#3520 数学のセンス(6):思い込みのリセット Mar. 10, 2017 [51. 数学のセンス]
数学の問題を解くときに、書いてある条件の一つでも読み落としたら正解への道が閉ざされるから、問題文の読解には細心の注意が必要である。文を「読む」スキルが身についていないとアウトである。数学の問題を解くには「読み・書き・計算」の内、「計算」スキルと「読み」のスキルの二つが要求される。読みには汎用の読解スキルと数学問題文固有の読解スキルがある。数学の語彙とその使い方には慣用的なものがあるから、慣れる必要はあるだろう。完全に読めたとして次のハードルは「思い込み」と「思い込みのリセット」である。誰でもよくやることだから、具体例を挙げて2回にわたって説明したい。1回目は数学の問題で、2回目は英語の問題(道立高校入試過去問)をとりあげる。一つの科目で習得した技は他の科目にも応用が利くものがあるから、利用しない手はない。「技」を使うシーンの拡張である。数学がよくできれば、そこで培った技は英語へも応用できるものがあるということ。少ない技で異なる教科の問題を効率よく解く生徒は英語も数学もよくできる。
チャート式問題集の『青チャート』をやっていた1年生から質問が出た。問題には図がついていたが、問題文を読み描いてみてほしい。
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△ABCがある。辺AB上に点Dをとり、辺AC上に点Eをとる。Eから辺DCに平行な線を引き、辺ACとの交点をGとする。点DからBEに平行な線を引き、辺ACとの交点をFとするとき、GF//BCであることを証明せよ。
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図を描いてみるとわかるが、2組の平行線が交わり、三角形内部に平行四辺形ができる。だから平行四辺形の性質を利用して証明できるのかなと考えて、正解手順を組み立てる。
平行であることを証明するには、①錯角あるいは同位角が等しい、②同側内角の和が180度になることを示せばよい。
5分間考えたが最後のところで、平行であることを前提にしないと錯角が等しいといえない、アウトであった。こういうときはリセットが大事だ。「他の証明法は何があるか?」、頭の中をサーチしてみると、平行であることを証明するには三角形の相似条件からもやれそうだ。△ABCと△AGFの相似を証明できれば∠B=∠Gから、同位角が等しいので平行だと証明できる。
中学数学では辺の比で相似を証明するときには、必ず辺の長さが条件で示されているから、質問した生徒は辺の長さが問題文の条件にないので、辺の比で相似を証明できるという選択肢が思い浮かばなかったようだ。初めてのパターン、「初見」であった。
中学2年のときに平行線で辺の比の計算問題をたくさんやっているから気がついてもいいのだが、問題にはすべて辺の長さが記載されていた。長さが記載されていないと辺の比が求められないという「思い込み」が生じていた。
あるラインを手繰って攻めていって問題が解けないときは、いままでの線を捨てて、視点を変えて虚心に問題文を見る必要がある。頭の中からいまトライした方法を追い出すのはなかなか厄介である。ある箇所に集中していた意識を分散させる。目が三角形の中の平行四辺形にどうしてもいってしまうが、視点を切り替えるためにそれを消す。意識の焦点を特定のところに当てないのである。全焦点で「見る」。座禅の瞑想トレーニングでそういう脳の使い方をトレーニングできる。慣れたら歩いていてもできるようになる。呼吸に意識を置けばいい。数回ゆっくり丹田呼吸をして脳をリラックスさせる。
意識を切り替えて、焦点を絞らないことが数学のセンスの一つなのかどうかはわからないが、問題を解くセンスに関係はある。センスというよりも一つの技と言った方が当を得ている。複数で議論するときでも、こういう思考法は案外威力を発揮する。
< 正解 >
DC//GEより、
AG/AD=AE/AC ・・・①
BE//GEより、
AD/AB=AF/AE ・・・②
①と②の辺々をかけて整理すると
AG/AB=AF/AC
△ABCと△AGFの辺の比が等しいので、
△ABC∽△AGF
よって、対応する∠B=∠G、
同位角が等しいので、
BC//GF
こんな簡単な問題でも、視点があるところに固定してしまうと、容易にリセットできず時間切れとなる。数学の問題は正解があることがあらかじめ前提されているから、正解手順を絞り込むのはそうむずかしいことではない。社会人となったときに、複雑な仕事にぶつかったときには正解手順があるかどうかすら定かではない。そういう問題に比べると、正解手順が受験数学は単純なのである。だから、いくら受験数学ができても、仕事ができる保障にはならない。
仕事では別な能力が試される。基礎学力*、文書力、企画力、遂行力、複数分野の専門知識と経験値、統率力、コミュニケーション能力、調整力等、それはそれでまた別なシリーズが書けそうだ。
*仕事に関する「基礎学力」とは「仕事で必要な専門書を独力で読むことができる程度の学力」と定義したい。
*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15-1
#3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-19
#3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-23
#3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-26
#3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-03-02
#3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
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#3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017 [51. 数学のセンス]
「数学のセンス」について4回にわたって帰納的分析を試みてきた。前回は空間図形とイメージ操作を採りあげたので、今回は角度を変えて空間図形と論理的思考について解説してみようと思う。
具体的な問題に即して説明した方がわかりいいから、中2の授業で先週やった空間図形問題を例にしようと思う。「三平方の定理のまとめ B問題」から正四角錐の問題をとりあげる。
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問題5:図のように、すべての長さが6cmの正四角錐OーABCDがある。辺OB、OCの中点をそれぞれPQとするとき、次の問に答えなさい。
(1)△ODPの面積を求めなさい。
(2)四角形APQDの面積を求めなさい。
(3)Oから面APQDにひいた垂線の長さを求めなさい。
『シリウス21 数学 Vol.3』p.207
=======================
< 視点変換:虫の目から鳥の目へ>
生徒は(1)の問題を10分ほど考えていたが、手がかりを見つけられなかった。この手の問題は初見だから目が△ODPに集中してしまったらアウトである。大局の目、換言すると虫の目でなく鳥の目で見なくてはいけない。
△ODPはどういう三角形だろう。図を指定どおりに描いて眺めてもらいたい。OとDがそれぞれ正四角錐の頂点だが、Pが辺OBの中点となっている。OD=6、OP=3は見ただけでわかるが、DPの長さがわからない。
三角形の面積は(底辺×高さ)/2だが、どこを底辺にとっても高さは厄介そうだ。角度がわかればいいが、不明だ。虫の目で見ていても埒(らち)が明かない。モードチェンジが必要だ。
< 意識モードの切り換え:集中から分散へ>
決め手がないので、フォーカスを△ODPから外してみる。集中から分散へ意識モードを変えてみる。人間の目はあるところにフォーカスを当てると、その周辺がぼやけてしまう。周辺を見るためにフォーカスを外す。この意識の分散の方がフォーカスよりもむずかしい。要は脳の使い方の問題で、意識的に集中と分散を繰り返しやっていると自然にできるようになる。
(たとえば、結跏趺坐して半眼で呼吸に意識をおいてゆっくり出息し、吐ききったら入息する、ゆっくりゆっくりやることで頭の中の雑念が消え、空っぽになると物自体が見えてくる。意識の集中が外せるのである。歩いていても椅子に座っていてもできるようになる。)
< 思考手順:どのように考えていくか >
△ODPは△ODBに含まれている、つまり同一平面上にある。辺DBは正方形の対角線だから6√2であることは暗算できる。すると、△ODBの辺は(6,6,6√2)だから、辺の比からこれも直角二等辺三角形であることがわかる。したがって、∠DOP=90度。
△ODPは底辺が3cm高さが6cmの直角三角形、したがって、面積は9cm^2。
わたしは、暗算でざっとやってみてから、図を描いて数字を書き込み計算チエックしている。全部暗算だと、たまに考え違い、思い込み、計算ミスが発生するから、ケアレスミスを少なくするために中学生のころからこういうやり方をしている。50分の半分25分で全問題をやって10分ほど見直しに費やす。見直しやすいように計算のメモを残しておく。それを利用するから見直しは早くて正確だ。前にも書いたが、プログラミングはあとで自分が読みやすく、自分以外の人が読んでもすらすら論理の筋が読めるように書くのがベスト。仕事で作成する文書も試験問題を解くときのメモも同じことで、読みやすさの考慮は案外普遍的な広がりをもつ。
< 論理的推論:理詰めで形状を推理する >
(2)は四角形の面積であるが、計算するためにはどういう形の四角形かがわからないといけない。ここで必要なのは論理的推論である。
四角形APRQは図をみるとAP=DQ=3√3、DPは中点連結定理から3cm、これらから上底3cm、下底6cm、脚の長さが3√3cmの等脚台形であることがわかる。等脚台形だと形がわかれば、左右対称に直角三角形があるから、脚の長さと底辺の長さから三平方の定理で高さが求められる。
h^2=(3√3)^2-(3/2)^2=99/4だから、h=3√11/2cm
∴面積は (27√11)/4 cm^2
