#1298 患者の安全管理(1):確認できなかった医療事故 Dec. 8, 2010 [33. 地域医療改革の烽火]
【医療事故は適切に管理されているのか】
医療事故は診療がある限りなくすことのできないリスクである。限りなくゼロにすることが望ましいが現実の医療で事故が起こるのはある意味で必然的なことでもあるから、所定のルールに従って適切に処理されていればそれでいい、患者の安全は制度上管理されていることになる。
民間会社では品質管理部門がこの仕事に当たるが、工場で作られる製品の品質管理部門は工場長の下ではなく、本社直轄部門となっているのが普通の品管部門のありようである。内部統制上の配慮から、品質管理部門は工場から独立していなければならないから、工場長が品管部門の責任者を兼務することはないし、品管部門が工場長の下に置かれることもない。
ところが病院組織では診療部門の責任者と事故調査委員会の委員長を病院長が兼務しており、内部牽制が制度的に保障されていない。だから、病院長次第で患者の安全がないがしろになる場合がある。院長職は重い責任を担うものであるからその人選には医療に対する見識が問われる。大丈夫か?それが今回のテーマである。
【情報公開請求】
10月29日に医療事故について情報公開請求をした。期間は昨年度及び今年10月まで、項目は医療事故の発生月と診療科名である。2週間たって11月12日渡されたのが、19日付けで北海道新聞に掲載された「市立根室病院の医療事故件数」表である。これには発生月も科名も記載されていないので、要求と違う資料である旨伝えた。
11月16日に病院からお二人お見えになって、発生月も科名も公表できないとの説明があった。理由は患者から公開しないで欲しいという申し出があることと、科名がわかれば担当医師が特定されるからということだった。
わたしは事故例の患者名や担当医を知りたいのではないので、そういう情報は要求していないことを説明したが、話は平行線。まあ、ここまでは病院側の管理職としてはありうる対応だろう。
「市立根室病院医療事故公表基準」は次のようになっている。
5.公表すべき主な内容
原則として、次の項目について公表するものとする。
(1) 発生した事実:日時、場所、状況、原因
(2) 当該関係者に関する情報:所属、専門分野、経験年数、学会専門医/認定医等
(3) 今後の対策と改善状況
(4) その他、必要と思われる内容
7.患者様及び家族への配慮
(1) 公表にあたっては、事前に患者様及びご家族等に十分説明を行い、原則として書面により同意を得る。
(2) 公表する内容から、患者様や職員が特定、識別されないよう十分配慮する。
わたしには発生月と科名が公表できない理由がさっぱりわからないから、病院は情報公開に消極的あるいは否定的だと感じ、情報公開請求をなぜしているのかを説明して情報管理課を通じて再考をお願いした。
【確認できなかったレベル4の事故1例】
私の手元にはレベル4(死亡事故)についての情報が2件寄せられている。1件は内容とその後に問題はあるが適正に処理されていることがわかった。現にあるリスクとの関連で採り上げることになる。
今年発生したレベル4の事故は受け取ったリストには科名と発生月の記載がないために確認できなかった。
事故報告がなされていないのではないかという疑いを払拭するためにレベル4の事故について発生月と科名を確認したかった。
再検討をお願いしたが、12月6日に主管窓口の情報管理課から病院側から公開できなとの最終回答の通知をいただいた。
ここにいたってようやく安全管理上の問題点を公表する決心がついた。できれば触れずにおきたかったというのが本音である。
