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#3282 保守主義とは何か May 6, 2016 [99. 資本論と21世紀の経済学(2版)]

 ラジオ番組「社会の見方・私の意見」で今朝、保守主義を採り上げていました。
 解説によると、個人の理性を超えたもの、集団的経験智とか、時代を超えて普遍的に伝わってきたものと定義していました。芯の部分を維持しながら、表面は時代に合わせてゆっくりと柔軟に変わるものといってよいのでしょう。
  そうして考えると、伝統、慣習、良識など、時代を超えて伝わってきたその集団に特有の経験智や価値観、風俗などが保守主義の芯にあたります。
 風俗には七五三、成人式、結婚式、還暦、お葬式、お祭り、お盆、正月などさまざまなものがあります。お風呂も風俗の範囲に含まれます。日本では混浴が普通に行われてきました。根室管内では養老牛温泉が混浴です。ジャパンタイムズが特集記事を載せたことがありました。特集記事に7~8人が入浴中の写真がついていました。若い女性が混浴にあんがい平気なようです。昔の日本人は裸に対する羞恥心が強くありませんでした。
 あまたある職種の職人仕事や能、文楽、日本舞踊、お茶、香道、書、落語、三味線、詩吟、短歌、俳句、百人一首、etc、柔道・剣道・空手などの武道・武術、武士道、商道徳などは連綿と先人の技能を受け継いで伝承してきたものですから、伝統とか集団特有の価値観と関連が深いものに数えられます。宗教も神道と仏教が日本の慣習や伝統行事や思想に深くつながっています。保守主義とは奥行きが深く重層的なもののようで、わたしは生態系に似たイメージが浮かびます。

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風俗 (『大辞林』より)
 ある時代・地域・階層に見られる衣食住など日常のしきたり。ならわし。
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 明治維新以後に、西洋の価値観にあわせるために、伝統的な性風俗が文部省主導で変えられました。蛮俗として、混浴や若衆宿、お盆や祭りの乱交が廃止されていったのです。東京府中の大国魂神社の例大祭は昭和30年前半までは、お祭りの3日間は境内に入ったら、お互いに気に入れば手に手をとってご乱交があったそうです。だから、年頃の娘を持つ親は、祭りの3日間は家から娘を出さない、なんてことがあったそうです。それでも、親の目を盗んで神社へ行く娘が後を絶たなかった。
 いま中高生は日本の伝統的な性風俗がどういうものであったかについて知識すらありません。残念ながら、性風俗の伝承はすでに途切れてしまっています。性風俗は性的本能の表出のしかたに関わる慣習であり、それゆえ人間の根幹に関わる部分です。そこが途切れてしまっているのでは、高校生が古典の教科書で『源氏物語』を読んだってわかるはずがありません。解説する先生の方は大丈夫でしょうか?宮本常一の本『忘れられた日本人』(岩波文庫)を読まれたことはありますか?
 そして大東亜戦争敗戦で米国の価値観を受け容れたことで伝統的な価値観がもう一度大きく揺さぶられました。いまでは米国流の拝金主義と性風俗が日本の国土を覆っています。

 伝統的な価値観は「武士は食わねど高楊枝」、金銭に拘泥しないのが日本人の心意気でした。金銭の大事さを知った上で、それに拘泥しないというところが偉かったのです。
 経団連には土光さんという会長がいました。この人は、朝は鰯の目刺と漬物をおかずと味噌汁にご飯、粗食で質素な生活をしたそうですが、そういう生き方が尊ばれました。日本の経営者には土光さんのような人が少数だがいたし、尊敬もされました。死後、私財をどこかへ寄付されたました。日経新聞の「わたしの履歴書」に30年ほど前に27回ほど連載されたので、本になっています。
 土光さんとは反対側にいる経営者たちがいます。日産のカルロス・ゴーン、ライブドアの堀江貴文、村上ファンドの村上世彰、・・・どうしてあんな低レベルで強欲な経営者をもてはやしたのでしょう?マスコミも悪い、日本の伝統的な価値観からみたらどうなのかをちゃんと書くべきです。テレビにそういう解説を期待するのはもう無理、ニュースキャスターの質の劣化が激しい。日本人が守り受け継いできた伝統的な価値観から判断するとどうであるのか、ちゃんと解説できる者がほとんどいなくなりました。

