#4291 Sapiens(36th):page 47 July 15, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]
<最終更新情報>7/17午前10:25
ハラリの文章は毎回何かしら考えさせる箇所がある。今回はいわゆる「分詞構文」と、文脈を論理的に読むというのがテーマである。生徒は嗅覚が鋭くていいところで疑問を呈してくれるので、わたしも一緒に考える。
<47.2> Many scholars vehemently reject this theory, insisting that both monogamy and the forming of nuclear families are core human behaviours. Though ancient hunter-gatherer societies tended to be more communal and eagalitarian than modern societies, these reseachers argue, they were nevertheless comprised of separate cells, each containig a jealus couple and the children they held in common. This is why today monogamous relationships and nuclear families are the norm in the vast majority of cultures, why men and women tend to be very possessive of their partners and children, and why even in modern states such as North Korea and Syria political authority passes from father to son.
ハラリの文章は毎回何かしら考えさせる箇所がある。今回はいわゆる「分詞構文」と、文脈を論理的に読むというのがテーマである。生徒は嗅覚が鋭くていいところで疑問を呈してくれるので、わたしも一緒に考える。
<47.2> Many scholars vehemently reject this theory, insisting that both monogamy and the forming of nuclear families are core human behaviours. Though ancient hunter-gatherer societies tended to be more communal and eagalitarian than modern societies, these reseachers argue, they were nevertheless comprised of separate cells, each containig a jealus couple and the children they held in common. This is why today monogamous relationships and nuclear families are the norm in the vast majority of cultures, why men and women tend to be very possessive of their partners and children, and why even in modern states such as North Korea and Syria political authority passes from father to son.
一つ目は分詞構文である。
Many scholars vehemently reject this theory, insisting that both monogamy and the forming of nuclear families are core human behaviours.
シンプルセンテンスに書き直すと、
①Many scholars vehemently reject this theory
②Many scholars vehemently insist that both monogamy and the forming of nuclear families are core human behaviours.
アンダーライン部が共通なので、後続する文の主語が省略されると同時に、分詞句になっただけ。修辞上のお作法である。論理的にあるいは時系列的に分詞句が先なら、分詞句が文頭に来るが、そういうケースは10個にひとつもあるだろうか、それほど頻度が少ない。受験英文法書は例外的な事例の方ばかりを強調するから、高校生は本筋を見失う。
this theoryとはひとつ前の段落にある'ancient commune theory'である。古代のコミューン学説については前回説明しておいた。
vehemently /ˈviː.ə.mənt.li/ adverb
in a strong and emotional way(強く感情的なやり方で)
The president has vehemently denied having an extra-marital affair. ((クリントン)大統領は婚外交渉したことを猛然と否定した)
「この古代コミューン学説を否定する学者は多いし、そういう学者は、一夫一婦制と核家族形成が人間の行動の核であると感情的に主張している。」
ハラリはvehementlyを付け加えることで、古代コミューン学説の反対者たちが、理性的に反対しているのではなく、感情的に許しがたいという思いを抱いていることをほのめかしている。
むずかしかったのは次の文で、文脈と論理展開を適切に読み取る必要がある。ここだけ見ていたらわたしにも著者の言いたいことのイメージがわかない。「こういう時は先を読んでそれから考えたらいい」と伝えて自分で読んでみたがうまくいかない。'separate cells'は前の方と論理的なつながりがあるので、それを無視したら、意味がとれないことが分かった。
('of separate cells'という前置詞句に使われているから、separateはcellsを修飾する形容詞である、意味は「別個の・独立の」。)
Though ancient hunter-gatherer societies tended to be more communal and eagalitarian than modern societies[, these reseachers argue,] they were nevertheless comprised of separate cells, each containig a jealus couple and the children they held in common.
communal /ˈkɒm.jʊ.n ə l/ , /kəˈmjuː-/ /ˈkɑː.mjə-/ adjective SHARED
1. belonging to or used by a group of people rather than one single personcommunal facilities/food/property
We each have a separate bedroom but share a communal kitchen.