私に寄せられた情報の確度は高いものであるが、事故処理されていなければ院長やかかわった医師は内部規定違反をしていることになる。1件は技術上の問題だろうが、もう1件は医療倫理上の問題を含んでおり、状況はそのまま、患者はリスクにさらされている。
一人で医療が行われるわけではないから、関係者が何人もいるはずだが、だれも声をあげないところに病院の重苦しい雰囲気が感じられる。医療は医師も看護師も他の医療関連スタッフも職人であり、上下関係も職種でハッキリしているから、下のほうからはあからさまな内部告発になるのでいいにくかろう。組織にありがちなことではあるが、くさいものにフタをする体質こそが問われなければならない。患者に信頼されるいい病院をつくるためにはくさいものにフタをするような姿勢ではいけないのだとebisuは思う。
患者やドクターが特定される恐れがあるという理由で発生月と科名の公表を拒否したが、これでは公開基準第5項の「公表すべき内容」はすべて非公開扱いとなりあって無きがごとしの規定となってしまう。よらしむべし知らしむべからず、こういう前時代的な姿勢は改めるべきだ。
【病院への信頼を取り戻す努力をすることも経営改善策のひとつ】
第3回定例市議会で病院の担当者がある市議の質問に答えて曰く「市民の信頼が得られていない」から売上が減少し、赤字が拡大したと。
では、市立病院は市民や患者の信頼をえるような情報公開努力をしているのかと問わねばならぬ。臭いものには蓋では市立病院の信用失墜を自らやっているようなものと言われてもしかたあるまい。内部諸規程に違反していないのなら、前年度のレベル4の事故について、発生月と科名を公表されたい。
わたしは、医療事故に関する諸規程が厳格に守られていることを確認したいだけである。
【小規模病院の限界を知るべき】
135ベッドの病院で手を広げすぎ、無理な診療をすれば医療事故は増える。経験のないことを無理してやることになるからだ。ブラックジャックは手塚治の世界、有能な医師はいても万能の医師はいない。患者は場合によっては己の命を預ける決心をすることになるから、医者は己の技術に謙虚であるべきだ。
市立根室病院でやるべき診療と他の病院へ任せるべきものとをしっかり分類しなければならない。そういう意味で道東の病病連携と根室の地域医療が見直されるべき時期なのだろう。
外科医の2人、麻酔科医そして昨年の産婦人科医に対して、事務長や院長はしっかり慰留したのでしょうか?そんなに簡単に辞めてしまうものなのでしょうか?辞めてもすぐに雇ってくれるところがあるのでしょうか?
by 元 (2010-12-08 19:38)
元さんが挙げられた医師は全てフリーで根室に就職された方達です。但し辞められた外科のN部長は、実際にはフリーなんですが表面上は札医大第一外科からの派遣の形を取っていました。
フリーで就職する場合には、教授が決める大学の医局派遣の場合と違い、就職も辞めるのも個人の意志です。
そして仲介者が居る場合は別かも知れませんが、医師が就職する際にはいわゆる契約と言う物がないのが普通です。ですから3年契約と言った両者間の約束はないので、医師がその気に成れば何時でも辞められます。しかし実際には辞める少し前(1~3ヶ月)に辞表を提出するのが常識的とされています。
「病院との間に契約が無い」と言うと一般社会では変な慣習に聞こえるでしょうが、勿論年収が幾らだとか当直が月に何回とか学会には年に何回とかの約束は有ります。しかしそれはあくまでも”約束”であって”契約”ではありません。
そう考えて見ると、フリーで就職する医師は”包丁一本晒しに巻いた板前の渡り職人”と同じかも知れません。
では再就職は?
