SSブログ

#1953 ネット上で診療科名をあきらかにして医者募集は可能か? May 29, 2012 [A7. J&K対話]

 いつもならKJ対話なのだが、今日は釧路の教育を守る会のSことサブにご登場願う。話題は市立根室病院に医師をどうやったら集められるかという問題である。

K:会のあとの二次会だから、教育問題をはなれて地域医療問題について酒を飲みながらじっくりサブの意見を聞いてみたい。假りに市にホームページ上で医師の足りない診療科と年収額やその他の条件を明示して医師を募集した場合に起きる不都合を推測してもらいたい。
S:そりゃはなからムリだよ、大学病院が医師を引き揚げてしまう。病院はどこかの大学病院にまとめて医師派遣をお願いしなけりゃならない。
K:釧路の市立病院ならそうだろうな、500ベッドを越える大病院だ。
S:23科643ベッドの規模の総合病院だから、院長人事も含めて市政が介入する余地はほとんどない。
K:根室は134ベッドの小規模病院だから市政が介入しやすいのかもしれないな。それで、ホームページ上で診療科を明らかにした上で一般募集をした場合に、大学病院の対応に大きなリスクを抱えることになるというのがサブの意見ということか、なるほどね。
S:どこかにお願いして、そこが責任をもってやってくれたらそれが一番いい。

K:ところで、わたしは地元の専門医の紹介(当時の市立根室病院には消化器外科医がいなかった)で6年前に釧路医師会病院で巨大胃癌とスキルス胃癌で胃の全摘手術を受けたんだが、それから2年してあの病院はついに旭川医大が手を引いて閉院となった。施設も医者も看護師さんたちの対応も地域のお手本となるようなすぐれた病院だった。ホテルなら阿寒の鶴雅のような存在だった。道東の地域医療にとってはたいへんな痛手。医師を確保するのは根室ばかりでなく釧路もたいへんだね。
S:だからまるごと大学病院にお願いするのがいいんだが、撤退されたらそれまでという現実があることも認めざるを得ない。行政サイドとしては医療はまるごと大学病院にお願いしたいというのが基本的なスタンスだ。
K:ところでサブ、釧路の人口は根室の6倍だから予算規模もほぼ6倍とすると170億円×6で1000億円かい?
S:カズ、その通りだよ。
K:根室の市立病院は昨年度13.7億円の赤字をだして一般会計から補填している、来年建て替えが終わると償却負担が増えるから年間赤字額はほぼ市の予算の10%になる。釧路市なら年間100億円の赤字だ、一般会計から補填できる規模を超えていない?
S:カズ、それは大きすぎる。
K:非常勤医の契約は複雑らしい、そしてたいへんコストが高いようだ。だから、常勤医を増やすことができれば病院の赤字額は圧縮できる。
S:それでも公募すると大学病院とトラブルを起こすことになりかねない。だから、やれないね。
K:大学の医局に臨床科名を明らかにしたリストをもって事前に相談するというような根回しをしてもだめかね?
S:そこなんだが、非常勤医を派遣してくれているのは釧路の大病院や大学病院だろう?利害が対立するから、ムリと判断するよ。大学も独立行政法人だから収入確保に走らざるを得ない。非常勤医の常勤医への切り換えに大々的に市のホームページ上で公募するのはうまく回っている静かな池に石を放り込むことになりかねない。
K:なるほどね、ではやれる範囲は大学病院から非常勤医の派遣を受けていない診療科ということになるね。
S:どうだろう、波風たてることになりかねないからやら方が無難だろう。どこかでまるごと引き受けてくれる大学病院あるいは医師を常勤で派遣できる大病院の傘下になることが生き残る道だろうね。
K:臨床研修医制度が変わってから、大学の本院でも医師が不足するような事態が続いており、民間病院でも医師を充足できているのは東京都と一部の大都市のみという状況だから、民間病院でまるごと市立根室病院へ常勤医を回せる病院はほとんどないだろう。
S:地域医療はこれからますますきびいしいな。
K:サブが何気なく言ったが、臨床研修医制度の変更で研修先を都会の大病院を選ぶ医者が増えたことに加えて大学の独立行政法人化が収入重視へ走らせている側面を無視できない。大学病院も非常勤医の派遣で収入を増やすようなことをやらないと維持ができないのかもしれない。そうすると、非常勤医から常勤への切り替えのためのネット上で条件開示をした公募は波紋を起こさざるを得ない。これでは根回しはムリだ。
S:カズのネット上での公募話しを聞いて直感的にムリと判断したんだが、その通りの結論になりそうだね。

