SSブログ

#3021 根室市長施政方針にみる「官民」という言葉のセンス Apr. 11, 2015 [82.言葉のアンテナ]

 広報「根室4月」が来た、今回から「広報ねむろ」ではなく漢字に変わったので市の広報ではないと思った。最初のページには新年度にふさわしい記事、市長の市政方針が載っている。その中からおやっと思った語彙を冒頭部分から二つだけとりあげる。いちいち言葉尻をあげつらうつもりはなく、その奥に潜む問題に光があてられたらいい。若い市役所職員の皆さんが30年後に同じ愚を繰り返さないようにと思って書いている。

-----------------------------------------
…本市は、都市部に先行して生産年齢人口が減少し、経済の主力である中小企業等では、深刻な労働力不足が生じています。
 食品製造業、交通事業者、医療・福祉・介護、建設業、いずれの業界とも、一貫して人手不足であります。
 こうした構造的な課題には、関連した事業者や行政のみならず、官民が真正面から向き合い、ともに将来を展望していかなければなりません。
 この40年余り、雇用環境に起因して、若者の流出に歯止めがかかっていない現実があります。
 「安定した雇用」、「相応の賃金」、「誇りをもてるやりがい」、この三要件を如何にして実現していくのか、その対策が求められているところであります。
 ・・・
 政策を具体化するのは、国ではなく地方自治体であり、地元に根を張った企業等であり、わたしたち「市民」です。
 ・・・
-----------------------------------------

 お気づきだろう、太字の部分がおやっと思った箇所である。
 「あなたとわたし」というときは、あなたが先でわたしは後だ。「あなたたちとわたしたち」というときもそうである。それは英語でも同じで、You and Iとは書くがI and youとは書かないのが作法である。「官民」と民間人が使うならまだあるだろう、しかし、官のトップである市長が「官民」と施政方針に書くのは言葉の使い方にいかにも常識がない。市長の市政方針原稿だから「民と官」と書くべきだ。
 ついでに言うと、最初の「本市」というのもいただけない。こういう用例はあまり見たことがない。大辞林を引いてみたら、「ホンシ」には「本旨」「本志」「本師」「本紙」「本誌」の5つの用例が載っているが、「本市」は記載がない。そのまま「根室市」とやるか「当市」とすべきだろう。ちなみに「当市」もまた大辞林には項目記載がない。しかし、ビジネス文書で自分の会社のことを「当社」とするのは普通のことで、社員向けにも、お客様や取引先向けにも使える中立的で便利な語彙である。
 それでは「弊社」もあるから、「弊市」はいいかというと、市長が市民向けに書く市政方針原稿ではよろしくないのである。「弊社」という言葉は取引先やお客様向けには使うが、社内向けには使わない。市長は公僕として根室市に仕えているのだから、市民向けに「弊市」という言葉をつかうべきではない。一段下げた言い方が「弊市」であろう。ここではたんに「根室市」とするか「当市」がいいのである。
 文書には書いた人の語彙力が出てしまう。3期目にしてこういうレベルの施政方針では困る。足りないのは若者だけではない、市長となるべき人材も足りないのである。
 複数の上場企業あるいは上場準備中の(そのご店頭公開上場済み)企業で3000件以上の稟議書や購入協議書、ビジネス文書を見てきたが、文書能力の低い者は概して仕事の能力も低い。市長が助役時代、そしてそれ以前にどういうレベルの仕事をしてきたかが、たったこれだけの施政方針文章からうかがい知ることができるのである。
(2期は無投票当選、3期目はようやく選挙になったがにわかに立候補した女性の東京都目黒区議、それでも現職(8456票)の半分以上の得票(4646票)を得た。地元の対立候補が3期続けて出なかったということは、市長の器をそなえた人材が居ないのだろうか、根室の行く末が心配になる。)

 たったこれだけの文で2箇所気になった。これ以上書くと言葉尻をあげつらうことになるのでやめておく。次の世代を担う若い人たちは中高時代は一生懸命に勉強し、社会に出てからも勉強を怠らず、正直に誠実に仕事をし続けてもらいたい。スキルは年々歳々あがっていく。どうやらそうはしなかった者、学ぶべき反面教師の姿がここにある
 ebisuはこの「市政方針」を読み、裸の王様という寓話を思い出してしまった。「市役所村の住人」はだれも「王様は裸だ」と言わない。

 高校を卒業して市内で就職先を見つけて根室で暮らす若者たちでも、しっかりした先輩や上司に鍛えられたら、30歳になるころにはきちんとした体裁のビジネス文書が書けるようになるし、一人前の仕事人になれる。高校時代は勉強を一生懸命にすべきだが、そこを部活ややる気が起きなくてスルーしてしまった若者は、正直に誠実に仕事をして、その都度必要な本を読み続けることでスキルを磨いてもらいたい。大学行かなかったからと泣き言をいうのはみったくナシだけだ。社会人になってから大いに勉強すればいい、そして5年10年間努力を続けて根室を担える能力を備えた立派な大人へと成長してもらいたい

