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#4753 冠詞と単数・複数に焦点を当ててみた:高校生のための冠詞解説 May 14, 2022 [49.1 英語音読トレーニング]

 高1生対象、土曜日の今日の音読特訓授業は「冠詞」と「名詞の単数複数」に焦点を当てた授業をしてみました。ドイツ語にもフランス語にもイタリア語にも冠詞はありますが、日本語にはありません。冠詞が変わるだけで意味がまるで違ってしまいますが、意識してましたか?
 生徒たちはどこまで冠詞の意味が読めているでしょうか?名詞の単数や複数の意味に違いに気を配っているでしょうか?今日の参加人数は2人だけ、もう一人の1年生は歯医者でお休みでした。
 テキストは高校2年生用の『VividⅡ』、やったところはp.36(7行目)~46(5行目まで)。
 事例としてp.36の7行目以降の4文を引用します。

 In addition, some researchers have forcused on the mathematical features of origami and created a computer program.  It shows us that we can fold anything with paper
   Nobody knows in what areas origami will be used in the future.  There are no ends to its use!


 スラッシュ入れてから、ページ全体を3度読み、それから冒頭へ戻って3回読んで語順通りに意味をつかみ、更に意味をイメージしながら3回読み。それが終わってから文型を生徒へ質問する。ついで、わたしの方からさらに質問を重ねました(無冠詞は青字太字で、冠詞は黒太字でマーキングしておきました)。
 二人の生徒への質問は次の三つです。

質問1:”the mathematical features of origami”は名詞句だが、定冠詞のついている理由とfeaturesが複数形になっている理由、origamiが無冠詞である理由を、書き手が何を伝えようとしてそうしたのか述べよ。
 もう一つ、computer programに不定冠詞aがつけられている理由を述べよ。

質問2:paparが無冠詞なのはなぜか?
質問3:areasが複数形なのはなぜか? endsが無冠詞で複数形である理由を述べよ。

 冠詞はその要素を並べると{Φ、a、an、the}の4通りある。Φは「無冠詞」という意味です。
 無冠詞は具体的な事物を指してはいません。観念(ideal)的なものを指しています。冠詞がつくと具体的な事物(real)がイメージとして浮かびます。
 例えば、円とはある点から等距離にある点の集合ですが、点は大きさのないものと定義されますから、現実に作図は不可能です。真円はidealなものとしてしか存在しません。

 ユークリッド『原論』は「定義」から始まります。
1.点とは部分をもたないものである。
2.線とは幅のない長さである。
3.線の端は点である。

15.円とは一つの線にかもかれた平面図形で、その図形の内側にある1点からそれへ引かれたすべての線分が互いに等しいいものである。

 完全な円は作図できないのです。idealなものとして存在するのみ、これを概念と名付けます。現実に存在する具体的な事物ではないわけです。
 ギリシア哲学に興味のある人はプラトンのイデア論を想起していただいたらいい。真の実在あるいは本質はイデアにあり、現実世界にはない。そういうことです。「プラトンのイデア論」で検索したらたくさんヒットします。
 
 そういうことで、origamiもpaperもendsも現実に存在する具体的な事物ではなくて、概念を表しています。プラトン風に言うとイデアの世界にあるorigami、paper、programなわけです。
 origamiに即していえば、現実に作品として存在するorigamiではなくて、「折り紙一般」を代表しています。paperも同じで、具体的な紙ではなくて、「紙一般」、概念を表しています。endsも何か具体的な事柄の終わりではなくて、「終わり一般」を表しています。sがついているのは筆者が「複数の終わり」をイメージしているからです。「その利用に対しては終わりがない⇒無限である」というのは、遊びや熨斗(のし)や自動車のエアバックや、宇宙ステーションのソーラパネル、そして宇宙望遠鏡など、折り紙にはどういう利用形態が広がっていくのか、それには限りがないと言っているのです。だから無冠詞&複数形のendsという名詞句を使いました。
 
 Nobody knowsの文型が理解しにくかったようなので、二つの文に分解して解説しておきます。
 1. Nobody knows it.
   2. Origami will be used in some areas in the future.
 このsome areasがwhatになって節構造としてitに置き換わったと考えましょう。that節で普通の形で出てきたら3文型であることを間違えるはずはないのですが、「in+wh節」となっているだけで、「in+wh節全体がknowsの目的語です。

