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#2980 大学進学事情今昔物語  Feb. 17, 2015 [55. さまざまな視点から教育を考える]

 いま、高校3年生が一人、昨年暮れから毎日10時間を越える勉強をしている。数学(数ⅠAと数Ⅱ)の問題集を4冊やり終わった。本人は気がついていないようだが、力はぐんとついた。
 受験間際の2ヶ月ぐらい、全力で勉強した生徒とそうでない生徒には、大学入学時点で基礎学力に大きな差がつくことを実感する。受験生を見ていると、厳しい競争が基礎学力の充実に大きく寄与していることは認めていい。
 競争がなくても、自分で目標を立てて、夏休み・冬休み・春休みに一日10時間を越える勉強をする高校生はいるが、そういう生徒は極少数である。

 公認会計士受験を決意して根室高校商業科へ進学したわたしもそういう一人だった。高校受験のときに大学進学の選択肢はなかった、当時はよほど裕福な家庭でないと東京の大学への進学は考えられなかったから、高校で日商簿記一級をとり、二次試験の受験資格を取得して、受験するつもりだった。就職はとりあえず金融機関と中学3年生のときに決めていた。
 こういうはっきりした目標を中学生のときに立てていたので、高校2年のときに運よく出版が始まった公認会計士受験参考書(『公認会計士二次試験講座』中央経済社)で勉強を開始できた。
 高校1年のときに東京オリンピック、時代は高度成長期で、高校3年の晩秋には大学進学の経済的な余裕ができていた。
 担任の富○先生は3年の春に進路をお尋ねになった。金融機関に就職するつもりだと申し出たわたしに、「お前が金融機関に就職すれば他の者が落ちることになる、民間金融機関はどこでも合格する、生徒会もやっているし成績もいいから就職するなら日本銀行釧路支店を受けろ、学校推薦できる」と勧めてくれた。高卒で日銀はわたしには考えられない選択肢だった、それでなんとなく就職を見送ってしまった。こういう話にebisuは弱い、先生と進路について話し合ったときに金融機関志望の同級生の顔が頭を掠めたのである。
 簿記は特殊数学の一分野で、理系科目であり、そのシステムは美しい。信長の時代にキリスト教徒共に伝来した複式簿記の技術は、算盤技能が普及していたから日本の豪商に受け入れられて大福帳の記帳技術や経営管理の技術として広がった。算盤は当時は世界一の性能をもつ計算機であった。日本以外に簿記技術が商人の間で広く普及する基盤のある国は世界中になかったのである。
 簿記の指導をしてくれた白○先生は、2年生になると神戸商科大学への進学を強く薦めてくれた。白○先生はわたしが何も言わなくても、どんな勉強をしているかわかっていた。その当時簿記を教えていた4人の先生を知っているが、白○先生がダントツに技能が高かった。
 高校1年の3学期が終わった春休みの2週間で、2年生で習う工業簿記1級の問題集1冊を独力で全問題解き終わっていた。工業簿記は選択科目だったが、白○先生が出張の時にはわたしにプリントを預けて、「これをみんなにやらせておけ」と指示されたこともあった。授業で黒板を使って説明した後に、一番後ろの席に座っているわたしのほうを見る、たまに首を横に振ると、もう一度説明された。もちろん他の生徒への配慮である、けっしてわたしのために再度説明されたのではない。学校の授業でやるレベルのことは、春休みに一年分予習してしまっていたのだからわからないところがあるはずがない、説明が不十分と感じたときに首を横に振った。2年生になってからは日商簿記1級用の参考書や二次試験講座の原価計算の巻で勉強していた。
 北見北斗高出身の先生はわたしたちが卒業して数年後に、めでたく母校へ転任していった。一度NHKが北見北斗高校を取材したことがあり、わたしはその放送を東京で見た、懐かしい恩師の姿をみて、さらにがんばる気力がわいた。その白○先生は、50前後で高校を退職して会社を起こされた。すでに故人である。

