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#1366 『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む (2) : 学問の楽しさ Feb. 2, 2011 [83.『「漢委奴国王」金印]

 古代史の翻訳書のある旧友からメールが届いたので紹介したい。メールは2通あるので、2回に分けて掲載する。世界史をやっている高校生の中に、興味をもつ人が現れたらうれしい。団塊世代のおじさん二人から高校生へのメッセージである。

 学問をやるにはある種の"センス"や"嗅覚"が必要だ。高校生は受験勉強の世界史にとどまらず、興味を広げて、"センス"を磨いてもらいたい。
 Eさんは印面に使われている文字を見て金印にかねてから疑いを抱いていたという。こうした直感=6センス、文字や言葉に対する感受性は学問をする場合に決定的な重要性をもつ。
 彼とは20代の後半に出遭ったのだが、現代西洋哲学をやる傍ら迷いなくギリシア語やラテン語へ分け入ったあいつを、わたしは「ほう~、めずらしいやつ」と思っていた。現代哲学をやりながらギリシア哲学をギリシャ語やラテン語で読もうなどという奴は周りには誰もいなかった。
 西洋哲学の概念を捉えるためにはキリスト教を知るだけでは足りない、ギリシア哲学の用語を一度は原語で探っておかなければ肝心なところで的を外す気がして気持ちが悪いし、概念の深部に届かないことになる。わたしはプラトンのイデア論に興味があったのだが、原典を読もうなどと露も思ったことがなかった。ひとり学部の同じゼミの同期で哲学の教授をしている者がいるが、凡庸に見えたそいつとは違って、わたしはEさんには異質なものを感じていた。

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本日のブログ、金印jは江戸時代の贋作の可能性ありというのは面白いですね。
私は何十年も昔から、あの「漢倭奴国王」という印文は怪しいなと思っていたので、贋作なら話はスッキリするように思います。
「倭」とか「倭奴」いう語は昔も今も、中国や朝鮮の人間が日本人を罵倒したり、軽蔑するときに使う言葉で、「チビの野蛮人」程度の意味なのだろうと思います。
ですから、「漢倭奴国王」とは「チビの野蛮人の王」ということになるのですが、いくら剛腹な後漢の皇帝であっても、後の時代に伝わるのが確実な金印に、こんな底意地の悪い、拙劣な文辞を刻むだろうかと疑問に思っていたのです。
もし本当に金印の通りに後漢の朝廷が与えたものであるなら、後漢というのは恐ろしく殺伐で、無学な集団であったということになります。
今日の北朝鮮のような狭い地域とか辺境の社会ならともかくも、紀元前後の世界の最先端地域の一つである中国に、そんなヤクザみたいな王朝が成立していたとは、どうにも考えにくいのです。
大文明の王朝とヤクザのごろつき根性とは両立しないでしょう。
それで、贋作、それも江戸時代の職人の手になる贋作という話が成立するとなると、儒教とか国学の大先生をからかってやれという風韻が感ぜられて楽しいですね。
もし本当にそういう職人とパトロンがいたとするなら、彼等は時代を百年も先取りした福沢精神の魁みたいな人達だったのかも知れませんね。
できればブログで紹介された本を読んでみたいとも思うのですが、今のところ、なかなか時間が取れそうにないのが残念です。
それにしても、楽しいお話、有難う御座いました。
とりいそぎ、拙い感想まで。

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【補足】
 品性がよろしくないといけないのは個人も国家も同じだが、品性という観点から金印の文字を眺めたかれの眼力に驚かされる。なるほどそういう見方もあるのか。やはり奴はユニークな視点をもっている。

