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#3942 話し合い(2):背景事情 Mar. 2, 2019 [71.データに基づく教育論議]

 卒業式の朝、式の直前になぜ「話し合いの場」が設定されたのか、事情を推察してみる。

 高校統合の失敗による学力崩壊の進行を食い止めるために、1年担任全員の協議によって宿題を課すことを決定したのではないか。普通科3クラスと商業科、事務情報科、合わせて5クラスの先生たちが相談して決めたことだから、普通科「特設コース」クラスの担任だけでは例外扱いできなかった。そういう理由で関係する先生全員が揃ったところへ生徒を呼び、話し合うのが一番よいと判断し、特設コースの担任が学年主任へ提案したと想像する。まるで会社組織のような仕事運び、すばらしいね。

 生徒を仮にA君と呼んでおこう。A君は大人や先輩に対して敬語を使って話のできる生徒である。小学校低学年の時から大人に混じって会話することに慣れていた。そういうシーンのひとつ、六・七年前のある日「極東のワインバー」サリーで数種類のチーズをつまみにグラスワインを飲んでいたら、両親に連れられて入ってきた。小3だったのではないか、大人たちとのおしゃべりに疲れて10時ころにソファで眠ってしまった。お茶目な小学生だなと思いはしたが、数年後に教えることになるとは思わなかった。
 苦手の国語の
力をアップするために、音読トレーニングを5年間で15冊(リストは「余談-2」にアップ)やったと思うが、その際に解釈や著者の意見への批判も随時やりとりしていたから、大人と冷静に議論することそして議論の際の「お作法」にすっかり慣れてしまった。
 開口一番「卒業式前の忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」と感謝の言葉をそえた挨拶からはじめたというから、さもありなん。
 計測するすべがないが、数学や英語の偏差値よりもコミュニケーション能力の偏差値のほうが高いだろう。議論を通じて先生たちはこの生徒の本当の力を自分の眼で見て、耳で聞いたことになる。

 だから、具体例を交えて話しているうちに納得する先生が一人二人と増えていった。途中から話の風向きが変わってしまい、学力トップクラスの生徒にどう対応するのがいいのか、そういう視点から議論がなされた。何がしたいのかをA君から聞いて、どう協力すればいいのかが模索された。なんと柔軟でたのもしい先生たちではないか。
 根室高校で現役で北大医学部へ合格した生徒はいないから、高校側にとっても大きな転換点、正念場である。あとは高校の先生たちの指導と協力次第、すでに英語担当の先生がときどき相談に乗ってくれている。成果は必ず出る、お任せしたい。

 小学4年生からうまく育てたら、毎年このレベルの学力を有する生徒は根室で3人くらい出現することになるだろう。そういう生徒たちの学力を高校でさらに伸ばせたら、指導する先生たちにも夢のある楽しい話ではないだろうか?

 学力トップ群の生徒を育成するために協力体制ができれば根室の町の未来が大きく変わる。北方領土四島返還戦略、市立根室病院年間17億円の赤字問題、街の未来ビジョンづくり、地域医療問題など、大きな問題が山積みになっているが、高度な問題処理能力とコミュニケーション能力を有する人材が不足していて解決できない状況を打破できる。
 いま、根室の町はそして根室高校はだいじなところに差し掛かっている。高校統廃合の大失敗が1年担当の先生たちによってチャンスに変わるかもしれない。失敗を恐れるな、10回失敗しても11回目に勝てばいい。わたしは6人の先生たち、「根高改革六人衆」に期待している。

 具体例を一つ挙げておく。根室にいても医学部進学に不安がなくなると、何が変わるのか。市立根室病院は東京の病院の2倍の年収を支払っているから、40歳代の医師が子どもを連れて赴任してくる。15~20年間いてくれるだろうから、市立根室病院の常勤医師不足問題は解消できる。もちろん、病院の赤字も半分に削減できるだろう。常勤医不足で、非常勤の医師によって代替しているからその部分の人件費が3倍かかっている。
 こういふうに長期戦略があれば地域医療問題だって解決できるし、北方領土四島一括返還も可能になる。場当たり的なことしかできないからいつまでたっても大きな問題が解決できない。人材を育成すればいろんな問題が解決できるということだ。根室高校の先生たちの役割は大きなものがある。
 根室高校ではいまあたらしい伝統づくりがはじまろうとしているのではないか。

 わたしは根高学力向上運動の外野席の応援団、もちろん根高は母校である。18歳まで根室で育って、それから35年間東京暮らし、そして故郷に戻ってきて、17年目。根室暮らしと東京暮らしがちょうど35年ずつ、節目の年である。古い何かが終わり、そこからあたらしい何かが始まる、その結び目が「節目」。最近数週間の体調不良も「六人衆」の出現もその現れの一つ。悪いこともよいこともあわせて受け入れたい。



