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#2671 英文和訳問題(2)解説 Gone with the Wind より May 9, 2014  [81.Gone with the Wind]

 #2670の問題文を再掲する。アンダーライン部分を普通の日本語にできただろうか?

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 Her new green flowered-muslin dress spread it twelve yards of billowing material over her hoops and exactly matched the flat-heeled green morocco slippersher father bought her from Atranta. The dress set off to perfection the seventeen-inch waist, the smallest in three counties, and the tightly fitting basque showed breasts well matured for her sixteen years. But for all modesty of her spreading skirts, the dematureness of hair netted smoothly into chignon and the quiteness of small white hands folded in her lap, her true self was poorly concealed. The green eyes in the carefully sweet face were turbulent, willful, lusty with life, distinctly at variance with her decorous demeanor. Her manners had been imposed upon her by her mother's gentle adminitions and the sterner discipline of her mammy; her eyes were her own.
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 傍線部は前後関係がなくても和訳ができるのだが、前後の文があった方が楽しいだろうからいっしょに載せてみた。読解トレーニングと考えて高校生は辞書を引きながら前後も読んでもらいたい。
 件の女生徒はselfを電子辞書で引いて「性格」と書き込んでいた。それをみて、そんな意味が先頭の方に載っているのか、まあそれでもいいかと思った。ふつうは「自己」だろう。G-4(ジーニアス4版)には「①自己、自分自身、②私利、私欲」と載っている。
 少し脱線したい。
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self: PERSONALITY  1 the set of someone's characteristics, such as personarity and ability, which are not physical and make that person different from other people: The hero of the film finally finds his true self.
         CALDより引用
(個性・性格 1 人の性格のひとかたまり、性格とは個性や能力のようなようなもので肉体的なものではなく、その人を他の人からはっきり分けるもの:その映画のヒーローは最後に虚飾をかなぐり捨て自分が何者であるかを理解する。)

 類義語としてpersonalityがでている。setという単語からわたしが連想するものは数学の集合の図である。集合A、あるいは命題Pがイメージとして図になって現れる。「自己」を命題Pとすれば、その円の外側は「非自己」である。ひとはさまざまな性格の集合体だから、それらを総体的に称して「お人柄」という語彙が思い浮かんだ高校生はなかなかのもの。

 辞書の説明文を読むと日本語がかかれていないから、「人柄」という語彙が連想しやすいのではないか、どういう日本語がふさわしいのか説明を読みながら考えなければならないというところが英英辞典のメリット。
 英和辞典は訳語の日本語の印象が強すぎて、自分のもっている日本語語彙が出てきにくくなるようだ。日本語になりにくいところにかぎって英英辞典を引いてみるというのも楽しいだろう。あなたがある程度の本を読みこなしていればそのシーンにふさわしい日本語語彙がなにかわかるだろう。
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 問題だったのはpoorlyである。これを「まずしく、みすぼらしく、惨めに」のような日本語を充てて「彼女の真実の性格は貧しく隠されていた???」「~みすぼらしく隠されていた」「~惨めに隠されていた」という訳を考えて、「なにいってんのか意味わかんない?」と考えあぐねてしまったようだ。G-4だと②の意味に「まずく、下手に、不完全に」とある。おそらく電子辞書をスクロールしなかったのだろう。最初の訳語だけで考えてしまったから暗礁に乗り上げた。

E:「poorの意味は「まずしい」だろう?-lyがついて副詞になっているから動詞のconcealedを修飾している。隠し方がまずしいって普通の日本語ではどういうこと?」
S:「え、下手糞っていうこと?」
E:「そうだよ、そこにある英和辞典を引いてpoorlyの項を全部読んでみな、たぶん似たような日本語訳がきっとあるよ」
S:「あった!」
S:「スカーレットは自分のほんとうの性格を上手に隠せなかったんだ、なーんだそういうことだったのか」
T:「次の文を読んでみたら、なぜそうなのかが具体的に書いてある、わからないときは次の文を読んでみるとわかることがある。英語の文は基本的に次の文は前の文の具体的な説明であることが多いことは知っておいた方がいい。」