2. describes a society in which everyone lives and works together and the ownership of property and possessions is shared (成員すべてが共に住み共に仕事をして、財産の所有権や所有が共有されている社会を叙述する形容詞)
挿入句[, these reseachers argue,]を外すと、文構造が簡単になる。'they were nevertheless comprised of separate cells'は'modern societies'の補足説明である。'each containing~'は、主語が違うので分詞句にeachを補っている。
ここまで来て第三の問題があることに気が付く。代名詞が何を受けているのかを明確にしなければ意味の取り違えが起きる。論理展開を読み取り、文脈と突き合わせながら読み進もう。
Though ancient hunter-gatherer societies tended to be more communal and eagalitarian than modern societies, they were nevertheless comprised of separate cells, each containig a jealus couple and the children they held in common.
生徒から質問のあったのはアンダーライン部。
cell=細胞と思い込むとseparateの意味がつかめなくなるし、文意がさっぱりわからない。他にも意味があるから、素直に辞書を引いたらいい。
cell /sel/ noun [ C ] ORGANISM
1. the smallest basic unit of a plant or animal (植物や動物の最小基本単位)
「細胞」のほかに、「基本組織」という訳語がある。そういわれてみると、細胞も体を構成する基本組織である。「細胞」よりも「基本組織」のほうが抽象度の高い概念である。古代コミューンがそれ自体が一つの集団であり成員それぞれが役割分担しているに対して、現代社会では成員それぞれが個別の核家族という単位で構成されている。
「古代狩猟採集社会は現代社会よりもより一層共同体として密であり平等主義的な傾向があるけれども、古代コミューン学説に反対する研究者たちは、それにもかかわらず古代狩猟採集社会が独立した基本組織単位で構成されており、その各々の基本組織単位は嫉妬心に満ちたカップルと狩猟採集社会が共同して育てている子どもたちを含んでいる」
古代狩猟採集社会の基本要素={嫉妬深いカップル、共同で育てている子どもたち}
これが古代コミューン学説の反対派のスキームである。
子作りも子育ても古代コミューンでは共同してなされたし、その子供は誰の子かわからない、交わったたくさんのオスたちの子であったというのが古代コミューン学説で、そこではここバラバラな一組の男女というような「基本組織単位」は想定されていない。有利に子育てするために女は優秀と思える共同体内の複数の男たちと頻繁に交わるのがあたりまえであった。女が産んだ子どもの父親がだれかなどわかりようもない。それが現在の一夫一婦制の社会に影を落としている可能性はないのだろうか?あるとすれば、一夫一婦制でも女は別の男の子をはらんで産んでいるケースが一定割合いても当然のように思える。
(伝統的に性風俗が緩かった日本では10%はいても不思議ではない。そのあたりをとがめだてしないのが日本の風土だ。白血球のタイピング検査にHLA(主要組織適合抗原)という検査がある。同じ型が現れるのは数万分の一の確率である。日本では白血病患者の治療のための骨髄移植の際に使われているが、米国では年間3000件ほどが裁判で親子鑑定に使われていると海外製薬メーカーのSRL八王子ラボ見学者を案内しているときに、HLA検査室に案内した後で聞いたのは1988年ころのこと。そのころはまだDNA検査がなかったので、親子鑑定にはHLA検査しかなかった。日本では当時は1件も親子鑑定のためにHLA検査がなされていなかったのである。米国の男たちとは違って日本人の男はそんなことはあまり気にしない。妻が浮気して孕んでも、育てれば我が子である、かわいい。)
これとはまったく逆の発想がありうる。現代社会では一夫一婦制の核家族が個別の基本単位となって子作りと子育てがなされており、それは人間行動の核心部分にかかわる普遍的なものだから、古代もそうした関係があったとというのが「古代コミューン学説」反対派の感情的な主張である。日本ではこういう発想はありえなさそうに思える。
古代を延長して現代の一夫一婦制社会の実態を推し量るという発想と、現代の制度を普遍的なものと仮定し、古代コミューンにまで延長して、古代狩猟採集社会はかくのごとくあったという発想のシナリオの二つがぶつかり合っている。さて、あなたはどちらに軍配を上げるのだろう?
each containig a jealus couple and the children they held in common.
