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#2672 急激な学力低下はなぜ起きているのか?:ある假説 May 10, 2014 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

  これから述べることはひとつの假説である。医学的に証明されたものではないが、いくつかの観測事実に基く推論でもある。児童・生徒のいる家庭の10%にこれから話すようなことがあれば、いま起きている現実がたいへんよくわかる。この問題については、別の角度からもう一つ書くつもりだ。言語習得能力、とくに「話す・読む」のトレーニング量の問題に焦点を当て、どう育てれば「読み・書き・そろばん(計算)・話す」能力を伸ばせるのか、ヒントになれば幸いである。

 根室の市街化地域の3中学校の学力がこの6年間ほど落ち続けている。そろそろリバウンドがありそうなものだが、10年単位ではっきり学力劣化が起きていることは否めない。とくに五科目得点80%超の高学力層が四分の一に激減し、低学力層の肥大化が起きている。
 文協学力テスト(中3)で五科目合計平均点が6年間で50点も下がったB中学校の例を弊ブログで取り上げた。
*#2606 根室の中学校の過去6年間の学力低下を検証する  Feb. 28, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-27-1

 なぜB中学校でこのような激しい学力低下が起きたのかについても、その直接的な原因を書いた。数人の生徒が授業中に騒ぐので先生の声がときどき聞こえなくなるようなことがはじまってから、急激に学力が下がっていった。現象としてはそういうことがあったことは事実だ。しかし、それは現象であり、深層にはもっと大きな変化が隠れているのではないか。
 一部の先生たちの授業技倆や学力にも問題があるし、他にも健全な学習習慣の育成を阻害する過度なブカツ、「文武両道」を言わぬ先生たちの姿勢、放課後補習を徹底しないことなどさまざまなことが原因として考えられるのだが、今回は低学力層(下位20%)に言葉の問題を抱える生徒が増えたことに焦点を絞って考えてみたい
(C中学校では、校長先生や一部の部活指導の先生たちが「文武両道」に舵を切った。生徒の気合も入ってきているから、どういうことになるか楽しみである。)

 中学3年生でも小学4年生程度の日本語語彙能力しかない生徒が20%ほども存在している。成績下位層の生徒に語彙力テストをして確認した結果を弊ブログで紹介した。小学4年生程度の簡単な語彙力テストで30から52点しかとれない。

 はっきり口をあけて物が言えない生徒、口を動かさずに腹話術のような喋り方をする男子生徒がいるが、話に脈絡も欠落しているから、同級生にも言いたいことがなかなか伝わらない。
 そういう生徒は語彙力が不足しているだけではなく、日本語の運用能力が未発達にみえる。どこかの段階で発達が停まってしまったように感じる。自分の意思を言葉で伝えられないとか、筋道だった話ができないケースが増えているのである。
 こういうレベルの言語能力だと数学の文章題ができるわけがない。もちろん国語テストの問題文を読むにも時間がかかりすぎ間に合わない。頭の中では「てにをは」を間違えて読んでいたり、読めない漢字がでてくるから文意も精確に理解できない。時間をかけて一生懸命にやっても、言語能力が低いので消化できる問題量が著しく少なくなる。標準的な能力の生徒が30分で10やるとすると、2くらいしかできないから、2時間勉強しても普通の生徒が30分間勉強した量しかやれない。基礎計算問題に限るとその差は30対1に拡大する。

 ゲーム時間の長い男子生徒に1ヶ月間ゲームをしないように指示することがある。生活リズムをきちんとしないと家庭学習習慣を育めないからだが、そうしたときに生徒から、「お父さんの方がやってるよ」という声を聞くようになったのは10年ほど前からだったが、最近5年くらいはその割合が増えた。それとなく授業中の雑談の中で確認している。

 父親がゲームに夢中になっていると、子ども(男の子)に話しかける時間が短くなるのではないだろうか。子どもは父親とのコミュニケーションによって言語能力の発達を育む機会を奪われてしまう。0歳から3歳くらいまでの時期にスポイルされると言語の運用能力に何か決定的な瑕(キズ)ができてしまうのではないか。

 読み・書きの他に「話す」に問題が出てしまう。同級生と話しているときでも、何を言っているのか意味が伝わらないケースはかなり重症だ。仲間内では話が通じても中3になっても語彙力が小学4・5年生レベルだと、授業内容を理解できない。先生が話す漢字熟語を適切な字に頭の中で変換できないから、違った意味に理解するか、まったく理解できなくなる。その単語だけならいいが、文脈全体をとらえることができないから、話された内容を理解できない。授業はまるで外国語とにたようなことになる。わからないから集中力が格段に低下し、授業中に落ち着きがなくなる
 こういう生徒は高校に入っても学力はなかなか上がらない。言語能力「読む・書く・話す」に問題がある場合は学力を上げるのは実に厄介なことになる。
 「読む・書く・話す」能力の発達を促すためにニムオロ塾では週に20分ほど中学生に音読トレーニングをしている。中1には斉藤孝『読書力』(岩波新書)、中2には藤原正彦『国家の品格』、中3には世阿弥著・林望現代語訳『風姿花伝』をテクストに使っている。
 言語能力に何らかの問題のある生徒を対象に始めた日本語音読トレーニングは、いま全生徒に実施している。併行して出てくる漢字の書き取りをやったり、家でも音読トレーニングをやってくれると効果が大きい。やり始めて10年目になるが、学校でやっている「音読指導のない朝読書」は、成績下位層どころか生徒の半分には効果がほとんどないと断言できる。言語能力に問題のある生徒は読めていない、眺めているだけだ。朝読書はトレーニングにならない。教師がいっしょに読んでやらないと読めない漢字は読めるようにならないし、読み方のスキルも上がらない。ほうっておいても大丈夫なのはせいぜい上位30%だろう。学校で教育の放棄ともいえることが堂々と何の反省もなく毎日行われているのはとても不思議なことにみえる。仕事から逃げているとしか見えない。概して小中学校の先生たちは高校の先生たちとは違って手間のかかる仕事から逃げる傾向がある。成績下位層の生徒に補習を繰り返している塾側からみるとそう見える。高校は進学講習と称して放課後補習が半ば常態化している。
 民間企業の観点からも一言書いておく。業務忠実義務というのが大概の会社の業務規程にはある。自分の仕事を忠実にやらないともちろん業務規定違反で責任を問われ、懲戒解雇処分の対象になる。
 成績不良の生徒たちをほうっておいてはいけない、先生たちには放課後個別補習を毎日繰り返しても救う義務がある。義務教育卒業の最低学力を保障するのがプロの仕事ではないのか?意地でもやり遂げるべきだ。

