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#2918 見えてきた対立軸 経済アナリスト森永卓郎氏の意見 Dec. 23, 2014 [A4. 経済学ノート]

 経済アナリストがどういうバックグラウンドをもっているのかよく知らないのだが、経済アナリストを自称する森永卓郎氏はタレントでもあるが、東大経済学部卒の獨協大学経済学部教授だ。ニコニコしながら時々いい加減なことも言うが憎めないキャラである。
 12月20日のNHKラジオ番組「ビジネス展望」での彼の意見を紹介する。

 今回の選挙は自民党は3議席減らして291議席である。今回の選挙結果を通して国民の大きなニーズが見えてくる。
 維新の会は当初惨敗と言われていたが比例区で盛り返したのは「身を切る改革」、「行政改革」を選挙戦に入ってから言い出したからだ。
 次のように数字を挙げてその必要を裏付けてみせる。
 ①今年度の歳出アップは2.2兆円、過去10年の平均値は4000億円
 ②今年度は7-9月期の落ち込みが予想以上だったので経済対策としてさらに3.5兆円の追加補正予算が組まれる
 ③合計5.7兆円の歳出アップとなる
 ④4月の消費税増税で増収は4.5兆円
 ⑤差し引き1.2兆円(4.5-5.7兆円)の財政悪化

 結論から言うと、政府は消費税を3%増税して、「大盤振る舞い」をして財政をさらに悪化させたことになる。もちろん法律上は消費税アップ分は社会保障費に使うことになっているのだが、使ったのは2000億円のみ。借金返しの財源でもあったはずだが、借金はさらに増え続けている。
 森永氏は歳出増大「大盤振る舞い」の事例を二つだけ挙げた。
 (1)前年比21%アップ:国家公務員の冬のボーナス
 (2)前年比25%アップ:国会議員
 これでいいのだろうかと森永氏は問う。公務員給与やボーナスは50人以上の事業所を対象として調査した給与に基礎を置いて計算している。事業所規模で50人というのは会社当たりではない。大企業の支店や営業所を含んでいる。こうし規模の事業所はいわば「勝ち組」である。勝ち組に処遇を合わせること自体がおかしいと森永氏は言う。そして「すべての企業平均値」を処遇の基礎にすべきだと言うのである。それだけで国家公務員給与は2割削減でき、歳出削減によっておおよそ1兆円の財源が捻出できる。退職金や年金も「すべての企業平均」を基礎にすると3割ほどもカットできると言う。
 社会保障費が年々増えていくから増税は仕方ないにしても、大盤振る舞いをしていたらいつまでたっても財政再建ができない。歳出削減による「身を切る改革」「行政・財政改革」を断行すべきだ。

 もうひとつの論点はタカ派の次世代の党が消滅に向かい、平和主義を唱える公明党と日本共産党が議席を伸ばしたこと。国民が平和主義を支持したというのである。
 さらに自民党の政策へ沖縄全島が反旗を翻したということを挙げている。小選挙区では自民党が全滅、沖縄県民は自民党の政策を支持していない。これは普天間飛行場の移設問題で政党を乗り越えて政策調整が成功したからだ。

 これらの点を踏まえて、次の2016年参議院選挙が正念場となると森永氏。それまで野党間での政策調整ができるかどうかが決め手になるのだそうだ。

<ここからebisuコメント>
 国債発行残高は1000兆円を超えた。貿易収支は赤字を続けている。経常収支も来年度には赤字になりそうである。ロシアがルーブル安対策で金利を16%に上げたがルーブル安がとまらない。米国も金利上昇へと舵を切る。日本で長期金利が上がれば政府財政は破綻する。

 夕張市が25年計画で累積赤字の解消をしつつあるが、それは市職員のリストラ、市立病院閉鎖、残った職員給与3割削減、人口の大量流出、地元信金の消滅など痛みを伴う改革の実施によって支えられている。
 痛みを伴う改革、身を切る改革を実行しても、夕張市のようにいずれそうなることは避けようもないだろうから、国家公務員や地方公務員のみなさんがこぞって身を切る痛みのある改革を受け入れるとは思えない。破綻は来るべくして来るのである。
 さてアベノミクスのツケは国家公務員にだけ回るのではない、地方交付税交付金も半分以下に減額せざるをえなくなるから地方公務員も同じことだし、国債を大量に保有している保険会社や信託銀行、大手も中小の銀行も大きな痛手を受け、最終的には国民にツケが回ってくる。国債の暴落と大幅な円安による物価高騰。いや、円安による物価高騰はもうはじまっている。

