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#4077 Sapiens:p.5-6 Sep. 5, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 明日は前期期末テストの最終日である。数Ⅱが明日だというのに、教科書準拠問題集の復習は退屈でつまらないからハラリを読みたいという。数学と英語はケアレスミスがない限り百点だろうから、まあいいか。この生徒は進研模試とZ会の模試の偏差値アップにしか興味なし。(笑)
 時間はかかるが、だんだん読めるようになってきた。今日は一つだけ、代名詞 it が何を受けているのかについて確認があったのみ、もちろん正解だった。とくに解説が必要なところはなかった。面白いことが書いてあったので、その部分を紹介する。

 The more eastern regions of Asia were popurated by Homo erectus, 'Upright Man', who survived there for close to 2 million years, making it the most durable human species ever.

 it: Upright Man
  there: the more eastern regions of Asia

  makingの主語は前の文章と同じだから、分詞句となっていることはいままで何度も解説した通り。以下のふたつの単文が元。

The more eastern regions of Asia were popurated by Homo erectus.
The more eastern regions of Asia made it the most durable species ever.

 こういう二つの文章がandで接続され、そのあとで同じ主語なので後続の方が省略され、動詞のmadeが分詞句となったのだ。
(アジアのもっと東側に住んでいたのが、ホモ・エレクトス(「直立した人」の意)で、そこで200万年近く生き延びた。)柴田訳

 訳がうまいね。主語は'The more eastern regions of Asia'だが、翻訳者の柴田さんはここでは副詞句に訳している。これはよく使うテクニックだから覚えておくとよい。主語が人や生き物ではないときには副詞句にして訳すというのは翻訳の常套手段だ。この生徒は、高校3年間分の教科書を読んだ際に、こうしたテクニックを知ってはいるが、まだ十分に使いこなせていない。慣れるためにハラリの著書は便利がいい。その都度、本にマークを入れていけばいいのだ。どれくらいの頻度で出てくるか見当がつく。

 わたしの興味を引いたのはアンダーラインを引いた部分である。
 ホモ・エレクトスが約200万年にわたって生き抜いたということ、これはすごいことだ。ホモ・サピエンスが東アフリカで進化し始めたのが20万年前、そして認知革命が
7万年前である。200万年にわたって生き抜いたということは、環境に適応して生きたということであり、ホモ・エレクトスは自らの生存環境=生態系を激変させなかったということだ。生態系と共存するという姿は、鎮守の森を大切にし、生態系を破壊しないような生き方を選択してきた日本人の文化や伝統に近い。そういう選択肢が、現代の今でもあるということ。


 ホモ・エレクトスと比較したときに、ホモ・サピエンスの異様さがよくわかるホモ・サピエンスは急激に環境を変えてしまったし、いまも激変させつつある。同属を絶滅に追いやっただけでは飽き足らず、地球に生きる他のありとあらゆる生物種を絶滅に追い込んできたし、いまもそうしている。サピエンスの地上での増殖はどこか癌細胞の増殖に似ている。そうだとすると、じきに宿主を殺して自ら滅んでいく。
 地中を掘り起こして、ウランを含むさまざまな金属を取り出し、消費する。石炭も石油も掘り出して消費する。原子力発電所を数百基稼働させて、海水の表層を温め、海洋水の温暖化を進める。このままだと北極の氷は原子力発電所の排熱によってなくなるだろう。原子力発電所が生み出すエネルギーの2/3が海へ放出され、海水を温めている。
 プラスチックが海へ大量に流出して、マイクロプラスチックと化し、海産物を通して人間の体内に蓄積されつつある。いまや水道水すらマイクロプラスチックが含まれており、人間の体内でどのような影響をもたらすのか見当もつかない状況である。
 ハラリは次のように書いている。

 This record is unlikely to be broken even by our own species. It is doubtful whether Homo sapiens will still be around a thousand years from now, so 2 million years is really outoof our league.

(これほど長く存在した人類種は他になく、、この記録はわたしたちの種にさえ破れそうもない。ホモ・サピエンスはいまから1000年後にまだ生きているかどうかすら怪しいのだから、200万年も生き延びることなど望むべくもない。)柴田訳


 ところで、生徒はこの本の語彙にだいぶ慣れてきた。生物種へのラテン語名の付け方、そして個々の意味や階層構造を知ったので、何を言っているのかよく理解できるようになってきた。
 families(科)⇔genus(属)⇔species(種)
 Homo属にはsapiensである我々のほかに、Homo erectusやHomo neandelthalensisやHomo rudolfensisなどのsiblings(兄弟たち)がいる。
 ホモ・サピエンスとはホモ(ヒト)属のサピエンス種ということだ。ラテン語名の命名のしかたは「属名ー種名」になっている。たとえば、ホモ属サピエンス種だから、ホモ・サピエンス、パンテラ(豹属)・レオはライオンのラテン語の学名という風に。
 わたしたちは、ヒト科ヒト属サピエンス種ということになる。ネコ科にはライオンとチータと家猫がおり、犬科には狼とキツネとジャッカル、象科には象とマンモスとマストドンがいる。
 同種でないと交雑できないということになっているが、サピエンスと同種ではないはずのネアンデルタール人やホモ・ルドルフェンシス人のDNA解析が進み、いま世界中の種族のこれらヒト属のsiblingsたちとの交雑の程度が比較できるようになっている。種が違うと交雑できないということだったが、DNA解析からは微妙な問題がもちあがっている。広範囲に交雑している種族もあるから、一部は別種とは言い切れない存在かもしれない。そういう事情は、次回読むことになる。

 良質の原書は読み方によっては奥が深く、とっても面白いし、1頁読むごとに達成感がある。使われている専門用語が集積され、周辺知識が整理されてくると、とっても読みやすくなる。本を読む速度が上がると同時に、理解が深くなる。だから、「はじめちょろちょろ、なかぱっぱ、赤子泣くとも蓋とるな」なのだ。
 和辻の『古寺巡礼』や『風土』、西田幾多郎『善の研究』を日本語音読トレーニングで読もうかと思ったことがあったが、文脈読みのスキルを磨き、読解力をさらに育てることは、ハラリ 'Sapiens'でもできそうだ。


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