< 論理的推論による攻略:正攻法で攻めてダメなら迂回せよ >
次は(3)の問題だ。Oから面APQDに垂線を引くとどこに落ちるのか?PQがBCに重なっているときは底面の正方形の対角線の交点だろう、上がってくるにしたがってOとの距離が小さくなり、極限はOと重なる。どうやら辺PQの垂直二等分線上にありそうだが、辺OB、OCそれぞれの中点にPQがあるときに垂線がどこに落ちるかよくわからない。一方向からの攻めにこだわると隘路になることはある。そういうときは攻める角度を変えてみたらよい。
この手の問題は高校の空間図形問題でも出てくる。垂線の足がどこに落ちるかわからなければ長さは計算できない。こういうときは体積から逆算するのが定石だ。底面積と高さを別の場所に換えて体積が別の計算式で算出できれば、四角形APQDを底面積としたときの高さが逆算できる。
問が三つ並んでいる場合は、前の二つを利用して解くという問題パターンが多いから、ひとまずそっちから考えるのも手である。(1)で△ODPの面積を求めたからこれを利用し、(2)で四角形APRQの面積を求めたから、両方使うとするとどうなるか?△ODPを底面とする三角錐2個に分割すると体積計算が可能になる。デカルトの「科学の方法その2」にある「必要なだけの小部分に分割する」ということ。この線が正解への経路だとすると、それぞれの三角錐の高さが求められなければならない。△ODPは△ODPと同一平面上にあるから、辺ACの中点が高さになる。暗算で3√2。三角錐O-DPQの高さは中点連結定理からさらにその半分であることがわかる。どうやら三角錐2つに分割すれば変形四角錐O-APQDの体積が計算できるらしい。あとは計算だけ。
体積が計算できたら、面APQDの面積は(2)で求めてあるから、次の式で垂線の長さが計算できる。
1/3×四角形APQD×h=変形四角錐O-APQDの体積
この問題は、体積から高さを逆算するというパターンの問題をやったことがなければ難問になる。この問題をやっていたのは中2の生徒で、もちろんこの手の問題は初見だから解説が必要だった
2月27日に『シリウス 数Ⅰ』と『シリウス 数A』を渡した。3月2日が期末テストだが、中3の問題集をやり終わって、テスト範囲も復習したので退屈していた。
< まとめ >
意識を図の一部に集中すると全体が見えなくなるのは「虫の目」で見るからで、「鳥の目」に切り替えて図の全体を見よう。先入見を排除し、どこにも焦点を絞らず虚心に問題文を読み図をみる。余計な線を抜いて単純化してみるのもよし、切断面を含む面だけをとりだして描いてみるもよし。
問題の条件から論理的推論で正解への経路をつけてみる。学校でやる問題は正解のある問題だから、既習事項の何を使えばいいのかという方向から正解への経路を探索できる。問が3個あれば、問3は問1と問2を利用して解くパターンが多いのでその線からも考える。
だが、これに慣れすぎると受験はいいが、社会人になってからは危うい。現実の困難な問題には利用するツールが受験問題のように限定されていないから、こういう思考パターンが鋳型にまでなってしまうと頭が固くて使い物にならぬ。
受験勉強の徹底は得点アップのメリットと同時に、壊せないほどの強固な思考の鋳型を作って頭を固くしてしまうというリスクもある。大事なのは柔軟な頭の使い方。
さて、数学の問題を解くのに必要な論理的思考を2題の空間図形問題を通して2度にわたって説明したが、そのことと数学的センスがどう関係しているのかと問われると、わたしにも定かではない。だが、こういう柔軟な思考が数学的なセンスにどこかでつながっているような気がするのである。
先入見、思い込みを消すことで問題が解ける具体例を次回は高校入試英語問題をとりあげて説明して帰納的分析に一段落をつけ、7回目は帰納的分析によって得られたものから総合を試みます。しばらくの間考えが熟成してくるのを待ちます。数学的センスがどのようなものであるのかどこまで迫れるか楽しみです。
<答>
(1)9cm^2
(2)(27√11)/4 cm^2
(3)(6√22)/11 cm
*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15-1
#3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
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#3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-23
#3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-26
#3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
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*#2734 イメージの力(4):言葉のイメージ化トレーニング July 16, 2014より抜粋
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-07-16
#2597 イメージの力(3):Aとnon-A型について Feb. 16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-16-2
*#2595 イメージの力(2): 6タイプに分類 Feb.16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-16
*#2593 イメージの力(1):ピアニスト&作曲家加古隆の原風景 Feb.14, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-14
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#2749 記数法とn進数についての質問あり July 27, 2014
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#3296 統一模試の数学過去問にトライ:のんびりしている根室の高校生 May 20, 2016
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#3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017 [51. 数学のセンス]
地元産の肴よし酒よし、ふるさと根室最高!
数学のセンスはこれこれだと定義して、そこから演繹的に展開するのはとても難しそうなので、具体例を取り上げてさまざまな角度から「数学のセンス」に迫ってみたいと思い、3回にわたって帰納的分析を試みています。
今回は中2の生徒に先週やらせた中3の空間図形の問題を例に採りあげて、空間図形に関する数学のセンスの一端を解説します。イメージ操作がテーマです。イメージ操作が自在にできれば空間図形の問題が容易に解けるようになることは同意いただけるのではないでしょうか。空間図形問題を解くときにイメージ操作が出来れば問題を単純化して正確にとくことができますから、何らかの数学的センスがイメージ操作に含まれていると考えていいのでしょう。
では問題文を紹介します。数学が嫌いな生徒さんや、学生時代嫌いだった人も辛抱してお読みください、だんだん楽しくなれば幸いです。
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問題5:1辺が6cmの立方体ABCD-EFGHの辺BF、DHをそれぞれ1:2に分ける点をP,Qとし、辺CGを2:1に分ける点をRとする。次の問に答えなさい。
(1)点A、P、R、Qを結んでできる四角形APQRの名称を答えなさい。
(2)四角形APQRの面積を求めなさい。
(3)立体ABP-DCRQの体積を求めなさい。
『シリウス21 数学 Vol.3』p.207
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問題には立方体の図が描いてあります。ここでは図を提示できないので、各自描いてみてください。問題文を丁寧に読み精確に図を描くことができれば問題を精確に理解し単純化することができます。は簡単になります。複雑な問題を簡単な問題に還元していくという操作自体が数学的センスであるとわたしは考えています。
生徒は(1)を四辺が同じだから正方形であると判断して次の問題にかかりました。(2)の計算が終わったところで、質問をします。どのように考えたらよいのか、ポイントごとに道筋を明らかにしていきます。
「三平方の定理から判断して四辺が等しいと考えたところまではよかった、四辺の等しい四角形には何があるかね?」
そこで気がつきました。菱形です、正方形は菱形で対角線が等しいグループです。思い込んでしまったのでしょう。先入見が生じるとそれを脳から消すのはなかなか困難です。座禅やヨガの瞑想でトレーニングすることはできます。集中と弛緩(意識の分散)を交互にトレーニングしてみたらいい。少し楽になる程度ではありますが・・・、鉛筆を左手でもってみるのもいい。大人は少しアルコールをいただくのもいい。
「四角形の片方の頂点を、点Aに固定して、辺CG上にもう片方の頂点Rを下へ向かって移動していったら、菱形はどのように変形していく?」
ピンと来ないようです。
「RがGの位置に来たときに対角線ARがいくつになるか計算してみたら?」
PとQはそれぞれBP=DQの関係を維持しながら下に降りていくので距離が変わりません。立方体の底面の対角線と同じです。ところが対角線ARは伸びていきます。スタート地点のR=Cのときは、正方形の1辺が6cmですから、「√6^2+6^2=6√2」ですが、R=Gのときは立方体の対角線となるので、「√6^2+6^2+6^2=6√3」です。こういうことが頭の中で動画イメージで切断面を動かしていけるということと、始点と終点の距離が暗算で瞬時に計算できることは強力な武器になります。わたしはイメージ処理と計算での確認を同時にやっています、よく考えたら並列処理です。無意識にやっていますから勝手に連動するようです。イメージ操作は問題攻略の強力なアイテムではありますが、センスとはすこし違う気がします。数学的センスの全体像が間で見えてきませんが、強力なアイテム(武器)と優れたセンスがあれば鬼に金棒と言えそうです。