K:サブ、それではつまらないからもう少し粘って議論をしてみようと思う。療養病床に話題を転じよう。根室は5年ほど前まで75ベッド療養型の病院があったんだが、閉院してからゼロだ。市立根室病院で療養病床を持つべきだと地方医療協議会も病院職員アンケートでもそういう意見が出されているが市長は無視した。ところが、この分野に限っては大学病院とトラブルを起こさずにネット公募ができるんだ。「痛くない・こわくない・心配ない」で看取りを主体のターミナルケアなら、定年を過ぎた医師で十分だ。積極的な治療の必要はない。こどもの教育問題(自分のこどもを医師にしたい)も年齢からしてクリアしている。たとえば60歳以上に医師に限る、年収2千万円、2年契約でラムサール条約で有名な春国岱(シュンクニタイ)などの自然環境で週末をのんびり過ごしませんかと公募すればどうだろう。山小屋風の医師専用住宅を用意したっていい。
S:そんなにうまくいくかな?
K:スーパーマーケットはたったの3店のみ。電気店も60坪くらいの小さなものしかありません、空港もないので東京までのアクセスは不便です。釧路と中標津の空港までそれぞれ150kmと90kmと遠い。人口18万人の釧路まで120km、中標津まで85km、オホーツク海と太平洋に突き出した根室半島だから冬は雪が少ないが、海風は冷たい。不便な点や厳しい点を正直に書き並べる。
S:そんなこと書いたらますます来る人がいなくなるだろう?
K:正直に悪いところ不便なところをはっきり書いてあれば、それ以上の事はないから、着任してからいいところをたくさん見つけてくれる。案外集まると思うよ。100~150ベッドの療養型病棟を併設すれば市内でヘルパーさんの雇用も生まれる。慢性期の患者さんを扱う療養型と急性期の総合病院では診療方針に大きな違いがあるから、それはそれで病院運営上のことで院長の苦労は多いかもしれない。
S:なるほど、診療分野を個別に具体的に検討していけば何とかなりそうなものもあるんだね。でも新しいことは経験がないし、したがって前例もない、とても面倒そうだから何もしないのが無難。前例踏襲が一番楽だろうな。行政全部がそうだとは言わないが、そういう傾向があることは事実だね。
 ところで、そういう困難なコーディネートをだれがやるの?根室に人材はいるの?
K:痛いところをついてきたね。市民がもっともっと地域医療に関心をもち、市議たちが地域医療のビジョンについて議論を深め、市役所内部にコーディネートできる人材が揃わないとやれない仕事かもしれない。専門能力をもっている市民の協力が必要だ。
 サブ、酒の席で相談に付き合ってくれてありがとう、行政サイドの考え方が少し理解できたかもしれない。
S:どういたしまして。

にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 根室情報へ
にほんブログ村


nice!(1)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 8

事情通

炉辺閑話ですか。市立根室病院の医師招聘問題とは、結構"物騒"な酒の肴ですね。(笑)
炉辺ではどうも”一本釣りはリスクが高い”と言う意見が優勢なようですが、現実問題として取り敢えずそれしか手立ては無いでしょうね。現院長は根室で院長を続けるために札医大を離れ道の地域医療枠に縛られないフリーの立場になったと聞いていますが、彼が未だ札医大第二内科の医局絡みだった頃ですら札医大は常勤医としての根室への派遣は殆ど有りませんでした。しかし市立病院の診療形態を支えるための非常勤医は結構派遣されてはいました。病院の経営的なことからは、例え常勤医に2500万払っても非常勤医よりは遥かに少ない経費で済みます。因みにかって北大産婦人科が常勤医を引き揚げた後に非常勤医で繋いでいた時期が有ります。それは常に産婦人科医が居る状態を作っていたのですが、そのために年8000万の出費だったそうです。またご存じのように小児科は根室在住の副院長の他に北大からやはり常に途切れないような形で出張医が来ています。これも病院としてはかなりの出費に成ります。根室の場合、札幌からの出張は千歳発ー中標津。旭川からですとJRで旭川ー千歳ー中標津のルートが大半です。問題は根室は中標津から更に1時間40分ほど掛かるために、当日千歳空港発の始発便に乗っても病院に着くのは昼近くの11時頃になってしまい午前の診療には間に合いません。そのため前日から根室入りして翌日からの診療に備えるケースが多く、その場合医師の出張報酬は移動日も勤務日と同様に扱われます。もし当日の昼から診療するなら、翌日の午前中を終えた時点で丸1日分ですが、やはり二日間働いた計算に成ります。いずれにしても8時間の労働に対して2日計算の報酬となるわけです。現在大学の医局からの地方への医師派遣条件は、1日10~15万位でしょうから、その数字X2+往復交通費(殆どが航空機代)が掛かります。更に根室の場合、医師は病院ー中標津空港は乗用車での移動ですが、病院の公用車が出払っている時は営業車を使います。タクシー代はまともに払えば片道2万越えですが、そこはタクシー会社との契約で割安にして貰っているようです。それでも札幌からの交通費は飛行機代とタクシー代が同じくらい掛かっていることに成ります。このシステム、お気付きのように短期での出張であればあるほど勤務報酬以外のムダ金が飛びます。もし1週間もの出張ならば、その無駄な部分は何とかリーズナブルな範囲に収まるでしょう。件の小児科はこの数年はそれ以前より医師の勤務日数が1日減りました。つまりその分医局からの医師の出張が目まぐるしくなり、それは無駄な経費の増加と、何にも増して勤務日数が短くなった分十分な患者の把握やケアがし辛く成ってしまいました。
近年大学病院は、常勤医を引き揚げ、その代わりに出張医を増やす傾向に有ります。その方理由として、その方が大学として収入が上がることが上げられます。また最近は、高額な報酬の地方病院よりも安くても札幌周辺の病院勤務を希望する若い医師が増え、大学としては地方への常勤医を出せなくなりつつあります。
そのような情勢を踏まえて今後の市立根室の医師体制を考えると、何処かの大学の丸抱えはもう無理でしょうね。これまで北大→東京医大→旭川医大→札医大?と旦那を変えて来た事情(無節操さ?)は全国的に知られています。敢て”火中の栗”を拾う大学があるかどうか。もしあっても、かっての東京医大の時のように莫大な上納金を要求される羽目に落ちる危険性があります。
ここで一つ考えられる手は”まるごとの身売り”です。新築の病院のハードごと何処かの組織(厚生連、勤医協、釧路孝仁会、その他内地の医療法人etc)に引き取って貰う作戦です。
どの道を選ぶにしても、これからの市立根室病院の前途は厳しいでしょう。

