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病院事業会計貸借対照表分析 [26. 地域医療・経済・財政]

2,008年2月13日   ebisu-blog#084
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 21時半の気温はマイナス4.6度Cだった。幾分か暖かい夜だ。朝の釧路の最低気温はマイナス11度が予想されている。根室も冷え込むのだろうか。5時に台所の床暖房が入るようにセットしておこう。水道が凍結したらやっかいだ。

 さて、財政係長が教えてくれたことを受け売りしよう。損益計算書と貸借対照表は地方公営企業法で規制されている。もちろんそれだけではなくて、地方公営企業法施行令と地方公営企業施行規則がある。彼の論点は、法で規制されているから病院事業会計には一切の会計処理が適正になされているというものであった。では、本当に適正な会計処理がなされているのだろうか?まず、法律そのものをネットで検索してザーッと目を通し、次に貸借対照表をチェックしてみよう。

 『~施行令』第9条には真実性の原則、正規の簿記の原則、明瞭製の原則(資本取引と損益取引とを明瞭に区分する)など、企業会計原則が並んでいる。こんな重複規定は必要ないだろう。企業会計原則どおりの処理を謳えばよいだけである。
 すぐにわかるが施行令や施行規則を作った人は企業会計原則がまるでわかっていない。それどころか簿記3級の常識もない。商業科と事務情報科の高校生が見たら「そんな莫迦な!」と吹き出すだろう。世間の常識とは隔絶した世界である。法律や施行令、施行規則どおりに作ってこのようなものが出来上がるのだとしたら、財政課の職員や病院の経理係はお気の毒というほかはない。民間では経理課員としての資質を疑われること必定である。このような決算書を提出する経理課長がいたら、瞬時に職を失う。それが民間の世界である。
 
 財政課から頂いた平成18年度貸借対照表から見ていこう。一見してありえない配列である。資産の部は固定資産から始まっている。このような配列はみたことがない。上場企業の公表決算書でこのような配列はひとつも見つからないだろう。流動性配列が常識である。
 固定資産からはじまっている。建物が半分しか償却していないのは解せない。償却率は51%である。法廷耐用年数の57%しか経過していないことになる。もう40年近くなるのではないだろうか?それとも30年しかたっていないのか?鉄筋コンクリート造りの営業用建物の法定耐用年数は80年もあったのだろうか?50年だったと記憶する。係長は否定したが、減価償却をしなかった時期があるのではないだろうか新築するときに未償却分が特別損失になる。新たな資金需要が発生するわけではないから、公的会計に慣れてしまうとこういうところの処理に感受性がなくなってしまう。これはツケを後に回す処理である。どうして監査上問題にならなかったのだろう?
 「器械及び備品」は償却率84%である。大半が耐用年数5年の医療器械であろう。この点に関しては係長と意見が一致している。ほとんど残存価格であり、老朽化が激しい

 流動資産に中に未収金があるが、これは患者へ請求したが未回収になっている部分だろう。営業債権とそれ以外の債権が混ざっている可能性もある。営業債権(売上債権)は売掛金という勘定科目を用いるのが複式簿記の常識である。その意味ではこの未収金勘定は「正規の簿記の原則」違反といえよう。残高は3.9億円ある。勘定分類を提示している施行規則の不備といえる。公的事業すべてについて、勘定分類に売掛金がない。そして事業によって勘定分類がばらばらである。別々に作られ寄せ集められたとしか思えない。事業相互に比較検討された跡が見えない。一体どういうレベルの人が寄り集まって作ったのだろうか、施行規則にざっと目を通しただけだが実に貧弱でお粗末な規程である。
 こららは総務省の所管だ。総務(自治)官僚の手抜き仕事の典型的な例のひとつである。少しは簿記を勉強しろと言いたい。これではコスト管理が不可能である。それは損益計算書の分析で明らかになるだろう。全国の自治体病院が赤字になるのは地方公営企業法や同施行令、同施行規則の杜撰ともいえる不備から発生しているともいえるのだ。赤字会社あるいは赤字事業体(特別会計)から経営コンサルティングを依頼され、担当したことがある。そして共通の欠陥があることが経験的にわかっている。公営企業にそれが当てはまる。そのことは損益計算書の分析で明らかにしようと思う。

