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データに見る根室の中学生の学力低下と学力向上のためにやるべきこと [57. 塾長の教育論]

実データに見る根室の中学生の学力低下と
   学力向上のためにやるべきこと


 最近何度も学力の問題について論じてきた。教育問題については「塾長の教育論」というカテゴリーにまとめてあるのでそちらを見ていただきたい。
 クラブナビさんが国家レベルの教育ビジョンがないことが大きな問題であるとコメントしていた。そういう確かなビジョンは必要だし、それはその通りだと思う。この点に関しては明確な国家戦略に教育を組み込んでいるフランスやインドが参考になるので次回採り上げたい。
 だが、そういうものがなくても現場の努力で全国ナンバーワンにすることが可能なところに教育というフィールドの特殊性がある。
 Hirosukeさんは教える側の技術を問題にする。それも真実だ。情熱だけではすまない。教育技術の高さも必要だ。教育技術水準の高さと情熱が学力向上という車の両輪だろう。

 根室は日本の一番東に位置する市である。しかし、センターもペリフェリも関係ない、やれないとあきらめたら何も見えなくなるし、できなくなる。具体的な目標を掲げて、努力すれば全道ナンバーワンは達成できる。
 学力は教える側と、学ぶ側の両面からとらえなければならない。これらの点も次回のブログで論じてみたい。

 さて、本題に入ろう。夏休みが終わってから市街化地域の中学校のうち1校のみ学力テストを実施した。学力テストは教えている先生たちが問題を作っているわけではない。これも業者テストのひとつであるが、問題がやさしいにも関わらず、教えている先生たちが問題を作って実施する中間テストや期末テストよりも平均点が低い。

 中2のデータを紹介する。「第2回学力テスト成績連絡表」の棒グラフにある人数を足し算すると受験した生徒数は64人、5科目合計平均点は238.4点である。1科目平均47.7点となる。平均点が一番高い科目は国語60.7点、低いのは社会41.5点、英語41.7点である。理科の平均点は59.8点と比較的高い。

 この学校は理科の点数がいつも高い。他の学校に比べて理科だけで平均点が15点ほど高く出る。小テストを繰り返し、教えたことを定着させている先生がいるからである。基本に忠実な授業をしている。2年生の理科をその先生が担当しているかどうかは知らない。教えているのは他の先生かもしれない。とにかくこの学校の理科の平均点は他校よりも高い。
 国語の平均点が比較的高いのは読書習慣が影響しているのだろうか。高校生の全国模試でも国語は平均レベルにある。ちなみに数学や英語は全国平均よりも低い。親子読書サークルが盛んだが、人数はそれほど多くはない。だからこの点に関しては何が影響しているのか私にはわからない。

 数学の分布を見てみる。10点以下が13人、11~20点の層が1人、21点から30点が8人である。これらをまとめると、30点未満が22人/61人(なぜか5科目合計点のグラフを集計した64人と合わないが、そのまま元データを書いておく)であり、36.1%を占めている。おおよそ3分の1が30点以下である。
 この30点以下の層に属する生徒は、おそらく小数点の乗除算や分数計算ができない。小学校で習得できなくて、中学生活を1年4ヶ月過ごしてもなお理解できないのだ。
 なぜだろう。中学校の学習指導要領には分数や小数の計算が含まれていないからである。現場の先生たちは学習指導要領に従って教えることになっている。中学校で通分の仕方や小数点の乗除算の桁移動をまとめて教えることはない。それゆえ、小数や分数の理解できない生徒は放置されたままになり、基本計算能力を欠いた子供たちは授業を聞いていても理解できない。その結果、授業への興味をなくしてしまう。
 両親やじいちゃんばあちゃんに甘やかされ放題の子供が増えている。「我慢力」のない生徒たちは授業中平気でお喋りをしたり、携帯をいじっている。勉強したい生徒たちに先生の声がしばしば聞こえなくなる。こうして成績のよい生徒が減少していく。この中学校は3年前には1学年80余人で400点以上が25~27人いた。今回のテストを見るとたったの4人しかいない。この3年間で生徒は20人ほど減少したが、成績上位の1番から20番までがいなくなってしまったかのようである。市街化地域のもう一つの中学校では前回の学力テストで400点以上が一人もいなかった。5年前にはやはり25人いた。ドミノ倒しのように市街化地域の中学校の学力が低下している。
 今春、久しぶりに根室高校から北大と東北大への合格者が出たが、3年後には現在の中学生が根室高校生だ。進学状況は激変するだろう。

 授業への興味をなくした生徒たちの中から、授業中に教室内を歩いたり、授業を抜け出して空いている教室や外に出てサボるグループが出ている。なかには毎日のように体育館の裏手でたばこを吸っている者たちまでいる。
 わがままし放題に育った子供は親の言うことも聞かないし、先生の言うことも聞けない。授業を抜け出しても先生たちは注意することすらあきらめてしまう。学校だけで生徒を変えることは無理だと思ってしまう。学校は荒れている。勉強したい生徒にとっても、勉強したくない生徒にとっても、先生たちにとっても、学校はつらい場所になっている。悪循環である。

