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#3097-9 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版)-9  Aug. 5, 2015    [99. 資本論と21世紀の経済学(2版)]

#3097 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版)<目次>  Aug. 2, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-15


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 28. <安保法制と軍需産業と成長路線は一体のもの:東野圭吾著『禁断の魔術』から>

 東野圭吾『禁断の魔術』(2012年)を生徒が貸してくれたので読んだ、これで東野圭吾は3冊目。天才物理学者湯川学が主人公、ガリレオシリーズの一冊である。たいへん面白いが、娯楽小説だから、高校生がこういうレヴェルの本をいくら読んでも読解力は上がらないし、語彙力も強化できない。高校2年でこの程度の本に夢中になっているようでは、国語の偏差値はせいぜい50止まり。中学生が好奇心に任せて濫読するならいい。娯楽小説としての完成度は高いが、語彙レヴェルルは良質の漫画の本とそう変わらぬから、漫画を読むがごとくにかたっぱしから読めばいい。不思議なもので濫読すると、レヴェルルを上げた本が読みたくなる。知らぬ間に顎(あご)の力が強くなって、いままで食べていたものでは噛み応えを感じなくなり、もっと硬い食べ物がほしくなる。

 帝都大准教授の湯川は、廃部の危機にあった母校の物理研究会の古芝伸吾に頼まれて、新入生勧誘イベントの実験を企画・指導してあげた。古芝はその後帝都大工学部機械工学科に入学してくるが、10歳ほど年上の新聞記者のお姉さんがホテルのスィートルームで不審死を遂げると、大学を3ヶ月ほどで中退、クラサカ工機へ入社する。伸吾は大学入試を滑ったので就職先を探したと社長の倉坂達也には説明している。物覚えがよく、一生懸命に仕事をする古芝に社長の倉坂は目をかける。
 古芝伸吾は姉の復讐をするために、物理学研究会で湯川に教えてもらったレールガンを発展させて、姉を見殺しにした大物国会議員の大賀仁策を狙う。金属加工企業に勤務することで精度の高い金属加工技術を身につけ、1km離れたところから狙撃できるような高出力・高性能なものに仕上げる。

 最後のシーンはよく考えられていて、結末までデザインした上で、作品が書かれているらしいことはこれまでの彼の小説と同じ、見事な職人仕事で小説としてはよくできている。著者が脳髄を絞って考え抜いた結末は書かないのが礼儀だろう。結末は本を読んでもらいたい。
 作品を読めば気がつくだろうが、重要な登場人物二人を紹介していない。作品の構想全体やストーリーの面白さに関わる役回りの人物なので言及を避けた。

 東野は大阪府立大学工学部電気工学科で学んだ後、大手自動車部品メーカのデンソーに勤務する。小説は書いているが出身は理系。学校で学んだ専門知識や、就職してから企業で学んだことなどが、小説に色こく反映するのは当然のことだろう。『マスカレードホテル』では企業内部のシニア管理職と優秀な社員の仕事の関係とか、職位による責任の範囲の違いや思考の仕方の違いについて、大企業勤務経験を物に言わせてきびきびと描いていたし、『卒業』では高校剣道部や茶道部、そして大学剣道部が舞台となっていた。ここでも金属材料の研究室が重要な役割を担っていたが、府立大工学部時代に見聞きしたことがベースになっていたのだろう。いずれも、小説の内容に東野の学歴や職歴が深く関わって、現実感のあるものになっていた。
 強いて弱点を言うと、高校時代に古典文学への興味が足りなかったようにみえる。理系科目の勉強にのめりこんだのだろう。大学も工学部電気工学科だから、おそらく古典文学や明治期の文豪の著作を濫読していない。そういう背景があるから使われている語彙の範囲が狭いのだろう。もっとも、語彙の範囲が3倍くらいになっていたら、東野作品が大好きな読者の大半は辟易して逃げ出すに違いない。売れっ子になるには娯楽作品でいいのである。著者はそういうことを十分知って書いており、小説の中で使用語彙レヴェルルを上げるようなことは今後もないだろう。
 すでに巨匠の一人である東野圭吾は直木賞選考委員でもある。
2014年現在の選考委員は、浅田次郎伊集院静北方謙三桐野夏生高村薫林真理子東野圭吾宮城谷昌光宮部みゆき9名、このうち東野を含めた6名はebisuが好きな作家である)

