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根室高校演劇部公演「夢十夜」 #773 Oct.27, 2009 [A8. つれづれなるままに…]

根室高校演劇部公演「夢十夜」 #773 Oct.27, 2009

 台風20号は午前9時現在970hpa、根室の瞬間最大風速は10時に25メートルを記録した。台風は三陸沖を過ぎて北海道沖合いを北上中だ。お昼から横殴りの雨が北側の窓を叩いている。

 さて、21日に総合文化会館で漱石と賢治の下記作品の公演があった。
 わたしは授業で行けなかったが、生徒に聞いたらどちらも好演だったという。漱石の「夢十夜」は『四編』に入っている。23ページだ。斉藤孝も『声に出して読みたい日本語』の中でこの作品を採り上げている。 
 書棚に1982年に購入した漱石全集がある、初版の復刻本だ。漱石は口のうるさい男のようで、出版するたびにそれぞれ異なる装丁で詳細な注文をつけたようだ。絵柄も色彩も材質もすべて違っている。3分冊の『吾輩は猫である』のように各頁をペーパナイフで切り裂いて読む本もある。これだけ多彩だと、内箱から出してずらりと並べてみると本の装丁自体に何かメッセージが込められているのではないかと思える。

 『四編』は頑丈な外函に著者名と書名の書かれた3.8×6.5センチの赤い紙が張ってある。本は板のように硬くて厚い表紙がつけられている。その表紙は緑と薄茶色を基調に4段に分けられて上から「葉っぱ⇒うさぎ⇒花と葉と茎⇒大きな花が3つ」順に描かれている。色彩は落ち着いている。使われている活字は趣のあるものだが、何という書体かわからない。正(歴史的)仮名遣いに、ふんだんな「当て字」の使用。漢学者の家系に生まれた夏目金之助らしい奔放さである。小学校の国語の先生が焚書したくなるような本だ。

 「夢十夜」はたった4頁半の短編である。ちょっとシュールで女の情念を昇華させた情景描写のある作品だ。ああ、これがそうなんだと、主人公が最後に気がつく。約束の百年が経ったと・・・
 泉鏡花とも違う雰囲気だし、三島由紀夫の長編の作品とも匂いが違う。何か奥深いところで日本文化の源流に触れているかのような感じのする不思議な作品である。描写の巧みさは名人芸だろう、読後に日本人の情感が漂い流れることで気がつく。
 さて、どのように死に行く女を演じたのか、見たかった。百年後に「真っ白な百合が鼻の先で骨にこたえるほど匂った」、花に化身して男に会いに来たのである。「鼻の先で骨にこたえるほど匂った」という表現がいい。原文は正(歴史的)仮名遣いで、漢字にはルビを振り、思いっきり当て字を使っている。漢字にうるさい国語の先生は卒倒してしまうだろう。冒頭だけ引用する。興味のある人は図書室で借りて読めばいい。
(第1夜はわかりやすい話だが、どんどん難解になる。漱石はこの十夜の夢物語を通して何を表現したかったのだろう?なぞの多い短編作品群だ。意味不明な終わり方をするものが複数あった。)

「こんな夢を見た。
 腕組みをして枕元に座っていると、仰向けに寝た女が、静かな声でもう死にますと言ふ。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真っ白な頬の底に温かい血の色を程よく差して、唇の色は無論赤い。到底死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり言った。・・・


 根室高校演劇部の公演があった。
  日時:10月21日(水)18:00から
  場所:根室市総合文化会館 小ホール
  演目:第1部 「パジャマ」
      第2部 「文学探訪~夢十夜より第一夜」
           「文学探訪~永訣の朝」(宮沢賢治)

 *『四編』初版復刻本の奥付は次のようになっている。
  明治43年5月15日発行
  著作者 夏目金之助
  発行者 東京市日本橋区通四丁目五番地 和田静子
  発行所 東京市日本橋区通四丁目五番地 春陽堂
        電話 本局51番 
        振替口座 東京1617

 日本橋本町でも日本橋人形町でも各々数年間仕事をしたことがあるが「日本橋区通4丁目5番地」がどこなのかトンと検討がつかぬ。
 電話番号も面白い。「本局51番」へグルグルハンドルを廻して、交換手を呼び出す。
「もしもし、日本橋本局51番お願いします」
「はい、おつなぎしますので、少々お待ちいただけますでしょうか」
とでも言ったのだろうか。なんだか、往時へワープしたような気分がしてきた。
 「・・・プッツン」、おや?春陽堂さんにはつながらなかったようだ。台風20号の強風で電話線が切れてしまった。

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