 数学に関して言えば、平均点以下の生徒を集めて週2回×3ヶ月間補習すればなんとかなる。中学生が分数の加減算や小数位取りを理解するのはそれほど困難ではない。きちんと教えてやれば理解できる者たちがほとんどである。だから生徒自身はもとより先生もあきらめてはいけない。
 基礎計算ができるようになった生徒は数学に興味を示す。授業もきちんと聞くようになる。数学での成功体験が他の科目への興味をかきたてることもある。数学の学力テストが零点とか10点未満の生徒が2~3ヶ月で85点をとるなんてことが現実にある。この数年だけでも何人もいた。ただ、しばらくの間、先生が根気よく付き合って教えてやる必要がある。先生にも「辛抱力」が要求される。

 英語は30点以下の層が22人/60人おり、36.7%を占めている。数学とほとんど一緒だ。中1の夏休み以降に英語がわからなくなったのだろう。このころから「三単現のs」とか、助動詞do、does、疑問詞のある疑問文など文法事項がたくさん出てくる。現在進行形や過去形も1年生の文法事項の範囲である。この山を登りきれなかった生徒が三人に一人いるということだろう。
 この層は、中1の基礎事項をまとめて復習しないと、英語の授業が理解できない辛いものになってしまう。
 塾では成績不振者に対しては個別補習もやるし、授業で学年を無視して遡って基本事項の説明もやる。つまり「生徒を見て」授業をしている。
 塾では文部科学省の定めた学習指導要領にしたがう必要もないから、よくできる生徒には大学レベルの高度なことも教えるし、成績不振者には何度も基本事項のトレーニング機会を提供する。どんなに成績が悪くても、生徒にやる気さえあれば半年程度でなんとかなるが、数学よりも少し時間はかかっているのが実情である。
 根室は東京よりも小学生の英語教育の盛んなところだが、今回の学力テストで91点以上が1人のみ、80~90点は5人のみ。おおよそ10%しか80点以上がいない。個別的には効果の高い生徒もたまには出るのかもしれないが、中学生のテストデータの分布をみても、その効果はデータに現れていない。
 東京では私立中学受験のために4年生から個別指導の進学塾へ通うのが「優秀」な生徒たちの普通のコースである。勉強時間を考えても、中学受験生に英語教室に通う時間的余裕はない。つまり、根室の小学生が英語に費やしている時間に東京の小学生は国語と数学の能力を磨くことに時間を費やしているのだ。こうして高校受験までに東京と根室の間に国語と数学に関する学力格差が広がってしまう。小学生英語が盛んなことは根室のきわだった特殊性のひとつだろうと私は思っている。

 その一方で顕著な実績を挙げている例もある。この中学校では理科の先生が実績を挙げているし、他では最近ある郡部校の英語の先生がその学校の学力テストの英語の平均点を70点超にした。これはダントツ市内ナンバーワンである。郡部だってその気になれば英語の学力テストの平均点を70点超にあげられるのだ。
 だから小数の現場の先生の努力次第で生徒の学力を北海道ナンバーワンにすることも可能だ。やれない言い訳を考えるのはやめにして、やる術を考え、実行しよう。生徒も先生も「辛抱力」が必要だ。
 しかし、現場の先生たちがすべてを担うわけではない。親は親としての義務を果たすべきだ。家庭学習習慣を育むのは子供をもつ親の責任である。
 小学低学年生をもつ親は子供と一緒に勉強を楽しむ時間をもつべきだ。健全な学習習慣は小学校低学年のうちに親がしつけるべきだ

 根室市教委によれば「平日一日に2時間以上ゲームをする割合は小学生で3割、中学生で5割弱」である。ゲームは中毒性があるので、中毒症状を治療するための、「ゲーム中毒心療内科」が欲しいくらいだ。アルコール中毒に関しては久里浜病院が専門病院だが、ゲームやパチンコに関しても専門の医療機関が必要だ。
 2時間以上やる人数を見ても小学生よりも中学生のほうが2倍以上多くなっているから中毒性ははっきりしている。生活習慣を崩してしまうところにもその弊害は生じている。ゲームが終わってからでは勉強をする時間がない。自分の意志ではなかなか抜け出せずに、深みに嵌っていくところが覚醒剤と似ている。もちろん、飽きて抜け出す子供も少ないながら存在するが、ほとんどが自分では抜け出すことのできない中毒症状を引き起こしているといってよいだろう。親は子供が可愛かったらゲーム機を買い与えてはいけない。買い与えるなら、一日1時間以上はやらせるな。だが、中毒性があるから時間制限は無駄だ、子供は夜中に起きて隠れてもやるだろう。