 レールガンについて小説の中で天才物理学者湯川が説明するが、解説は極めて簡素なものだ。その原理は電磁誘導力(ローレンツ力)によって、弾体の伝導体を加速して発射するというものである。砲身(密閉)タイプにすると、町工場の設備では加工が無理、必要な治具がない。だからオープンの2本のレールの間に挟んだ弾(伝導体)を加速するのだが、語られているのは弾の材料の工夫とレールの高精度加工くらいだ。一度発射実験をやると、そのレールは弾が通った摩擦熱で熔けて使い物にならない。次の実験をするためにはレールの高精度加工をしなければならない。威力を増すためには「砲身」であるレールの長さを大きくすることと、大電力を供給する必要があるが、さすがに専門家である東野は大電力を供給する具体的な方法が見つからなかったようで、小説の中での言及はない。密閉型の砲身のほうが威力も照準精度も格段に増すように思えるが、金属加工に特別の治具を要することになるし、砲身の中にレールガンの仕組みを入れないといけないとか、絶縁体で砲身を作る必要があるとか、材料によって強度の問題があるとか、どう考えても町工場の設備や治具や技術では間に合わないので、東野はオープン型のレールガンを伸吾に作らせている。こういうところは飛躍があっていいのだろう。『ソードアートオンライン』でもフルダイブ型のヘルメット様のナーヴギアの仕様にかなり飛躍があった。ナーヴギアはわたしには百年後でもまったく不可能に思えるが、仕事で使えないと1979年に判断したパソコンが13年後には業務で使われ始め、15年たった1994年には汎用大型機にとって変わったのを経験しているから、「不可能」ではなく「飛躍がある」と書くべきなのだろう。
 レールガンについて作者にはもっともっと書き込んでもらいたかったが、東野は府立大工学部電気工学科の出身だから、書き込みすぎると無理が露呈するのでやめたのかもしれぬ。小型の超強力な電源が必要だが、そんなものはいまどこにもないし、開発費に膨大なコストが掛かる、天才物理学者の湯川准教授にもいまは無理。

 それでも、このレールガンは架空の兵器ではなく、いま実験開発中の有力兵器なのである。レールガンに使用する弾は、火薬を使った弾丸に比べてはるかに小さいものですむし、初速が比べ物にならないほど大きい。厚さ1cmほどの鉄板なら6枚貫通できるほどの威力だから、既存の装甲車両や戦車で撃ち抜けないものはない。厚さ1mのコンクリートだって遮蔽できない。対戦車砲としては劣化ウラン弾よりもずっと威力が大きいし、戦場を放射能で汚染することもないから、味方への放射能被害もない。
 米軍は昨年(2014年)実験砲を公開している。レールガンは電磁加速砲という訳語がよさそうだ。まだ車両に搭載できるほど小型化はされていない。船に搭載するか、陸上基地にミサイルや航空機迎撃用に設置することになる。なにしろ大電力の供給が不可欠だから、電磁加速砲本体よりも電源装置が大きくなってしまう。
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「砲弾を音速の約7倍の速さで撃ち出すレールガンの世界初艦上実験の実施アメリカ海軍が発表」
http://gigazine.net/news/20140409-electromagnetic-railgun/