by 事情通 (2012-05-29 21:19) 

ebisu

事情通さん、おばんです。

臨床研修医制度の変更もですが、独立行政法人化も地方の自治体病院の経営を大きく圧迫していますね。

なぜ市立根室病院の赤字が毎年増えるのかについては、個別契約でもうすこし別ルートでのお金のかかる話しもあるようですが、あらかた事情は具体的にあきらかになったようです。

だから、こういう構造を抱えている限りいままでどおりでは病院経営の改善はできないということになります。
30億円ですむ建て替えに63億円もかけて、老人医療のための療養型病床の併設もない。

市議たちにも病院の赤字が膨らむカラクリがわかったのではないかと思います。

こんなに「物騒な」話しは本欄では扱う勇気がありませんので悪しからず。(笑い)
ご丁寧な解説ありがとうございました。

by ebisu (2012-05-29 23:47) 

素人経営者

病院経営は大切ですが、あまりにも利益を優先すると如何でしょう?
息苦しくなってやる気が失せませんか?
まずはスタッフのモチベーションを上げ、病院が活気付く。
のびのびと働けなければなりません。
すると患者は病院の活気を敏感に察知し、患者流出が減少する。
その中で利益を模索する。

活気のない病院で利益を得ようとしても限界がある。

中小企業が苦しんでいる中で増税する場合、その税収でもっと大きな枠組みで経済を活気付ける政策を考えなければ、デフレスパイラルになりかねません。帳尻合わせの穴埋め増税では駄目だと思います。

病院も、一般会計からの赤字補填も、帳尻合わせではなく、病院自体が良い方向に回転すべく補填でなければなりません。経営陣にその方法が思いつくでしょうか?
答えは否です。

医師リクルート会社間では、院長が嫌で、医師が流出していると評判です。大学はおろか道内での個人招聘は困難でしょう。道外から招聘しても早晩見抜かれ去って行きます。


運営人に具体的ロードマップが描けるか否かが重要でさらにそれを実践するために、どのような予算を組み議会が承認するかが重要です。議員スキルも重要です。
さて根室の未来はどうでしょう?

