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オバマ大統領就任演説を読む(2) [23] [B3. オバマ大統領就任演説を読む]

オバマ大統領就任演説を読む(2) [23]

(23)  Our challenges may be new. The instruments with which we meet them may be new. But those values upon which our success depends ― hard work and honesty, courage and fair play, tolerance and curiousty, loyalty and patriotism ― these things are old. These things are true. They have been the quiet force of progress throughout our history. What is demanded then is a return to these truths. What is required of us now is a new era of responsibility -- a recognition, on the part of every American, that we have duties to ourselves, our nation, and the world, duties that we do not graudgingly accept but rather seize gladly, firm in the knowledge that there is nothing so satisfying to the spirit, so defining of our character, than giving our all to a difficult task.


(23) われわれの試練は新しいものかもしれない。それに立ち向かう手段も新しいものかもしれない。われわれの成功は、勤勉、誠実、勇気、フェアプレイ、寛容、好奇心、忠誠心、そして愛国心といった価値観にかかっている。これらは古くからあるものだが、真理である。これらの価値観は歴史を通じて、進歩をもたらす静かな力であり続けてきた。必要なのは、こうした真理に立ち返ることだ。今われわれに求められているのは、新たな責任の時代だ。すなわり、米国民一人一人が、自分自身やわれわれの国家、世界に対して責務を負っていることを認識することだ。自分のすべてを困難な課題に注ぎ込むことほど充実感が得られ、われわれを特徴付けるものはないとの信念を持ち、いやいや受け入れるのではなく、むしろ喜んで受け入れる責務なのである。

《解説》
  選挙中の演説と際立った対象をなしているのは、アジテーションをそぎ落としていることである。押さえた表現の中に、聴衆はなにか決意のようなものを感じたのではないだろうか。

 棒線部分は江戸期や明治期の日本人の価値観そのもので、敗戦前まで日本人の伝統的価値観の一角をなしていた。こうした価値観を共通項としてもっている最後の世代は団塊世代だろう。
 日本人を支えてきた伝統的価値観は世界的な普遍性をもっているということに日本人自身はあまり気がついてないようだ。武士道や惻隠の情、卑怯を憎むこころなどは国際的にも通用する当たり前の倫理観である。しかし、その当たり前の倫理観を国民性にまで洗練できた国は世界中を見渡しても他には見当たらない。もちろん現在の日本にそうした価値観が世代を貫く共通項として存在していないことを認めざるを得ない。
 オバマはそれが歴史を超えた真理であると宣言し、そこへ帰るのだという。国に何かをしてもらうのではなく、国のために何ができるのかを問うたJFケネディの演説を背景に置き、米国民に価値観の転換を迫ったものと言えるだろう。
 儲けるためには弱者を詐欺同然の金融商品(サブプライムローン)で引っ掛けて、恥を知らない者たちの手から米国を取り戻すつもりなのだろうか。だとしたら、金融危機は神がオバマに与えた絶好のチャンスである。

 ここでいう「愛国心」はpatoriotismという語が充てられている。パトリオティズムとナショナリズムは異なる。ナショナリズムは国家への愛、つまりある政治体制や社会体制への愛である。かつて植民地であった発展途上国にとっては宗主国からの独立を意味し、先進国では偏狭な政治思想を意味する。したがって、patoriotismは国を愛する心ではなく「郷土愛」と言ったほうがぴったりである。
 私事だが、人生を3期に区分して考えていたので、50歳になったら根室へ戻ってなにか故郷の役に立つことをしたいと漠然と考えていた。結局それは私塾を開くことに結実したわけだが、生まれ育った風土への素朴なパトリオティズムから出たものである。願いは紆余曲折をへてかなえられた(神様はけっこう手の込んだことをなさるのだろうか、それとも人間は時間をかけて自分の望む暮らしを実現するようにできているのだろうか、振り返ってみてとても不思議な気がする)。

