#3417 年金積立金運用報告書を読む⑥:定量的に考えよう Sep.19, 2016 [94.年金]
<最終更新情報:9/21午前0時>
今朝6時12.5度、根室はめっきり寒くなりましたが、庭の桜は6輪ほど寒さに震えながら咲いています。8月末から北海道に台風が3つも上陸したので葉が落ちて、その後数日暖かかったので季節を勘違いしたのでしょう。釧路でも桜が開花していると数日前のテレビニュース。
前回#3416で、このまま放置すると、平成26年度末に112.1兆円あった年金運用積立金が平成41年(2029年)にゼロになってしまう結果がシミュレーションで得られました。使用したデータの制限から、このシミュレーションの精度は、平成41年±3年でおおよそ信頼性90%とebisuは判断しています。とくに根拠はありません、企業で経営改善のための財務分析も数年間担当していましたから、あえていうと経験智、'たしからしい'ということです。何もしなければ平成38年(2026年)から平成44年(2032年)までの間に90%の確率で年金財政の破綻が起きる、だからそれに備えていま手を打たなければならない、そういうことです。
なぜこのようなことをしているのかというと、わたしたちの年金積立金が枯渇するという事態がいつ起きるのか、そしてそれを回避あるいは緩和するには、どのような施策がありうるのかを定量的に検討したかったからです。
わたしは35歳のときに公団の分譲住宅を購入しましたが、そのときに売り手の説明を鵜呑みにせずに、女房と一緒にいくつか条件を変えて自分たちで計算をしてみました。そして無理がないと判断して買うことにしました。50歳で返済が終わりその後の人生の選択に借金という制約がなくなりました。分不相応な物件を購入していたら、お袋の介護のためにふるさとに戻ってくることができなかったでしょう。他人の計算を鵜呑みにしないで、自分で計算して確かめるのが癖になっているのです。(笑)
借金をするときには厳しいくらいの条件でもシミュレーションしておけば、予測外のことが起きてもどれくらいの影響が生ずるのか即座に理解できますからあわてずにすみます。たとえて言うと、予防が一番、病気になってからでは遅いのです。
いくつかの企業で経営を任せられたことがありましたが、いつも具体的な目標を立てて戦略を策定し、2~3年で成果をあげてきました。そういう視点で年金財政の行く末も眺めています。
話を本題に戻します。平成36年に年金積立金は64兆円減少して48.1兆円になります。平成36年の積立金取崩額はこのままでは8.8兆円です。
たとえば年間取崩額を平成36年の時点までに半分にするという目標を設定したら、どういう戦略がありうるのかということが具体的(定量的)に議論できます。
とりうる選択肢については前回四つ書きました。
①受給年齢の引き上げ(進行中)
②受給額の引き下げ
③年金保険料の引き上げ
④国庫負担の増大
⇒①:段階的に受給年齢を引き上げることによって、70歳受給開始にしたらいくら緩和できるのか?
⇒②:年金受給額を1割減らしたらどうなるのか?
⇒②:年金受給額2割削減を実施したら取崩額がどれだけ減少するのか?
⇒①と②の両方に効くもの:雇用調整交付金と低年齢在職老齢年金および高年齢在職老齢年金
⇒③年金保険料を2割引き上げたら、取崩額がどれだけ減少できるのか?現在特例扱いしている3号被保険者から保険料を徴収すればどれくらいの影響があるのか?
⇒③:厚生年金保険料支払者数を増やすためにはどういう方策があるのか?
⇒④:国庫負担を年間1兆円増やしたらどうなるか?また3兆円増やしたらどうなるのか、それらを可能にするにはどういう条件が必要になるのか?
