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#2452 仮定法とは何か(4):国文学者の見解 Oct. 16, 2013 [80.英語談義 (コメント欄から)]

 仮定法の4回目は国文法学者によるsubjunctiveの解説をぜひ紹介したい。
  小西甚一著『国文法ちかみち』初版1959年、洛陽社刊
                    2007年改訂41版 1200円

 この本は絶版なっていないから、書店で注文すれば手に入る。
 国文法の本になぜ英語のsubjunctiveがと思われる方が多いだろう。この先生は国文法の学者だが、広く言語学を学びたくて米国に留学して言語学を学んで帰国している。英語の言葉表現を日本語に置き換えるとなんだろうと、つねに頭の中で比較対照作業をしていたようなのである。
 そのような「遊び」をしているうちに、日本の古典文学の素養があるから、現代文の中にではなく古典の言葉表現に英語の古い言い回しであるsubjunctiveがあることに気がついたのだ。だから、節のタイトルに「仮想(subjunctive mood)を充てている。
  だれがsubjunctiveを仮定法と訳したのかは知らぬが、この「仮想法」という名称が普及していてくれたらずいぶん誤解が少なくてすんだだろう。ドイツ語の接続法との名称上の関連が途切れてしまうが、それでもこの命名はセンスがいい。名が体を表している。
 英語の勉強に日本古典文学や古典文法の素養があったほうが、理解が深まることは諒解いただけるだろうと思う。

 さわりだけでもう読みたくなったのではないか?
 じらしていないで前置きを切り上げて、期待に応えたい。219~225頁まであるが、練習問題のところを省いて引用する。
 この練習問題の解説のところが、假定法を学ぶ者にとってはじつに興味深い内容を含んでいる。そして次の節「[ト] 希望」もsubjunctive moodそのもの。限がないが、第5回が必要なようだ。
細切れで申し訳なく思う。じらしているわけではない、手が遅いだけ。

=============================

 [へ] 仮 想 (subjunctive mood)
 未来をあらわす助動詞shallやwillなどが、使い方によってSubjunctive moodをあらわすことは、よくご存知のはず。そのなかで、事実でない事柄(unreal, contrary to fact, or hypothetical conditions in present or future time)を仮想する言い方があることも、英文法でお習いだろう。たとえば、

   If she should win the contest, we would be much surprised.

 というとき、だいたい「あのご面相でねえ...」といった気持ちである。美人コンテストに通るなどということはぜったい有り得ないと当人以外はで誰でも認めているのだが、彼女はだんぜん応募した。でも、奇跡ということもないとはきめられないから、万一...といった感じがshouldであらわされている。これを古典語に訳するなら、

  かの君かたちくらべに勝たましかば、いとあさましかりなまし

といったところだろう。推量の助動詞「まし」はこのような「事実でないことがらの仮想」に使われる假定条件のほうはたいてい「ましかば」が使われるので、標準的な形としては、

   ましかば...まし=should ... would     26

と憶えておくのがよろしい
 しかし、ばあいによっては「ましかば...まし」の形にならないことがある

  ひとりのみながむるよりは女郎花わが住む宅(やど)に植えて見ましを。

条件を示すほうの「ましかば」がないけれど、これは「植えましかば」という気持ちが省略されているものと考えられる。英語でも、次のような言い方がある。
   He might transfer to another university next year
.
彼の赴任がnext yearなのにmightと過去形を使うのはおかしいようだけれどこれも仮想のひとつであって、裏に If he could do so という気持ちがある
 「まし」を使った仮想は「事実でないことがら」に対するものだが、奈良時代では特に「事実と反対の事がら」を仮想する。たとえば、

  大船に妹のるものにあらませばぐくみもちて行かましものを。(万葉・巻十五)

