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病理検査と染色体検査 [A9. ゆらゆらゆ~らり]

  2,008年1月22日   ebisu-blog#053
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 芭蕉同窓会の話の続きである。テーマが違うので別わけした。

 誰に向けてこれを書いているのか?若い人たち、とりわけ中・高生へ向けて書いている。仕事とは何なのか、いずれ社会人ととなる君たちに向けて書いている。いろいろな分野へ好奇心をもち、複数の専門分野の知識と経験をもつことが、好奇心の赴くままに学習し続けることが、担当可能な仕事の幅や未来の可能性を押し広げることを知ってもらいたい。そういう想いで書いている。

 当番幹事生の一人、消化器内科の専門医であO先生がテーブルを廻ってきた。視線が合ったので挨拶したら、わたしがお酒を飲んでいるので驚いた顔をしている。「大丈夫ですか?」と訊かれた。
 O先生が中学生の頃、わたしの親父が梅ヶ枝町で焼き肉屋をやっていたので、よくお父さんと食べに来ていたということは聞いて知っていた。親父個人がもっている特別なルートがあって、釧路から質の良い肉を仕入れていた。その肉が入らなくなった途端に親父はあっさり店を閉めてしまった。潔い性格が店の閉め方に出ていた。さずがに元落下傘部隊の生き残りだ、引け際が見事だった。親父はお父さん先生のほうにお世話になった。亡くなってもう15年たつ。こうしてO病院には親子2代でお世話になっている。

 昨年一年間は薬の副作用で白血球数が基準値の四分の一まで減って、「逆隔離入院」ぎりぎりのところを推移していたから、毎月診ていただいたDr.Oには心配をかけていた。状況から推して、入院していると思っていたようだ。
 1年数ヶ月に及ぶ12回の投薬が終わり、白血球数をモニターする必要がなくなったと、釧路医師会病院外科医のDr.Gから説明があった。その結果、地元の病院への通院検査が不要になり3ヶ月ほどご無沙汰していた。きちんとDr.Oにも報告しておくべきだった。病診(入院施設をもった病院ともたない掛かりつけ医のいる診療所あるいは個人病院)連携は患者のほうも気を配り、協力すべき役割があることに気がついた。
 帰りがけに見送りで並んでいたDr.Oに呼び止められた。「あの所見でしたから心配していました」とDr.O。わたしも多少の知識があるからそう思う。一昨年の6月に、内視鏡で検査し、術前の病理検査報告書と術後の病理報告書を確認してもらっていた。なぜか生きている。しかもずいぶん体調がよくなった。
 どういうわけか神様がまだ生かしておいてやると仰っているようだから、あと10年くらいは大丈夫だろう。明日のことはわからない、しかし、しばらくの間、自分が故郷でやるべきと感じたことをそのままにやる余裕ができた。

 退職してから勤務していた会社の病理検査報告書に自分の名前が印刷されているのを見るのは妙な気分だった。検査は仕事で、検査報告書に書かれているのは他人の名前であって、自分の名前が載るはずがない、そう思い込んでいたのだろうか。
 O先生の紹介で一昨年入院した釧路医師会病院は信頼のおける最大手の検査センター、SRLに病理検査を依頼していた。16年間勤務した古巣(会社)である。
 仲のよい人が病理課長だったから、ラボ勤務時代はよく病理検査室へも出入りして、全国の大学病院や国公立病院から送られてくるさまざまな病理検体をみることができた。実にさまざまな検体があった。この臓器を摘出した患者さんはどうなったのだろうと思うこともあった。購買課で機器担当をしていたときと学術開発本部で製薬メーカとの試薬共同開発や海外製薬メーカ相手のラボ見学担当をしていた4~5年間のことである。
 
 東北のある検査センターから営業を通じて経営分析の要請があった。その後てこ入れのための資本参加要請があり、交渉を担当した。資料を頂いて現場視察をさせていただいた。必ず現場を見ておかないとどこを改善したら利益が上がるのかわからない。具体的な説明をして2ヶ月ほどで資本提携交渉をまとめ、経営管理担当役員として出向した。
 常務取締役で遺伝子ラボ所長だった病理医(その後独立して、仙台の外科病理研究所長)のT先生から病理診断について、パソコンでの画像ファイル管理システムを何度か解説をしていただいたこともあり、門前の小僧が興味を掻きたてられた時期がある。
 東北大学にいたときの数十倍の量を見るので、診断精度が著しく向上したと言われた。数をたくさん見ないとグレーゾーンの判断がつかないという。このあたりは外科医の腕がやった手術数に比例するのと似たところがあるようだ。経験の数が質をよくする。大学病院で診ることのできる数は知れているが、民間検査センターでは数十倍の検体を見ることができる。数をこなすことでスキルが上がるのだという説明だった。
 具体例として、ステージの異なる病理画像を時系列順に数例見せてくれた。グレーゾーンで悪性腫瘍の前期症状ではないと診断したものが3ヶ月たってから送られてきた検体をみると悪性腫瘍になっていることがある。良性腫瘍になる場合もある。消えてしまう場合も・・・そうした事例をたくさん画像ファイルに保存しておられた。嬉しそうな顔で説明してくれた。病理医のトレーニングに使えば絶大な威力を発揮するだろう。1990年代前半のことである。