他にも平均寿命の変化が変数としてあります、出生率の変化も長期的に見ると年金積立金取崩額に影響します。
労働法制の変更も大きく影響するでしょう。非正規雇用を減らせば年金保険料収入が増えるので、内部留保の大きい大企業の非正規雇用に制限を設けるという選択肢もあります。そういう制度を導入すると、企業は職種ごとに給与を決めなければならなくなるでしょうから、数年の準備期間を要します。
そういうことを、年金財政が破綻する前に検討し、具体策を実施するために定量的な目安が必要で、そのための推計でした。
たとえば、年金受給額の減額だけで対応しようとすると、いまただちに年金受給額を1割減額すれば、年金積立金の取崩額がゼロになります。H36年で見ても、取崩額が半分にできます。H36年以降の受給額を2割減にすると年金積立金取崩額は5年間ぐらいはゼロにできそうです。生活困窮者が続出するでしょうから、もちろんあらたなセフティネットが必要になります。そのためには、年金財政に関するシミュレーションと情報公開が大切で、情報を隠したり、嘘情報「百年安心年金プラン」を流すことは事態を悪化させるだけです。政治家も官僚も、誠実、正直であれ。
*「いよいよ始まる「年金減額」。いくら減るのか、何が問題なのか」・・・ZAPPERさんから情報提供あり
http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20130913/365190/?ST=p_bizboard&bzb_pt=0
国民のコンセンサスができれば、年金財政の破綻はあるいは防げるかもしれません。「専門家」や国会議員や政府に任せっぱなしにしていたから今日の最悪事態を招きました。
国民は公表されたデータから、自分の頭でシミュレーションして、何が可能か、何を受け入れ、何を拒否するのか自分の意見をもたなくてはなりません。
(年金受給者にこれからなる人も、現在受給している老人も、どれくらいの年金減額がされるのかが精度の高いシミュレーションで政策の選択肢が示されれば、いまから準備ができます。)
責任を取れない政府や頭のよい官僚のやることを丸ごと信用してはならないのだと思います。
もっと精度のよいシミュレーションのやり方がある場合や年金財政破綻を防ぐ具体策を考え付いた場合は、ぜひ投稿欄へ書き込みください、議論しましょう。
なお、利用したデータは、次のURLにありますのでご覧ください。これ以外のデータは使用しておりません。
*社会保障・人口問題研究所 年齢別人口推計値
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/s-kekka/3-1.xls
*平成26年度年金運用報告書
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/ts
シミュレーションの詳細は#3416にあります。
*#3416 年金積立金運用報告書を読む⑤:シミュレーション Sep. 18, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-18-1
《 余談 》
年金積立金は、老後の将来へ備えた蓄えでした。それは日本人が古代から受け継いできた基本的な考え方、価値観に根ざしています。台風、洪水、火事、地震、火山噴火自然災害の多い日本列島にずっと住んできたわたしたちのご先祖の智慧が、見えない将来に備えていつでも蓄えをもっておくということでした。
そうしてみると、国債残高1000兆円というマイナスの積立が、日本人の伝統的な価値観とは正反対のものであることがよく理解できます。
50年も昔の米国で提唱されたマクロ経済学なんて碌(ろく)でもないものにだまされ続けていないで、そろそろ目を覚まそう。マクロ経済学者である元東大教授・内閣参与の浜田宏一氏の言うことはことごとく外れました。日本の現実に合うわけがないのです。曰く、「日銀総裁が黒田に代わったら、3ヶ月でインフレターゲット2%は実現できる」、「ゼロ金利をやれば経済成長できる」。3年半たっても影も形も見えません。効果が見えないので、マイナス金利へと暴走し続けています、それでも効果がない。経済音痴の安倍総理がだまされるのは仕方ありませんが、わたしたち国民までお付き合いすることはないのです。
わたしたち日本人は1.2万年かけては継承してきた伝統的な価値観に戻って、経済のあり方を根本から考え直しましょう。グローバリズムに背を向けて、職人仕事中心の安定した経済社会を創ることができます。そしてそういう仕組みを輸出してグローバリズムの息の根を止めてやればよろしい。
我田引水になりますが、弊ブログカテゴリー「資本論と21世紀の経済学」をお読みください。答えがあります。
70% 20%
連続で失礼します。タイムリーな話題ですが、実は来月から社会保険の適用拡大が開始されます。が、これはいわゆる大企業が対象でして、水面下では今、こうしたことが起こっています。
例えば公共施設の指定管理業務。大企業が落札して請け、人の手配は(制度適用対象外の)中小零細へ丸投げ。新たなる合法的抜け道が確立する予感がひしひしと…。今後は業務の丸投げ化が進むことでしょう。(一部業種の人材派遣の需要が増すことになりそうです)
年金保険料増収を目論むも、また別なところに歪みを生ずることになりそうです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/2810tekiyoukakudai/
by ZAPPER (2016-09-20 15:02)
ありがとうございます、これも本欄に追記するか、別途「対策」のひとつとして取り上げたいと思います。
厚生年金対象者数を増やし年金保険料収入の増大を図るのは制度の破綻を多少は緩和するのでしょう。
柱は受給額の減額ですが、いろいろ手を増やして、受け入れやすい形にする必要があるのでしょう。
専門家がバックに控えていると、安心して論を進められます。
by ebisu (2016-09-20 15:45)