 学校は週に2日は部活を中止し、国語・数学・英語の補習を実施すべきだ。何もしなければ、根室の子供たちの学力は全道で一番低いままにとどまる。その北海道も全国47都道府県中42位、小学校にいたってはビリから2番目の46位だ。各学校は職員会議で学力向上策を真剣に話し合え。
 親、学校の先生、教育行政、塾の先生、そして生徒自身がやるきになり、それぞれが責任を果たしながら協力すれば根室の子供たちの学力はたった2年で全道ナンバーワンにできる。

 教育委員会は大半が小中学校の先生たちの退職後の「OB会」のようなものだ。この程度のことを「天下り」とは言いたくない。出身母体から考えると、現場の先生の負担になるような提言はしたくないのが心情だろう。しかし、ここまで落ちてしまった根室の子供たちの学力を、補習をせずに上げるのは不可能である。週に2日は部活を禁止し、補習するよう各校の校長を集めて説得したらどうか。学力テストと一緒に実施したアンケート結果について、以前からは考えられないほど具体的に情報公開した。さらに踏み込んで自ら勇気と決断を示すときだろう。
 次回は、教育ビジョンとある分野の実例について書いてみたい。

 2009年9月13日 ebisu-blog#733
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Hirosuke

昔、こんな記事を書きました。
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「塾って一体・・・。」
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2007-01-27-1
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9人ものインド人生徒を教えている方の記事。僕もコメントしています。
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「インド人を見よ!」
http://my-lunchbox.blog.so-net.ne.jp/2006-10-20-1
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by Hirosuke (2009-09-13 23:31) 

ebisu

Hirosukeさん、面白い記事ありがとう。
“インド人をみよ”は目からうろこが・・・
英語が共通語だから2ヶ国語は普通だと思っていましたが、日本に来ている方たちは日本語を含めて4言語ですか。子供たちもそうなりますね。
世の中は広い。

塾のあり方については、いずれ塾に通わなくてもいい生徒にすることが目的、そういう先生方が多いのではないでしょうか。
自立的にやっていける人間をつくるのが理想ですが、ビジネスとしての側面も塾はもっている。経営の面からの制約は企業規模が大きくなるほど強くなるのでバランスがとれなくなる。きれいごとばかりではないのが現実の塾です。
個人でやっている小さい私塾はそうした制約も小さい。塾経営者の考え方を貫ける。どこの塾がそうだということではありません、一般論です。

社会人になったときには一人で問題に向き合わざるをえなくなる。学生時代はそのためのトレーニング期間でしょう。
できる生徒は、自分でよく勉強する。塾で1.5時間勉強したら、家で3時間も5時間もやってくる。そして、たまに面白い質問をぶつけてきます。
そういう生徒の反応が楽しくて塾講師をやっている人も多いのでしょう。
家で勉強しない生徒は伸びない。「自主トレ」しない生徒は伸びない。

趣味のビリヤードの話しですが、ああでもない、こうでもないと教えられたことを自分なりに解釈し、試してみる人が伸びる。時間のたつのを忘れてやっている、そういう人がとてつもなく伸びる。人に言われてやるような人は最初からだめです。
勉強も同じこと。

だが、人に言われずとも自ら進んで、「ああでもない、こうでもない」と夢中でジグザグに試行錯誤する心のありようはどこから生まれてくるものなのでしょう。塾は無数に存在するきっかけの一つを提供できるに過ぎない。どうすれば心の根っこを動かすことができるのか、わたしにはわかりません。たまにそうしたことが生徒の中に起きるのを目撃する、それが楽しい。

ひとつのカギは遊びの中にあるような気がします。そして、小学生低学年での家庭での親の勉強への関わり方にも。

仰るとおり、塾に通わせるだけで成績が飛躍的に上がると考えるのは間違いですね。上がる子はいますが、必ずと言って良いほど家でも復習・予習をやってきます。それもいやいやではなく、時間のたつのを忘れるほど夢中になって。
勉強することが楽しくなってしまったのでしょうね。どんなに成績が悪くても、そういう生徒は成績が飛躍的に上がってしまう。
勉強が楽しくなることで生活習慣まで変わってしまう。

そういうシーンに「先生」として立ち会えるのは幸せなことです。
by ebisu (2009-09-14 11:44) 

ebisu

いやいや、Hirosukeさんの言いたいことは、勉強は楽ではないぞということ。

成績を上げたかったら、厳しいトレーニングにも耐えよということだ。
相撲部屋の親方が北海道新聞に書いていた。「辛抱力」が必要だと。

勉強もそういう面をもっている。「修行」にも似た厳しい時期がある。そこを乗り越えてこそ勉強の楽しさも味わえるのだ。

英語の学習ではないが、他の分野の個人的な経験を踏まえて、わたしもそう思う。そしてそういう先輩や友人が回りに何人かいた。その多くが大学の先生になっている。

HidosukeさんのURLを読もう。
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2007-01-27-1
by ebisu (2009-09-14 11:56) 

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