<余談-1:根室における産学共同のありかた>

 もう十数年前になるが、普通科1年生のN君が、日商簿記2級に11月検定で合格した。高校受験を控えて暇そうにしていたから11月から簿記を教えた。根室高校で1年生で日商簿記2級の合格者は過去に例がない。2年生でもいない。日商簿記2級は商業簿記と工業簿記の両方があるので全商簿記1級相当である。N君は公認会計士になって数年仕事してから医者になりたいと言っていた。北大受験だったから、日商簿記1級へのチャレンジをとめた。結局、北海道教育大札幌分校へ進学した。北大以外への進学なら、日商1級を教えるべきだった。N君なら論文問題の解答のしかたをトレーニングすれば、合格できただろう。小樽商科大へ進学したSさんと進研模試で国語のトップを争っていた。作文能力が高くないと論文試験の答案が書けない。その高いハードルが超えられそうな優秀な生徒だった。N君は北海道教育大札幌分校を現役合格し卒業している。
 この生徒に2か月遅れて、2月の試験で事務情報科の1年生がK君が日商簿記2級に合格している。K君には高校入学試験当日の夜から簿記を教えた。
「君は普通科のN君とは違って、事務情報科だから簿記は本職だ、追いついて見せろ」
 競争心をあおったのである。かれらは同じ中学校の同じクラスだった。K君は6種目1級を取得して卒業していった、この記録は破られていない。事務情報科では工業簿記を選択できないので、独力で勉強するしかない、しかし塾がサポートすれば事務情報科の生徒でも高校1年生で日商簿記2級や全商簿記1級なら合格できる。K君は推薦で北海商科大学へ進学した。就職活動には困らなかっただろう。
 根室高校と私塾の産学共同の実例である。根室高校に日商簿記1級合格プロジェクトが生まれたらいい。卒業生に税理士、公認会計士が続出するだろう。帯広南商業に負けぬ、全道一の商業科はやり方次第でつくれる

 根室商業の時代は釧路湖陵よりも格上だったと釧路の教育を考える会の会長から忘年会の席で聞かされた。「まぶしかった」とおっしゃっていた。ebisuよりも一回りくらい年上の釧路の人のご意見です。総番制度と応援団はその時代までさかのぼる。だからどちらも商業科の生徒だけで組織され受け継がれていた。男子校でバンカラな校風、そうした歴史と伝統はとっくに絶えた。総番制度はわたしたち団塊世代が潰した。カテゴリー「90.根高総番制度」をクリックすれば、その経緯がわかる。
 作詞に才能のあった歯科医の田塚先生(故人)も考古学者で文学博士の北構先生も根室商業の同期。北構先生には3年ほどお会いしていない。

<余談-2:音読トレーニングリスト>
○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『坊ちゃん』夏目漱石
○『羅生門』芥川龍之介
○『走れメロス』太宰治
○『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
 『五重塔』幸田露伴
 『山月記』中島敦
●『読書力』斉藤隆
●『国家の品格』藤原正彦
●『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
●『日本人の誇り』藤原正彦
 『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆

 『語彙力こそが教養である』斉藤隆 
 『福翁自伝』福沢諭吉
 『近代日本150年 科学技術総力戦体制の破綻』山本義隆 岩波新書
 
 この生徒には『福翁自伝』の途中まで一緒に読んだ。物理学者、山本義隆の著作は知の職人の仕事そのものだが、独力で読めと指示した。いつまでも教える必要はない。一流の物理学者の思索がどういうものが自力でトレースすることが大切。

(○印は、小学生の音読トレーニング教材として使用していた。●印の本は中学生の音読トレーニング教材として授業で十数年使用した実績がある。音読トレーニング授業はボランティアで実施、ずっと強制だったが3年前から月2回各90分授業に変更し希望者のみに限定している。)

#3842より引用
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2018-10-20
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 高1の生徒から昨日(10/19、2018年)、福沢諭吉『福翁自伝』を読み終わったと報告があった。「次は何をやりますか?」と問うので、山本義隆著『近代日本150年 科学技術力総力戦体制の破綻』をとりあげると通告した。
 山本は日本でトップクラスの物理学者である、そして知の巨人でもある。緻密な論証の技は一流の職人そのもの。語彙が豊富で引用文の読解に苦労するところはある、たとえば鉄を意味する用語に充ててある漢字が漢和辞典には載っていない字だったりする。明治に鉄がはいってくるが、従来の鍛冶屋の製鉄とは規模も製法も違うので、その違いを表現する字を創った。明治の人々が外国へ行き、見聞きしたものを紹介するのに、既存の漢字では表現しきれぬものを感じたのだろう。そういうみずみずしい感動も引用文に綴られた見たことのない漢字から伝わってくる。
 山本義隆氏の緻密な論証の積み上げを味わってもらいたい。
 『福翁自伝』は途中まで一緒に音読し、残り2/3を独力で読ませた。高校1年生でこのレベルが読めたら、明治期のものの半数くらいは読めるだろう、もちろん『学問のススメ』も、よって十分に目的は達成した。あとは古典、それも文学作品なのだが、本人が嫌いなのでやらない。
 日本語語彙力と読解力はセットになっている。日本語読解力の大きな者は日本語語彙も豊富である。そして外国語の読解が母語である日本語の読解力を上回ることはない。そういう意味で日本語語彙が豊かで日本語の文章の読解力が大きいということが英文読解の基礎をもなしている。今年初めころから英文読解トレーニングをしている、だいぶこなれた日本語にできるようになってきたので、精読と合わせて頭から読みこなす速度アップトレーニングを数か月前から始めた。一緒に読んで、やりかたを伝授するだけ。半年後にジャパンタイムズ記事を読むことになるだろう。ジャンルが様々だから、よいトレーニング材料になる。

 当代の知の巨人の一人である山本義隆は1968年に東大全共闘議長だった。団塊世代には懐かしい名前である。
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