 お粗末な「市政方針」の内容については、次回、簡潔に問題点をメモしていく。

 根室市の将来に関わることだから、市民の皆さんはどうか「広報根室4月号」の施政方針を熟読いただきたい


<余談>
 60年以上の歴史のある大企業の課長職には文書能力の低い者がまざるが、部長職の文書能力は比較的高い。ある程度の文書能力がなければ稟議書は通らないから、課長職から部長職への昇進で自然に淘汰されてしまうのだろう。
 そういう目でこの「市政方針」を眺めると、できの悪い課長職の作成文書に見える。言葉が空疎で有効な具体策も期限もない、問題点があるのみである。民間企業は問題を増やすために人を雇うのではない、解決するために人を雇う。
 何をいつまでにやるのか、それがはっきりしない「市政方針」には合格点はやれない。わたしが上司なら最初の4分の1くらいに朱をたくさん入れることになるだろう、後はばかばかしくてやっていられない。「これではダメだから最初のほうだけ朱を入れた、参考にして2日間で書き直しておいで」と伝える。こういうレベルの管理職には優秀な部下も権限も預けられないから、ラインの管理職から外すことになる。部下をつけずにスタッフとして働いてもらう。

<余談-2>
 もう何年前のことになるか、根室に内閣総理大臣が来たことがあった。その折に市役所建物に大きな垂れ幕が掛かった。
 「歓迎 内閣総理大臣様」だったか、「歓迎 ○○内閣総理大臣様」(○○の部分は氏名)だったか忘れたが、テレビにも映った。敬称に様をつけて恥を全国にさらした。こんなことも市役所部長職や市長がチェックできなかった。いや、やったのは部長職だったのではないか。
 部長職はある程度の幅の教養や常識が必要なのだが、人材が居ないのか課長職すら任せられないような人材が部長職のポストに就くことがあるようだ。勤務医を騙って品の良くない投稿を弊ブログにした市立病院管理職がいる。ブログ・ニムオロ塾があるのを知っていたら根室には来なかった、ニムオロ塾があって腹が立つから市立病院をやめようと思っている、責任はebisuにある、そういう内容だった。勤務医を騙って投稿するようなお下劣な管理職まで居たが、いったい根室市役所の管理職はどういう基準で任命しているのか訊いてみたい気がする。
 いまは大丈夫だろうか?市役所の管理職は、定型外の仕事や部下の指導ができているのだろうか?
 若い職員皆さん、研鑽を積まないと、50歳を過ぎて市役所部長職となり同じような愚を繰り返すことになるからご用心。

*4月11日現在、広報根室は市役所のホームページにまだアップされていません。
http://www.city.nemuro.hokkaido.jp/dcitynd.nsf/0/C5BA49B257175EBA492570C300446F71?OpenDocument

*#3022 平成27年度根室「市政方針」論評  Apr.11, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-04-11-1


にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 根室情報へ
にほんブログ村 


nice!(0)  コメント(3)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 3

通りすがりの大学生

ebisuさんのブログを読んでいると文書能力は社会に出てから大事なんだなあ、と感じさせられます。
沢山のビジネス文書を見てきたebisuさんが他人の文書能力の有無を判断する際に、どういったポイントに着目した上で、この人は文書能力がある、またはないと判断しているのか、差し支えなければ教えていただきたいです。
また、社会で通用する文書能力を鍛えるためにはどういったことをすべきなのか、そして心がけていけば良いのかについてebisuさんのアドバイスを伺いたいです。
by 通りすがりの大学生 (2015-04-11 17:31) 

ebisu

通りすがりの大学生さん

>沢山のビジネス文書を見てきたebisuさんが他人の文書能力の有無を判断する際に、どういったポイントに着目した上で、この人は文書能力がある、またはないと判断しているのか、差し支えなければ教えていただきたいです。

文書をビジネス文書を含む一般的な文書そして学術論文と文学的な文章の三つに分けてみたら、1地番目の文書は、言っていることがわかりやすいと言うことです。2番目と3番目は論じません。あえて言うと、2番目は形式も大事ですが内容のほうがもっと大事ということ。長くて難解な文章がもてはやされたりします。

社内文書を見ていると、わけのわからない表現が多いのです。何を言いたいのかがわからないというのはダメ文章。だれがよんでも、1回では言いたいことがわからない。初見で内容がはっきり伝わったら、○です。