 江戸時代から伝わっている商道徳に「売り手よし・買い手よし、世間よしの三方よし」があります。この20年間で大企業の役員の報酬は2倍になりましたが、国民一人当たり所得は1割ほども低下しています。
 労働法制が繰り返し変更されて社員のリストラが進み、非正規雇用が増えています。いまでは非正規雇用が40%に近くなっています。正規雇用と非正規雇用では、所得に3:1ほどの開きがあります。こういう現状を見渡すと、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」とはいえません。「役員よし、社員(?)、非正規雇用悪し」です。正規雇用と非正規雇用の間にこれほどの格差があるのは、日本の伝統的な商道徳から判断してもいけないことといえます。ましてや、非正規雇用を増やして従業員一人当たりの人件費を削ることで利益を出し、自分たちの報酬をお手盛りで上げる役員は、日本人の伝統的な価値観から大きく逸脱していると言わざるをえません。日本人が守り伝えてきた良識にも反します。ところが、米国流の拝金的な価値観が流入したことで、価値判断の基準がすっかり曖昧になってしまいました。

 財政出動すれば経済成長できるなんてことがありえないことは、バブル崩壊後の25年間で充分わかったはずなのに、「機動的な財政支出」を毎年繰り返して国債の増発を続け、政府の借金が富士山のように高く高く積み上がって、いまもその頂上は天へ向かって嵩(かさ)を増しています。
 当代の借金は当代で返済すべきで、返済できないような借金はしてはならぬ、末代へ借金の山を残してはならぬというのが、日本人が培ってきた善良な価値観、良識というものでした
 赤字国債の発行はすでに20年以上続いており、消費税を上げても一向に解消される気配もありません。小泉さんは総理大臣現職のときに2011年までにプライマリーバランスを回復させると大見得を切りました。そのあとを継いだはずの安倍氏は消費税を上げるも、プライマリーバランスの回復の見通しはまったく見えません。お約束は期限が近づくたびに先延ばしされています。これでは嘘を言っているのとかわりません。これも日本人の良識とは大きな隔たりがあります。「美しい日本」はそういう良識に支えられているはずですが、どうしたのでしょう。
 借金を増やし続け、次の世代に、さらに次の次の世代まで借金の山を残す現実の(自公)政治は保守主義とは縁もゆかりもないものです。自分の代で返せない借金をしてお金をばら撒くのは保守主義とはいえません

 保守主義の反対は急進主義です。一気に物事を変えようとするのが急進主義です、たとえばフランス革命、ロシア革命、中国革命がそれにあたるでしょう。漸進的に物事を変えていこうとするのが保守主義です。
 アベノミクス3本の矢はどちらでしょう?最初の矢である財政出動の大きさは99兆円の史上最大の予算を見てもよくわかります。毎年記録を更新しています。二本目の矢の金利はほんとうに「異次元」に突入し、ゼロ金利を通り越してマイナス金利となっています。当の日銀黒田総裁ですら、何が起きるかわからないので、市場の反応や経営者の動向を様子見して不安げな表情です。経済学は経験科学だから、何が起きるのか黒田総裁にもさっぱり見えないのは当たり前のことです。ぼやぼやしていると、日本の銀行は利益の源泉を失い、このままでは経営破綻を迎えます。無理な急進主義的政策で歪みが生じ、リスクが膨らみ続けているのに、マイナス金利の出口戦略が見えてきません。それどころか、ますますマイナス金利の泥沼にはまり込みにっちもさっちもいかなくなっています。三本目の矢のインフレターゲット2%と経済成長は3年過ぎたのにさっぱり見えてきません。いまのところ、絵に描いた餅です。トリクルダウンも起きていません。

 財政出動が毎年繰り返され、国債残高がついに1000兆円を超えました、GDP比で2倍。これも「異次元」に突入しました。1944年に2.6倍になったときにデフォルトと預金封鎖が起きました、敗戦の1年前です。戦後の翌年の1946年にも預金封鎖がなされ、新円切り替えとともに、預金が切り捨てられたから、政府財政破綻がありえないというのは机上の空論に過ぎません