 冠詞の知識のチェック用に英作文を三つ用意します、やってみてください。
(生徒には冠詞を解説する前にやらせたので、正解は「問題1.」のみでした。英検準2級を昨年いま頃に合格している生徒ですから、これからはもう間違えないでしょう。)
問題1.わたしは自転車で通学しています。
問題2.母は昨日学校へ行きました。(わたしが通学している学校です)
問題3.兄は東京の大学へ通っています。


 三回ほど、冠詞や名詞の単複に焦点を絞った授業をします。問題3問は明日コメント欄に正解を載せます。

質問1の解説:
折り紙が無冠詞なのは、idealな折り紙を書き手がイメージしているからです。featuresに定冠詞がついているのは、「数学的な特徴」が限定されているから。「ああ、あの数学的な特徴ね」という具合です。折り紙の中で数学的な操作が可能な部分のこと。そこに焦点を絞って、コンピュータグラフィックスの形状設計のように数学を駆使したプログラミングを作るわけです。不定冠詞のaがついているのは「折り紙の数学的な特徴に焦点を絞り、ついで、いままで世の中になかったあるプログラムを作った」ということ。数学ですからアリゴリズムをコンピュータプログラムに置き換え可能なわけです。他から区別される一つのまとまりをもった折り紙に関するあるコンピュータ・プログラムを書いたということ。なんだかくどい説明になって申し訳ありません。
 ところで、最初のorigamiに不定冠詞をつけて"a origami"としたらこの文章はどのような意味になるでしょう?そんな質問も生徒にしてみました。「え!」とそのあとに声が出てきません。(笑)
 さらに不定冠詞を定冠詞に置き換えたらどうでしょう?これもありなのです。文章の意味がまるっきり違ってきます。こうした遊びが学びには必要なのです。しっかり理解しておかないと英作文の時に困りますよ。この文の場合は、無冠詞なのか、不定冠詞なのか、無冠詞なのか、単数なのか複数なのか組み合わせると6通りの選択肢が生まれます。それぞれ意味が違ってくるのです。生徒二人には説明したからこの文の場合は理解出来でしょう。しばらくはいろんな文例を利用して、冠詞を取り換えてニュアンスの違いを解説するつもりです。
質問2の解説:
すでに述べました。具体的な折り紙ではなくて、idealな折り紙、「折り紙全般」を表しています。こういうのを哲学分野では「概念的把握」なんて名前をつけてます。ようするに具体的な存在を想定しない「概念」です。トイレットペーパとか色のついた正方形の折り紙とか、そうした具体的で現実的な存在から離れた概念としての「紙」です。どのトイレットペーパーでもない、ありとあらゆるトイレットペーパー全部を表す「概念」としてのそれ。
 大西泰斗先生風に説明してみましょう。「指定ルール」から眺めてみると、名詞句で無冠詞なのは「指定されていない」ということですから、「紙一般」を表しているということになります。不定冠詞のaや定冠詞のtheは名詞の前に置かれるので「何らかの指定」をしていることになるのです。
質問3の解説:
すでに述べたので省略します。

 折り紙と数学に関するサイトを二つ紹介します。
*「折り紙と数学」
**「折り紙の数学」

<余談-1:「どうしてtheがついているの?」>
 先週、たまたま冠詞の説明をしたときに、生徒の一人が、中学生の時に「どうしてtheがつくのですか?」と先生に質問したら、「そういうものだからそのまま覚えときなさいと言われて、英語がさっぱりわからなかった」、「もっと早く教えてほしかった」、そう言うので、土曜日の音読授業で取り上げて、冠詞の違いで意味がどのように変わるのか解説してみる気になりました。
 日本語にはない機能だし、冠詞の扱いは説明が面倒なので説明しない先生が多いのでしょう。冠詞についての解説本が出版されるようになったのは21世紀になってからです。20世紀中はありませんでした。一つだけ1989年に解説書がでてます。
Alam S. Brender "Three Little Words a, an, the  :a systematic approach to Learning English Articles "
解説と問題演習が載っています。いまでもこの本が一番いいと思います。
 amazonで検索しましたがヒットしませんから、絶版になったようです。
 2001年に日本語版が出てました!
 この本のタイトル、誤解を生じます。たしかにフローチャートが表紙の裏に載っていますが、それを理解したからといって冠詞の使い分けができるわけではありません。普通名詞と固有名詞に分けて、それぞれが単数と複数のフローに分岐します。さらにそれが{Φ、a or an、the}に分岐したフロー図になっています。
 演習問題がたくさん載っているので、多くの事例に当たって考えないと冠詞が適切に使えるようにはなりません。演習問題全部やりましょう。学問に平坦な道はないのです。
 しかし、高校生はこんな本を一冊丸ごとやる必要はありません。暇のある英文科の大学生でないと時間作れないでしょう。ある程度でいいのです。3回の授業で8割以上は適切に使えるようになります。

