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#2770 「経済成長の天井」:日本総研山田久調査部長の論  Aug. 11, 2014 [91.経済]

 8/11NHKラジオ番組「ビジネス展望」での山田久氏(日本総研調査部長)の意見を紹介する。あとのほうで書くが、わたしには少し異論がある。

1.彼の景況感は、「消費税引き上げによる反動減が徐々に回復してきた」というもの。4-6月期の内閣府「国民経済計算」が13日に公表予定だが、民間シンクタンクは軒並み大幅な悪化予想(-6~-9%)を公表しておりはっきり悪化しつつあるという内橋克人氏の意見とは正反対である。

 山田は貿易収支が赤字になっていることと、人手不足を「新たなハードル」と名づけている。貿易収支の赤字には供給サイドの問題が隠れており、6月の有効求人倍率1.1は22年ぶりで建設・小売・外食産業に人手不足が現れている。とくに外食産業ではアルバイトを確保できずに閉店が相次いでいる。山田はこれら二つの問題を個別に論じている。

(1)供給サイドの要因
  「国内生産設備の圧縮+人口減少」の影響を挙げている。
 彼の論によれば、外国人労働者の受け入れ増大は根本的な処方箋にはなりえない。外国人労働者を増やして設備投資を拡大しても、将来設備過剰になることが目に見えている。人手が足りなければ生産性を上げることを考えるが、人手が足りてしまえば、そうした圧力がなくなり、生産性向上にブレーキがかかるというのである。では外国人労働者が増えなければ生産性向上が実現できるのか、そんなに単純な図式ではないだろうとebisuは思う。理由は後で書く。

(2)需要が不足するというリスク
 消費拡大には賃金上昇が必要なのだが、賃金上昇のテンポに懸念がある。知的労働者の多い外食産業のアルバイトの時間給は上昇しているが、大手企業と製造業では人余りのままである。したがって、これらの分野ではボーナスの上昇はあっても、基本給アップは限定的となる。つまるところ消費拡大はないという結論である。いまごろこんなことを言い出すのだからよほどのんびりした性格に違いない。

2.供給不足経済が広がり始めている

<山田の処方箋>
 生産性と賃金が同時に上がればいい、それには二つのポイントがある。
 ①物的生産性向上
 ②付加価値生産性向上

 GDPよりはGNI(国民所得)を増加していくことを考えるべきだ。海外投資からの利益を増やし、その結果賃金が上がるというルールをつくっていく。物づくりは海外でやり、商品開発は日本でやる。これは政労使会議での決定事項と同じだ。日本総研は三井住友フィナンシャルグループが大株主だから、そういう意見になるのだろうか?

 日本経済の先行きを考えるときに、縄文時代以来1.2万年の日本列島で、はじめての人口縮小と高齢化と少子化のトリプル同時進行という時代に突入したいう時代認識が不可欠であることは論を俟たないだろう。山田の論にはそういう大局観が希薄に見える。

 二つ、論点を指摘しておきたい。
 一つは、海外に生産拠点を移したまま、国内は商品開発をするという分業体制を考えているが、これは一部の企業の特殊な例に幻惑されて、現実を見ていない雑な論である。
 ある有名な繊維メーカでは海外に生産拠点を移したため、国内に30年以上工場をつくっていないという。海外子会社には工場新設の技術があるが、国内で工場新設の技術者はとっくに退職して、技術自体が失われてしまったという。もう17年も前の話だ。国内に工場がないのだから、生産技術の伝承もできない。物の生産という面では国内の技術が急速に失われつつある。裾野がどんどん小さくなっていることが、新商品がでてこない理由の一つに数え上げられるが、山田はそれをさらに促進しようというのだ。
 伊勢神宮の式年遷宮を考えてみたらいい、建築技術伝承のために20年に一度建て替えを繰り返している。1400年もそうしたことを連綿と続けているからこそ、技術伝承がある。仕事があれば技術伝承ができるが、国内に仕事がなくなれば生産技術の伝承は途切れてしまう
 それゆえ、海外に生産拠点を移して、国内で商品開発という分業体制は国内に生産技術が失われてしまうことを意味している。
 日本が上手だったのは生産現場でのさまざまな工夫・アイデアが生まれて、製品の改良や新商品のアイデアが出続けたということ。生産性向上は製造現場で仕事をするさまざまな職種の職人たちが担ってきたのである。新商品も開発チームには思いつかぬ工夫が生産現場で次々となされる。そうして高品質の新製品ができあがっていく。生産現場で工夫がなされることで高品質の製品が市場に出せる、松下産業が典型的な企業だろうし、トヨタだってそうだ。米国型の生産と商品開発のような分業体制は日本ではじつに稀だったし、これからもそうだ。
 生産拠点を海外に移し、国内では商品開発を行うというのは、日本的な商品開発のやりかたを不可能にしたり、生産工程改善の芽を摘む愚かな政策にみえる

 二つ目の論点だが、山田の処方箋「海外投資家らの利益を増やし、その結果賃金が上がるというルールをつくる」ということだが、これも幻想に過ぎない。これは現場を知らぬ学者の論と同じだ。
 日産のカルロス・ゴーンが最悪のお手本をみせてしまった。リストラと非正規雇用増大による利益拡大、そして役員報酬相場を跳ね上げてしまった。この20年間で役員報酬は2倍になったが、サラリーマンの平均年収は下がっている。
 無能で度量の小さい経営者達がこぞって社員をリストラし、非正規雇用を増やすことで利益を確保することに慣れきってしまった。

 「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」

 これを実際の経営でやるのは実に厳しい。経営者に高い能力と大きな度量が要求される。そういう経営者は次々にこの世を去った。その結果、役員報酬は2倍になったが、正規雇用の社員も、非正規雇用も年収が増えないどころか減少している。強欲な資本主義が日本中に蔓延してしまったのが、この20年間だ、山田は牧歌的すぎる。

 私の処方箋は、生産拠点を国内に築き、国内雇用を確保することだ。強い管理貿易(=経済鎖国)をして、日本国内で生産できない商品のみ輸入すればいい。安全で高品質なものだけ国内生産を行い輸出すればいい。
 強欲な資本主義から小欲知足の職人主義経済へ移行しよう。
 工場だけでなく生産の仕組みや生産技術そして資材調達の仕方も含めて輸出したらいい。 


<余談>
 10時50分だが、台風11号崩れの雨は1時間ほど前にあがって霧が出ている。金刀比羅神社例大祭は今日が最終日だが、お昼からの神輿渡御がやれそうだ。時折強い風が吹く。


*#2645 生産年齢人口の長期的な減少は何をもたらすか Apr. 16, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-16

 #2564 人口減少社会を問ふ(1) Jan. 16, 2014 
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 #2565 人口減少社会を問ふ(2) Jan. 17, 2014 
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 #2748 女性登用と日本の文化  July 26, 2014 
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 #2753 上海福喜食品対米国産牛肉:どっちもどっち? july 30, 2014 
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