 アベノミクス、このままでいいのだろうか?
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<円安の影響:1ドル120円>
 外国為替が今週120円/$を超えた。第二次安部政権の誕生は2012年12月26日のことである。その直前2012年11月は80円/$だったが、2年と1ヶ月前に比べて50%の円安である。
 ガソリン価格は当時ハイオクで158円/㍑していた、レギュラーだと148円くらいだっただろう。先月11月にガソリンを入れたときにレギュラーで153円/㍑だった。
 原油価格(ブレント)は2012年11月は108$/バーレルだった、2014年11月は78$である。今月に入って60$台を動いている。
 仮に為替が80円だったとしたらガソリン価格がどれくらい値下がりしたか計算してみよう。

  158円/㍑*78$/108$=114円/㍑
*原油価格の推移 http://ecodb.net/pcp/imf_group_oil.html

 28%の値下がりである。ハイオクで114円、レギュラーだと104円付近の価格ということになる。灯油も同じ28%値下がりしただろう。専門家の予測によると、中国やインドそして欧州の景気が悪いので需給が緩み来年度は60$台を推移するようだ。
 円安というのは日本の国力の低下、円高は日本の国力の上昇と考えたらいいのである。だから一国の総理大臣の地位にある者が円安(国力低下)誘導を叫ぶなどというのは狂気の沙汰に感じてしまう。
 円安が国民生活にとっていいわけがない、輸入品の価格は安倍政権前に比べて円価換算ですでに1.5倍に上昇している。輸入産業は青息吐息だろう、中小企業はコストアップ分を製品価格に転嫁できずにあえいでおり、とても賃上げどころではない。景気が好いのは全産業の14%を占める輸出産業の一部である。いったいどこがいいのだろう?
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 森永卓郎氏の面白いところは、以前はかれは景気回復のためにもっと大型予算を組むべきだと声高に主張し成長路線に大賛成、アベノミクス礼賛派だったのだが、以前の主張などどこ吹く風でころころ意見を変えて恥じないところが、融通無碍でかわいいのだと思う。
 ご用心、半年後にはまったく別の意見を述べているかもしれない。経済学をきちんと勉強していたら、これほど節操のないことは言えない、そこが森永氏の強みである。

 経験科学であるところが経済学の限界、未来がどうなるかは神のみぞ知る、経済学者の知るところではない。
 日本では浮利を追ってはいけないという商道徳が普遍的なものとして受け継がれてきた。ところが異次元の金融緩和と大量の国債増発をがんがん実行するアベノミクスは浮利を追う行為そのもの、日本人が何百年も戒めてきたことなのである。理由は簡単だ、浮利を追ったら必ず破綻するからだ。もっと地道なことに精を出すべきだった。

<職人仕事に基礎をおいた経済社会という現実的な選択肢>
 マルクスの労働概念は「苦役」、日本人の仕事観は「歓び」、働くとは「傍(はた)を楽にすること」。人類は経済的欲望を抑えなければならない。お金中心の経済社会を卒業して、職人仕事中心の経済社会(職人仕事経済社会)の扉を開ける時期が来ている。
 いったんクラッシュした後に、どういう経済社会へと向かうのか、そこが正念場である。そのために職人仕事中心の経済学を書き残しておきたい。マルクスの『資本論』が想定する工場労働とは対極にある職人仕事を中心とした経済社会のビジョンを明らかにしておきたい。
 少子高齢化と人口減少が加速的に進行する日本、あらゆる産業技術が揃っている日本、高度な産業社会を維持しながら自給自足が可能な日本、考えようによっては日本は新しい経済社会へ向けて先頭を走っている。