 論より証拠、次に続く文を見てみよう。

The green eyes in the carefully sweet face were turbulent, willful, lusty with life, distinctly at variance with her decorous demeanor.
 (注意深く可愛いらしい表情をつくってはいるが、その緑色の目は野生的な荒々しさや意志の強さそして情熱的な輝きを帯びていて、その上品な物腰とは似つかわしくなかった。)

 lustyには「頑健な、元気溢れる、」という意味のほかに「好色な」という性的な意味がある。lusty with life「生命力に溢れて好色」という風にも読める。命のエネルギーが強いというのはとは性的エネルギーが強いということと等価だろう、制御しがたい本源的なパワーである。それは上品さとは正反対のものなのだが、スカーレットはそういう矛盾したものを自分の中にもっていた。
 フランス貴族の末裔である上品な母親の血とアイルランド出身の移民である悍馬(カンバ=暴れ馬)のごとき気性の父親、その両方の血を受け継いでいる。そうした二つの血の織りなす綾がこの物語のテーマであると言い換えてもよさそうである。わたしたちは矛盾するものを一つの人格の中に何とかまとめ上げているのだが、スカーレットのそれは二つの異なるパワーが常人よりもはるかに大きい。いたるところで問題を起こし、彼女に波乱万丈の人生を歩ませることになる。

 参考のために邦訳書から該当部分を引用する。
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 彼女のほんとうの人柄を隠しきれるものではなかった。

  
『風とともに去りぬ』 大久保康雄・竹内道之助訳
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 さすがプロ、日本語語彙の選択がいい、きれいな訳だね。

 selfに「人柄」の訳語が載っている英和辞典はおそらくないだろうね。和訳は辞書に載っている訳語をそのまま貼り付ける作業ではないのだ。文脈から判断して適切と思われる語彙を自分の薬籠中から引っ張り出すんだ。自分の引き出しの中に少ししか日本語語彙がなければアウトだ。だから、日本文学の良質のテクストを中高生や大学生の時期にある程度は読んでおくべきで、日本人で日本語のできない者は英語の能力も著しい制限を受けることになる。生徒たちを見ていると、高校生になってから大きく学力が伸びる者は国語の能力が高い場合が多い。
 「読み・書き・そろばん(計算)」、これが大事だということだろう。大事な順番に並んでいるよ。小学生は英語をやる暇があったら日本語の良質のテクストをたくさん読んだ方が、中高生になってから学力が伸びる。日本語能力があらゆる教科の基礎をなしているからだ速く精確に教科書を読むことができたら、勉強ができるのは当たり前だ。標準的な速度の2倍で精確に読めたら、基礎学力は相当高い。逆に半分だったら、とても平均的な学力には及ばないだろう。読書速度と計算速度の大きいことは学力全体に影響している。計算速度は1クラスに生徒が30人いたら、最速と鈍足層では30対1の開きがある。生徒たちを十数年間観測した事実から言えることは、学力の差の大半は「読み・書き・そろばん(計算)」、これら三つの基礎技術の速度の差によるところが大きい

#2649 問題消化速度1対35の衝撃(2):学習量=速度×集中力強度×時間 Apr.18, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-19

 この本を読んでいる女生徒のSは、小説をたくさん読んでいて、言葉のセンスがいいから、「隠し方が貧しいって、普通の日本語ではどういうこと?」と質問を投げるだけで気がついた。読書速度の大きい子だ。だからもっともっと成績が伸びていいはず、期待してるよ。
 電子辞書の欠点もそれとなく説明したつもりだが、それでもリュックサックに厚い英和辞典は入れられないから、これからも電子辞書なのだろう。
 せめて家で勉強するときだけは英和辞典を引いてほしい、学習効果がまるで違ってくる。便利なものはその裏側に大きなリスクがあることを知っておこう。

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                ― 余談(1):辞書選び ―
 Hirosukeさんが辞書選びについて、情報と彼の意見をブログで公開してくれている。わたしが使っているうちの一つG-4についても理由を挙げてはっきりモノをいっている。面白いから読んでみたらいい。

今年もズバリ言うわよ!!」「日本の英語教育界のお粗末が、白日の下に露呈した!!
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2006-09-10


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               ― 余談(2) ―
 平井呈一の見事な技を味わってもらいたい。日本人の口から出たらこういう日本語になるだろうという翻訳である。
 後志のおじさんが、#2664の投稿欄で翻訳にタイプが二つあることを教えてくれた。意味的等価と形式的等価である。平井の訳は「意味的等価」、『風とともに去りぬ』の訳者である大久保康雄と竹内道之助は「形式的等価」を選択した。


 <俗歌>
  真の闇夜と恋路の闇は 踏んで迷わぬ人はない(大意)

   Will it be night forever? --- I lose my way in this darkness:
   Who goes by the path of Love must always go astray.
    日本語は平井呈一、英文はラフカディオ・ハーン 『仏の畑の落穂他』 恒文社 1991年第二版
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*#2670 英文和訳問題(2) Gone with the Wind より May 7, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-05-07



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