 民間の検査センターにはこうした「宝の山」ともいえる貴重なデータが膨大に眠っている。
 検査センターのデータが宝の山と表現したのは、自治医科大学・大宮医療センターの臨床病理医S先生だった。SRLの免疫電気泳動の指導医だった時期がある。全国から集められた貴重なデータを使い、何本も論文を書かれた筈だ。

 S先生は項目コード検討委員会の委員長もしておられた。大手6社の検査項目コード検討委員会に先生を引っ張り出して、作業部会をつくり、数年かけて日本標準項目コードを検討したことがある。産学協同である。その検査項目分類コードはいまもSRLが事務局になって日本中の病院と検査センターのデータ交換に使われている。デファクトスタンダードとなった。実は臨床診断システム開発プロジェクトのなかのジョブの一つとしてはじめられたものである。検討した6社のメンバーは誰も知らないだろう。作業部会ではシステム開発部のKさんとわたしだけの了解事項だった。わたしは産学協同をセットアップしただけで最初の4度ほどしか作業部会に出ていない。肝心なところを押さえて、方向性を決め、病理学会の協力を取り付けることがわたしの役割だった。当時のシステム開発部長は日本標準を作る提案に反対した。にも関わらずKさんは個人的に情報提供してくれただけでなく、時間を割いて作業に参加してくれた。このあたりも当時のSRLの面白いところが出ている。直属の上司が反対してもKさんのように自分が面白いと思ったプロジェクトに勝手に参加して構わなかった。私自身は管理会計課で上場準備のための統合システム開発と300億円の予算編成を統括していた。1984年の終わりから85年にかけてのことである。検査項目コードの日本標準制定など完全に業務外、権限外の仕事である。
 櫻林先生には検査項目コードの検討協力を半年ほど前に個人的に依頼されていた経緯があったので、調整は簡単だった。連絡すると二つ返事で了解してくれた。「よし」と「わかった」である。
 業界側には黒子に徹するように要請した。作業の大半はこちらでやる。発表は病理学会臨床検査項目検討委員会がおこなうことで各社に了解してもらった。作った統一コードが広く使われるためには臨床病理学会が発表することが最善の道だった。システム部門と学術部門からそれぞれ数名作業部会に出してもらい、資料も各社が使っているものをすべて収集して検討した。

 臨床診断支援システム開発プロジェクトでは、典型的な疾患を20種類ぐらいに絞って、診断手順をシステム化するのと治療方法をシステム化すること、教育研修のシステム化に利用することを考えていた。疾患別に全国の大学病院や有力専門病院のDrたちの協力も仰がねばならない。たとえば、血液疾患は診断手順が複雑でベテランの医者を育てるのは長い時間がかかる。これをコンピュータシステムを使って治療法j秦の選択まで系統的・効率的にやろうというわけである。そもそものヒントはSRLで社員向けに検査や診断についての系統的な医学講習会を半年ほど毎週行った時期がある。その折に、記憶が正しければ、数人の講師の中に東京医大のF先生の血液学の講義があった。講義が終わった後で質問して、診断プロトコルはプログラミングすることが可能な気がしますが、そういう検討は大学ではやっているのですかと聞いてみた。そうしたら、先生は大学では無理だから、そういうものが可能なら作って欲しいと仰った。協力はするという。驚いた。そもそもの出発点はそのような素朴な疑問にあった。
 NTTデータ通信事業本部を巻き込んだ臨床診断支援システム開発自体はいろいろ事情があって立ち上げ途中で旗を降ろした。当時、経営会議でフィジビリスタディにOKを出してくれた。創業社長のFさんも太っ腹だった。上場準備要員として入社して1年経つか経たないかのころである。総額200億円のプロジェクトの稟議のために具体的な作業レベルに分解したパートチャートを添付した。そのプロジェクトにGOサインを出してくれたのである。通常の会社では考えられないが、当時のSRLはそういう会社だった。
 リスクがあっても少々の失敗は覚悟の上、やりたいことが何でもできる会社だった。いい加減なところが多かったが、活気に満ち溢れていた。株式上場してから、とくに東証一部に上場してから、そういう気風が急速に失われていった。新入社員の応募数が1万人を超し、その中から筆記試験と面接する人数を200人に絞り、最終的に20人採用するようになってから、学力は高いがエネルギーポテンシャルの低い人間が増えてしまったような感じがする。検討する新規項目数は増えたが、冒険的な新規項目の開発が目に見えて減った。最初からホームランを狙うような型破りな人間が出てきにくくなってしまったのではないだろうか。
 残念ながら客観的に分析した結果、当時は大学病院や疾病ごとの専門病院の力を統合した大きなプロジェクトを支えきれる人材が不足していた。コンピュータシステムとビジネスと医療の3つの分野について確かな知識をと情熱を持った人材が5人ほど必要だった。それが社内ではどうにも確保できなかった。途中頓挫するよりはフィジビリスタディ段階で中止を選んだ。