この部分も分詞構文だ。後続しているのは、論理的な順序を示している。代名詞が受けているものを( )書きしてみる。
①they (=ancient hunter-gatherer societies) were nevertheless comprised of separate cells
この部分も分詞構文だ。後続しているのは、論理的な順序を示している。代名詞が受けているものを( )書きしてみる。
①they (=ancient hunter-gatherer societies) were nevertheless comprised of separate cells
②each (of ancient society) contained a jealus couple and the children they(=separate cells) held in common.
heldは子育ての一時期、基本組織が共同して子どもを保育するという意味だろう。①の主語がなぜ'ancient hunter-gatherer societies'なのかというと、'nevertheless'(それにもかかわらず)があるからだ。文意は「古代コミューンが現代社会に比べて、より共同体的であり平等主義的であるけれども、それにもかかわらず個別の基本単位で構成され、その基本単位の一つ一つが嫉妬しあうカップルと基本組織が共同で育てる子どもたちを内包していたと古代コミューン学説を否定する学者たちが主張しているのである。
「より共同体的で平等主義的」だったら、本来個別の基本組織単位(家族)は成立しえないのであるが(though)、それにもかかわらず(nevertheless)嫉妬深いカップルと共同で育成する子どもたちという個別の基本組織単位を古代共同体が内包していたというのが、古代コミューン学説に反対する者たちの主張なのである。
they held the children in common(古代コミューンは子どもたちを共有していた)
文法的に見てもtheyは複数だからa jealus coupleではない、'ancient hunter-gatherer societies'(古代コミューン社会)である。「古代コミューン社会は共同で子育てしていた」というのが文意である。
-------------------------------------------------
hold /həʊld/ /hoʊld/ verb held , held SUPPORT
1. [ T ] to take and keep something in your hand or arms
Can you hold the bag while I open the door?
He was holding a gun.
The little girl held her mother's hand .
He held her in his arms.
[ + object + adjective ] Could you hold the door open , please?
Rosie held out an apple for the horse.
All those who agree please hold up their hand (= raise their arm) .
2. [ T ] to support something
Will the rope be strong enough to hold my weight?
Each wheel is held on with four bolts.
The parts are held together with glue.
holdの1番目の意味なら、「子どもたちを共同で腕の中に抱え込む⇒子どもたちを共有する」だろうし、2番目の’to support something’なら「共同で子どもたちをサポートする⇒共同で子育てする」になるだろう。どちらでも同じこと。
以下はebisu拙訳。
「古代コミューン学説に少なからざる学者が感情的に強く反発し、一夫一婦制と核家族の形成が人間行動の核心であったと主張している。現在社会に比べて、古代コミューンがより密接な色合いの共同体であり平等主義的な傾向があっても、それにもかかわらず古代コミューン社会が(共同体から)独立した基本組織単位で構成され、その各々の基本単位に嫉妬深いカップルや共同で育てる子どもたちを内包しているとそれらの学者たちは主張している。それゆえ、今日一夫一婦制関係と核家族が広範にいきわたっている支配的諸文化の中で普遍的な規範たりうるのであり、男と女が相互に相手と子どもを所有したがり、北朝鮮やシリアのような現代国家の中ですら政治権力が父親から息子へ引き継がれるのである。」
