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#1213 数学者岡潔(1):『日本という水槽の水の入れ替え方―憂国の随筆集』 Sep.20, 2010 [A4. 経済学ノート]

  数学者岡潔の『日本という国の水槽の水の入れ替え方―憂国の随筆集』という本を読んだ。2004年に刊行された本だが、所蔵されている文は30年以上前に書かれたものだ。

 道元の『正法眼蔵』はいくら読んでも分からない本だ。もちろん書いてあることが難しいし、仏教という専門知識が足りないことが原因であることも自覚しているが、それらを手にしてもなお届かない気がする。修行がないせいだろう。
 岡潔は道元が夢に出てきて教えてくれたという。二人の僧侶に抱えられて道元の前に出て直接教えを受けたというのだ。それ以後『正法眼蔵』に書いてあることがわかるようになったというのである。岡は光明主義という小さな宗教教団で仏道修行した時期がある。まことに分からない人だ。それでいて突然よくわかることがある。

 この本の終わりの方では、座禅は必要なしと切って捨てている。岡はある時期仏教を専門的に勉強もしているし、座禅もしている。座禅が必要だというのは道元の間違いだと断じているのだ。
 第十識をもちだして、それを説明する。眼耳鼻舌身意の六識、第七識の末那識、第八識の阿頼耶識、第九識の真如、そのさらに奥に第十識があるというのである。それが天津神々、八百万の神々であるというのだ。「日本民族の中核の人」であった道元はそれを持っていたが、中国へ渡り仏教を勉強したことでそこに曇りを生じたというのである。日本人が悟るのに座禅必要なしというのはそういうことだ。

 日本民族は第十識を発現できる。その民族が滅べば人類の生存は不可能だという。ところがすでに危機は去ったと言明している。岡潔に見えていた心的な世界ではもう危機が去ったのだろう。凡人の私の理解を超えている。
 脳の働き、思考様式、脳の各位の動き方の順序が違うと具体的に説明している。西洋人はその特有の脳の働きで濁りを生じてしまう。中国人とも日本人は違うという。情の部位の重要性を岡潔は説いている。頭頂葉が霊性の座で、前頭葉が理性の座であるという。右脳左脳の側頭葉は「機械室」と呼んでいる。

 「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」は近江商人の商人道、倫理であるが、日本人に普遍的な商道徳でもある。こういう商道徳を生み出し、実践する民族は世界で日本人のみである。頭頂葉、霊性の座と本能を抑制する大脳前頭葉がしっかり発達していないと生まれない倫理だろう。
 岡潔の先の言と照らし合わせると、なるほどと合点がいくではないか。岡潔流にいうと八百万の神々に淵源をもつ商道徳なのだろう。 だから、西洋では生まれるはずがなく、インドにも中国にも生まれなかった。八百万の神々が住むのはこの日本、日本人の心の中だけだからだ。

 言っておくが岡潔は日本が生み出した最高の数学者であることは、一流の数学者たちの認めるところである。当時、複素関数論の難問を3つも一人で解いてしまった、そういう人である。
 脳の働き、発育に関する特有の見方・解説があり、それにもどづく具体的な教育論がある。学校の先生たち、そして高校生には受験の合間にちらっとでいいから読んで見てほしい。大学の推薦入学を決めたあなた、もう暇でしょう。これから4月まで本をたくさん読みなさい。
 この本に1970年代初頭に出会っていたら私の人生は変っていたと思わざるを得ない、そういう読後感を抱かせる本だ。エベレストのような隔絶した知の高みに住む人だ。

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【小学校時代の濫読のススメ】2014年9月1日追記

 私の高等小学校時代の特異なことといえば、家の書庫を探して、博文館発行の国民文庫をはじめかなり分厚い本をかたっぱしから読んだことだった。名前を挙げると、「水滸伝」「八犬伝」「弓張り月」「太閤記」「西遊記」「三国志」「近世美少年録」など。友人に借りて読んだものでは「八百八狸」などというのがあって、四国に上手にばかすえらいタヌキがだいぶあるらしいなと感心したりした。なにしろ物語でありさえすれば分厚いものほどよかった。読書力の大切な要素の一つに速さがある。これを欠くと雄大な計画は立て得ないのではなかろうかと思われるのだが、この速さをつけるにはこの年頃に多読させるのがよいのではないかと思う。(『春宵十話』140㌻)

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日本の国という水槽の水の入れ替え方―憂国の随想集

日本の国という水槽の水の入れ替え方―憂国の随想集

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 成甲書房
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/10/12
  • メディア: 文庫


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