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#4902 仕事と経験:「仕事は段取り八分」の意味① Jan. 4, 2022  [A.6 仕事]

 仕事には専門知識が必要なことは言うまでもありませんが、他にも必要なものがあります。それは経験です、経験から学ぶことは学校教育では教えてくれません。自ら求めるしかないでしょう。

 家がビリヤード店と居酒屋をしていたので、小学生低学年の頃から、ビリヤード台のラシャの張替え作業を飽きずにずっと見ていました。札幌から吉岡先生(昭和天皇のビリヤードコーチ)がいらっしゃって、張替え作業をしてくれます。好奇心からその作業をずっと見ていました。鳴海町にあった桶屋さんの桶の制作業も1時間でも作業場の窓の外から眺めている子供でした。NTTの建物を建てる時も地下を5mほどは掘っていたので、地層を飽きずに眺めていました。好い粘土層になっており、帯水層があって地盤がふにゃふにゃであることがわかりました。あれも小学生の終わりころのこと、子どもって好奇心が強いんです。
 高学年になるころ、作業を手伝っていたオヤジが、自分でもやりだしました。新品のラシャを張るときには吉岡先生が、それを裏返すときにはオヤジが作業したのです。石のスレートが3枚の台と4枚の台があります。スレートを載せてから水準器を使って水平を出しますが、接合部で段差があってはいけません。たとえば1枚目の右端が下がっていると、そこに葉書を一枚差し込みます。そうすると、その部分は水平になりますが、反対側が下がってしまいます。そして反対側に葉書を1枚差し込むと、元の木阿弥。それでも調整を繰り返すうちに、何とかなってきます。でも、完璧な仕事にはなっていないことは、ラシャの裏返しの張替え作業をしたオヤジにはよくわかっています。
 あるとき、吉岡先生の作業を見ていたオヤジが気がつきました。スレートを載せる前に、枠木を組んだ状態で水準器を充てていました。プロですから、流れるような作業の中で、水準器を軽くのせて読み取り、枠木を組んだ状態で水平にしてから、スレートを載せてました。作業に無駄がないので、よくよく見ていないと気がつきません。

 つまり、二段構えで水平にしていたのです。こうしてわたしは「仕事は段取り八分」という言葉の意味を知ったのです。最初の一段をパスしてしまったら、仕事の難しさは何倍にもなります、時に不可能になるのです。完璧な仕事は、段取りがいいからこそ可能です。プロはそういうことを当たり前にやって、日常作業で結果を出しています。

 40歳前後の頃、スリークッションの世界チャンピオンだった小林伸明先生のビリヤードの四つ球常連会のメンバーに入れてもらいました。スリークッション台でも撞きましたが、ラシャの感触が違います。掌を充てて押してみました、ラシャが動かないのです。四つ球のテーブルは手で引っ張って張りますが、スリークッションは大台ですから、同じ張り具合なら、よほど力が強くないとできません。
 小林先生に質問しました。
「湿気を飛ばすのに、ヒータが入っていることはわかります、ラシャの張り具合が違いますが、どうやっているのでしょう、人間の手では張れない強度です」
 小林先生は、ベルギー製のテーブルであることを教えてくれました。ラシャは四つ球の代は「綾織」、大台は「平織」でした。平織は引張強度が格段に大きいのです、綾織のラシャを同じ強度で引っ張ったら裂けます。そしてラシャを張るときに使う道具があることも教えてくれました。人間の握力で引っ張れるものではありませんでした。大台のラシャの張替えの時に会社を休んで手伝わせてもらったらよかった。小林先生、即座にOK出してくれたでしょうね。