古代社会では子どもは共同で育てていたから、現代社会は連れ合いと子どもに対して所有欲が強い(very possisive)傾向があるということか。人間は一貫して核家族や一夫一婦制を志向してきたという考えが背景にあるように感じる。現在を基準にして過去を見るような視点である。古代の女たちは男の精子が自分の卵子と結びつくなんて知識はないし、男の方も自分の子どもだという確信があったというのはありえぬ仮定に聞こえる。「古代コミューン学説」のほうが事実に即しているようにわたしには感じられる。
ここまで書いてきて、ふと気が付いてしまったことがある。ライオンの群れは、一頭のオスがメス数匹を連れて群れをなすが、魚類はメスがオスを選ぶし、イヌやネコもメスは番(つが)うオスを選ぶ。そうしてみると、古代コミューンでもメスがコミューン内部のオスを選んで番っていたという仮説は有力ではないのか?誰かれ構わず番うメスやオスもいれば、特定の相手と頻繁に番い、たまには相手を変えて番う、セックスに関してはいまとあまり変わらぬのかもしれぬ。古代コミューン内部でも、セックスをめぐっては争いが絶えなかったのだろうと想像してみたくもなる。
古代コミューン学説もそれを拒絶する学説も、どちらも確証はない。性風俗に関する文献資料なんて文字が発明されるよりもはるか以前だからあるわけがないし、化石から性風俗や子育ての仕方や家族形態がわかるわけもない。だから、これら二つの対立する学説は果てしのない論争を続ける運命にある。
それにしてもハラリの文章はときに難解になる。こんな具合に考えなければならないことが次々に出てくる箇所が、たまに現れると、とっても面白いが、高校生と一緒に読むようなレベルの本ではない気がする、難関大学のゼミで読むようなレベルの本だ。この個所だけは学部のゼミでは届かない。(苦笑)
スラスラ読める部分もあるから、まあいいか。
ところで、長文を読んでいるだけでは、共通試験のリーディングや2次試験のリーディングはクリアできない。読む速度のアップと問題の解き方のトレーニングも並行してやらなければならない。彼は1か月ほど前から、ワード数によって15-20分単位くらいで、時間を計測して長文問題に取り組んでいる。500wordsの文なら20分で解くのが目標だろう。自分で具体的な目標設定して取り組む、自立とはそういうこと。塾からも自立、ちゃんと育った。8月からはスラッシュリーディングへ切り替えるから、同じ時間で現在の2~3倍の量が読めるだろう。
わたしは自分の好みで外諸講読授業にこの本をとりあげたから、いわば趣味の時間を費やすだけ。プロの翻訳家は趣味ではなくて、仕事だから、そんなに時間をかけていられぬ。そうした制限の中で、翻訳者の柴田さんは、この難解な文章をどのように訳しているのだろう。
「多くの学者は、一夫一婦制でも暮らしと核家族の形成はともに、人間社会の根幹をなす行動であると断言し、この説を猛然と拒絶する。古代の狩猟採集社会は現代社会よりも共同参加型で平等主義である傾向が強いものの、そうした社会も、それぞれが嫉妬深い夫婦と彼らが共有する子どもたちという個別の基本組織から成っていたと、それらの学者は主張する。だから、現代の一夫一婦制の関係と核家族は大多数の文化で標準的であり、男女はともに自分の伴侶や子どもに対する独占欲が非常に強く、北朝鮮やシリアのような現代国家においてさえ、政治権力は父親から息子へと受け継がれる。」『サピエンス全史』61頁 芝田裕之訳
うまい訳だね。a coupleを男女と訳したり伴侶と言い換えたり。
アンダーラインのthey(=separate cells)を代名詞のまま「かれら(嫉妬深い夫婦)が共有する子どもたち」と柴田さんが訳しているが、これでは日本語として意味をなさぬ。古代コミューン内部には夫婦と共同で育成される子どもたちという二つの基本組織単位があるというのが古代コミューン学説に感情的に反発する者たちの主張であり、後段で述べている、現代社会の一夫一婦制や核家族に見られる'very possissive(強い個別的な所有欲)'と呼応していると読むほかないのだろう。カップルについては古代のまま、子育てが共同ではなく、カップルが担う点だけが古代と異なるというのが反対論の研究者の主張である。子どもたちが核家族の一員であるとまでは言い難いので、一夫一婦制関係だけを古代のコミューンに投影して考えている。
古代コミューンでは子どもは共同で育てるし、子どもたちは共同体の子どもである。現代社会は一夫一婦制関係の核家族で構成されているから、子どもは両親の所有物で、社会の共有物ではない。古代コミューン学説に反対する学者たちは、現代の一夫一婦制関係と核家族を古代コミューンにも貫徹する普遍的なもの=人間行動の核心部分とみなす、ハラリはそういうムリ筋の主張を「感情的な反発vehemently reject」と述べているのである。
<グズベリー>
手前の淡い緑色がグズベリー、奥の濃い緑は桜、左側はハマナス
グズベリーの日当たりが悪いので先週数日かけて桜を剪定した。
グズベリーの日当たりが悪いので先週数日かけて桜を剪定した。
2020-07-15 21:12
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0