マニアックネタ、またまた失礼します(笑)。平成29年1月1日以降、現行は雇用保険の適用除外となっている65歳以上の雇用者についても雇用保険の対象となります。(雇用保険料の徴収は平成32年度から)
実は現在、65歳までと65歳以後の(年金の裁定請求をしている)社会保険被保険者は、年金支給が(一部から全部)停止される仕組みがあり、前者を低在老、後者を高在老と呼んでいます。(計算式が異なります)
そして前者の場合、(継続雇用によって)下がった賃金の一部を雇用保険行政から支出しています。65歳までの期間限定で、それを「高年齢雇用継続基本給付金」というのですが、雇用保険被保険者の65歳という枠がまもなく外されるわけですから、65歳以上の社会保険被保険者にもまたすぐに導入されることになるのだろうと考えています。
実は雇用保険行政自体は真っ黒の大黒字なんです。労災保険行政もまた同様です。今後は、企業への助成金等を餌に(笑)、さらなる雇用延長を促進し、もって老齢年金支給額減額をはかるのだろうと思われます。つまりは、雇用保険行政から年金行政への横流しですね。ええ、夜討ち朝駆けの延命措置として…。
あまりにマニアックになりすぎて恐縮ですが(笑)、こうした雇用延長のノウハウが確立され、それが70歳とか75歳とかまで引っ張れるのであれば、こと厚生年金に関してはまだまだ大丈夫などと思う次第です。問題は第一号被保険者ですけれど…。
http://www.kitamon.com/hrs/colum/tech090518.shtml
by ZAPPER (2016-09-20 16:46)
なるほどね、第2号被保険者(民間企業サラリーマン)のほうはあの手この手で、雇用継続給付金を出して、いつまでも働いてもらおうというわけですか。
その間は年金受給が停止され、GPIFの「給付費」が減額できる。
65歳以上の老人が3300万人もいるので、そういう人たちが1/4もいたら800万人ですから、若年労働力の不足を補えるし、年金財政も当分心配要らなくなります。
10%も受給額を減額すれば20年後でも年金積立金はなくなりません。
その代り、若い人の非正規雇用やフリーターが確実に増えるでしょう。雇用の需給バランスが変化してしまいます。第1号被保険者が増え、免除申請が増えることになるので、その分年金財政は長期にわたって悪化します。
プラスとマイナスでとっちに転ぶのでしょうね。面白い議論です。
by ebisu (2016-09-20 22:21)
昭和60年大改定の時に人事部門にいて、給与担当の女子社員がSOSを出してきた。
「年金保険料がすごく上がって手取りが減るから、文句の問合せが増えると思う。私ができるだけ対応するから、どんな改定なのか調べてくれる?あと最悪〇〇さん(私のこと)対応してくれる?」埼玉県S S 60の高校卒業の女子で日頃見事な捌きをみせていました。よほど困ってるんだなと思って軽く引き受けたら、泥沼にはまって年金制度の勉強に2月とられました。当時、私は60歳への定年延長の仕事をしていたので労働法と年金ってセットなんだな、と思いながら彼女と付き合っていましたねぇ。私が米国に転勤しなかったら彼女がカミサンだったかもしれない。年金制度の話は、若い頃のヒトコマといつもリンクしてしまいます。(仮定法もリンクしますけどね。)
それはそれとして、やはり65歳への定年延長とリンクさせて年金支給開始年齢を70歳に後倒ししようという、まあ悪くはない図式ですか。たぶん低在労も高在労も5年ずつ後倒しにされるのでしょう。
ただ、問題は60年大改定の時は「正規雇用」と、女性は30歳前には結婚して家庭を守る、という2点を前提としていたのが今は同じ手法は通用しないだろうということです。
特に後者は、男女雇用機械均等法の草案をみて、第三号被保険者制度との整合性のなさに、「なんだ、こりゃ?」と思わされた代物でした。
相も変わらず、財務分析と関係のない投稿ですみません。年金制度の60年改定には、いろいろな思いがあるもので。
ebisuさんの財務分析はしっかり読んで勉強しております。(念のため)
by 後志のおじさん (2016-09-20 23:25)
周辺の問題を視野に入れることはとっても大事なことですから、どんどん話を広げてください、歓迎します。わいわいがやがやが楽しい。
ところで「正規雇用」と「女性は30歳前に結婚して家庭を守り、第3号被保険者になる」、それが昭和60年大改定の前提ですか。
雇用機会均等法はそれとは正反対の政策です。これも縦割り行政の弊害かな?全体を調整する機能がない。企業で言うとチーフマネジャーが不在です。ちぐはぐでつぎはぎだらけ、碌なことになりませんね。
第1号被保険者が増え、免除申請者が増えているのは、若者の貧困化の証拠です。厚生年金勘定からの基礎年金拠出金が増えるはずです。今後厚生年金勘定の総支出に占める割合が増大しそうです。10年後にそれが50%に増大するとしたらどうなるのか、すぐにやれます。
60歳定年制を70歳まで延長する企業が増えてきました。もちろん給与水準を大幅に切り下げての話です。
根室でもそういう話を聞きます。JR北海道は50歳くらいでいったん退職させて、給与を半分以下にして再雇用。
企業の役員でありながら、定年後は給与を半分以下で同じ責任で雇用されている人、雇用する側には強力なコストカットができるので便利です。
若年層の非正規雇用はすでに50%ほどにもなっているのではないかと心配です。
雇用調整交付金のような政策的な定年延長がなされたら、雇用バランスに影響します。若年層の正規雇用や非正規雇用が減少して、老人雇用へシフトしてしまいます。
若年層で、社員になれなければ10年、20年勤務しても職種を転々として、スキルが育たない人が増大します。
そういう人口が若年層の間で増えていけばどういうことになるのでしょう。
GPIFの年金保険料収入はやはり低減せざるを得ません。
簡単なシミュレーションをして確認してみたくなりました。
政府が旗を振ってやっている定年延長や雇用調整交付金は、長期的には年金財政を悪化させるという逆効果をもたらしす側面もありそうです。それがどの程度なのか、定量的な議論ができたら面白そうです。
by ebisu (2016-09-21 00:13)