三平方の定理を習い立てで、口頭で説明しただけでこれが呑み込める生徒は根室の市街化地域の中学校では、学年トップクラスの学力があると判断してよいでしょう。
この生徒は理解できたようです。始点と終点がわかれば途中はその間を動いていると考えたらよいのですから、変化する量を扱うときは抑えるべきポイントは始点と終点です。ここまでわかったら、(2)の面積計算はすっとできました。
(3)はノーヒントでやりきりました。Rを含む平面で立方体を水平にカットしたら、(左右の側面を底面とすると)底面が上と下で対称になることに気がついたのです。これにはちょっと驚きでした。上面と下面の形が対称になっているなら、体積はRを含む水平面でカットした体積の半分です。中2の生徒ですから、この手の問題は初見でしたから、アッパレです。9回裏の逆転ホームラン、センスのよさを褒めてやりました。
空間図形の切断面は立方体が基本で、そこから直方体、円柱、直方体以外の角柱、正四面体、角錐、円錐と拡張していけばよいのですが、中学校で出てくる切断面は立方体とそれ以外の角柱、正四面体、角錐の四種類のみ。
(切断の問題ではありませんが、複雑な形状の空間図形が過去15年間で一度だけ道立高校で出題されたことがあります。)
立方体を基本に角度を変えて切断面の変化をイメージできるようにしておけばよい。イメージできなければ、大根を立方体に切って、スライスしていけば変化がよくわかります。それを脳に刻み込めば、図を見ただけで切断面がどのような形状になるのかイメージできるようになるでしょう。動画イメージで形状の変化を追えるようになります。女生徒はこれがなかなかできません。脳の性差に関係があるのでしょう。
道立高校入試問題は最後の問題が空間図形ですから、95%の得点を狙うには、空間図形の攻略が必須です。高校生になってから、空間ベクトル(数B)で空間図形問題がまたでてきます。中3の空間図形問題が苦手だと、空間ベクトルはさらに苦手の度が進みます。だから中学生の皆さんは空間図形の章をしっかり学んでおきましょう。入試の過去問をやって、最後の問題は難問だし配点も大きくないからとパスしている生徒は高校2年生になってからツケが回ってきます。勉強はやるべきときにしっかりやらなければいけないのです。
まとめです。空間図形の切断というイメージ操作を自在にできれば、切断面の形状や面積計算が簡便にそして正確にできます。空間図形のイメージ操作が数学的センスに関係があることがおわかりいただけたのではないでしょうか。問題文を図や表に展開することや複雑な問題を簡単な問題に還元していくという操作自体も数学的センスであるとわたしは考えています。
次回は空間図形の切断面の問題を採りあげて、数学的なセンスを論理的思考の面から分析してみるつもりです。1辺が6cmの正四角錐の切断問題です。
〈答〉
(1)菱形
(2)12√11 cm^2
(3)72cm^3
*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017
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*#2734 イメージの力(4):言葉のイメージ化トレーニング July 16, 2014より抜粋
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#2597 イメージの力(3):Aとnon-A型について Feb. 16, 2014
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*#2595 イメージの力(2): 6タイプに分類 Feb.16, 2014
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*#2593 イメージの力(1):ピアニスト&作曲家加古隆の原風景 Feb.14, 2014
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#2749 記数法とn進数についての質問あり July 27, 2014
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#3296 統一模試の数学過去問にトライ:のんびりしている根室の高校生 May 20, 2016
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#3511 数学のセンス(3):授業時間減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017 [51. 数学のセンス]
2月26日22時40分<まとめ>追記
ブログ「情熱空間」の「要するに練習不足ってこと」という記事へ考えているところを投稿したので、それに加筆修正してアップします。「数字のセンス」の育て方に関する議論です。
*http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8755588.html#comments
1.〈 問題演習量が減っている 〉
これは合格先生とZAPPERさんの問題提起です。
わたしもそう思うので、合格先生とは角度を変えて制度変更に焦点をあててみます。
授業で問題演習に割ける時間が足りなくなっているんです。
40代後半の世代が小中学校のときは土曜日も4時間授業をしていました。国語と算数(数学)がそれぞれ週1時間多かったのです。時間数が減ったことで「読み・書き・そろばん(計算)」の3つの技能がそろって落ちています。それに輪をかけて、家庭学習時間や読書時間減少しています。ゲームのプラットホームもソフトも高性能化が進み中毒症状を呈する生徒が増えています。そして10年前までなかったスマホの使用も生徒たちの生活時間を確実に侵食しています。そういうわけでこの10年間で読書量が大幅に落ちました。小学4年生程度の語彙力の生徒はいまや中学生の20%を超えています。この層は社員として働くことはほとんどできそうにありません。仕事に必要な専門書を読み、必要な資格をとることができないでしょう。
第2土曜日休みの始まったのが1992年から、ついで第4土曜日の休みが1993年からです。学校完全週休2日制(土曜日休み)の実施は2002年4月からです。減った時間をカバーするには学習指導要領記載事項を教えることに注力して問題演習を減らすことしかなかったのでしょう。それが無理だったということです。
北海道の教員の平均的なスキルでは、学校の授業で十分な問題演習時間がとれない、それが実態です。家庭学習時間や読書時間も減少しています。どくに読書習慣のない生徒が増え続けています。語彙力不足と読解力不足で文章題の問題文が読みきれない生徒が激増した、この10年間の大きな変化です。
それでも、昔もいまも、家庭学習でしっかり計算トレーニングを積んでいる子は20%くらいはいるのでしょう。そういう子たちは「数字のセンス」がいいし計算も速い。たくさんやるから工夫をする機会も多くなります。
珠算塾が流行らなくなったことも基礎的計算力の育成にはダメージでした。
「読み・書き・算盤」の基礎的技能がそろって低下していることが、数字へのセンス低下につながっているようにみえます。
家庭学習が足りないだけでなく、学校の算数・数学授業時間数も2割程度は減っていますから、学習指導要領で規定された事項の解説を優先することになるので、必然的に問題演習時間がカットされているという現実が見えてきます。
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*投稿欄をご覧ください・・・24日夜10時半追記
ZAPPERさんが文科省の資料が載っているURLを教えてくれたので、資料から数字を拾って中学校の数学の授業時数の推移を書き込みました。中学3年間で団塊世代は420時間、50歳代の世代は385時間、20歳代前半までの人は315時間です。授業時数は1時間が50分計算になっています。
いま気がついたのですが、国語の授業時数がひどいことになっています。団塊世代は3年間で525時間ですが、現在の中学生はたった350時間(3割減)です。これでは名品を一斉音読する暇なんてないでしょう。
*投稿欄から・・・25日12時追記
だんだん見えてきました。
ゆとり教育(=授業時間量削減)は昭和55年(1980年)から始まったのですね。総授業時間数が減ると同時に、国語や算数・数学などの教科授業時間が削られて「総合的な学習等」の時間が210-335時間も新設されました。
平成10年(1998年)の改正のあと、さらに2012年から「脱ゆとり教育」が完全実施され、「総合的学習等」の時間が削られて、各教科へ割り当てられました。
文科省の下段URL資料の「現行」というのは2012年以降のことで、「旧」というのは1998年の改正のことを指していると理解してよいのでしょう。
国語と数学は現在は385時間になっているということ。
団塊世代に比べて国語は140時間、数学は35時間減っています。
国語が3年間毎週1時間少ないのですから、現在の中学生の日本語運用能力、語彙力、読む本のレベル低下が起きて当然です。
官僚と専門家に教育制度を審議させていると、こういうことになるのですね。
日本人の日本語能力が著しく低下していけば、日本的情緒をもたぬ日本人が増えていきます。こころの芯が削られていくような心地がします。
「弱いものイジメをしてはいけない」
「卑怯なことをしてはいけない」
千年以上も受け継がれてきた日本的な価値観や情緒が失われていくのはぞっとします。もののあわれ、和、大和魂・・・。
正規雇用を減らし、非正規雇用を増やすことで利益を上げ、役員報酬を増やして恬として恥じない経営者が増えています。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」という商道徳も大企業経営者のこころにはなくなりつつあるのでしょう。
惻隠の情も日本人のこころから失われつつあるようです。
イジメがはびこり、イジメを見ても敢然と身体を張ってとめる子どもがいなくなってしまった。
子どもだけではない、大人がおかしい。大人が背中で教えなくてどうする?
