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#3949 Sapiens と Homo Deus(1):ハラリの視界  Mar.10, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

  ハラリの著作 Sapiens を高校生の個別指導英語授業で採り上げると前回#3948で書いた。対象の高校生は現在1年生、英語の進研模試の全国偏差値が75-80の間で、1月に初めて英検を受験している。中学時代は英検受験の経験なし、だからいきなり準2級だったが「英検バンド」(1次:GP+7、2次:GP+4)から判断するとすでに2級合格レベルをクリアしているようす。このペースで勉強していればこの生徒は1年以内に準1級にチャレンジしそうだ、好きにしたらいい。英検準1級なら東大医学部の入試英語でも大丈夫だ。
 英語の指導の仕方については前回書いておいた。
 この生徒は数学のほうが偏差値ははるかに高いが、じきに英語の偏差値も80を超えることになる。文法語法問題とアクセント問題はこの生徒に合うものを、高校の先生が選んでくれることになっている。なにかをきっかけにいろんな先生とコミュニケーションしたほうがいいのである。

 小中高生のいる医師が根室へ赴任してきても、子どもの教育はしばらくは心配いらない状態と言ってよいだろう。都会の進学校や進学塾並の受け皿がある。

 さて、本のタイトルだが、なぜ homo sapiensとせずに、sapiens としたのか、著者に何らかの意図があるはず。好奇心とか何かおかしいという違和感は感覚に属するのだが、同じものを見てもそういう感覚の働く人とそうではない人がいる。ある程度は感覚を磨くことはできる。わたしの違和感がどこから来ているのか追体験しながら読んでもらいたい。

 ハラリの別の著書のタイトルは「Homo Deus」である。こちらは homo という語がついている。homo の対義語は hetero である。卑近な例では、homosexualと heterosexual という語がある。
 homo はラテン語接頭辞で「均質」や「同じ」という意味をもつ。FB上で議論していたら、理化学研究所の職員のSさんが、リンネの学術分類で homo はラテン語で「人(名詞)」だという。
 wikiで引いてみたらなるほどそうなっている。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒト
**https://ja.wikipedia.org/wiki/生物の分類

 生物分類では、「哺乳サルヒトヒトヒトヒト」、ヒト属は homo、ヒト種が sapiens である。ヒト種には亜種があり現生人類は homo sapiens sapiens である。
 そこでハラリのもう一つの本のタイトルとの関係が気になってくる。Homo Deus だが、「機械仕掛けの神のごとき人」という意味だ。deusには神のほかに悪魔という意味もあるから、ホモサピエンスにとって悪魔の出現という意味合いも含まれている。sapiensはwise(賢い)という意味だから、それよりも格上で、悪魔かもしれぬヒト属の新種ということ。
 概念の整理は最初は試行錯誤であり、知識が広くないと方向を間違えて隘路に追い込まれて往きどまってしまうから、広い教養があったほうがよい。読解力はたぶんに読み手の教養の程度に左右される。

 neanderthal(ネアンデルタール人)の学名は「Homo sapiens neanderthalensis」であり、ホモサピエンスの亜種であるが、より優勢な亜種であるホモサピエンスに滅ぼされ絶滅したと言われている。日本人の遺伝子の中にはネアンデルタール人の遺伝子がほかの人種よりも高い割出で含まれているらしい。ホモサピエンスとネアンデルタール人は世界のあちこちで混血したのだろう。ネアンデルタール人は温和で平和的な種族で戦闘的な種族のホモサピエンスに絶滅させられたのかもしれぬ。
 世に戦乱が絶えぬのはsapiensの遺伝子に「他者支配遺伝子」が組み込まれているからというような学術的発見が将来なされたら遺伝子組み換え治療でもやるのだろうか?

 homo Deus はヒト属デウス種、つまりヒト属の亜種ではなくて新種ということになる。ネアンデルタールや現生人類というヒト属ヒト種とは異なるヒト属デウス種という新種の登場によってホモサピエンスが絶滅の危機に追いやられるとハラリは想定しているのか。ネアンデルタールにとってサピエンスの出現よりはるかに大きな影響がおきることは想像に難くない。亜種ではなく新種なのだから。
 AIやサイボーグの登場によって、現人類が大きな変化を受けるだろう。オーダメイドの遺伝子治療や皮膚や器官や臓器の培養技術の進化によって不老不死もある程度は実現できるようになる。技術が人間を進化させてしまう。
*#3952 ゲノム編集技術の発展と人類の進化 Mar. 14, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-14

 見方を変えるとホモサピエンスが進化して新人類「ホモデウス」が誕生してしまうということ。進化した homo deus の登場で、進化できない homo sapiens はどういう存在になるのか。新人類の homo deusからみたら、homo sapiens は動物園のチンパンジーや猿やゴリラのようなもの。それが人類の未来だ。
 AIの登場が経済社会のありかたを根底から変えてしまいかねないが、ハラリは旧人類史が終わり、新人類の歴史が始まることを、壮大な構想の中で論証してみせるのだろう。

 この本は480頁、16万語ある。高校3年の英語の教科書は7200語だから、およそ20倍の分量ある。そしてここに書いたような論理的な読解を一貫したやることになるから、英文読解スキルは飛躍的にアップするだろう。

 ハラリの論理構築のたしかさがどの程度のものか見てみたい。彼の本は3冊出ている。生徒と議論しながら読むことになる。
 じつに贅沢な授業だ、…わたしにとって。(笑)


<雑談:amadeus
 amadeusはサリエリがモーツアルトの才能をねたんで毒殺する映画のタイトルである。アマデウスには「神に愛された」という意味があるらしい。モーツアルトはWolfgang Amadeus Mozartと書くが、ミドルネームの中にdeusが含まれている。Deusが神なのか悪魔なのか定かではないが、英語のloveはフランス語ではamour、イタリア語ではamare、スペイン語ではamar、どうやらラテン系の言語ではamaが愛を意味するようだ。
 近江誠著『感動する英語』「第5章抗議する」に映画アマデウスのサリエリの独白が載っている。CDの音声を聴くとじつに迫力がある。サリエリはモーツアルトの才能をねたみ、神が自分ではなくモーツアルトを愛したことに抗議して叫ぶ、「カピスコ!アイノウマイフェイト」。
 Capisco! I know my fate. Now for the first time I feel my emptiness as Adam felt his nakedness...
 (なるほど! わかった!これがわたしの宿命か。アダムが自分の裸に初めて気がついたときのようにわたしは生まれて初めて、自分がいかに無意味で空虚な存在であるかに気がついた。)

 
*#3949 Sapiens と Homo Deus(1):ハラリの視界  Mar.10, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-10

**
#3950 Sapiens と Homo Deus(2):不定冠詞の役割  Mar.13, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-13


#3954 ハラリと大数学者岡潔 Nar. 30, 2019
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2019-03-31



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