 負債の部に移ろう。固定負債は記載がないからゼロということだろう。しかし、後で見るように資本の分に起債のある企業債や長期借入金が固定負債に当るから、修正後の固定負債額は5.7億円となる。資本の部に固定負債を表示するというのは民間企業ではありえない。監査でクレームがつくので必ず公表前に修正されるだろう。
 そういうわけで、負債の部は流動負債の部から始まっている。「一時借入金」が6億円ある。一時借入金は決算期をまたいではいけないはずではなかったか?運用が制限されていたと思うが、私の勘違いだろうか。後で確認してみたい。未払金が0.97億円あるが、入院患者用の薬剤仕入に関する部分は「買掛金」が常識である。本来の未払金と仕入債務である買掛金がどれだけなのか不明になってしまう。これも「正規の簿記の原則」違反である。日商簿記3級でこのような仕訳をしたら×である施行令や施行規則を作った方たちは日商簿記3級の高校生以下の知識しかないのだろうか?複式簿記の常識をまったく欠いている

 資本の部に移ろう。「繰入資本金」が2.9億円である。驚いたことに「借入資本金」という項目がある。これもまた、簿記の常識では借入資本は「負債」であって、「資本」ではない。正規の簿記の原則に反している。5億7千万円ある。内容は累積損失である。「未処理損失」に該当する。繰越利益剰余金のマイナスだと考えればよい。「繰越損失金」である。念のためにいうと、上場企業が繰越損失金を「借入資本」と表示したら証券取引法違反に問われる。それほど非常識な名称である。財政係長の説明では累積不良債務ということだった。「企業債」の項目があるので、融資先を訪ねたら、財政投融資資金だという説明があった。ならばこれは未処理損失ではなくて、繰越損失金を企業債で補填処理したものだ。そうすると、長期借入金として表示すべき項目である。したがって、資本の部に記載すべき項目ではない。
 実に不可解な科目の使い方である。私が間違えそうだ。問題の要点は事実とまったく異なる名称が使われていることにある。一般の常識とはまるで違う。わかりにくい。一般の常識が通用しない世界だ。社会保険庁職員による「横領事件」を「事案」と言い張るのに似ている(警察も公金横領を組織的にしていたが、これも公金横領事件ではなく「経費の不適切な使い方に関する事案」であった)。
 「剰余金」項目の中に「他会計補助金」というのがある。25.7億円ある。これは他会計からの資本注入である。
 2ページ目をみてみよう。「欠損金」が30.2億円ある。資本の部合計はマイナス1.2億円である。「借入資本金」が長期借入金であることがわかったので、資本金勘定から抜いてみると、資本金は2.1億円となる。
 年間10億円を超える規模の増資(一般会計からの繰入処理)が行われている。修正後の負債は7.8億円から13.5億へと増加し、流動比率は199.5%から116.4%へと低下する。200%が適正ラインだったと記憶する。現預金は費用の1.6か月分である。

 「企業会計」といいながら、常識的な企業会計とはまったく違うことがわかった。病院事業会計の貸借対照表は複式簿記の常識から外れている。その根拠は、①配列が違っている、②表示区分に誤謬がある、③表示科目の使い方にいくつか初歩的ミスがある、からである。
 建設債を「借入資本」として資本金の部に表示するごときは、売春を援助交際というのに似ている。日本語としても正しいとは言えないだろう。
 借入資本(他人資本)は簿記の概念では負債であり、自己資本に対立する概念として使われることは言うまでもない。そういう常識すら逸脱しているのが、地方公営企業法及び同施行令、同施行規則で作られた貸借対照表である。民間企業の貸借対照表と同じ用語を使っているが、内容はまるで違う。


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