日本人の価値観や情緒は、古典文学や明治期の名品にたくさん書かれています。近いところでは山本周五郎や池波正太郎が江戸情緒を伝えています。幸田露伴『五重塔』も職人気質をしっかり書き込んでいます。そういう日本的情緒をたっぷり含んだ作品群を読み、その中に含まれている滋養を十分に吸収して大人になってもらいたい。
国語の授業時間を525時間に増やすべきです。
2.〈 おおよその答えを想定して問題を解く 〉
数学の得意な生徒は答えを予想して問題を解きますから、想定の範囲からずれると黄色信号がともるんです。それが違和感の正体。英語は別です。たくさん読み書きした結果、正しい語彙と用例がインプットされ、それが脳内にライブラリーとなって違和感を産み出します。
「なんだかヘン」
これがないのがセンスの悪い人。どんな答えを出しても気がつかない。廊下の幅に関する問題の答えが2cmでも単位の間違いに気がつかないのは違和感が沸かないからでしょう。
1をかけても1で割っても元のまま、1より大きい数(たとえば2)を書けたらもとより大きくなり、1より大きい数(たとえば2)で割ったら、答えは小さくなる(2で割ると半分になる)。
1より小さい数を書けたら、元の数よりも小さくなり、(0.5や1/2で)割ったら元の数よりも大きく(2倍に)なる。
これだけでも、小数や分数の計算間違いをずいぶん減らせます。
1より小さい数で割ったのに、
「あれ、元の数より小さくなっちゃった」
となるのでしょう。
昨日中3の空間図形の問題(難易度Bクラス)をやってました。答えが整数なら、図形を見れば数秒でおおよそ見当がつきます。それから計算したらいい。分数で答えが出ても予想した整数に近ければ正解です。計算結果が予測値と離れていたら立式と計算過程をチェックします。これが標準手順になっているのがセンスのよい者。
数日前の中2の生徒とのやり取りを例にとって説明します。
「シリウス21 数学 Vol.3」207ページの平面図形と立体図形の問題をやっていました。
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問題3:図の四角形ABCDは、1辺の長さが15cmの正方形である。辺BC上に、BE=8cmとなる点Eをとり、∠DAEの二等分線と辺CDとの交点をFとする。FからAEにおろした垂線をFHとするとき、次の線分の長さを求めなさい。
(1)AH
(2)DF
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(1)は△ADFと△AHFが2辺とその間の角がそれぞれ等しいので合同ですから、AH=AD=15cm。三角形の合同を利用すると問題が解けると気がつくこともセンスです。条件から、利用できる定理を考えればいい。中学数学で習った狭い範囲内でサーチすればいいだけですから、問題ごとに2-5個くらいに限定されます。
(2)は図を描いてみたらわかりますが、DFはBEよりは少し長く、CFが7cmよりも少し短いので、答えが整数なら9だということが推測できます。
ここまでわかれば、DF=HF=xとして
△ABE+△AEF+△AFD=15^2
とやれば、xが計算できます。三平方の定理でAEの長さを計算しておきます。あとは三角形の面積の立式ですから簡単です。
推測値は9cmですが、ドンぴしゃり。これが20になったりしたときは、ありえない数字なのでどこかにミスがあるはず、立式と計算過程をチェックします。
だから、途中計算はメモを残してチェックできるようにしておきます。暗算は厳禁、こうすると見直しが高速でやれます。
アッセンブリー言語でプログラミングすると見づらいので、1980年頃からストラクチャード・コーディングが普及しました。わたしが見たのはストラクチャードCOBOLでしたが、これでシステムを開発時の担当プログラマーと数年後にメンテナンスに携わるシステムエンジニアが別の人でも容易に読めるようになりました。すぐに簡易言語で高速のもの(EASYTRIEVE)が開発され、事務系のプログラミング環境は格段によくなりました。
プログラミングに限らず、整理して後から見やすい形に書くことがいいのです。
文章題では「答えに当たりをつける」ことがとっても大切です。結果が出たらあらかじめ予測した数値と突合してみる、突合すべき数字をもたないものはどこかにミスがあっても気がつきません。何よりまずいのは自分が出した答えに確信がもてないことです。
「答えに当たりをつける」生徒は、ミスが少ない。ミスが減らせるのですから、センスがよいと言っていいのでしょう。
あと一つお付き合い願います。
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問題4:半径が2cmの円の円周上に3点A,B,Cがあり、△ABCは正三角形である。辺BCの中点をDとし、ADの延長と円との交点をEとする。次の問に答えなさい。
(1)ABの長さを求めなさい。
(2)DEの長さを求めなさい。
(3)BDEで囲まれた面の面積を求めなさい。
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最初の問題は円に内接する正三角形の一辺を求める基本レベルの問題です。円の中心からBとCに補助線を引けば二等辺三角形ができます。∠BACが60度ですから、その中心角である∠BOCは120度、したがって、△BODは30度と60度の直角三角形です。これが見えるかどうかは「センス」でしょう。
この手の問題が初見で見つけられる生徒は高校生になったら、進研模試の数学偏差値が80を超えるでしょう。一度やったことがあればできて当然です。この生徒は優秀ですが初見でしたからギブアップでした。補助線さえ引けたら計算は簡単です、慣れですね。半径は2ですから、BCは2√3、暗算ででます。
AEが直径で4cmですから、ADを引けばDEが求められます。BDEで囲まれた部分の面積は、図を描いて鳥瞰すればすぐにわかります。円の面積から内接する正三角形の面積を引いて1/6をかければいい。こういう手順がすぐに出るようになるには、問題演習量をある程度こなさないと無理です。この中2の生徒は中3の問題集を一冊やり終えつつあるところですから、不慣れなんです。なるべく答えを見ないで自力で解くように指導しています。問題が解けないときはその生徒にとって最小限のヒントをあげます。この問題の場合は、
「円の問題で一番出てくるのは円周角と中心角の関係です、そのままで解けないなら、補助線を考えたらいい、特徴のある三角形が隠れています」
ヒントはこれだけ。
いきなり答えの解説はいたしません。それだけでちゃんと最後まで解き切りました。ヒントが少なければ少ないほど達成感があります。それを味あわせるのが目的です。解くことが楽しくなります。「これを知る者はこれを好むものにしかず、これを好むものはこれを楽しむものにしかず」と言います。問題演習を通じて、問題を自力で解く楽しみを体験させます。
円に内接する三角形の問題は数Ⅰの三角比で出てきますから、この手の問題を中学校でしっかり勉強しておくと、三角比でまごつくことがないでしょう。中学校の数学は高校の数学の布石の部分が多いのです。いい加減にすませた人は高校生になってからたまったツケを払うことになります。それでもいいのです。短期間、死に物狂いで努力して得意分野に変えてしまう生徒はいつでもいます。小数ですが。
< まとめ >
中学校三年間の数学の授業時間数が420⇒385時間(ゆとり時代は315時間)になり、学校の数学授業で問題演習量が足りなくなっています。基礎計算能力の育成にはかなりの問題演習が必要ですから、問題演習量の不足は何らかの形で数学のセンス、とくに計算や数量関係のセンス低下をもたらしていると考えれれます。
数量に関する文章題は答えにアタリをつける生徒とそうでない生徒では正解率に大きな差異が生じると考えられます。アタリをつけた範囲からずれていたら、立式と計算過程をチェックします。その際に、チェックしやすいようにメモを書きながら計算してあると、高速で見直しができます。そういう一つ一つにこだわることも数学的なセンスを磨くことになります。
平面図形では補助線が見えるかどうかが、正解への鍵となっていることが多いので、必要な線を書き入れることができるというのも重要な数学的センスです。
正三角形の半分や、直角二等辺三角形は辺の比が既知ですから、そこに持ち込むと問題が解ける場合が多いので、そういう観点から問題を眺めることができるというのも数学的なセンスです。これらの数学的なセンスはトレーニングによって磨きをかけられます。わたしは個別指導でそういうことに配慮した指導をしています。一度に10人くらいまでなら個別指導が可能です。
もう2題具体例で解説したいのですが、長くなったので次回へまわします。