 経済学は経験科学だから、ことが起きてから説明するしかないのです。経験のないことは過去のデータからは予見できないことを知るべきです。それゆえ、未来に関してはどれほど精巧なコンピュータモデルも無力です。急激な少子高齢化が進む日本の現状は、過去五百年間遡って世界中を見渡しても、同じ状況が生まれたことはないのですから、古いマクロ経済学(経済政策ブレーンは浜田宏一内閣参与)で現在の日本に妥当な経済政策が立案できると考えるのは聞くも愚かで、21世紀には21世紀の経済学が必要なことはいうまでもありません

 政権が自分の利益と支持者の利益のために、財政規模を膨らませ続け、予算額は99兆円にも膨らんで、歳出の半分は借金で贖(あがな)っています。自分さえよければいい、今さえよければいい、なんと浅ましい根性でしょう。幕末や明治の日本人が見たらびっくりします。安倍総理は黒船に乗って開港を迫るペリーと同じに見えます。「美しい国日本」を棄てて、米国の価値観(グローバリズム)に染まりきっています。金融資本や情報産業の一部エリートビジネスマンたちの一人勝ち、残余の98%は貧乏のどん底の米国がお手本のようです。98%の日本人はそういう未来を望んでいないでしょう。

 その米国は国益を守るために、中国・韓国・日本を為替監視対象国に指定しました。麻生財務大臣はそういうことには縛られないと言明しましたが、無視はできなません。それにしてもすこしは反省がないのでしょうか。
 民主党から政権を奪取したときには、80円/ドルでしたが、現在107円/ドルで、日銀の「異次元の金利政策」で33%も円安になっています。これが為替円安誘導でなくてなんでしょう?

  ここでちょっと脱線させてください。日経平均を円/ドルレートで割って100倍すると、NYダウと単位が合います。それを「日経平均ドル換算指数」(a)と呼びます。その値とNYダウの値(b)の差、(b-a)の分布を2012年11月(民主党敗北、自公政権誕生)から2016年1月まで(39データ)調べました。最小値が391で最大値が3197でした。最大値は2014年10月31日の「ダブルバズーカ」(GPIFポートフォリオ変更と日銀追加金融緩和)公表の翌月です。為替レートが119円/ドルまで下がったので米国の投資家から見たら日本株はこのとき最安値だったのです。
 (b-a)の平均値は1583です。今日現在で(b-a)は2047になっています。海外の投資家から見たらすこし株安に見えているのでしょう。
 日経平均下落の最悪のシナリオは、米国の景気減速によるNYダウの下落と並行して円高が生じた場合です。NYダウよりも日経平均の方が下落幅が大きくなるということをこのデータが示しています。1日の株取引の70%は外人投資家、そのほとんどがタックスヘイブンのヘッジファンドです。一部上場株の外人持ち株比率が平均で3割を超えています。ソニーは4割でほとんどハーフです。これでは株価が短期間に乱高下するはずです。

 「ダブルバズーカ」という日銀の金融緩和策が円安を誘導し、日本の株価を押し上げたことがデータにはっきり出ています。株価上昇は、日銀の金融緩和による円安誘導とGPIFのポートフォリオ変更でもたらされたものですから、データ分析からは安倍政権の自作自演と言えます。
(いままでは米国はそういう日本の為替操作を黙認してきましたが、最近米国の方針が変わったような気がしませんか?日本は為替操作の監視対象国に指定されてしまいました。これは何を意味するのでしょう。米国が安倍政権に見切りをつけたように見えませんか?もう為替操作で株高の演出ができないということです。安倍政権は自滅するしかありません。)
 GPIFの余剰資金がなくなり、円安誘導しか株価を上げるすべがなくなっています。だから、日銀黒田総裁はマイナス金利導入を決断しました。2%インフレターゲットよりも、政権維持のためのもう一段の円安誘導が必要だったからです。こうしてみると、日銀の独立性は完全に失われています。国債金利に関する市場機能も日銀がそのほとんどを購入することで失われてしまいました。市場の調節機能が消失したというのは、とっても危険なことです。ブレーキのない車が暴走しているようなものです。もう金利を上げるタイミングを失いました。市場に任せたら、国債金利が暴騰(3-5%)し、政府財政破綻の引き金を引くことになります。マイナス金利の追加しか打つ手がなくなったのです。それも銀行収益を圧迫するので、いつまでも続けられません。
 
