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#2453 仮定法とは何か(5):国文学者の見解ー2  Oct. 17, 2013 [80.英語談義 (コメント欄から)]

 台風26号の影響で、午後3時頃から暴風雨、ノサップ岬では最大35.9m/秒の風。夜の10時ころになってようやく静かになってきた。北風だったので気温がぐんぐん下がり、午後8時頃には5.2度に下がった。10度もいきなり下がるとは、普通は台風崩れの温帯低気圧は生暖かい南風を運んでくれるのに逆だ。道内各地で積雪あり。旭川、帯広では雪が積もっている。
 今朝は一転して秋晴れ、庭を通り抜ける冷たい風が気持ちいい。

 さて本題である、古典と英語の subjunctive を比較検討した国文学者がいた。なんとクロスオーバーな世界よ。中高生や大学生ばかりでなく、中学校の英語の先生も高校の英語の先生もebisuと一緒に勉強してみよう。

 小西甚一著『国文法のちかみち』から2回目の引用、221頁、はじめちゃうよ。

(青字はebisuが太字にした)
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 練習 13
次の文章における坊さん部分を現代語訳せよ。(出典「堤中納言物語」)

 女、使ふ者とさしむかひて泣き暮らす。「心うきものは世なりけり。いかにせまし(イ)。おし立ちて来むには(ロ)、いとかすかにて見えむも(ハ)、いとみぐるし。いみじげにあやしうこそはらめ、かの大原のいまこが家へ行かむ。かれよりほかにしりたる人なし。」かく言ふは、もと使ふ人なるべし。「それは片時おはしますべくもはべらざりしかども、さるべき所の出で来むまでは(ニ)、まづおはせ」など語らひて、家のうち清げに掃かせなどする心ちも、いと悲しければ、泣くなく恥づかしげなるもの焼かせなどする。(20分以内)


 答え:(イ)どうしたら、よいでしょう。 (ロ)もし強引におしかけてくるようなばあいには。 (ハ)ひどくみすぼらしい様子で出てあうようなことになっても。 (ニ)ぐあいのよい所が見つかるかもしれませんから、それまでは。


ある男が、他の女性と仲よくなり、彼女と結婚するため、いまの妻と離婚しようという気になった。そのため、親密になっている女性を同居させてたいと、妻に申し入れた。これは離婚するための工作だとさとった妻が、侍女と悲嘆にくれながら相談しているところ。(イ)は「もし何か手だてを考えるとすれば」といった気持ちが省略されている。(ロ)は「いまは押しかけてきているわけでないけれど」という気持ちが、(ニ)は「いまは見こみがないけれど」という気持ちが、それぞれ裏に含まれており、Subjunctive mood である。「む」は終止形と連体形が同じだから、その下に「こと」「もの」「とき」などいう体言を補うことができるかどうか、よく吟味していただきたい。
 連体形の「む」は仮想になるけれど、かならずしも仮想とまでは言い切れない「む」も、ときどき出てくる。つまり、言いかたをやわらげる「む」がある。

   そのうちとけて、かたはらいたしと思(オボ)されこそ、ゆかしけれ。 (源氏「帚木(ははぎき)」)

頭の中将が光源氏のところに来ているラヴレターをさかんに見たがるので、源氏が「構わない分だけ見せてあげよう。冷や汗ものが交じっているかもしれないから...」と渋るので、頭の中将が、「そのプライヴェイトな、見られてはこまるようなのこそ、ぜひ拝見したいね」と責めたてるところ。この「む」も、しいて説明すれば、見られてこまるかどうか現にわかっているわけではないけれど、もしそんなふうにお感じになるなら、その手紙を...といった気持ちの Subjunctive mood になるが、実際には、そういった気持ちをどこかに匂わせて、言いかたをやわらげたものである。英語でも、
   I wish you would change the topic.
というような would の使い方がある。もし他のことを話していただけるなら、そう願いたいといった気持ちをどこか匂わせて、やわらかに頼むわけ。
      Would you please change your topic?
      Would you mind changing your topic?
      Could you change your topic?
などの would や could も同様で、ふつう
      Could softens can in much the same way as "Would you please....." softens "Will you please ....." in making requests.*(1)
と説明されている。推量の「む」に勧誘という用法があることは前にのべたけれども(207頁)、推量がすぐ勧誘に変わるのではなく、このようなSubjunctive mood にもとづいた「やわらげる言いかた」をとおして勧誘になるのだと考えられる。

   さむべきかたなく堪へがたきは、いかにすべきわざにかとも、問ひあはすべき人だになきを、忍びて参りたまひなむや。<気分ノ転ジヨウモナク、タマラナイノヲ、ドウシタライイノダロウト、相談デキル相手サエナイノダカラ、そっとオイデニナリマセンデショウカ。>