 家業のビリヤードを小学生のときから手伝って、中学生のころは一人で客扱いができるようになっていた。土曜日はお客さんがたくさんで忙しく徹夜のこともたまにあった。オヤジと交代で店を切り回していた。高校生の時には毎日2~3時間は店をみていた。1年間くらい珠算塾の恩師、高橋先生に頼まれて汐見町の分塾を任された。2学年上の分厚いメガネの先輩のS山さんが、中大文学部へ進学したために、その後釜が必要だった。学校が終わってからバスで汐見町へ行き、7時ころまで小学生の指導をしていた。それから家へ帰って食事をして、オヤジと店番を交代する。当時は忙しいとは思わなかったが、いま振り返ると忙しい高校生活だったようだ。(笑)
 担任の富○先生の一言で、なんとなく就職を見送ってしまい、家業を手伝いながら公認会計士受験でもするかとのんびり構えていたが、商売が繁盛していたのでオヤジに相談して3年生の12月に大学進学を決意した。
 お袋のやっていた「酒悦」もお客様が多かった。この店は根室ではじめての「お袋の味」の大衆居酒屋だったかもしれない。ebisuが小学5年生ころにお袋が店を始めた。30年程前には焼き肉屋だったから、古い根室人は知っているだろう。落下傘部隊の生き残りのオヤジは兵隊へ行く前に30くらいも職業を転々とした。器用だったから普通の即任が3年かけて会得する技術を1年でこなしてしまう。若いころは器用貧乏だったかもしれない。釧路の肉屋さんで修行していたころ、向かいの床屋さんで信金はす向かいの床屋でS井理髪店の2代目が修行していた。オヤジは町内対抗自転車レースで優勝する元気のいいあんちゃんだったらしい。戻ってきたら、自分の店の向かいにオヤジが下駄屋を開業したのでびっくりして、それ以来のお付き合いだった。
 わたしは二つのお店を両親がやることで、根室のお客さんたちのお陰で大学進学できた。そして小学生のころからビリヤード店を手伝い、さまざまな職業の根室の大人たちにかわいがられて育った。歯科医のT塚源太郎先生(北国賛歌の作詞者)と信金本店向かいにあったお菓子屋さんの大将はどちらも娘二人で男の子がいなかったのでかわいがってくれた。もう一人の歯科医のF井先生(小説家、根室新聞に連載していた)、信金のT杉さん、O田さん、いまはヤンヤのご主人、鮨屋のまっちゃん、大工のH田さんやS戸君、やくざの親分と幹部三人、学校の先生、珠算塾の先生、後にTハイヤー社長となったS藤さん、警察官のT井さん、高校生のころからビリヤード店に入り浸っていた本町の若い実業家のN井さんと老舗ラーメン店の同級生、毎年ラシャを張替えに来てくれた札幌の吉岡先生は品のいいおじいさんだった、オヤジと妙に気があって、旅館に泊まらずに、粗末な我が家に泊まってくれた。吉岡先生は昭和天皇のビリヤードのコーチである。数え上げたらお世話になったオトナは百人はくだらないだろう。自分も大人になったら、何らかの形でふるさとに恩返しをしたいと心の奥底に思ったのは自然なことだった。

 競争という外的圧力ではなく、志を立てて内的自発性で一日10時間を越える勉強を継続する生徒は稀だ。だから、高校入試や大学入試は生徒たちに必要なシステムである。何かきっかけをつかんで勉強にのめりこむ時期があったほうが人生が楽しい。

 商学部会計学科1年生のときに経済学に興味が出て、公認会計士受験はついにしなかったが、その代わりに大学院へ進学して理論経済学を学んだ。難易度の高いほうへ舵を切ったのである。
 ライフワークだったマルクス『資本論』を乗り越えることそして新しい経済学の展望を切り拓くこと、その二つの目標は昨年暮れから書き始めた経済学の論文で、その骨格を明らかにすることでメドがついた。これからは塾を徐々に縮小しながら、四百字詰め原稿用紙で800枚程度の肉付けをするつもりだ。21世紀の経済学を書き残せば、わたしの経済学徒の一人としての役割は終わりにできる。やるべきことをすべてやり終えて人生の終わりを迎えられたら、最高の幸せだろう。ひとつひとつやっているうちに、しだいにそういうところへ近づいている、ありがたいことだ。