 こんな質問をして、答えてもらい、コミュニケーションできたのは、ラシャの張替え作業を中高時代にずっと手伝っていたからです。取り方のわからないところを図面に書いて質問を一度だけさせてもらいました。弟子のボーイさん数人を呼んで、説明してくれました。そのあと、こういう風に質問しないといけないよというようなことを言われて、それ以後、質問しずらくなりました。またあるとき、マッセの姿勢が吉岡先生とは違うので、そう告げて理由を聞いたことがあります。吉岡先生はこめかみにキューをあてます、小林先生は首にあてます。理由はその方が手球の撞点がよく見えるということでした。なるほど、真似をするだけでなく、よくよく自分で考えてみないといけないのです。こめかみにあてると、レストで手球の撞点が隠れて見えません。吉岡先生は見えなくてもどこに当たるか、ミリ単位で見えているのです。マッセのスキルが低いセミプロクラスには吉岡先生のスタイルよりも、小林先生の合理的なスタイルがいいことがわかります。
 小林先生は、セミプロ用の教本は書くと誤解が生じるので、書かないと仰っていました。半端な腕前の人が、書いてある通りにならないとクレームをつけることがあるんだそうです。それが嫌で、セミプロ用の教本はかかないことにしていると仰ってました。
 具体例を一つ出しておきましょう。小林先生にマッセの姿勢を習った人が、吉岡先生にマッセはキュ―を首にあてるべきだと主張したら、吉岡先生はうざいだけでしょうね。一知半解、小林先生がどういう前提条件でおっしゃったのかまで、すぐに理解できますから、技術が半端な人へ指導するのはむずかしいのです。撞点がレストで隠れていても、吉岡先生にはミリ単位で見えています。セミプロクラスとはスキルが違うのですから、やりかたも違うのです。一知半解の人は、言っている前提条件にまで思考が届かないのです。理解には「智慧の働き」が必要なのです。むずかしいですね。
 タップの調整の仕方も、吉岡先生と町田正さんのお父さんのやりかたはまったく違います。写真を貼り付けておきます。それぞれ理由があります。
 同じことは、ニムオロ塾で生徒を個別指導しているときにも現れます。だから、生徒の学力に応じて、説明の仕方を変えています。一律にはいかないので、文科省の学習指導要領は無視しています。

 「仕事は段取り八分」というのは中高の時代にビリヤードテーブルのラシャの張替え作業を手伝うことで理解しました。根室高校の丸刈り校則を改正するのにも、この「仕事は段取り八分」があったからできたような気がします。生徒の方はOK、一部の教員と校長が反対に回る可能性がありました。教員の方は賛成してくれる先生が多かった。そこで2段構えで段取りを考えました。学校(校長)は保護者に弱い、だから生徒会で保護者へ基本的人権にかかわるアンケート調査を実施して、丸刈り校則の是非を問い、その結果をもって生徒総会にかけて、改正にもっていく。アンケート調査の質問事項を工夫し、誘導すればいいだけ。その結果をもって行けば、先生たちも校長も賛成しやすい。
 生徒会の先輩や同じ学年の友人たちが手伝ってくれたので、1年生の終わりの頃提案して、2年生の4月から作業を始めて、修学旅行の3か月前に、スケジュール通りに改正し、髪を伸ばして修学旅行へ行きました。
 東京・大阪・京都・奈良の11泊12日の長旅でした。当時は車中泊が2泊組み込まれていました。まだ高校生が修学旅行で飛行機を使う時代ではありませんでした。

 経験でしか培えないものがある、そのひとつが「仕事は段取り八分」ということ。コンピュータシステムを設計するときにも、このことは役に立ちました。最初の段取りを間違えたらコストが2倍3倍になります。それは基本仕様と実務設計の段階でのミスや見逃しをなくするということ。次回、説明したいと思います。


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小林伸明先生からいただいた、世界最高品質の幻のチョーク、ブルーダイアモンド。
DSCN7251s.jpgDSCN7249s.jpg

<タップ削り方の形状の違い>
①吉岡先生方式
 比較的フラットです
DSCN7271s.jpg

②町田正先生のお父さんの削り方
 半球状になっています。
 町田正先生は、アーティステックビリヤードで世界2位、国内ではさまざまな種目で50回以上もチャンピオンになっています。現役の選手です。
DSCN7245s.jpg


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