社会人になったときにこういう「当たりをつける」という勉強の仕方が役に立ちます。ドンぴしゃり出なくても、ストライクゾーンに入っていればほとんどの仕事はOKです。どの辺りがストライクゾーンかがわかっていれば、シミュレーションの結果がその付近ならOKなのです。
じつはビリヤードも同じことなんです。キャロムゲームですが、撞いた後の球の配置がアバウト半径15cmくらいの想定したゾーンに入っていれば十分です。あとはそれをこなす技術をしっかりトレーニングしておけばよい。それでセミプロの腕前です。自在にそういうことができるのはトッププロ。スリークッション世界チャンピオン小林先生かアーティスティックビリヤード世界2位の町田正さんクラスです。町田さんはボークライン日本チャンピオン。3ゲームだけお付き合いいただいたことがありますが、それはそれは見事なものです。球の動きとキュー捌きが美しい。あのキュー切れは、鉄のキューで素振りを繰り返したからでしょう、類を見ません。町田さんのお父さんの方のビリヤード店に鉄のキューがありました。
<答え>
問題3:(1)15cm (2)9cm
問題4:(1)2√3 (2)1cm (3)2/3π-√3/2 (cm^2)
*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15-1
#3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-19
#3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-23
#3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-26
#3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-03-02
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#3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017 [51. 数学のセンス]
2回目である今回は成績上位の中2の生徒へ実際にやっている指導上の留意点を書きます。
定期テストと学力テストすべてで学年トップを獲り続けているこの生徒は中3の数学の全部の章をやり終え、総合問題をやっています。ちょうど1年先取り学習していますが、難関大学受験を予定しているからで、高校2年の夏休みころまでに数Ⅲ終了の戦略の下に学習を進めているからです。首都圏の進学校とほぼ同等の進捗度合いです。
英語は5月ころから9ヶ月をかけて高校3年間の教科書を消化します。並行して中級レベルの文法問題集を1冊やります。高校1年になったらテクストは(2次試験対策をかねて)英字新聞記事を読み漁ります。
一番大事と考えているのは国語、これは読書量がモノを言うので、生徒の読書力の成長に合わせて良質と考える本を選んで音読指導を3年間続けています。10冊は読んだかな。弊ブログのどこかで読み終えたリストとこれからの予定を載せています。現在進行形なのが斉藤隆著『語彙力こそが教養である』、そして次回は福沢諭吉著『福翁自伝』、世阿弥著・林望現代語訳『すらすら読める風姿花伝』です。
○音読リストを載せた弊ブログ「#3405 原典のススメ:愛と寛容性概念の混同(中2学力テストから) Sep. 2, 2016 」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-01
数学と英語を教えながら、「読み・書き・そろばん(計算)」という基礎技能の充実を図り、受験勉強を超えて、学問の普遍的な方法を伝えています。
「憶えるよりも考える」
「迷ったときは原理原則に還る」
「複雑な問題に遭遇したら、必要なだけの小部分に分割する」⇒デカルト『方法序説』より
この三項目は名刺の裏に印刷してあり、塾生に机の周りのどこかに張っておけと指示しています。「憶えるよりも考える」と言ってもどのように考えたらよいのかを具体的な問題の中で説明しなければ、伝わりません。そのためにこれから解説する四項目に留意しながら指導をしています。どのように考えたらよいのかという試みがこれら四項目にこめられています。
さて、前置きはこれくらいにして、ここから本題です。成績上位生対象の授業は自力で予習させて足りないところだけを解説、演習中心の授業を展開し、4つの点に留意して質問に答えながら指導しています。
(1)同型性について
「①距離・②時間・③速さ」、「①食塩・②食塩水・③濃度」、「①合計・②人数・③平均」の三種類の文章題はじつは計算式がすべて同型です。各項目を記号として眺めると計算式は同じになります。仮に①をp、②をq、③をrとすると、これらの項目には次の関係式が成り立ちます。
p=qr
q=p/r
r=p/q
pとqは加法が成り立ちますがrは内包量ですので加法が成り立ちません。この三種類の問題は同じ表に問題文の条件を入力することで簡単に式が作れます。線分図やポンチ絵と併用してもらうと威力が倍増します。
a | b | c | ||
① | 距離D | |||
② | 時間T | |||
③ | 速度V | |||
a | b | c | ||
p | ||||
q | ||||
r |
異質に見える問題の背景に同型性があることがわかれば、憶えるべき公式は一つですみます。少ない公式で種類の異なる問題を解く、こういうトレーニングを積み重ねることで、異質な分野に同型性があることを発見できるようになります。分野が違っても共通の操作はあちこちに出てくるので、自分でリンクを張るようになります。
わたしはユークリッドの『原論』とマルクス『資本論』に体系的同型性を見つけました。デカルトも『方法序説』で「科学の方法四つの規則」で同じことを述べています。あとで抜粋引用します。
(2)概念、フィールド、公式などの拡張
数学ではしばしばさまざまな概念の「拡張」が行われます。
数に関しては自然数の加法・減法と乗除算が定義されます。次いで、自然数から分数へと数の概念の拡張が行われます。これらは小学生段階ですが、中学生になると整数概念が定義され自然数は「正の整数」、ゼロ、「負の整数」が定義されます。このように数の概念の拡張が行われます。中3になると無理数が定義され、数は有理数の範囲から実数へと拡張されます。高校2年で虚数が導入され、数の概念は複素数へと拡大します。それだけではありません、数列が出てくると、有限数列から無限数列へと対象が拡張されます。
座標をみるとxyで定義された平面座標(デカルト平面)が現れ、ついでもう一つ座標軸が追加されて空間座標が定義されます。数Bのベクトルではベクトル平面とベクトル空間が、数Ⅲでは複素平面と極形式が定義されます。このように座標平面も拡張が次々に行われます。
三角比(数Ⅰ)は三角関数(数Ⅱ)へ拡張されます。
1次関数⇒2次関数⇒n次関数への拡張、そして系列の異なる指数関数、対数関数へと拡張されていきます。無理関数や分数関数へも拡張がなされ、逆関数が定義されます。
n次関数の微分と積分が定義され、数Ⅲでは三角関数や指数関数、対数関数へと拡張されます。
拡張されるたびにそれぞれで類似の操作をトレーニングすることになります。
たとえば、三角形の面積は四つの式で書き表せますが、それぞれが関連しています。
○ 1/2×底辺×高さ
○ 1/2×b×c×sinA
○ √s(s-a)(s-b)(s-c)
○ 1/2×|a vector|×|b vector|×sinθ
○ 1/2×|axby-bxay|
三角比を習えばそれを利用した三角形の面積の公式が出てきます。基本はもちろん一番目に挙げたものですが、三角比を利用して定義します。
平面上、三角比、ヘロンの公式(三角比からの派生公式)、ベクトル、平面座標(ベクトルからの派生公式)。三角形の面積だけでもこれだけ奥行きがあります。数学の世界が広がっていくのは、楽しいことです。
中高の数学は概念の拡張が次々になされていきますから、概念が拡張されると何が起きるのか、類似の操作や公式の定義のし直しがなされることが体験的に理解できていきます。
「拡張」を意識して数学を学ぶと、森全体が見わたせるので自分がいま何をやっているのかがよくわかります。こういう過程を通して概念の拡張やフィールドが変わることによる数学的操作の焼き直しを学ぶことで数学への理解が深いものになります。
中高で学ぶ数学の構造はあんがいシンプルなものの繰り返しなのです。
たとえば、三平方の定理(中3)のところで、フェルマーの最終定理を解説します。そこで生徒と遊びます。
X^n+y^n=z^n
n=2のときが三平方の定理です。xyzが整数になる組み合わせは無限にあります。生徒たちにやらせてみたらいい。4例を探させてみたらいかが?