 脱線したので、話を元へ戻すと、根室の高校生の大学進学率は全国平均に比べて半分以下の20~25%ほどしかないが、それでも昔に比べたら、比率で3倍程度はあるだろう。
 昨年暮れから毎日10時間を越える猛勉強を始めた高校三年生は数ⅠAと数Ⅱの「青チャート」のほかにセンターレベルの問題集2冊を昨日やり終わった。基礎学力がワンランク上のレベルで固まりつつあるのをいま目撃している。いい時代になった。


*#2976 大学受験生追い込み中! Feb. 15, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-15

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*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25

 #2936 『資本論』と経済学(2):「1.経済現象と日本の国益」 Jan. 26, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-26

 #2937 『資本論』と経済学(3):「円安はいいことか?80⇒120円/$の威力」 Jan. 27, 2015 
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 #2938 『資本論』と経済学(4) : 「経済学とは?」 Jan. 27, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27-1

 #2939 『資本論』と経済学(5) : 「『資本論』の章別編成」 Jan. 27, 2015  
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 #2941 『資本論』と経済学(6) : 「マルクス著作の出版年表」 Jan. 29, 2015   
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 #2942 『資本論』と経済学(7) : 「デカルト/科学の方法四つの規則」 Jan. 29, 2015
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 #2943 『資本論』と経済学(8) : 「ユークリッド『原論」 Jan. 29, 2015   
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 #2944 『資本論』と経済学(9) : 「何をやりつつあったかは残された文献に聞け」 Jan. 29, 2015    
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 #2945 『資本論』と経済学(10) : 「プルードン「系列の弁証法」 Jan. 29, 2015    
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 #2947 『資本論』と経済学(11) : 「労働観を時間座標系においてみる」 Jan. 29, 2015     
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  #2948 『資本論』と経済学(12) : 「学としての『資本論』体系解説」 Jan. 29, 2015 
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 #2950 『資本論』と経済学(13) : 「マルクスの経済学体系構成法」 Jan. 31, 2015
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 #2951 『資本論』と経済学(14) : 「マルクスの労働観と日本人の仕事観」 Jan. 31, 2015
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 #2952 『資本論』と経済学(15) : 「ヨーロッパ労働観⇔と日本の仕事観」 Feb.1, 2015
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 #2953 『資本論』と経済学(16):「仕事がキツイ!に潜む心(仕事観)の問題」 Feb.1, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-01

 #2955 『資本論』と経済学(17):「要領の悪いものほど忙しいとぼやく」 Feb.3, 2015
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 #2958 『資本論』と経済学(18):「教育の職人」 Feb. 5, 2015
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 #2960 『資本論』と経済学(19):「日本経済の未来」 Feb. 6, 2015
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 #2961 『資本論』と経済学(20):「経済成長の天井 山田久氏の論」 Feb. 7, 2015
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 #2964 『資本論』と経済学(21):「過剰富裕化論」 Feb. 8, 2015 
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 #2966 『資本論』と経済学(22):「相対的貧困率上昇と富裕層増大」 Feb. 9, 2015
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 #2967 『資本論』と経済学(23):「ピケティの空想的所得再分配論」 Feb. 10, 2015
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 #2968 『資本論』と経済学(24):「浜矩子 予算案と公共性について」 Feb. 11, 2015
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 #2971 『資本論』と経済学(25):「村落共同体と税:自由民と農奴について」 Feb. 12, 2015
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 #2972 『資本論』と経済学(26):「文部科学大臣下村博文「教育再生案」について」 Feb. 13, 2015
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 #2973 『資本論』と経済学(27):「注-1~5」 Feb. 13, 2015
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 #2974 『資本論』と経済学(28):「注ー6」と主要文献リスト Feb. 14, 2015  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-13-1


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