 年金支払いのために、GPIFはこれから保有株を売却しなければならなくなるから、株価の下落は幅を広げることになります。GPIFは3年間で10-20兆円もの評価損をだすことになりはしないか心配な国民が多いでしょう。
 安倍総理は「損が出るはずがないでしょう」とポートフォリオの変更時に国会で質問されて、声を荒げて答弁しています。経済オンチの彼は、頭の古いマクロ経済学者の言葉を鵜呑みにして、自分の頭では何も考えていなかったとしか思えません。(東大名誉教授)浜田宏一内閣参与は「白川から黒田に日銀総裁を替えれば、3ヶ月でインフレターゲット2%は達成できる」と豪語していましたが、3年経ってもその気配すらも見えず、黒田日銀総裁はその実現をまた1年先延ばししました。これで3度目の先延ばしです。任期中には実現できないが、任期が切れてからインフレターゲットが実現するのだそうです。厚顔無恥とはこういうことを言います。

 円安になれば、東京証券取引所の上場株が連動して上がる。33%の円安ということは、民主党政権末期に比べて、株価を33%上昇させたということ。政権維持のためとはいえ、やりすぎです。
 その後、GPIFのポートフォリオを変えさせて、上場株を買い集めさせました。厚生年金積立金だけで、32兆円保有しています。昨年10月に共済年金も組み入れたから、総額で50兆円です。日本の上場株の1割が政府機関の保有で、不健全極まりなしです。
 株高だから経済政策が成功しているというのは、これまで見てきたように安倍政権の自作自演です。その間に、非正規雇用割合が増え、経済格差は拡大し、子どもの貧困率もますます悪化の度合いを強めています。お約束の一つだったトリクルダウンは影も形もありません
 安倍総理が提唱した「美しい国日本」という標語がありましたが、あれは日本の伝統的な価値観に基づいた経済社会建設を意味していたはず。健全な保守主義をベースにした経済社会を造るものだと思っていましたが、やったことはそれとは正反対、お金をばら撒き、借金を急速に増やし、非正規雇用を増やし、経済格差を拡大し、社会を不安定にしました。安定した経済社会の建設ではなく、破壊である。言っていることとやることがまったく反対であることがこの政権の特徴のようです。

 少子高齢化が急速に進む日本では、生産年齢人口が総人口よりもはるかに加速的に縮小しつつありますから、一人当たり所得が同じでも経済規模は急激に縮小していきます。つまり、人口動態からも長期にわたる経済成長はありえないということ、そのありえないものを追い求めるアベノミクス三本の矢がどういう運命にあるのかは語るまでもありません。天気のよい日に前方のアスファルトの上に見える逃げ水を追うようなものです。近づいたと思うたびに、水は先へと逃げます。「プライマリーバランスの回復」、「インフレターゲット2%」がその好例です。

 日本は健全な保守主義に回帰すべきです。経済は伝統的な価値観、商道徳で運営すべきです。
 健全な保守主義に基づく経済学とはどういうものでしょうか。職人仕事を中心とした経済社会が伝統的な価値観に基づくものです。それは西洋経済学を根底から覆します。強い管理貿易で、国内に生産拠点を取り戻し、若い人たちに正規雇用の職を確保しましょう。発展途上国には職人仕事に基づく生産システムを輸出すればいい、あらゆる産業に必要なさまざまな職種の職人を育てるお手伝いを日本人が数十年継続してやってあげたらいい。拝金主義のグローバリズムは居場所を失い自動消滅します
 白人の世界経済支配が終焉します。それが世界史の転換点で日本人が担うべき大きな役割です

 どういう経済学がありうるのかについては、弊ブログ「資本論と21世紀の経済学」をごらん戴きたい。『資本論』の公理である「労働=苦役」を「職人仕事」に置き換えることで、日本の伝統的な価値観をベースとした経済社会を建設できます。


* #1454 異質な経済学の展望 :パラダイムシフト Mar. 31, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-03-31

 #3278 「天保の改革」が教科書に載っていない?:こんなに楽しい社会科の勉強 May 1, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-05-01

 #1454 異質な経済学の展望 :パラダイムシフト Mar. 31, 2011 
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