 初速が大きいので射程距離200km超に開発目標を設定しているようだ。これが実戦配備されたら、火薬を使う「砲」は一気に旧式兵器となってしまう。射程距離は短距離ミサイル(800km)よりは短いが、砲弾は短距離ミサイルの1/20程度のコストで製造できる。音速の510倍の速度だから、地対地、地対空や艦対空に使える。赤外線追尾装置やレーダ補足、ドローンによる攻撃対象補足システムと組み合わせたら、ミサイル迎撃にも遠距離からの暗殺にも使える。電源がコンパクトにできれば、リモートコントロールによる自走式の対戦車砲もありえる。百年後なら人工知能を搭載して、自動索敵・攻撃型のロボット砲が戦場を動き回るだろう。戦場で人工知能とレールガンを搭載した車両が人間を殺戮しまくる不気味な光景はみたくない。
 まもなく実戦配備されるが、戦車はレールガンの格好の餌食となるから、戦場に投入できなくなりそうだ。ドローンを前線に飛ばして偵察させてGPSで攻撃対象の位置補足をして200km先の固定基地からレールガンを発射できる。標高の高いところを移動しながら自動攻撃すればレールガン1台で百台の戦車部隊を100200km先から殲滅できる。戦車程度の装甲ならレールガンの弾が間単に貫通してしまう。レールガン基地を攻撃しようにも、巡航ミサイルも戦闘機もレーダで確認後、基地の周りに張り巡らした赤外線感知装置で正確無比に撃ち落されてしまう。

 開発しているのは米国だけではない、EUも開発中である。ロシアや中国についての情報はないが、おそらくしのぎを削っている。日本ではどのメーカがやるのだろう。やれそうなのは三菱重工だけではない。
 いまからなら、日本のメーカ数社が開発競争に参入する余地がありそうだ。とくに小型で超強力な電源装置の開発や複雑な砲身加工技術、連動システム開発は日本人向きの技術開発分野だろう。それらに対して絶縁体でつくる砲身材料は苦手の分野。材料開発は基礎物理の分野で、こういう方面の地道な材料開発が日本企業ではほとんどなされていない。大学も独立行政法人になってしまっているから、基礎研究分野への人材と資金投資ができなくなるのではないだろうか。国家戦略上、基礎研究分野は予算を別枠で手当てすべきだ。
 安保法制の中には武器の輸出は入っていないが、「従来の政府見解」がすでに変更されて、外務省のホームページに載っている。「武器輸出三原則」は「武器移転三原則」に書き換えられた。
 日本製のコンパクトで高性能な電磁誘導砲が開発できたら、世界の武器市場を席巻できるドル箱製品となる。日本の軍需産業から強いプッシュがあったことは想像に難くない。法律ではなく、一片の政府見解変更だけで武器輸出を緩和できる仕組みになっている。このように重大な政策転換なのに法律ではないから、国会の埒外であり、国会のチェック機能が働かない。
 巨大市場だから、武器製造が可能な企業の経営者たちは売上と利益を大幅に増やすチャンスと捉えている。
 政府財政破綻のリスクを小さくするためには、経済成長が不可欠だが、日本企業の未開拓市場で最大のものは武器製造・輸出だ。日本はお金のために選んではいけない道へ分け入ろうとしている。まったく新しいタイプの高性能武器の開発費は巨額だから、日本市場だけではとても引き合わない。政府は日本企業の国際武器市場への参入が成長路線のキーの一つだと考えている。

 しかし、日本は別の道を選択すべきだし、選択できる。職人主義経済学に基づく強い管理貿易の下に、輸入を制限し、国内に正規雇用を確保する自立型経済を確立すればいい。そしてその生産システムそのものを輸出すればいい。後進国に生産技術と生産システム、教育システムを提供できる。その経済学の公理系は弊ブログ・カテゴリー「資本論と21世紀の経済学」で明らかにした。

 

 
<
余談:武器輸出三原則と武器移転三原則>
 武器輸出については従来武器輸出三原則が守られていたが、安保法制で武器移転三原則に変わる。

 武器輸出三原則は次の三つの条件に当てはまるときは、輸出を禁止するというもの。

1)共産圏諸国向けの場合
2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合

 これらは法律ではなく、政府答弁である。武器移転三原則はこれらを緩和しているようにみえる。ようするに、国連がOKしている国であればどこへでも輸出できるという主旨だ。内容が長いので、外務省のホームページの「外交政策」
「日本の安全保障」に載っているのでそちらをごらんいただきたい。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000407.html


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