 ところで、金印に彫られた文字は「漢委奴国王」であって「漢倭奴国王」ではない。
 念のために「倭奴」という言葉を漢和辞典で引いてみたら、「昔、中国人が日本人を卑しめて呼んだ呼び方」となっている。「委」が「なよなよとした様」を表すから、「倭」は「なよなよとした人」を意味するのだろう。金印の文字は「倭奴」に引っ掛けて「委奴」としたのか、わざわざ人偏を落として伝えたいことがあるのか判然としない。だが、「倭奴国王」の意だとすると、Eさんの言うようにずいぶん無礼な文字ということになる。素直に読めば「ワドノコクオウ」と読めるのだが、史家は「ワノナノクニノオウ」と読ませる。著者は「1978年にやはり東京国立博物館において開催された「日本の考古遺物」展の図録」の解説を例に挙げている(p.14)。もともと牽強付会の説ということか?
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<2014年12月5日追記>
 人偏を外したのは注文主の作為かもしれないことに気がついた。中華は東夷・北狄・西戎・南蛮と周辺国に人であらぬ文字を使うから、その延長上に金印の文字を考えたという推量が成立つ。
 外交においてはそのような野蛮な物言い、そして文書、ましてや臣下の礼をとる国に対して下付する金印に野蛮な文字を使うはずがないというのが、Eさんの慧眼。
 金印の注文主は作為をしすぎて馬脚をあらわしたのか?
 断定できないところが面白い。
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 邪馬台国の「台」の字は「壹」であるが、この字は「ト」と読むのだが、なぜか「台」の字を充て、「ヤマタイコク」と読んで議論がかまびすしい。「邪馬壹国」は素直に読めば「ヤマトノクニ」であり、中国人が日本人の使いがどこから来たと問われて「ヤマトノクニ」と言ったのを卑しい文字を当てて「邪馬壹国」と表記したのだろう。音を当てただけである。卑弥呼のあと「壹与」という巫女が現れるが、こちらは「トヨ」と読む。「邪馬壹国」も「壹与」も同じ字「壹」を使っている。
 「卑弥呼=日御子」説があることも注意したい。王は誰かと問われ、使いの者が「ヒノミコ」と言ったのをやはり卑しい字を充て「卑弥呼」と音を真似たのだろう。中国人は周辺を蔑称で呼ぶ癖があり、卑しい字を充てるのが常のようだ。「北狄」「西戎」「南蛮」「東夷」、自分は世界の中心=文明の中心「中華」である。鼻持ちならないが、己の文明の高さを誇った過剰なプライドの発露だと思えば可愛い気もみえてくる。

 なお、後漢書倭傳は「光武賜以印綬」と伝えるのみで印面についての記述はない。「建武中元ニ年(西暦57年)に後漢の光武帝から倭奴国の王に下賜されたものと確定的に取り扱っている」(p.7)と書いてあるので、「委奴」を「倭奴」と解釈するのが通説のようだ。

 印面を見ると、字のバランスが面白い。全体の印象を先に述べると堂々としていて美しい字である。
 「漢」の字が縦一杯に彫られており、他の文字の2倍のスペースをとっている。「倭」の字つまり人偏をいれるとどうにも字の線の太さにバランスがとれない。「委」としてはじめてどっしりとした風格がにじみ出てくる。
 意匠上の配慮を金印を彫った職人が考慮して人偏を削り「委」の字を充てたのだろうか?美しさを考慮してのことなら、日本人の職人らしい仕事である。何よりも仕上がりが美しくなければならぬ。それはスポンサーと彫った職人の一致した見解だっただろうか。勝手な想像をしながら、わたしはこの「委」の文字に、製作者のメッセージを感じる。適度な妄想癖もあったほうが楽しくてよい(ジョークですよ)。
 一番下に本の写真が載っているのでクリックして、印面の文字を拡大してみてほしい。あなたはどのように感じるだろう?

*#1362  『「漢委奴国王」金印誕生時空論』を読む:パイオニア 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-01-30-2


**Eさんの翻訳の本

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  • 出版社/メーカー: 東洋書林
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 単行本
図説 モンゴル帝国の戦い―騎馬民族の世界制覇

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  • 作者: ロバート マーシャル
  • 出版社/メーカー: 東洋書林
  • 発売日: 2001/06
  • メディア: 単行本
明治廿五年九月のほととぎす―子規見参

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  • メディア: 単行本
帝国主義―現代語訳

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  • 作者: 幸徳 秋水
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2010/05
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