これも皆さんが考える以上に簡単です。それは、需要>>供給の世界だからです。その状態があまりに酷い場合、時々マスコミを賑わす偽医者騒ぎが起きたりします。一般社会では信じられないような杜撰な本人確認の身元調査や書類提出のレベルです。勿論履歴書に書かれた経歴を見て前任地の病院の事務に人となりを聞く場合も有りますが、それはあくまでも形式的な範囲です。仮にどこかの病院からその医師に関する照会が来たとしても、前任の病院の事務は誰が漏らしたかばれるので個人情報の守秘を理由に本当のことは言いません。だからと言って就職希望の医師を興信所を使って調べるなんて真似はしません。大体一番大事な医師免許証の提出も原本ではなくコピーで良い所も有る位です。
因みに医師を募集したり医師が就職やアルバイト先を探す場所に「北海道地域医療振興財団」と言う有名なホームページが有ります。勿論そのホームページ以外にも多くの「医師募集」のサイトが有ります。地域医療財団の医師募集欄で見ると、釧路以東の地域では現在市立根室、町立別海、町立中標津、町立厚岸、摩周厚生、羅臼国保診療所などが医師を募集しており、更に中標津や根室の個人開業の病院も名を連ねています。概して地方の国保病院の募集が多いですね。募集している診療科名や医師数、年収なども一見して分かります。
では何科の医者の募集が多いのか? それはやはり圧倒的に内科医を求めています。では実際に内科医募集の所では内科医でないと駄目なのか? 都市部の大きな病院ではさすがに内科医募集に他の科が専門の医師は応募しません。しかしいわゆる国保病院や診療所レベルですと、他の科の医師でも採用に成ります。その理由は、専門分野云々の前に先ず医師を呼ばなくてはならない空ですからです。また医師は免許さえ有れば何科の診療にも携われます。実際5年前にちょっと就職を考えた日高方面の国保診療所では、その時の所長の専門は麻酔科で、その前の所長はその方のお兄さんで泌尿器科が専門でした。
現在医学の世界ではどんどん細分化、専門化が進んでいますが、それが必要なのは医師が過剰な都会だけの話で、医師が足りない地方、特に僻地の診療所などでは先ず何科でも構わないから兎に角医師! そして出来れば最近注目され始めた家庭医のような何でも屋さん(広く浅くても構わない)を求めています。
以上のような状況から、まだまだ医師の場合”売り手市場”が続くでしょう。
by 事情通 (2010-12-09 01:50)
今根室のH市議の更新されたホームページの書き込みを読みました。やはり外科は3番手のO医師が一人と成り、月に2回札医大の第一外科から応援が来るとの事ですが、多分麻酔科の出張もそれに合わせて(そうなると整形外科の手術日も同じ日に成る公算が大)来るのかも知れません。しかし応援に来る外科医がどの程度の経験者か分かりませんが、月に2回の定期手術で果たして何件の、どんな手術が出来るのか。また臨時手術は整形外科が手伝いながら・・・と有りますが、一般的に外科医が整形外科を手伝うことは有っても、整形外科が外科を手伝うケースはちょっと考え難いですね。まあ簡単な鈎引きの助手程度なら分かりますが。
それと議員のHPに市立根室病院の医師の内訳の一覧表が載っていますが、常勤の泌尿器科医は居ない筈です。あれは透析室を担当している内科医(本来は)でしょう。
by 通行人 (2010-12-09 02:15)
市立根室病院のHPを見て驚きました。消化器外科の筈なのに何故か外科・心臓血管外科と成っています。血管外科ですらないのに”心臓”血管外科とも成ると、これはもう詐称ですね。聞いた話では透析患者の内シャント作成が数例、手足の静脈疾患を何例かやったそうですが、それだけで血管外科を標榜するのさえおこがましいのに、あまつさえ心臓・血管外科ですか。もう呆れて物が言えません!
そんな態度だから取り返しの付かないトラブルを起こすんですよ。
by 傍観者 (2010-12-09 12:35)
"元"さんの質問にはわたしが答を持ち合わせていないことをご存知の"事情通"さんが答えてくれました。ありがとうございます。
ところで"傍観者"さん、消化器外科だったはずの外科医が心臓血管外科ももご担当というように変わったのは、4月1日かもしれません。
私の手元に22年4月1日現在の「病院案内」がありますが、その診療科目にも三人の外科医のところに「外科 心臓血管外科」の記載があります。
こういう表示をしておかないと、心臓カテーテル検査で事故があったときに、病院の責任が問われるというサジェッションが弁護士さん辺りからでたのではないでしょうか?医療訴訟が進行中ですから、ありえる話だと思います。
これで法的責任を病院側が逃れられても、患者の命が大きなリスクにさらされるわけですから、医療人としての倫理が問われます。
つまり、このような姑息なことをやればやるほど、市立病院は患者に信用されなくなるということです。愚かですね。
by ebisu (2010-12-10 00:18)