 言語能力に問題を抱える生徒に共通しているのは、ほとんど本を読まないということ。子どもたちは身体が大きくなるだけではない、精神も発達しているのだが、年齢相応の本を読むことで精神の発達が促されるという側面のあることは無視できない。そこがすっぽり抜け落ちてしまうのである。

 言語能力の発達と、精神的な成長を促すために、中学校で文庫本を50冊程度、高校でさらに50冊と新書版の本を30冊くらいは読ませたい。そのためには幼児期の言語能力の健全な発達がないといけない。言語能力が未発達なままにとどまっている子どもが児童書レベル以上の内容の本を読むことはほとんど不可能、いくら読めといっても、読めるわけがない。一緒に本を読んでやるとか、音読トレーニングを毎日繰り返す必要がある。こういう子供たちが「自然に」児童書以上のレベルの本を読むことはほとんどありえないことのように思える。

 最近二年間でスマホが中高生にすっかり浸透してしまった。スマホ中毒といえる症状を呈している生徒が増えている。Lineでチャット形式で毎日何時間も費やしている。生徒に訊いてみたら、昨夜は4時間Lineで話しをしていたという。Lineを使うと通話料金がかからないので、話しを切れない、ついつい長くなる。3時まで話していたという。当然、授業中に居眠りが出る、でもやめられない。心療内科医の診断と治療をうけなければならないレベルとebisuは判断する。まぎれもない中毒症状と生活習慣病症状を呈している。

 この子たちが大人になって子どもを産んだら、子どもをあやさずに右手で何時間もチャットしているのではないか?
 父親がゲームやスマホに嵌り、母親もそうなったら、こどもの言語能力に著しい劣化が生じることを予測しておかなくてはならない

 学力テスト結果表に載っている点数ごとの階層分布を見ていると、仕事の指示が理解できない若者が現段階で20%くらい発生しそうである。現在のスマホの使われ方を見るとこの比率は30年後には2倍になるのではないか?良質な労働力の供給が半減するから、日本経済を揺るがす大問題に発展する可能性が大きい。
 言語能力が著しく劣る生徒たちは社会人として仕事ができない、その結果親に寄生して生活するしかなくなる。根室にそういう大人が急増するということだ。地元企業は人材確保に困難を来たし、つぶれていく。ずっと寄生し続けられるわけではないから、両親が定年退職したらそのあとの生活はどうするのだろう?

 子どもの将来にかかわるから、お父さんたち、ゲーム中毒から抜け出しなさい根室の子どもたちの学力がこの6年間で急激に下がったのは、ゲーム世代がお父さんになり始めたこととどうやら関係がありそう。
 そうだとしたら、子どもたちの学力低下は、お父さんたちの劣化を反映しているということになる。ゲームはオンラインゲームへと進化を遂げてますますリアルな画面で機能の高度化が進むから、「中毒患者」は増え続けるだろう。そこへお母さんたちの「スマホ中毒」が加わったら、子どもたちの日本語能力はどういうことになるのか、火を見るよりも明らかだ

 団塊世代の頃に五段階評価で1だったものは、1クラス60人で3人(5%)だっただろうが、このままだと近い招来30~40%くらいの割合になる。

 幼児期の言語能力獲得は親と言語を介した接触が基本である。そして「読む・書く・話す」能力は、幼少期に親が積極的にかかわるのと、かかわらないのとでは雲泥の差が生じてしまうことを知っておこう


  #2673 子どもの言語能力パワー・アップのために  May 11, 2014
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-10




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根室市民

市内の小学校では、サッカーや野球の少年団活動を暗くなるまで熱心にやっています。7時近くに自転車で帰宅するユニフォーム姿の子をよく見ます。この時間に帰って、家庭学習をする時間があるのでしょうか?教育委員会から出された立派なパンフレットには、「部活や少年団活動は2時間以内で」とはっきり書かれていたのに、まったく無視されているようですね。なぜ誰も指導しないのでしょうか。学校の先生は、あのパンフレットを読んでいないのでしょうか?
by 根室市民 (2014-06-15 23:51) 

ebisu

「根室市民」さん、おはようございます。

市教委でそんなパンフレットを出しているのですか。

ブカツ指導にかかわる先生たちと熱心な保護者を集めて、説明会を開くべきですね。
学校単位でやるもよし、全部集めてやるもよし。
方針をきちんと当事者達に伝えことが市教委の仕事です。
はりきってやってもらいたい。
by ebisu (2014-06-16 08:54) 

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