ロードマップがしっかりしていれば、63億の病院にはならず、療養病床も持ち、予算の別の使い道もあったはずです。

素人経営者の意見です。
by 素人経営者 (2012-05-30 08:25) 

事情通

”物騒な”炉辺話

市立根室病院の運営に関しては、院長には人事権も経営権も無かったようです。かって”外科医不在”の時に根室の姉妹都市黒部市の市民病院から短期間手伝いが来た時は、院長が知らない所で市(市長)がスタンドプレイで勝手にやったことだと聞いています。またその後、文科省、総務省、厚労省に働きかけ故中川昭一氏などの政治家に頼み込んだ結果、やはり短期間国立大学機構の病院から外科医が2名ずつ出張して来たのも同様です。

そんな折に札医大の第二内科から道の地域医療枠で派遣されて来た現院長が母校からどんどん出張医を呼び(多くは日替わりの当直医)、一見医師が増えた状況となったことは事実です。恐らくはその時点で市長の心の中で「これからは札医大の関連病院で行く。その為には札医大出身(現院長)の医師を院長に」と言う決心が生まれたようです。その後札医大系の消化器内科、外科、整形外科と一応常勤医が充足されましたが、今度はその札医大系の外科や整形外科が医局を掻き回し前院長は根室を見限り去ったと聞いています。
そもそも市立根室は東京医大丸抱えの病院でしたが、前市長が強引に旭川医大に鞍替えしたと聞いています。そして今度は(かなり)強引に札医大への鞍替えです。つまり多くの公立病院と同様市立根室病院も”官僚主導”なんですね。

折角集まってきた医師が次々に去って行く・・・その原因は(住民を含めた)”根室”ではなく、市と病院の関係、更に言えば”病院(医局)”そのものかも知れません。家庭だって住み心地が悪いと子供たちは出て行きます。そんなことは誰でも考え付く事(分析)ですが、しかしそれを認める事は市長自らを否定する事に成りますから、この問題の解決は敢えて荒い外科手術以外には無いと思います。
by 事情通 (2012-05-30 09:18) 

ebisu

素人経営者さんへ

理想は医者も看護師さんも他の医療スタッフも事務職員も、みんながいきいき目標を持って働ける病院でしょうね。
儲かっている会社は常に大胆にいろんな試みをします。もうかっているからできる、つまり好循環が生まれています。
何度かそういう転換点を経験しました。いいものです。

儲かっていない病院は沈滞ムード、改善意欲も精神的余裕もがなくなっています。
働く人にとっては毎年自分の仕事に対するスキルが上がっていると実感できることがだいじなのでしょう。
働いている人たちのモチベーションはとっても大事だと私も思います。
要するに人(器)です、人とやり方次第です。
ではどうやってそこを確保するか、そこが問題ですね。
職種の異なる者たちが一緒に何か具体的な問題に取り組むことがきっかけになるでしょう。

あまり悪化してしまうとあなたが主張するように院長職の引き受け手もなくなるかもしれません。
by ebisu (2012-05-30 13:11) 

Hirosuke

外部の人間ですが、一つ情報を。

私の住む栃木県には、
【僻地医療】を大名目としている【自治医科大学】があり、
全国から優秀な学生が集まってきます。

卒業後に僻地へ赴いて奉公する事で、
学費が免除になるそうです。

どのように赴任先が決まるのかまでは知らないのですが、
「検討の価値があるのでは。」
と思いまして。

by Hirosuke (2012-05-30 18:52) 

ebisu

Hirosukeさんへ

メイショウは忘れましたが「~機構」とか「~協議会」という全国組織があってそこから数年の応援で医師派遣をしてもらっています。もちろん、自治医大もその中に入っています。お世話になっているのです。(笑い)

本当は道東の医療に責任をもつ医科大学がひとつ必要なのです。広い北海道で札幌と旭川にしか医科大学はありません。釧路に道東の地域医療に責任をもつ医科大学が必要なのですが、道東の政治家はどなたも動いていません。
このことからも、道東の政治家や行政は医療への関心とかビジョンへの関心が低いのでしょう。それ自体が問題です。
by ebisu (2012-05-30 23:15) 

ebisu

事情通さんへ

「こういう理由でしかじかの動きをしていますので・・・」とちょっと話しがあれば人間関係はスムーズにいくように思えます。
仕事の仕方に配慮がなさすぎのように感じますね。
こんな事を繰り返されたらだれでもカチンと来るでしょう。

民間企業の管理職としては失格ですね。報連相は仕事の基本ですから、それをパスしてしまうのはルール違反です。仕事のやり方に幼稚さを感じます。

ところで釧路市立病院は官僚指導ではないようです。大きすぎて手を出す余地がないのかもしれません。

>家庭だって住み心地が悪いと子供たちは出て行きます。
>そんなことは誰でも考え付く事(分析)ですが、しかしそれを認める事は市長自らを否定する事に成りますから、この問題の解決は敢えて荒い外科手術以外には無いと思います。

時間が荒療治をするのかもしれませんね、夕張市のように。
そうならないための手立てを市民と一緒に考えてほしいものです。少しは緩和できます。
ひたすら、正直に誠実にことに対処する。

"物騒な"情報ありがとうございます。何がどうなっているのか、どうすればいいのか、根室市民が考える材料になることを祈ります。

by ebisu (2012-05-31 00:07) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0