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#1368 『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む (3) : 学問の楽しさ Feb. 3, 2011 [83.『「漢委奴国王」金印]

 今日は暖かい。札幌も最高気温6度、道ばたの雪が溶けて、小川のようになった水が排水溝に吸い込まれていた。3月末のような陽気だった。
 海のほうは真っ白に雪をかぶった国後島がはっきり見えて、沖まで真っ白だ。流氷が入ったのだろうか?沿岸氷があんなに広がるわけはないのだが・・・沿岸氷の一部がが岸から離れて流されているのかもしれない。

 標題の3回目である、古代史の翻訳書のあるEさんはメールの公開を次のように快く承諾してくた。

xx様
ブログへの掲載の件、承知しました。
年寄りの見解が若い人の成長にお役に立つことができるなら、
それは本望というべきものだと思います。
・・・
ですから、今後も私の書いたもので使えそうと思うものがあったら、
いつでもご自由にお使いくださって結構です。


 さて、前置きはこれくらいにして2通目のメールを紹介する。

XX様
金印の件について、もう一言。
ヨーロッパやユーラシアの大国の興亡について、色々な資料を長く漁っていると、歴史というものの大枠は案外と常識的なもので、巷で人気の高い陰謀史観とか英雄史観、あるいは悪の帝国の横行だとかいうようなものは割に合わないので、なかなか成立しないと思うようになってきました。
考えてみれば当り前で、大帝国を維持しようとするなら周辺諸国を心服させねばならず、そのためには品性の卑しいことをは、政策上から考えても、論外なのです
どんなに腕っ節が強くても、品性が卑しく、ヤクザみたいなのにのさばられては不満でしょう。大国の興亡も同じで、腕力をほこるだけの傲慢な大国は嫌われるのです。当然、そういう国は一時的には成立しても、すぐに滅亡します
ですから、国の発展とともに品性も陶冶されねば、その国の余命はタカが知れています。品性が陶冶されてくれば、その国の発展の方向は、周囲の人間に理解できる言動、つまり、論理的で着実な発展の方向に進みます
これは華やかさにはかけるにしても、静かで着実な発展の方向です。したがって悪意に満ちた陰謀や奸計が入る余地は、次第に少なくなってくるのです。
これは効率の面からいっても、おなじことが言えます。
悪計をやりとげようとするのは、厖大な時間と労力、つまり金と繊細な神経を必要とするうえに、失敗の確率は高く、うまくいったところで憎まれるだけ、という不経済の最たるものです。
ならば正々堂々と進んだほうが効率的で、少なくとも失うものは少ないと思うでしょう。それで、後に紛争の種を残すような言動は出来る限り避けるというのが外交の鉄則になるのです。その場の言い回しや態度は形としては後に残りませんが、文言は後に残ります。
ヘロドトスを見ても、あるいは春秋・戦国を見ても、外交辞令というのは実に丁重ですが、それは後に残るものだから、いわば当然なのです
したがって外交辞令というのは、いつの時代でも、どこの国でも丁重な言い回しになるのです。それを知らずに好き勝手な放言を高官がやらかすのは、田舎者国家の野蛮国です昭和の大日本帝国が世界各国から嫌われたのも、そのせいです。
今回の金印の文言についての疑問も、このような歴史の流れを背景に考えてみると、少なくともローマ初代皇帝アウグストゥスと同時代のアジアに覇を唱えた後漢という大帝国の振舞いとしては、実に理に合わぬ話になると思っていたのです。
もっとも、中国の王朝の官吏は古来、理に合わぬことを承知で他国に押し付けることが国威の発揚と思い込んで壮大なゴマスリをやらかし、後に紛争の種を捲いてきたわけですから、贋物だとは言い切れないところもあるのは確かですね。
                                
      

 太字の強調とアンダーライン引きはebisuによる。文章全体を何度も読み返して欲しい。読み返すに足る内容がつまっている。
 たとえば、アンダーラインの一部は、外交に限らずサラリーマンや経営者の仕事に共通していえることだろうと思う。普遍的な生き方の問題にも関わる。
 悪計を張り巡らし、嘘を一つつくと、辻褄併せのために次々と嘘をつき続けなければならなくなる。それは無駄なエネルギーというもので、正直にやるのが最短距離を歩むことになる、簡単なことだ。
 仕事は正直に誠実にやるのが一番労力が小さくてすむのだが、病院建て替え問題一つとっても根室の町の関係者にはそれがなかなかできない、案外難しいことなのかもしれない。
 なぜ難しいかというと目先にぶら下がっている私的利益を見逃さなくてはならない事態にしばしばぶつかるからだ。それどころか正直にやるとあからさまな不利益が降りかかることをみんな承知している。
 だが、それでも目先のことにごまかされるな、浮利を追ってはならぬ。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方善し」がよい。外交や仕事の話しを超えてEさんは生き方の真髄に触れているように見える。

 金印の真贋については著者の鈴木勉は江戸期の金印と製作技術上共通する部分が多く、中国古代のものとは共通点がないといいながら、比較資料の数が35個ではまだ足りぬと、断定を慎重に避けている。
 学問とはこうしたものだ。Aではないと言えてもBであるのかCであるのかDであるのか、にわかに判定しがたいときは、判定できないと正直にいう勇気もまた必要なのである。可能性の消せないものはそのまま可能性ありとしておく。

 さて、3回のシリーズを終わる。著者は印章の製作技術と製作道具というユニークな視点から金印の由来を説き明かしてみせた。きっとドキドキしながら資料を検討し書き進んだのだろう。学問は楽しいものだ。団塊世代の一人であるEさんは、金印の真贋問題を俯瞰して見せてくれた。わたしは著者が提示して見せた研究成果とEさんの感想をワクワクしながら読ませてもらった。労作を読ませてもらうこと、そして旧友の感想を読ませてもらうことはじつに楽しいことである。
 高校生諸君が学問へ興味を抱く契機のひとつになってくれたらと願いながらニコニコ顔で筆を擱(お)く。

 (なお、太字の部分については前回の「補足」部分を読まれよ)

*#1362  『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む:パイオニア 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-01-30-2

 #1366 『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む (2) : 学問の楽しさ
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-02-02


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