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#2027 『謹訳源氏物語六』を読む  July 26, 2012 [44. 本を読む]

 昨朝は根室の厚床と浜中が全国最低気温の13.1度だった。仕事からもどって生の本マグロの刺身に北の勝「搾りたて」を呑みながら食事をした。(サンマと同じで)胃がないから量が少なくていいので、たまには贅沢をたのしむ。

 寝る前に林望の『謹訳源氏物語』を読んでいる。一昨夜第六巻を読み終わった。最近第八巻が出版されている。
 六巻は「若菜」である。
 光源氏は朱雀院から娘の三の宮を正妻にと再三頼まれて、ついに断りきれず迎え入れることになった。紫上は後から来た年若い正妻の三の宮といさかいを起こさず、今までどおり光源氏と暮らすが、光源氏は三の宮との間を行ったり来たりせざるを得ない。どちらの顔も潰してはいけないから、それはなかなか気遣いのむずかしいことではある。

 紫上が突然病に倒れ息が絶えるが祈祷で息を吹き返す。六条御息所の怨霊の祟りであることがわかる。女の嫉妬は実に怖いものである。年上であった六条御息所は生霊となって夕顔を呪い殺し、正妻だった葵上をも殺してしまう。そして死んだ後もこうして紫上に祟る。愛とセックスが一体の時代は想いも深いのだろうか。

 源氏が死に瀕した紫上を看病するためにそばについている隙に、三の宮は衛門の督に言い寄られ無理やり押し倒されなすがままになり妊娠する。源氏は衛門の督の筆跡の恋文を偶然見つけてしまうが、事を荒立てない。いや、身分が高くてことを荒立てるわけにはいかないのだ。苦悶しつつ生まれてくる子供を自分の子として育てることを決意する。そこで、父桐壺帝の后であった藤壺との一件を思い出す。

「もしや、亡き父院さま(桐壺帝)も、ちょうど今の私と同じように、こころのうちには藤壺の宮とのことをなにもかもご存知で、しかも知らぬ顔をなさっていたのであろうか。・・・・・<思えばあの一件、あれこそはまことに恐ろしく、絶対にあってはならない過ちであった・・・・・>と、身近な例を、はたと思い合わせるに至って、こんなふうに恋の山路に踏み迷ったとしても、それは誰も非難するには当たらないな、という想念も混じるのであった」(313ページ)

 三の宮は無事男の子を出産し、衛門の督は懊悩して病を得てまもなく死ぬ。紫上は病状が回復して小康状態をたもったのち、従前の暮らしに戻る。心が平穏とは言えぬ暮らしの中で、ついに最愛の紫上がなくなるのが、第七巻。

 愛する者を失う源氏(48歳)の哀しみを林望はどう訳したのか、じっくり読み進みたい。

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 平安後期はHIVも梅毒もまだ日本にはない。梅毒は1512年に入ってきたとされている。コロンブスが新大陸に足を踏み入れてから20年後のことである。恋とセックスが未分化の時代、STDの心配などせずに恋(=セックス)していた時代だったのだろう。でも、嫉妬や気苦労など恋愛沙汰にまとわりつくトラブルは昔も今もかわらないから源氏物語は今に生きている。
 衛門の督の子とわかっていながらことを荒立てず、自分の子として育てる。日本でHLA検査が移植適合性判定のために用いられ、米国と違って親子鑑定には使われなかった事情が源氏物語を読み合点がいく。育てれば自分のこどもというルールはすでに源氏物語で確立しているのだ。もちろん、祭りの期間中の乱交で妊娠した場合や、若衆宿に集って妊娠した場合も、男は自分の子として育てるという「風習」はもっともっと前からあったのだろう。祭りの期間中に限ってのことだから、こちらはもちろんとがめだてはない、中世日本人のセックス観はじつにおおらかなものである。福島原発事故の際の蒸気の圧力を逃がす安全弁の役割を盆やお祭りがしていたのだろう。原初的なエネルギーは常人に抑えきれるものではないと知っていたのだ。
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*#2027 謹訳源氏物語六 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-26 

 #2046 『謹訳源氏物語七』を読む
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-08-09

  #2278 『謹訳源氏物語九』 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-29

 

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謹訳 源氏物語 六

謹訳 源氏物語 六

  • 作者: 林望
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2011/06/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


 
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