あなたの最初の数回の投稿文は模範的な論旨のはっきりした文章でした。学生の内から、これほどの文章力があれば十分です。
小樽商大を3月に卒業した生徒が昨年よこしたメールが、ビジネス文書としてそのまま使えそうなほど洗練されたものでした。いい文章が書けるようになったねとほめました。少女時代は本の虫というのが幼馴染の評。良質のテクストをたくさんインプットしたのでしょう。
本をたくさん読んだ人は、自然に文章語を使いこなすことができるようになるので、書かれた文章から読書量と読んだ本のレベルが想像つきます。ある程度の本を千冊インプットしたら、一人前の文書は誰でも書けます。
読めばわかると言うのがほんとうのところかな、でもそれでは納得しないでしょう。

ビジネス文書では具体的だということが大事な要素ですね。いつまでに誰が何をどのようなやりかたでするのかが読み手にしっかり伝わるような文書であれば、文書能力も仕事の能力もともに高いと判断します。会社の稟議書でもやたら分厚いだけで、言いたいことの焦点が絞られていない総花的なものが多いのです。分厚い資料でありながら、絞り込んだピントが良くわかるものが優れています。
A4版の用紙3枚くらいに論点を3~5くらいに絞込んで記述し、あと数十枚から説明資料をデータと共につけるくらいがいいのではないでしょうか。

ビジネスで最高クラスのできだと印象に残っているのは、国際金融機関であるベルトハイムシュローダ社が持ってきた染色体画像解析会社Vivigene社の買収提案資料でした。経営分析や会社の評価方法についてよく勉強している人の書いた文書でした。百枚以上あったかな。

あとで市政方針載っている広報根室のURLを貼り付けておくので、読んでみてください。いつまでに何をやるのかが脱落しています。典型的な仕事のできない人の文章です。いつまでに何をが抜けていると、毎年、同じものを化粧直しして掲げられます。
市の町づくりビジョンは「第○次××計画」というように典型的なダメ文書です。
別な言い方をすると、戦略目標を3~5項目掲げ、それを達成するために戦略が具体的に記述できていれば、市政方針としては100点です。
by ebisu (2015-04-11 19:20) 

ebisu

次のような感想が書かれていたので、文書作成の能力と仕事の能力について気がついたことを補足しておきます。

>ebisuさんのブログを読んでいると文書能力は社会に出てから大事なんだなあ、と感じさせられます。

部長職や取締役には文書能力の高い人が多いというのは観測から得られた事実です。勤務した上場企業3社と合弁相手先企業1社の部著職や役員が観測の範囲です。

課長職から部長職へ昇進するためには課長職同士の競争を勝ち抜かなければなりません。役員へのゴマすりも有力な手段の一つですが、基本は仕事で実績をどれだけ挙げることができたかです。
大きな仕事は必ず稟議が必要ですから、説得力のある稟議書を書けることと、書いた以上の実績を挙げることが、競争を勝ち抜く条件の一つになります。

高い文書作成能力は、良質のテクストを大量にインプットすることで育ちます。文書作成能力の高い人は、本を大量に読んでいます。読みの速度が大きくて適確だということ。つまり仕事にに必要な分野の専門書を読むのが速くて短期間に内容をしっかりつかみ、仕事に応用できると考えると、文書作成能力と仕事の能力には強い正の相関関係のあることが了解できるでしょう。

数学も英語も両方できる人は、数学か英語のどちらかが不得手な人に比べて、格段に広い分野の専門書を短期間に何冊も読破可能です。
統計学でいうと、文科系の学生向けの本よりも、数式を多用した本のほうが簡単にそして精確に内容を理解することができます。数学ができるかどうかはさまざまな分野の専門書や学術論文を読むのにじつに重要で決定的なことなのです。

医学や生物学の分野の学術論文はそのほとんどが統計的に処理されたデータに裏づけされています。そのデータの信頼性を精確に評価できるかどうかは、内容の理解と切り離すことができません。

もう一例角度の違うものを挙げましょう。プログラミング言語は一部の例外(述語論理プログラミング言語のProlog)を除いて、英語でできていますから、略号をみて、元の単語をつねにイメージして仕事をやっている人と、そうではない人では年々差がつきます。そして先端分野はつねに翻訳が遅れるので、原書を読まざるを得ない。そのときに英語が苦手だとアウトです。翻訳書が出る数年後を待たなければならない。研究者の少ないあるいは読む人の少ない専門分野の先端の本は翻訳されないでしょう。そうすると、英語の専門書がそのまま読めるか否かが仕事の能力に大きく影響します。だから、仕事で必要なのは英会話の能力ではなくて、仕事で必要な専門書を原書で短時間に深く読めるかどうかなのです。

通りすがりの大学生さん、あなたはいままで述べたすべての条件を満たしているようです。スキルを磨き続け、なりたいものになってください。


by ebisu (2015-04-12 12:21) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0