三平方の定理もこういう一般式の「n=2」の特殊なケースだということがわかります。「一般⇔特殊⇔個別という整理も自然にできるようになります。
n=2のときは無数に自然数の組み合わせがありますが、ではn=3,4,5・・・のときに自然数の解はあるのかという疑問がわくのは自然な流れです。これも拡張のひとつの例でしょう。
nが3以上だと(x,y,z)の自然数の解は存在しないというのがフェルマーの最終定理ですが、1995年2月13日にようやく証明されました。世界中の数学者がチャレンジして360年かかってシンプルなフェルマーの最終定理が証明されたのです。アンドリュー・ワイルズが成し遂げました。
弊ブログ#3437でフェルマーの最終定理の証明と経済学の関連について言及しています。
*#3436 フェルマーの最終定理と経済学(序):数遊び Oct. 13, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-12-1
#3437 フェルマーの最終定理と経済学(1):純粋科学と経験科学 Oct. 15, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-15
#3438 フェルマーの最終定理と経済学(2):不完全性定理と経済学 Oct. 18, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-17
#3439 フェルマーの最終定理と経済学(3):整理作業-1 Oct. 19, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-18
マルクスも『資本論』でフィールド(場)の拡張という体系構成にとって不可欠の操作をしています。「資本論と21世紀の経済学」というカテゴリーにまとめてあります。経済学に興味のある方はそちらを参照ください。
(3)必要なだけの小部分に分解せよ
同型性とさまざまな数学的な概念の拡張について思うところを述べました。デカルト『方法序説』から、科学の方法四つの規則について引用しておきたいと思います。高校生や大学生のみなさんは何度も読んでください。
受験には複合問題が出題されます、2分野は標準問題、3分野の複合問題は難易度が高くなりますが、2分野は2つに3分野の複合問題は3つに分解するとシンプルな問題になります。
==========================
<デカルト 科学の四つの規則>まだ若かった頃(ラ・フェーレシュ学院時代)、哲学の諸部門のうちでは論理学を、数学のうちでは幾何学者の解析と代数を、少し熱心に学んだ。この三つの技術ないし学問は、わたしの計画にきっと何か力を与えてくれると思われたのだ。しかし、それらを検討して次のことに気がついた。ます論理学は、その三段論法も他の大部分の教則も、道のことを学ぶのに役立つのではなく、むしろ、既知のことを他人に説明したり、そればかりか、ルルスの術のように、知らないことを何の判断も加えず語るのに役立つだけだ。実際、論理学は、いかにも真実で有益なたくさんの規則を含んではいるが、なかには有害だったり、余計だったりするものが多くまじっていて、それらを選り分けるのは、まだ、下削りもしていない大理石の塊からダイアナやミネルヴァの像を彫り出すのと同じくらい難しい。次に古代人の解析と現代人の代数は、両者とも、ひどく抽象的で何の役にも立たないことだけに用いられている。そのうえ解析はつねに図形の考に縛りつけられているので、知性を働かせると、想像力をひどく疲れさせてしまう。そして代数では、ある種の規則とある種の記号にやたらとらわれてきたので、精神を培う学問どころか、かえって、精神を混乱に陥れる、錯雑で不明瞭な術になってしまった。以上の理由でわたしは、この三つの学問(代数学・幾何学・論理学)の長所を含みながら、その欠点を免れている何か他の方法を探究しなければと考えた。法律の数がやたらに多いと、しばしば悪徳に口実を与えるので、国家は、ごくわずかの法律が遵守されるときのほうがずっとよく統治される。同じように、論理学を構成しているおびただしい規則の代わりに、一度たりともそれから外れまいという、堅い不変の決心をするなら、次の四つの規則で十分だと信じた。 第一は、わたしが明証的に真であると認めるのでなければ、どんなことも真として受け入れないことだった。言い換えれば、注意ぶかく速断と偏見を避けること、そして疑いをさしはさむ余地のまったくないほど明晰かつ判明に精神に現れるもの以外は、なにもわたしの判断の中に含めないこと。 第二は、わたしが検討する難問の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割すること。 第三に、わたしの思考を順序に従って導くこと。そこでは、もっとも単純でもっとも認識しやすいものから始めて、少しずつ、階段を昇るようにして、もっとも複雑なものの認識まで昇っていき、自然のままでは互いに前後の順序がつかないものの間にさえも順序を想定して進むこと。
そして最後は、すべての場合に、完全な枚挙と全体にわたる見直しをして、なにも見落とさなかったと確信すること。
きわめて単純で容易な、推論の長い連鎖は、幾何学者たちがつねづね用いてどんなに難しい証明も完成する。それはわたしたちに次のことを思い描く機会をあたえてくれた。人間が認識しうるすべてのことがらは、同じやり方でつながり合っている、真でないいかなるものも真として受け入れることなく、一つのことから他のことを演繹するのに必要な順序をつねに守りさえすれば、どんなに遠く離れたものにも結局は到達できるし、どんなにはなれたものでも発見できる、と。それに、どれから始めるべきかを探すのに、わたしはたいして苦労しなかった。もっとも単純で、もっとも認識しやすいものから始めるべきだとすでに知っていたからだ。そしてそれまで学問で真理を探究してきたすべての人々のうちで、何らかの証明(つまり、いくつかの確実で明証的な論拠)を見出したのは数学者だけであったことを考えて、わたしはこれらの数学者が検討したのと同じ問題から始めるべきだと少しも疑わなかった。
デカルト『方法序説』 p.27(ワイド版岩波文庫180) *重要な語と文章は、要点を見やすくするため四角い枠で囲むかアンダーラインを引いた。
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(4)単純なものから複雑なものへ=順序の想定
より単純なものから複雑なものへという順序を想定することは知識の整理にとって大切なことです。科学の方法四つの規則の第三がそうした方法(=上向法)を示唆しています。学問においてはもっとも大事なことなのですが、これはまた別の機会に書きます。
「資本論と21世紀の経済学」というカテゴリーが弊ブログにありますが、経済学に関してはそこに書き溜めてあります。
生徒から質問のある都度、こうした4つの観点から具体的に繰り返し説明しています。数学を通じて、普遍的な学問のやり方を教えているつもりです。
数学は他のさまざまな学問に深く関わっています。成績上位生は数学の勉強を通じて学問全般に視野を広げる努力をしてください。
〈 余談 〉
#3507投稿欄から(加筆しています)
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40年ほど前に、東京のF学院渋谷進学教室で教えていたときのことなのですが、四谷大塚で全国2位の生徒が入塾してきたことがありました。Y武先生が担当したのですが、問題消化速度が大きくて教え切れないので変わってほしいと言われて、交代したことがあります。
その生徒の母親からの「要望で400ページ弱の文章題専用問題集を使いました。
なるほど速い、105分の授業で20ページほどやれるんです。質問が時々出るので、どういう問題で質問がでるか2回観察しました。新傾向問題で急ブレーキがかかります。他の問題はほんとうに高速でした。わたしとほとんど変わらぬ速度で解いていました。
要するに、パターンで解ける問題がものすごく速かったのです。それが通用しない新傾向問題のところで3題に2題の割合でブレーキがかかり質問が出ました。
2ヶ月ほどで1冊やりきりました。あんなに高速でさまざまなパターン解法を駆使できる生徒はなかなかいません。さすが全国2位です。
わたしの感想は、「頭はあまりよい方ではない」というものでした。パターン練習のやりすぎで、頭が固くなってしまっているように見えました、もったいない。
四谷大塚の模試で全国ナンバー2でしたから、東大へは入学できたでしょう。
珠算実務検定試験1級の問題を制限時間の半分の5分でやるのと変わりません。そういう意味で受験の芸に秀でていました。
速度が大きいことは実社会でも武器になりますが、それだけのことです。標準レベルの難易度の仕事をさせたら抜群に生産性が高いでしょう。しかし大事なのはいままで出遭ったことのない複合分野の問題を解決できるかどうかということです。
小2の息子さんが、二桁の自然数の2乗の計算を工夫して答えを出す、つまりは「遊び」、どれほど楽しく遊んだかが計算の仕組みを理解させ、数学のセンスや創造性を育みます。
道草が必要なんです。直線的なのは考えもので、原野をゆったり流れる川のように蛇行しながら流れていけばいいのです。
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*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017
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#3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
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#3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017
