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#2398 内陸湖「死海」に紅海から水を引く計画に専門家が懸念表明  Sep. 6, 2013 [74.高校・大学生のためのJT記事]

 紅海は純然たる海でその西端はスエズ運河、そして運河の向こう側には地中海が広がりジブラルタル海峡を抜けると大西洋へ。紅海はアフリカ大陸とアラビア半島にはさまれた細長い海であり、南側はアラビア海やインド洋へとつながっている。モーゼの十戒で紅海が割れてユダヤの民がアラビア側へ逃れるシーンがあった。追っ手のエジプト軍は海が閉じて飲み込まれ全滅する。そのエピソードや紅海という名前から血の色や赤潮を連想させる、不吉なイメージがある。
 死海はもっと直截的で不気味な名前だ。魚が泳いでいない海を想像する、塩分濃度が高いからその通りなのだろう。「死海プール」を宣伝文句にしたホテルがあるので、若いひとたちにはなじみがあるだろう。塩分濃度が高いことがここでは幸いしている、だれでもぷかぷか浮いてしまうという愉快で素敵なあれだ。愉快で楽しいイメージが「シカイプール」にはある。ホテル名は「ラグーン」といったかな。中3の生徒に聞いたら数人「行ったことがある、傷なんかあるとひりひりするやつでしょ」と反応があった。去年高校を卒業した生徒の一人は、小学生のときにこのプールに行ったことを目をきらきらさせながら夢中で話してくれた。「先生、聞いてくれる・・・」

 そのオリジナルが地球上のどこにあり、塩分濃度がどれくらいで、周りの風景や湖の中はどういうふうになっているのかわたしもちっとも知識がなかったから、ジャパンタイムズに"'Red-Dead' plan by Jordan, Israel worries expert"という見出しの記事にひきつけられてしまった。
 紅海と死海をつなげる?なぜ?場所はどこ?国境にあるの?生物はいるの?魚はいるの?知っている人は読まなくていい。知らないよい子の高校生と大学生、そして社会人のみなさんだけ英文記事を楽しんでください。
 写真が2枚ついているので拡大して見て下さい、波打ち際の岸辺に塩がカタマリになっています、自然ってすごい。根室では流氷が強風で岸辺に打ち寄せられてぎしぎし音を立てながら山のように折り重なって積みあがる真冬の風景はイスラエルの民には驚きかも。
 英文記事の後に解説をつけてありますので、よろしかったらあわせてお読みください。

(このプロジェクトにはユダヤ教国・キリスト教国・イスラム教国が関係しており、ヨルダン北部はシリアと国境を接しているので内乱や米国との戦争を逃れる民が50万人も難民キャンプで生活し始めている、そして環境問題へも言及もある、これを時事英語授業の教材のとりあげずしてなんとする。高校の先生たち、面白いから授業で使ってみたら?高校世界史担当の先生にも授業の材料としては最高だろう。地質学と化学と地政学と世界史と国際政治学そして英語のクロスオーバする授業、面白いに決まっている。知的刺激に満ちた材料を生徒に投げつけて何が起きるかじっと観察してみる、そういう授業があっていい。授業を受ける生徒もやっている先生も共に楽しめる授業になる。)

http://www.japantimes.co.jp/life/2013/08/31/environment/red-dead-plan-by-jordan-israel-worries-experts/
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‘Red-Dead’ plan by Jordan, Israel worries experts

Pumping in salt water could save inland sea from totally drying out

AFP-JIJI

A plan to link the Red Sea with the shrinking Dead Sea could save it from total evaporation and bring desalinated water to thirsty neighbors Israel, Jordan and the Palestinians.

But environmentalists warn that the “Red-Dead” project could have dire consequences, altering the unique chemistry of the landmark inland lake at the lowest point on Earth.

Jordanian Prime Minister Abdullah Nsur said Monday that his government has decided to press ahead with the $980 million project, which will give the parched Hashemite kingdom 100 million cu. meters of water a year.

“The government has approved the project after years of technical, political, economic and geological studies,” Nsur told a news conference.

Under the plan, Jordan will draw water from the Gulf of Aqaba at the northern end of the Red Sea to the nearby Risheh Height, where a desalination plant is to be built to treat water.

“The desalinated water will go south to Aqaba [in Jordan], while salt water will be pumped to the Dead Sea,” Nsur said.

The Dead Sea, the world’s saltiest body of water, is on course to dry out by 2050.

It started shrinking in the 1960s when Israel, Jordan and Syria began to divert water from the Jordan River, the Dead Sea’s main tributary.

Israel and Jordan’s use of evaporation ponds for extracting valuable minerals from its briny waters has exacerbated the problem.

With a coastline shared by Israel, the Palestinian Authority and Jordan, the Dead Sea’s surface level has been dropping at a rate of around 1 meter a year. According to the latest available data from Israel’s hydrological service, on July 1 it stood at 427.1 meters below sea level, nearly 27 meters lower than in 1977.

Under the plan, most of the desalinated water will go to Jordan, with smaller quantities transferred to Israel and the Palestinian Authority.