■ 小欲知足
■ 「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」に「従業員よし、取引先よし」を加えて「五方よし」


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政党別議席推移データ
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5235.html

衆議院総選挙政党別獲得議席の推移
 2003年2005年2009年2012年2014年
小泉政権郵政選挙民主へ
政権交代
自民が
政権回復
アベノミ
クス解散
議席数計政党計480480480480475
自民党237296119294291
民主党1771133085773
その他667153129111
小選挙区自民党16821964237223
民主党105522212738
その他2729153634
比例代表自民党6977555768
民主党7261873035
その他3942389377
(注)2014年の小選挙区自民党には選挙後の追加公認1名を含む
(資料)総務省自治行政局「衆議院議員総選挙結果調」など


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*#2910 自民圧勝の後に来る経済・財政の重大な危機 : 日本文明の再生 Dec. 15, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-12-15

 #2906 民主主義の危機:衆院選投票率は最低を記録か? Dec. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-12-13-1

 #2892 スタグフレーション突入とアベノミクス Dec. 1, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-30-1

*#2879 アベノミクスはバンザイノミクス: ゴールドマンサックスの見解  Nov. 23, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-23-2

 #2878 選択肢のない北海道7区:衆議院議員解散総選挙 Nov. 23, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-23-1

 #2850 'Promoting women at work'1-2 :女性大臣二人辞任 Oct. 22, 2014     
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-22

 #2849 'Promoting women at work' :2女性大臣辞任 Oct. 22, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-21


 #2838 円安評価をめぐる経済界と日銀のズレ:山口義行教授 Oct. 14, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-13-1

 #2775 内閣府「国民経済計算4-6月期」データ解説 Aug. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-13

 #2774 'Bad inflation' shadows Japan (悪性インフレの陰りあり) Aug. 13, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-12

 #2770 「経済成長の天井」:日本総研山田久調査部長の論  Aug. 11, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-11

 #2766 疑問符がついた景気回復の先行き Aug. 9, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-09

 #2759 有効求人倍率1.1倍、19ヶ月連続上昇 Aug. 5, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-05

 #2753 上海福喜食品対米国産牛肉:どっちもどっち? july 30, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-30

 #2742 藤原直哉(前編):物価と景気動向⇒二番底が来る July 21, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-20-1

 #2731 10年間で33%農業人口が減少している日本の農業 July 11, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-11

 #2729 年金基金の運用資産が130兆円から210兆円に増える:危うい株式投資 July 9, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-08

 *#2719 'Bad inflation' shadows Japan (悪性インフレの暗い影が日本を覆う)  June 28, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-28-2

*#2715 GPIFの株購入と銀行保有リスク資産に関わるBIS規制変更 June 25, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-25

 #2702 残業代をゼロにする"ホワイトカラーエグゼンプション"③:公務員は別扱い June 10, 2014   
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-10

 #2701 残業代をゼロにする"ホワイトカラーエグゼンプション"② June 9, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-08

 #2699 残業代をゼロにする"ホワイトカラーエグゼンプション"① June 6, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06

*#2693 鎖国をして国内雇用を確保しよう May 31, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-31

 #2669  成長戦略:規制緩和を考える May 7, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-05

・・・


  #2245  円安はそんなにいいことか? Mar. 17, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-03-17

  #2185 各論(3):'Abenomics' Jan. 24, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-24

 #2170 各論(2):貿易収支赤字転落⇒? Jan. 3, 2013 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-04

  #2169 各論(1):国債暴落の可能性とその影響 Jan.2, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-02

 2168 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割(2):蔵相高橋是清暗殺 Dec. 31, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-31-1

 #2164 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割は何? 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-28

 #2158 自民党圧勝294されど第2の危機民主党惨敗  Dec.17, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-18

 #2144 成長路線と金融緩和の罠 : 衆院選挙でナイトメアがはじまる 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-11-30

 #1828 ゼロ金利の罠: Fed targets and transparency Feb. 3, 2012
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-03

 #829 国家財政破綻の瀬戸際  Dec.12, 2009
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-12-12

 #346 これから10年間の日本経済のシナリオ
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10 





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