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#3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
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〈 音読リスト:#3405より 〉
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< 国語力アップのための音読トレーニング >
中2のトップクラスのある生徒の国語力を上げるために、いままで音読指導をしてきた。読んだ本のリストを書き出してみると、
○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『坊ちゃん』夏目漱石
○『羅生門』芥川龍之介
○『走れメロス』太宰治
○『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
『五重塔』幸田露伴
『山月記』中島敦
●『読書力』斉藤隆
●『国家の品格』藤原正彦
『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆
『語彙力こそが教養である』斉藤隆 ⇒現在音読中、2017年3月中旬読了予定
これから読むものをどうしようかいま考えている。
●『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
『福翁自伝』福沢諭吉
『善の研究』西田幾多郎
『古寺巡礼』和辻哲郎
『風土』和辻哲郎
『司馬遼太郎対話選集2 日本語の本質』文春文庫
『伊勢物語』
(○印は、ふつうの学力の小学生と中学生の一部の音読トレーニング教材として使用していた。●印の本はふつうの学力の中学生の音読トレーニング教材として授業で十数年使用した実績がある。音読トレーニング授業はボランティアで実施、ずっと強制だったが2年前から希望者のみに限定している。)
・・・
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「#3405 原典のススメ:愛と寛容性概念の混同(中2学力テストから) Sep. 2, 2016 」
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*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017
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#3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
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#3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017
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#3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
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#3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
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#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017 [51. 数学のセンス]
さて、ここからが本題。
ブログ「情熱空間」が「数字のセンス」を採りあげていたので、そこに書かれていたURLをクリックすると、「「基本」と「数字のセンス」」と題した小論が画面に出てくる。釧路の教育を考える会の「合格先生」が書いているブログである。
釧路の教育を考える会にはさまざまな職業の人たちが集(つど)っていて、その中には学習塾関係者も数名いる。釧路と根室の教育改革をしなければ地域の未来が危ういということで意見が一致しているだけで、指導論についてはそれぞれ一家言をもっているから、テーマを決めてFBの専用掲示板で議論をすることがある。相手の意見に耳を傾け理解して、自分の意見と比較して議論をする、議論をする中でいままで気がつかなかったことに気がつく、意見が異なるからこそ議論は楽しいもの。
「基本」と「数字のセンス」に興味のある方はURLをクリックしてご覧いただきたい。
ブログ「情熱空間の記事を」引用した後で、投稿したコメントに加筆して並べておく。それぞれの意見をじっくりみて、お考えいただけたら幸いです。
*http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8735737.html#comments
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2017年02月12日
これが実に弱い(割合・単位換算・時間の計算)
同じく3分の1は、約33.3%、約0.33倍のこと。
2割5分増しの割増賃金は、125%で1.25倍のこと。
こうした日常的に使う、小数・分数の感覚。
以前よりはだいぶましになってきましたが、こうした感覚がうんとこさ弱いのが、我が釧根の子ども達です。
弱い、本当に弱い。
(悲しいかな、大人も同様…。涙)
その点、今も昔も同様です。
くしろ子ども未来塾で「算数検定」を担当させていただいて実感するのですが、かなり改善されてきてはいると思うものの、それでもまだまだ…。
「割合」、これが実に実に弱いんですね。
つまりは、小数・分数の概念、それがまだまだ。
同様に「単位換算」も、まだまだかなり弱い。
(1m=100cm 1kg=1000g 1km=1000m 1L=10dLといったもの)
「時間」の計算も同様ですね。
(時計を見比べて、経過した時間を答える問題)
割合・単位換算・時間の計算。
抽象概念の初歩の段階ですが、この三点セットが、まだまだかなり弱い。
中学生になっても、「果汁30%」と聞いてイメージできないのならば、それってつまりけっこうな重症。
濃度(理科)や時差(社会科)の計算は、自力ではできないでしょう。
割合の感覚、単位換算の感覚、時間計算の感覚。
それらは、頭で(なんとなく)理解しただけではダメなんですよね。
それだと、その感覚は身につかない。
繰り返し、反射的にイメージできるまでトレーニングすることによって、やっと感覚が身につくんです。
ところが、それをやるように主張すると、やれ詰め込みだのなどと、例によって批判されるんですよね(苦笑)。
合格先生は「センス」と表現していますが、まったくもってその通り。
現状、良くなってきたとは言え、まだまだです。
基本の習得、つまりは量を消化させなければ、適正な感覚は身につかないですからね。
●「基本」と「数字のセンス」
http://www002.upp.so-net.ne.jp/singakukouza/jijimonndai.html#Anchor-10742
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〈 投稿欄から 〉
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同じ経験をわたしもしたことがあります。スキルス胃癌で釧路の病院に入院していたときのことです。ベテランの看護師さんが、最近の若い看護師は希釈倍率の計算もできない人がいるので困ると言ってました。
ところで、「基本と数字のセンス」に34/51の約分の例が出ていました。北見では二桁の素数を使う約分を小学生にやらせていたと書いてありましたが、立派なものです。
ところで34と51の一の位の4と1を見てすぐに気がつくのは、7と9の段の九九に
7×2=14
7×3=21
9×6=54
9×9=81
この二つの数字が、九九の答えの一の位に4と1を含みます。だから、17が素数であると知らなくても、17で割れそうだとわかります。19が無理なことは見ただけですぐにわかります。
(約分した後に分子分母が一桁になるものはどんなに大きな数字でも1桁の素数(2,3,5,7)で割り切れます。この例では34を2で割ると素数の17が出てきますから、それで51を割ってみたらいいだけです。だから1ケタ以上の素数を暗記する必要はないのです。因数に3桁の素数が含まれていても簡単に約分できます。)
同じことは11~19までの平方数でも言えます。末尾の一の位だけ見ていれば、どの数の平方数かわかります。必ず二つの数字がセットで出てきます。
「数字のセンス」とは素数を暗記していて約分がさっとできることではなくて、数字から規則性を見つけて上手に処理することだと思います。
センスのない者はやたら暗記しないといけなくなります。
脳のワーキングメモリーはそれほど大きくないようで、あまり暗記物を詰め込むと、容量不足が生じます。ワーキングメモリーには余裕があるほうがいいのです。ケアレスミスも防げます。いっぱいいっぱいだと集中している部分はいいのですが、その外側に漠然とした注意力が働かなくなります。「分散力」としか言いようがないのですが、集中力と同じくらい大事です。
(瞑想で意識の集中と分散トレーニングをすればだれでも使いこなせるようになります)
少ないルールでたくさん処理できるというのが数字のセンス、いや数学のセンスのような気がします。
34/51については、もう一つやり方があります。34は偶数ですから2で割ってみます。51は3で割れるのは見ただけでわかるので3で割ります。そうすると、
34=2×17
51=3×17
素因数に簡単に分解できて、17で約分できることがわかります。この方法は案外使い勝手のよい汎用的なアプローチですから、この問題に限りません。
素数の17を暗記して小学生に約分練習させるのは結構ですが、二桁の素数は19、23、29、31、37、41、・・・97までたくさんありますが、全部練習させるのでしょうか?