But Friends of the Earth Middle East (FoEME) and other environmental groups have called on the three partners to reject it on environmental grounds.

The main concern, they say, is that a large influx of water from the Red Sea could radically change the Dead Sea’s fragile ecosystem, forming gypsum crystals and introducing red algae blooms.

In addition, leakage from the pipeline could contaminate groundwater along its route through southern Israel’s Arava Valley.

Israel’s Ministry of Environmental Protection says that studies so far leave “vast uncertainty” and it is calling for a pilot project to be run on a limited scale to study the potential implications.

But critics contend that a small-scale pilot might not carry enough water to trigger the effects that it is intended to examine.

And for the Palestinians, the joint project raises more basic political issues such as Israel allowing them to develop that part of the shore that lies within the Israeli-occupied West Bank.

“We would like to be in this cooperative project,” says Shaddad al-Attili, head of the Palestinian Water Authority. “We would like to be treated equally as well as the Jordanians and the Israelis, we would like to benefit from the outcome. But before all of that we would like to get access to the Dead Sea, not only to get water and to swim in the sea, but also to build hotels and to develop a tourist area.”

The Dead Sea’s mineral-rich waters and mud are considered therapeutic, while visitors love the novelty of floating in the brine, which does not allow a person to sink. Israelis operate a number of tourist hotels and beaches along the western shoreline.

FoEME has called on the three partners to endorse a set of integrated actions, including water recycling and conservation, rehabilitation of the lower Jordan River and even importing water from Turkey — one of three alternatives in a World Bank study that is estimated to be cheaper and have much less environmental impact than the Red-Dead option.

Nsur said Jordan wants water to supply its northern regions, while Israel needs water in the south.

Jordanian officials say the 500,000 Syrian refugees that Jordan is hosting is stretching its meager water resources.

Jordan had initially agreed in principle to build, along with the Palestinians and Israelis, an $11 billion pipeline from the Red Sea to resolve the problem. But Water Minister Hazem Nasser said that due to the high cost of that project Jordan has decided to opt for its alternative plan, “which we call the ‘first phase.’ “
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地図のURLを書いておきます。グーグルの検索用の地図だから、クリックしたら初期設定になっているかもしれない。そのときは「死海」って入力してみてください。
https://maps.google.co.jp/maps?hl=ja&tab=wl


 アラビア半島の西側を海岸に沿って北上していくと、北側の終端のアカバ湾に着く。そこからさらに陸路を200kmほど北上したら死海である。聖地エルサレムからは30kmほどの距離で、死海の西岸はイスラエル、東岸はヨルダンとなっている。アラビア半島とアフリカ大陸の間に割り込むようにシナイ半島があるが、そこはエジプト領だ。首都カイロからもそう遠くない。アラビア半島で起きるイスラエルとパレスチナの紛争にエジプトが深く関わらざるをえない事情も地図を見たら無理なく了解できる。
 ヨルダン・ハシミテ王国には大地溝帯の北の終端であるヨルダン渓谷があり、その中に死海もある。ヨルダン渓谷をはさんで左側がイスラエルとパレスチナ自治区であり、ヨルダン北部はシリアと国境を接している。ヨルダン川の上流にシリアがある。レバノンの山地から流れる川がシリアを通りヨルダン川となるのだろう。
 国際河川であるこの川から各国が飲料水や灌漑用水を取水しているから1960年代から流水量が急減少し、次第に死海が干上がり始めた。

 ヨルダン首相は9億8千万ドルを投じて年間1億㎥の水を確保するプロジェクトを決めた。ヨルダン政府は政治的、経済的、技術的、地理的な検討を数年にわたって行ってきた。この計画ではアカバ湾からRisheh高原まで水を引くことになっている。そこには淡水化プラントをおく予定だ。精製された淡水は南へ下りアカバへ供給され、塩水はパイプの中を北上し死海へ送られる。
 いまは地図の上に明記されているが、このままなら2050年には干上がってしまう。年間1mずつ水位が下がっている。
 干上がり始めた死海は、イスラエル側の測量によれば海面下427.1mで1977年に比べて27m水位が低下した。
 イスラエルとヨルダン双方が貴重なミネラルを含んだ塩水を利用していることが問題を複雑にしている。
 死海はプカプカ浮かんで楽しむだけに利用されているのではない、観光地としても有名で全世界から観光客が訪れるので、イスラエル側の死海東岸にはホテルが林立しているし、死海の水や泥はミネラルが豊富でそれゆえ健康を癒す力が強い。観光客は濃度の高い塩水に楽に浮いて心身を癒すのである。

 ヨルダンは死海の北部に飲料水をもっと供給したい、米国がシリアに侵攻しそうなので隣国のシリアからの難民が50万人も流入し、ヨルダンは難民キャンプに水を確保するのに窮している。

 世界有数の観光地も、シリアではじまりつつある戦争と無縁ではない、それどころかその影響をもろにかぶっている。
 ユニークな生態系を壊しかねないのでFoEME(地球の友だち中東支部"Freinds of Earth Middle East")という環境保護団体の反対もある。石膏結晶や"red algae blooms"(赤潮)によるエコシステム破壊が具体例として挙げられている。

 The main concern, they say, is that a large influx of water from the Red Sea could radically change the Dead Sea’s fragile ecosystem, forming gypsum  crystals and introducing red algae blooms.