 ものになったのがこの日本標準検査項目コードである。当時臨床検査部長でその後、学事術情報部長になったKaさんとシステム開発の栗原さんがよくやってくれた。
 コンピュータネットワークや、高精度の画像情報を扱う必要があったから、今から考えても当時(1985年)のコンピュータでは無理があった。やっているうちにコンピュータの能力が追いついてくるはずだという見通しをもってはいた。前職の産業用エレクトロニクスの輸入商社での経験が役に立っていた。当時官民共同の第5世代コンピュータ技術開発プロジェクトがあり、ユニークな推論エンジンを開発中だった。それが診断プロトコルのシステム化に向いているのではないかと期待していた。残念ながら国際的にも大々的に宣伝されたプロジェクトだったが、成果はほとんど使われることなくお蔵入りとなったようである。東大の坂本教授のトロンプロジェクトのほうが遥かに大きな成果をあげた。いまでは携帯電話や家電のOSとなって世界中で広範に使われている。デファクトスタンダードとなった。臨床診断支援システム開発は現在のコンピュータ環境でこそやりうる仕事である。いつか誰かがやることになるだろう。

 ところでSRLには染色体の画像解析データが蓄積されている。おそらく世界最大の染色体画像解析ファイルだろう。業界シェアーは70%くらいだろう。圧倒的にSRLが強い分野であり、貴重な染色体データが数十万例蓄積されているはずだ。
 たとえば、疫学調査にこれを全国の研究者に公開すれば、染色体異常に関する大規模で画期的な研究ができるだろう。人類に貢献する成果が得られる可能性がある。
 染色体異常による白血病が激増していると、英国の染色体画像解析メーカIRSの副社長が言っていたことを思い出す。1990年頃の話である。
 彼は染色体の研究者で、30年以上研究を続けており分厚い専門書を著している。機器担当として日本電子輸入販売の営業担当者と染色体課長のIさんやYさんとも相談してラボで講演会を開いてもらった。そのおりに質問に答えて、シャンプーに含まれる化学物質が頭皮細胞から取り込まれ、遺伝子を傷害しているとの強い疑いを話してくれた。シャンプーに含まれる界面活性剤が頭皮の脂質と化学物質の親和性を高め、頭皮細胞内への化学物質の浸透を容易にしているのだろう。細胞内に浸透した化学物質は細胞遺伝子を傷害してしまう。癌抑制遺伝子がいくつか発見されているが、それらの一つでも壊してしまえば、対外から入り込んだイニシエーターで癌細胞の増殖がはじまり、押さえられなくなる。
 こういう見解にたつと、結婚前の若い女性の「朝シャン」習慣はとても危険な行為に見える。遺伝子を傷害して、自身が癌になる確率を高くするばかりでなく、子供に伝えるべき遺伝子の一部を傷つけてしまう可能性がある。とくに思春期の女性は科学物質の混ざったシャンプーはやめるべきだ。石鹸シャンプーが安全だろう
 イラク戦争では劣化ウラン弾が多数使われた。戦争が終わっても使われた放射生物質の半減期は数万年から億年を越える。半永久的にイラク国民の遺伝子を傷害することが予想できる。

 食品添加物や残留農薬の問題、大気汚染、水質汚染などさまさまな汚染環境の中でわたしたちは暮らしている。50年前に較べると数百倍も染色体異常を起こしやすい環境の中で暮らしている。
 患者名を伏せて、コード化してしまえば染色体画像データの公開が可能ではないだろうか。全国的な疫学調査をすれば、どのようなタイプの染色体異常がとの地域で増えているのかが判明するだろう。そしてその原因も疫学的な研究を踏まえて特定されていくに違いない。国際比較の基準データを提供することもできる。
 業界ナンバーワン企業の社会的責任のひとつであるとわたしは思っている。情熱の塊のような人間が現れ、いずれこのような仕事を担うだろう。若い人たちに期待している。


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