「参りたまひなむや」の「な」は、確述の「ぬ」の未然形で、強く誘いかけた言いかたであるが、同時に「む」を使ってそれをやわらげたもの。Arthur Waley の訳では、
   Will you not come to me secretly?
となっているが、直訳すれば、
   Would you mind coming to me secretly?
のほうが近いかもしれない。もうひとつ源氏物語の例。

   鳴りたかし。鳴りやま。はなはだ非常(ヒゾウ)なり。座をひきて立ちたうびなむ。<サワガシイ。オ静カニサレマショウ。マコトニ不届キデゴザル。御退席ニ相ナリマショウ。>

光源氏のむすこに字(あざ)をつける儀式の席で、儒者のしかめつらしい様子を皆がおかしがって笑うので、儒者がしかりつけることばだけれど、貴族にくらべれば身分の低い儒者のことなので、遠慮して「む」を使ったのである。ふつうなら "Be quiet!" "Get out!" とどなりつけるところだが、特に
      Would you please be quiet?
      Would you mind leaving your seats?
のような言いかたをしたわけ。そこにまた儒者らしいおかしさが出ている。これらの would は、裏に「もしおさしつかえなければ」という気持ちが含まれており、たいへん丁寧な言いかたになる。
 言いかたをやわらげる「む」は、ばあいによって、いろいろに訳するけれど、<...ヨウナ>を使うと、わりあい当てはまることが多い。

   今夜(こよひ)来人にはあわじ織女(たなばた)の久しきほどに待ちもこそすれ。<今晩来ルヨウナ人ニハアウマイ。>  (古今)

   さてこそは、上襲(うわおそひ)たら童も参りよからめ。<ソレデコソ、ウワッパリヲ着テイルヨウナ子モ、アガリヤスイデショウ。> (枕冊子)

前後の関係で<...ヨウナ>を使うと不自然になるときは、「来む人」を<来ル人>と訳し、「着たらむ人」を<着テイル人>と訳するような工夫も、もちろん必要である。

 ―まとめの練習問題―

1 秋の野に道もまどひぬ松虫の声する方に宿やからまし
 [凡訳] 松虫ノ声ガスルアタリニ宿ヲ借リヨウカ。
 [適訳] ドウセ宿ヲ借ルナラ、松虫ノ声がスルアタリニ借リヨウカ。

2 さ言はにかしこく、言わざらにもわろかるべきことかは。
 [拙訳] ソウ言ウノガスグレテオリ、言ワナイノガワルイナドイウハズノコトガアロウカ。
 [適訳] ソウ言ッタトコロデ、ソレガスグレテオリ、ソウ言ワナイトシテモ、ソレガ劣ッテイルナドイウハズノコトガアロウカ。

3 言ひそめつることは、さてこそあら
 [誤訳] イッタン言イ出シタコトハ、キットソウデアルダロウ。
 [正訳] イッタン言い出シタコトハ、ソレデ押シ通シタラドウ? 

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*(1) 'Will you.....?'がrequestだと書いてある。上司が部下に書類のコピーを頼むときに使うような言いかたである。そういう関係でないときは少し表現を和らげて過去形の'Would you.....?'を使うのが正しい。
 この辺りの説明をしっかり読んで、表現のニュアンスを理解できるようにしておけば、英語の小説を読む楽しみが十倍になる。言外の意味が自在に理解できるようになると、行間を読む楽しみが増える。

 まとめの練習問題をやった人は、反実仮想が理解できているのといないのでは、文章の味わいにたいへんな差が出ることが了解できるだろう。さあ、英語の小説を読んでみよう。社会人のみなさんはいままで読んだことのある英語の小説があったら、subjunctiveだけに焦点を当てて読み直してみたらいい。勉強熱心な人はノートに書きつけて、ひとつひとつ和訳をしてみたらいい。いままで「凡訳」「拙訳」「誤訳」の山を築いていたことに気がつくかもしれない、微妙なニュアンスが読めて楽しい作業になると思う。


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*#2423 'IAEA members give grief over leaks' Sep. 28, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29

 #2435 "#2423の一文解説" Oct.4, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-04-1

 #2443 仮定法ってなんだろう?(1):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-09-1

 #2444 仮定法ってなんだろう?(2):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-10-1

 #2445 仮定法ってなんだろう?(3):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-10-2

 #2446 仮定法とは何か(1) : Boys be ambitious. Oct. 11, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-11

 #2447 仮定法とは何か(2): 概念規定と基本型 Oct.13, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-12

 #2449 假定法とは何か(3): Swanの説明 Oct. 14, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-13-1

 #2452 仮定法とは何か(4):国文法学者の見解 Oct. 16, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-16

 #2453 仮定法とは何か(5) : 国文学者の見解ー2  Oct. 17, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-16-1



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