 紅海の海水をパイプラインで死海へ注ぐと死海の塩分濃度が急激に下がることになる。海水注入による硫酸カルシウム二水和物の結晶形成が生態系(ecosystem)とどう関わるのか私にはわからぬが、海底に硫酸カルシウム二水和物の結晶が形成されることでバクテリアの生態系に影響がでるのだろうか、それとも何らかの化学反応によって硫化水素が発生することを懸念しているのか、専門家の解説がほしい。ebisuが想像するのは、ミネラルたっぷりの海底の泥からガラスのように透明な結晶や純白の大きな結晶の塊や柱があっちにもこっちにも顔をのぞかせている風景である。結晶の成長速度がどれほどのものかわからぬが、ニョキニョキ伸びる姿は微笑ましい。願わくば千年単位で見学させてもらいたいくらいだから、ファンタジーなのか環境破壊なのかebisuの頭の中はこんがらかりはじめる。
 それはともかくとして、死海へ海水が直接注入されると一緒に藻類や有毒プランクトンが流入し赤潮発生の原因となりうることだけはebisuにだって推察できる。赤潮が発生するとそれは毒をもったプランクトンや藻類の大量発生だから、死海の塩水や泥から健康によいとされているミネラル成分を抽出し製品化している事業には致命的な影響の可能性がでてくる。強い毒素をもったプランクトンや藻類が繁殖したら、資源管理上非常にまずい。そのような湖から抽出したミネラルや泥は健康関連製品としての価値を失う。それだけではない、赤潮の発生した海にプカプカ浮かんで癒される観光客など想像だにできぬ。だれも海に入らなくなり、死海東岸のイスラエルの観光業が消滅してしまう恐れすらある。

 その他にパイプラインから塩水が洩れたら南イスラエルのアラバ渓谷沿いの地下水を汚染しかねないことも挙げている。この地域の地下水は飲料用や灌漑用の貴重な水資源なのである。よく考えるとこのプロジェクトには難題がいくつも折り重なっていまにも崩れてきそうにみえる。

 イスラエルの環境保護大臣も諸々の研究はいままでのところでは「広大な不確実性」を残していると計画に懸念を表明している。潜在的な影響を検討するために限定的な規模でパイロット・プロジェクト(事前評価のための予備テスト)をやって確認してみるべきだと主張。大きな規模ではじめてしまったら、プロジェクトをとめることができなくなるからだ。日本の八ッ場ダム(群馬県、総貯水量7310万㌧、総工費4600億円)の例を考えればわかる。当初計画は2110億円だった。
 首都圏でも人口減少は始まっているから水の需要は減り始めているが、規模が大きすぎて1952年に計画が発表されてから事情がまるっきり変ったのにも関わらず、ダムの開発工事がとめられない、1994年についに工事が始まっている。水は余っており、これからますます必要水量が提言していくのに、いったん策定されたダム建設計画は必要がなくなっても止められない。日本の行政はお金を湯水のごとくに使うことしか考えていない。「リアルタイム財政赤字カウンター」には国及び地方の債務残高合計額が1254兆円と表示されている。 http://www.kh-web.org/fin/
 イスラエルの環境保護大臣はプロジェクトに懸念を表明し、事前評価を確実にするために規模を小さくして湖にどういう変化が生じるか様子をみるべきだと、至極まともな発言をしている。そういう彼の国の大臣を偉いなと思う。

 パレスチナ自治区とイスラエル側を通るパイプラインを作るという案だと11億ドルかかる。日本円では1100億円だ。東北大震災復興予算は19兆円である。おおよそこのプロジェクトの200倍の予算だ。日本の経済力の途方もない規模が実感できるだろう。わが国は湯水のごとくにお金を使いすぎているのではないか?来年度予算の赤字額は60兆円にもなろうとしている。風船というのは膨らむだけ膨らんだらはじけるものだ。いつはじけるのかはそれが起きるまで誰にもわからない。はじけた途端にみんなが口をそろえて言う、「危ないと思っていたんだ、ほうっておいたらこうなると」。

 関係3カ国であるパレスチナ、イスラエル、ヨルダンが同意し、協力しないとできない事業である。複数の案が検討中である。
 ユダヤ教の国とそれを支援するキリスト教原理主義の国家、そしてイスラム世界は激烈に争いながらも、こういう場面では協力しないとお互いに不都合が生ずる、それを防ぐためにどのような妥協の仕方をするのか、そしてその共同プロジェクトからなんらかの信頼が生まれるのか生まれないのか、国際政治は面白い。


*ヨルダン(ウィキペディアより)
 ここにも地図が載っています。周辺諸国もあるのでご覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%B3

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