わたしには二桁の素数を暗記して割り算練習をして約分を速くやるという方法は、「数字のセンス」と関係なさそうに見えます。
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〈 美意識と数学のセンスについて 〉
① ② ③
121=11^2 1,9
144=12^2 2,8
169=13^2 3,7
196=14^2 4,6
225=15^2 5,5
256=16^2 6,4
289=17^2 7,3
324=18^2 8,2
361=19^2 9,1
①平方数 ②平方 ③九九の一の位が各平方数の一の位と同じ数になる数。
面白いでしょ、③の数字は足すとすべて10です。そして数字は1から順に綺麗に並んでいます。隠れていた構造に気がついて、「ああ、美しい」と感動する心がセンスを磨きます。
数学のセンスはこういうシンプルな数字配列から規則性と美を見出すことなのです。
√169がいくつになるかは末尾の数字の9が九九で3と7の平方の末尾が9になることを知っていればわかります。√225より前なら小さい方13^2です。√289なら後の方、17^2です。
数字が大きくなるとルートが外せるのにできない中3が結構います。でも、平方数を暗記する必要はないのです。末尾に注目すれば候補は二つだけ、すぐに判別できます。
数字の背後にはさまざまな構造や美しさが隠されている、その構造や規則性は美しい、数学は美しい、そう感じるたびに数字や数学のセンスが磨かれる気がしませんか?
二桁の素数を暗記して、数字や数学のセンスが磨かれるこというのはなんだか怪しい説に聞こえます。ちっとも美しくないので感動がないのです。
(食を例にとればわかります。鮮度のよい魚の刺身を食べたら、おいしいという感動が生まれます。鮮度の悪いものとの差がはっきりわかるようになります。同じ刺身でも、刺身の色にあった美しいおお皿にのっていたらさらにおいしくなります。整理整頓がなされ掃除の行き届いた部屋で外の景色を眺めながら食べるとさらにおいしくなります。そういうことに感動することでセンスが磨かれるとわたしは思います。)
九九と逆九九が高速で言えれば十分、そして2桁の乗算の暗算ができたらなお結構。これができれば割り算も高速でやれます。商を立てるのにその都度考え込んでいるようではアウトです。2桁の乗算の暗算ができなければ、割り算の商を瞬時に立てることは無理です。
基礎トレーニング(九九と逆九九)を十分に積むこと、そしてセンスのよさは高校数学をやるときや実社会に出たときにこそ強力な武器に化けるでしょう。
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改めて考えてみると私自身、気づかないうちにご指摘の部分を「感覚的」に理解していたように思います。となると、やはり九九を含む基礎計算の段階で、シャワーを浴びるかのような練習量を積んだ経験の賜物。今の釧根の子ども達の多くはその反対ということが言えそうです。
先日、ウチの教室長とも話したのですが、図形がまた恐ろしいほどにできなくなってきています。立体図を立体として認識できない。それ以前、平行・交わるの概念が捉えられない。展開図以前、空間図形のねじれの位置をまるで理解できない…。まさに重症。そうした生徒が増えてきています。
本来、図形や確率は「教えなくてもできる」はずのものだと私は思っておりますが、いずれも以前にも増してひどい状況になっています。抽象概念の欠落を感じる昨今であります。
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〈 センスを磨くために必要な基礎能力 〉
先生が百人いたら、百通りあるくらいに考えていいのかもしれません。意見の相違を楽しむのも一興です。
特定の数字の配列の中に規則性や美しい配列がさらに隠されていることに気がつく者は、数学が楽しくてしようがなくなります。
論語にも「これを知る者はこれを好む者にしかず、これを好むものはこれを楽しむ者にしかず」と言ってます。時間の流れの外側にたたずみ楽しんでいるうちに数字に関するセンスが磨かれます。夢中になって考えている内に時間があっという間に経過しているのに驚きます。通常ではない集中力が自然に発揮されています。
(2~4週間ほどもそういう状態を続けると脳がフルパワーで活動してなかなか止められなくなりますから、そういう時は必ずクールダウンしてください。目をつぶっても脳が勝手に動いて思考が止まりません、身体がつかれきるまで睡眠できない状態が訪れます。勉強や研究はすごい速度で進みますが危険です。)
高校数学では三角関数で公式がたくさん出てきますが、基本公式をいくつか覚えていれば1分で他の公式を導き出せます。すべての公式を暗記しようとする者と基本公式だけ覚えて、そこから他の公式を派生的に導き出すトレーニングをしている者とでは数学の学力に雲泥の差が生じます。
たとえば、基本公式、
sin^2 θ+cos^2 θ=1
この公式の両辺をcos^2 θで割ると、1+tan^2 θ=1/cos^2 θ が出てきます。倍角公式も半角公式も加法定理から簡単に導き出せます。こんなことは高校数学では常識ですね。
問題のパターンわけも、相互に関連のあるものをまとめてしまうとか、あるパターンから派生するものをまとめて憶えてしまう、そういうことをやってしまいます。
(基本定理と派生定理を区別して学ぶこと、基本定理の導出をやってみることや基本定理から派生定理を導き出すことは中学生からトレーニングしたほうがいいのです。分数から実数への数の概念の拡張もチャンスです。学力の高い生徒たちには概念の拡張が何をもたらすか教えてしまいましょう。)
数学のセンスのよい者はあちこちで、相互の関連の糸を見つけて利用していますから、必要最小限の暗記で済ませています。脳のワーキングメモリーへ常駐させる情報を減らして負荷を小さくしてるのです。
基礎能力は①掛け算の九九が高速で言える、②逆九九が高速で言える、そして③二桁の乗算が瞬時にできるだけで十分です。これだけで四則演算が高速にできます。瞬時に割り算の商を立てるためには二桁の概算が暗算でできれば何桁でも大丈夫です。高校数学の問題の2割はかなりの計算力を要求します。
文章題は「読み・書き・そろばん」の読みとそろばん(計算)の両方が速くて正確なほど有利です。
ところが計算力があることは直ちに数学のセンスのよさにつながりません。これはわたしの経験の範囲のことですが、珠算の高段者(女子が多いのですが、たまには男子もいますが)で数学が得意だという人は珍しいのです。3段以上は4桁の暗算が算盤を使ってやるよりも高速でできるので計算能力が抜群に高いのですが、数学が得意な人は少ない。
珠算の高段者を見る限り、数学のセンスと計算力はリンクしていないかのように感じます。不思議ですね。たぶん、計算は速いが、数字の背後に隠れている美しさに気がつくことが少ないのでしょう。計算トレーニングのしすぎの弊害です。走ってばかりいないで、たまには道端の草花に目を移し、美しいと感動するこころの余裕が必要なのでしょう。(笑)
わたしの意見を述べましたが、異論のある方はどうぞ投稿欄へ書き込んでください。穏やかな議論ができれば幸いです。
次回は「センスを磨く指導のしかた」と題して、わたしがやっている成績上位生への指導上の留意点をまとめてみます。
ニムオロ塾は個別指導なので、学力に応じて教え方を変えています。現在中2の成績上位生に3年間やってきたことを中心に紹介してみようと思います。
その生徒は中1の最初の学力テストで学年2位の生徒との四科目合計点の差が1点、2回目のテストは1学期期末テストで英語が入るので五科目になりますが差は2点、すれすれでした。その後テストの都度2位との差は開いて2週間ほど前の2月2日の学力テストでは約百点の差が生じています。90%は本人の努力ですが、指導法の影響もすこしだけありそうです。
デカルトの『方法序説』にある「科学の方法四つの規則」やユークリッド『原論』の体系を意識した指導をしています。「概念の拡張」と「基本と派生」を軸に教えています。
こういうことを通してわたしは数学的思考法を生徒に伝えているのだと思います。「数学のセンス+数学的思考法」が身につけば、鬼に金棒と思いませんか?
*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15-1
#3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-19
#3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-23
#3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-26
#3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-03-02
70% 20%
面白い本がありますので、紹介します。数学が好きな生徒はぜひ読んでください。