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#4004 for example の位置と文意について:センスのよい生徒の質問 May 25, 2019 [52-2 生徒の質問]

 昨日の英語の授業で、高3の教科書を読んでいる生徒から面白い質問があったので段落を丸ごと紹介する。

 There are several reasons for the problems. One is pollution.  Human, animal, and industrial waste flows into rivers and makes water unfit for use.  Another is climate change.  Global warming, for example, is thought to have bad influences on water sources and precipitation.
 『VividⅢ』p.115

   生徒の質問は太字の for example の位置がどうしてここなのか、普通は文頭にくるのではというもの。どうやら文頭に来ても意味が変わらぬという前提で質問しているようだ。次のページに for example が文頭に来ている文が載っている、中学校の教科書でも文の途中でこの句がでてきたことはない。見たことのない位置だから、違和感が生じたところは、アンテナの性能をほめるべき。

 A lot fo water is necessary to grow food.  It is reported that about 70% of the fresh water is used to agriculture.  For example, it takes about 1000 tons of water to produce 1 ton of grain.
  p.116

 新鮮な水(きれいな淡水)の70%が農業に使われており、たとえば、穀物1トン生産するのに必要な水が1000トンかかるだなんて知ってた?興味のあるテーマなら英文を読むのが愉しいでしょう。

 さて、副詞句なら、文末から文頭へ移動したら強調だと思えばいいのだが、例示を示す「for example」の場合はどうだろうか。どう理解したのか、まず anotherを含んだ文から訳出してもらった。
 「他のものは気候変動である」
 「いいね、anotherは何を受けてるの?」
 「several reasons for the problemsです
 「読めてるね、ではこういうことになるね」
 Another (reasons for the problem) is climate change.
 だから「困った問題のもう一つの原因は気候変動である」と訳したほうがいい。
 「いよいよ本題だ、文頭にもってきた場合と文の途中に入れた場合で文意が違ってくるのだが、気がついた?」
 「同じだと思います」
 「英文を読むということは、書き手が頭の中にどういうイメージを創り出しそれを伝えるために語彙を選び、語句の配置に配慮して文章にしているから、書き手が頭の中に描いたイメージを再現することなんだ。それを適切な日本語語彙を選んで、滑らかな日本語にするというのが訳出するという作業、このことはいままで何度も説明して来たね、わかっていることと、実際にやることには距離がある、この文は少しむずかしいようだ。解説したほうがいいね。」

 論理的に読めていない部分があったということ。日本語の文章でも同じことだから、この生徒は日本語の文でも同じようなレベルの本を読んだ時に、ロジカルな部分で読み間違いが生ずるはず。英文を読むことで、足りなかった部分が補えたらいい。
 文章読解力は適切なトレーニングによって磨かれるものだから、中高の国語の先生が授業でこういう読解トレーニングをしてほしい。

 文頭にあった場合は、「気候変動」の一つとして「地球温暖化」があるということ。気候変動には寒冷化もあるし、極端な場合は氷河期なんてものもある。「寒冷⇒温暖化」「温暖⇒寒冷化」への変わり目のときもある。そういう気候変動の中から、具体例として「地球温暖化」をピックアップしたことになる。
 文中にある場合は、地球温暖化はさまざまな悪影響があるが、その中から「水源と降水量への悪影響」を具体的にとりあげたということ。他にも海表面の上昇による陸地面積の減少やアラスカの永久凍土が溶け出すことで、住宅が地面に沈み込んで被害を大きくしていることや、シベリアの森林地帯の永久凍土が溶け出し、陥没して水たまりができたと思ったら、数年後には大きな沼地と化していること、ヨーロッパアルプスの山々のスキー場が、高度の低い地域に降雪量が減少して、スキー場の廃業が相次いでいること、氷河のラインがどんどん山頂へ向かって後退していることなどが、書き手の頭の中に浮かんでいると解釈すべきだろう。

 つまり、 for example の位置が違えば、書き手が伝えようとしているもの、文意が違ってくるということ。

 それぞれの要素を集合パターンで示せばもっとわかりがよくなる。
●困った問題={one=水質汚染、another=気候変動、…}
       ...他にもあるから、anotherなのです。それら全部をまとめて言うなら、 the others を使います。
●気候変動={地球温暖化、寒冷化、通常の周期的なもの…}
●地球温暖化={水源や降水量への悪影響、海表面の水位上昇、グリーンランドの陸氷の溶解、南極大陸の棚氷の流出、北極でうまれる冷たい深海水の流れの減速による海洋生態系への影響、…}

     
 問題は、書き手が何を伝えたかったかである。そこをきちんと理解してから、自分の判断を加えるべきで、自分の意見を交えて文意を理解してはならない、この場合のように誤読の罠に落ちることがある。

 この生徒の英語の学力は学年トップクラス、なかなかいい質問だった、アンテナの感度のよさを大いにほめるべきだね。お陰で授業が楽しい。ありがとう。(笑)


<余談:読解力の育成>
 この生徒は、日本語音読トレーニング授業を6年間続けて15冊読破している。最近はもう手を離れて、難易度の高い日本語テクストを独力で読めるようになった。それでも、この英文が読み切れなかったということは、わたしの日本語音読指導には工夫の余地があるということだ。読む技を伝授しているつもりでも、そうはなっていなかったことを思い知る、良質の日本語テクストを選んで読解スキルを磨くというのはなかなかむずかしいものだ。生徒に文学作品への興味がない場合はなおさらだ。
 中3の生徒が卒業してからもう2か月日本語音読指導をやっていない。一人しか希望がいないので、複数の希望者があればと思っている。月に2回、第1と第3水曜日、7時半から1時間半の授業。(これはボランティアであるから、授業料なタダ、弊塾に通う生徒でなくても希望があれば面接して認めることがある。希望者は電話してくれたら会いますよ。毎回ちゃんと出席することが条件です。)

 日本語テクストを精確に読む技がなければ、英文も読めるわけはないのである。
 大学入試英語がどんなに変わっても、難関大学の英語入試問題は、読解力の高さがモノを言うことになる。どの学問分野も、先端の論文や著作は英語で書かれたものが圧倒的に多いから、研究者であろうと仕事人であろうと先端分野にかかわる者は英語の文献を読まざるを得ない。

 この生徒が高校3年の教科書をあと1か月余で読み終われば、ハラリの『Sapiens』の原著を読む予定にしている。500頁弱あるから、高3の教科書20年分ほどの分量だ。百ページ精読したらあとは速度アップトレーニングとなる。1年半あるから、いや1年半しかないから、受験前に全部読み終われるかな。(笑)

 人生には思いがけない山が突然に現れ、そこを登り切らないことには前に進めぬことがある。成長するということはいつまでも子どもではいられぬということ。誰もが通る道。なぞなぞだね。

  

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