 オバマは金融資本の強欲ではなく、郷土愛や勤勉さ、寛容、誠実、フェアプレイが米国の成功を支えているという。

《文法点描:may》
 最初の文は助動詞mayの用法の好例であるようのなので採り上げたい。塾ではmayは50%の可能性をあらわし、mightは30%の可能性をあらわすと説明しているが、50%の可能性は、あるかもしれないし、ないかもしれない、どっちつかずの判断保留的な状況を表現する。これではわかったようなわからないような説明になってしまうので、理解を徹底するためには具体例が大切だ。
 文脈に即してニュアンスを具体的に描くとこうなる。試練は新たなものであるかもしれないし、米国が繰り返し直面し乗り越えてきた一連の試練のひとつであるかもしれないmayを使うことで、そのどちらの可能性もありうるとオバマは聴衆に語りかけている。聴き手に判断を任せているともいえる。
 両方の可能性を提示することで、米国が今まで乗り越えてきたし、今度も人種・宗教が異なる国民が、勤勉・誠実・勇気・フェアプレイ・寛容・好奇心・忠誠心・郷土愛などの価値観を共有することで乗り越えることのできる試練であると語りかけているのだ。後に続く文がそのことを証明している。
 こういう言葉のニュアンスを翻訳文で伝えることは難しい、というよりも不可能である。もしやろうとすれば、翻訳の文は原文の5倍以上になってしまうだろう。それでもなお伝えきれない部分が残る。だから、翻訳文を読むだけでなく、原文そのものを読む必要があるのだ。生徒全員とは言わないが、原文の魅力を十分に味わいたい人は英語の勉強を徹底すべきだ
 ニムオロ塾は英語がわからなくなった生徒ばかりでなく、原文の魅力を味わいたいという志の高い生徒の塾でもある。小数でレベルがさまざまな根室の生徒のためには個別指導が最適だ。

 就任演説原稿(原文・翻訳)は勉強の材料としては高校生には少し難しいかもしれないが、欲しい人は塾生でなくてもあげるから、ちょっと寄って、「こんにちは、オバマ大統領の就任演説原稿がほしいのですが」と声を掛けてくれればいい。

 *和訳は22日付北海道新聞6面に載ったものを転載した。英文は23日付ジャパンタイムズ4面に載っていたものを転載した。
 (23)は私がつけた段落通し番号である。

**Collins Coubuld Advanced Learners Dictionaryは次のように定義している。
 patriotism: Partriotism is love for your country and loyality towards it.
  natinalism: Nationalism is the desire for political independence of people who feel they are historically or culturally a separate group within a country.

***オバマ大統領の就任演説とこのブログ記事を読み比べて欲しい。日本がやるべきことを書いてある。そこにはオバマが主張する価値観と重なる部分がある。
  10/10 #346 『これから10年間の日本経済のシナリオ』
   
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-10

  2009年1月26日 ebisu-blog#505
  総閲覧数:69,504 /427 days(1月26日12時00

 Nice!をくれたHirosukeさんという方はテクニカルライターだそうですが、大統領就任演説のブログを開いています。彼のブログを読んでみました。音読トレーニングを単語や句単位で意味をイメージしながらやると効果が大きいと言ってます。また、数年間英語の勉強に没頭して、小学生がたかだか英検準2級に合格するのにどれほどの価値がある、もっと日本語の勉強をすべきで、失うものが大きすぎるとも主張しています。英語教育に関しては辛口の意見です。面白いのでNice! を開いて彼のブログへ飛んでみてください。(1月27日12時40分記)


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Hirosuke

ご紹介頂いたHirosukeです。
拙ブログを読んで頂いた上に、記事の中で「面白い」と色付きで取り上げて頂き、光栄です。

英語は最終的には、やはり「原文」です。
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真の英語力をつけるには、英語そのものを大量に吸収すること。
その吸収手段として、日本語を補助としてイメージを形成する。
最終的には、そのイメージを英語に同化させ、英語を英語のまま理解できるようにする。
この繰返しで、初めての原文でも日本語なしでイメージ理解できる。
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これが僕の「経験」です。

今は諸事情あって、オバマ就任演説で英語トレーニングをやり直しています。
和訳などで修正意見がありましたら、ご指導頂ければ幸いです。
by Hirosuke (2009-01-27 22:05) 

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