チャートでわかるaとanとthe―ネイティブが作った冠詞ナビ (講談社パワー・イングリッシュ)

チャートでわかるaとanとthe―ネイティブが作った冠詞ナビ (講談社パワー・イングリッシュ)

  • 出版社/メーカー: 講談社インターナショナル
  • 発売日: 2022/05/14
  • メディア: 単行本
<余談-2:ボランティア活動>
 土曜日の英語音読授業はボランティアでやっていると書きました。偏差値45の根室高校には1学年に数名能力の高い生徒たちがいます。ちゃんと勉強したら、(1年生7月の進研模試の)全国偏差値が70を越えられる潜在的な能力をもっていますが、そのほとんどが自分の能力を伸ばせずに3年間を過ごして卒業しています。もったいないので、何とかしたいと始めたのが、土曜日の英語音読特訓授業です。
 ほんとうは数学もやりたいのですが、スキルス胃癌と巨大胃癌の併発で手術をしてから体力が落ちているので、働くのは週に4日間、水曜日と土曜日と日曜日の3日間は休日にしていました。いま水曜日も塾生相手に、英語の音読特訓授業をしていますから、これ以上増やせないのです。誰かボランティアで、土曜日に高校数学を教える人はいないかな?
 数学よりも英語が苦手な生徒が数倍います(根室は幼児英語を習っている割合がとっても高い、実際にはそれで英語嫌い、英語アレルギーになる生徒が多い、うまくやれるのは学力上位5%の生徒だけでしょうね)、だから、英語を水曜日と土曜日に教えています。ほんとうは両方やってあげたい。
 根室は勉強したい生徒がすくないのかもしれません、応募してきたのは一人だけでした。毎週やるところをノートに書いて、自分で意味をつかみきれないのがどこなのか調べてくるように言ってあります。授業を受けるには当たり前のことですが、そういう当たり前のことをちゃんとやり切る生徒が少ない(5%程度?)というのは事実です。そういう教育環境の根室へ移住して子育てしたおと思う人はほとんどいないでしょう。人口を増やしたいのなら、地元企業の経営改革を促進することと、教育環境を改善することです。この二つが変われば状況は劇的によくなりますよ。やれっこないなんて思わぬこと、なせばなります。現に根室高校から旭川医大に道北・道東推薦枠で現役トップ合格した生徒が昨年出現してます。並みいる進学校から推薦を受けた生徒の頂点に立てたということ。やり方次第ですよ、7年あればやりうる、やりかたは弊ブログに記録してあります。
 20年後に、どの分野でもいいから根室を背負って立てる能力をもった人材になろう。もっと頑張れ根室っ子!



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ebisu

英作文の解答です。
1. I go to school by bike.
2. Mom went to the school yesterday.
3. My brother goes to a university in Tokyo.

1は「通学」という意味ですから、具体的な学校をイメージしていません。「学びに行く」ということ、schoolは「学ぶ」という機能を表していると言い換えてもいいでしょう。

2は母親が子どもが通学している学校へ行ったという状況設定でしたから、「子供が通っている学校」ということで、ひとつに決まります。だから、定冠詞付きのthe schoolとなります。

3は兄が通っているのは首都圏にある大学の一つですから、a universityと不定冠詞をつける必要があります。aは同じものがいくつもある中の一つということです。
細胞のように、細胞膜で隔てられて内側と外側が区別できるものと言い換えてもいい。
水のようなものは内側と外側が区別できませんから、不定冠詞のaは使えないのです。
ところが、a waterという言い方はあります。北方領土の国後島沿岸にA水域とB水域という漁場が設定されていますが、waterは水域という意味では内側と外側の区別がつくのです。だから話し手や書き手がそういうイメージでwaterを考えているときには、不定冠詞がありうるのです。合理的でしょ?
冠詞はとっても面白いのです。
by ebisu (2022-05-15 08:41) 

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