人が10個まで登録できる)で好きなことが書き込めます。また誰かの書き込みに対して「閲覧数」「賛成数」「反対数」「不適切」の感想(判定)も表せます。

大抵の場合元ネタは主に医療関係の新聞の報道記事(毎日新聞、読売新聞、朝日新聞、共同通信etc)で、その内容に対する井戸端会議ですが、やはり医療現場を殆ど知らない(勉強していない)記者が書いた記事ばかりなので、しばしばそのことが俎板に乗り非難が浴びせられます。
特に最近多発している各地の医療訴訟の裁判官の判決には殆どの医師がキレています。何故なら医師の側から見て明らかにミスではなくよく起きる合併症のトラブルが多いのに、医療に不案内な裁判官は医師や病院のせいにします。そして患者さんの立場も顧みず高額な賠償金の判決。しかし一番医師達が怒っているのは、どんなミスジャッジをしても謝りさえしない裁判官が、生意気にも医師に対しては容赦なく結果論で弾圧している事です。そしてそのような訴訟を煽る弁護士の存在も無視できません。特にこれからはロースクールで量産される弁護士の食い扶持を維持するためにどんどん訴訟が増えるでしょう。
もしこのような風潮がエスカレートして行けば、いずれ医師側は自衛のために萎縮医療の方向を目指すかも知れません。今でも現場では、患者さんに何かの手術や処置、検査、強い薬物投与などに際しては本当に膨大な書類が用意されます。医師は全てを説明する時間などありませんから、後は渡された説明や承諾の書類をかんじゃさんや家族が全て目を通してお互いが署名するのが普通です。しかし実際に何かの合併症が起きてしまい、その結果が悲惨なことになってしまった場合、やはり家族が医師や病院を訴える可能性は十分にあります。そして結果は、医療側に対して「患者側に十分な説明がなかった。手術の合併症で死亡する可能性について触れなかった」・・・
もし貴方がこれから手術を受けようかと言う時に、「貴方は手術で死ぬこともあり得る」などと言われたらどうされますか?しかし裁判になれば、そのことが取沙汰されてしまいます。
実際こんな話を聞いたことが有ります。血液透析を受けている慢性腎不全の患者さんは、最初のうちは尿が出ているから良いのですが、次第に尿量が減って来るとその分の体重増加を来します。それぞれの患者さんには自身の基準体重が決められていますので増加分は透析の際に除水しなければなりません。しかしそれには安全な除水範囲があり、それは大体基準体重の3%~5%と言われています。つまり50キロの方なら体重増加の許容範囲は1.5~2.5キロ程度です。それ以上の体重増加を短時間(大体4時間位)で処理しようとすると血圧低下や頭痛、足のツリなどの合併症が出やすくなります。結局一回の透析で安全に除水できる量は限られますから、かなりの体重増加で来院されるとどうしても未処理の水分が残ります。そしてその悪循環が続くとやがて肺に水が貯まる肺水腫の状態に至ります。この状態は呼吸困難を招き心臓も肥大し(心不全)、治療方法やタイミングを誤ると患者さんが死亡することに繋がります。ですからどこの透析室でも医師や看護師、臨床工学士などのスタッフは事あることに「余分な水分は摂らない」「体重は増やさない」ことを患者さんの耳が痛くなる程注意(指導)します。しかし残念なことに、どこのクリニックにも豪傑!(無理解な患者)は居るもので、クリニック側の説得にも応ぜず豪快!に体重を増やし、遂に不可逆性の肺水腫に陥りとうとう亡くなった方がいます。今流行の言葉で言えば「自己責任」、つまり自業自得です。しかしその方の娘さんが「病院の管理が悪いからお父さんが死んだ」と病院を訴えました。そして判決は原告側の勝訴。何故なら、「病院は患者が命を託して来ているのだから、それに応えて患者を説得する義務がある!」
のだそうです。それに対し病院側は「もう気が遠く成る程毎日注意していた」と反論しても、「では何故患者が受け入れるまで説得を続けなかったのだ」・・・。
もう今や医療機関は完全な弱者です。診療費不払いの患者さんに料金を請求すれば「病院に来るような弱い人間を苛める!」と何故かマスコミに叩かれます。今やどこの地方自治体でも悪質な税金の滞納は銀行に連絡して口座から強制徴収しています。食堂でラーメンを食べて料金を払わなければ無銭飲食で捕まりますね。しかし医療機関相手だけは何をしても大手を振って通れます。救急車の使い方が可笑しいと無用な使用に5000円程度の料金徴収を考える自治体は数多ですが、実際に施行できている所はほんの一握りです。また夜間外来に押し掛ける患者さんに対して別料金を徴収する病院もあまり有りません。勿論皆考えてはいても、何故か医療関係がその方向で動こうとすると必ず「待った!」が掛ります。

ではこちらの(善意の)意向に従ってくれない患者さんは医療機関としてどうすれば良いのか。答えは意外に簡単です。そうです。診なければ良いんです。最初から関わらなければ良いんです。先日「機内でのドクターコール」のテーマで書きましたが、手を出せばどんなに頑張っても結果が悪ければ訴えられる。しかし診なければ(少なくとも)訴えられない。医師としての忸怩たる思いは有るだろうが・・・ですね。

M3の医師の掲示板には、何時もこのような医師側の自嘲やマスコミ、裁判官、弁護士への怒りなどが渦巻いています。

by 医療四方山裏話 (2011-02-19 23:47) 

ebisu

なにやらコラボレーションの様相を呈してきたようです。
何の遠慮も要らない。
さわやかに、お互いに考えていること感じたことを書き綴るのみ。

あとは本欄で・・・
by ebisu (2011-02-20 19:05) 

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