新羅へ使いに行く人が、妻と別れを惜しんだ歌である。妻は一緒に行くことができない。それは明らかな事実である。その事実をちゃんと認めたうえで「仮にいっしょに船に乗れるものなら」と、反対のことを仮想しているのである。ある学生が、
   If I went the professor, I would give easier tests.
と嘆いたとする。彼が先生でないことは明らかな事実である。その事実をちゃんと認めたうえで、「仮に先生であったなら」と反対のことを仮想しているわけ。もちろんその先生がやさしい問題を出してくれないという事実も、はっきり認めているのである。なお、「ませ」は「まし」の未然形だが、平安時代より後は消えていくから、90頁の活用表には省いてある。
 奈良時代の「まし」は "If I were....."にあたるような「事実と反対の仮想」だが、平安時代より後の「まし」には、かならずしも「事実と反対」とまではゆかない程度の仮想が出てくる。たとえば、ない大臣伊周(コレチカ)のからまだ何も書いていない冊子(綴じ本)をおもらいになった中宮定子が、そばの者たちに、
   「これを何に書かまし。」
と話しかけられた。(枕冊子跋文)。このばあいの「まし」は、別に contrary to fact というほどでもなく、まだ事実になっていない事がらを仮想したものである。学者によっては、こんなふうに疑問語を伴った「まし」は「む」と同じ意味になると説明されるが、そうではない。やはり裏に「もし書くとしたら」という気持ちがこめられているのであって、単なる推量である「む」とは同じでない。もっとも、いわゆる院政時代(十二世紀頃)になると、

  行き暮れて木(こ)の下陰を宿とせば花や今夜(こよい)の主ならまし  (平家物語)

のような例が出てくる。院政時代からだんだんに中世語法になっていくことは、前に述べたとおりで(189頁)、古典語としてはあまり気にしなくてよい例外だけれど、この例だって、しいて説明するなら、裏に「もし主を求めるとすれば」といった気持ちがあるのだといえないこともないようするに「まし」がひとつだけ使われているときは、何か假定条件がないか考えてみる癖をつけていただきたい。たとえ訳文には出てこなくっても、きっと得るところがあるだろう
 仮想法は、「まし」だけでなく、助動詞「む」によっても言いあらわされる。もっとも、このばあは、連体形に限るから、よく注意していただきたい。

   思はむ子を法師になしたらこそ、心ぐるしけれ  (枕冊子)

これを「かわゆく思う子を坊さんにしているのこそ、つらいものだ」と訳したら、まちがいである。それなら、原文が「思ふ法師になしたるこそ、心ぐるしけれ」でなくてはならない。これらの「む」は、どちらも仮想を表すものであり、仮にかわゆく思う子があるとして、もしもその子を坊さんにしていることがあるとすれば、それは...」という気持ちなのである。つまり、事実としては、思う子もなければ、法師にしているということもないその事実と違うことを仮想するのが「む」のはたらきである

  けふこの山造る人には、日三日賜ふべし。また、参らざらむ者は、また同じ数とどめむ。
<今日コノ雪山ヲコシラエル人ニハ、休ミヲ三日クダサルハズデス。マタ参上シテナイヨウナ者デモアレバ、同ジ三日間ダケ外出禁止ニシマショウ。>  (枕冊子)

命令にそむく者なんかあるはずがないけれど、仮にそむく者があるとするなら.....という気持ちが「む」に含まれている。「とどめむ」の「む」は終止形だから、仮想ではない。

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 大事なところを抜き出して箇条書き風にまとめてみた。

①反実仮想の助動詞「ましかば...まし」が英語のsubjunctiveそのもの
推量の助動詞「まし」はこのような「事実でないことがらの仮想」に使われる假定条件のほうはたいてい「ましかば」が使われる。
③標準形⇒ましかば...まし=should ... would     26
ばあいによっては「ましかば...まし」の形にならないことがある
条件を示すほうの「ましかば」がないけれど、これは「植えましかば」という気持ちが省略されているものと考えられる。
奈良時代の「まし」は "If I were....."にあたるような「事実と反対の仮想」
ようするに「まし」がひとつだけ使われているときは、何か假定条件がないか考えてみる癖をつけていただきたい。たとえ訳文には出てこなくっても、きっと得るところがあるだろう
仮想法は、「まし」だけでなく、助動詞「む」によっても言いあらわされる

 仮想法の本質は反実仮想である、条件節がない場合にはそれはないのではなく、頭の中で反実仮想されている。だから、文意を読み取るときには、その部分を補って常に読み取る訓練をせよというのが著者の主張だ。
 subjunctiveの概念の整理は#2447でやっているので、そちらと比較対照してほしい。ebisuの概念分類と小西甚一氏の説明は基本的に一致している。仮定法という命名は名と体が異なるので、今後は「仮想法」あるいはドイツ語の接続法との関連を意識した「亜型接続法」と呼びたい、賛同いただけるだろうか。


 ハンドルネーム「後志のおじさん」から反実仮想の助動詞「ましかば...まし」がsubjunctiveだとコメント欄で示唆されなければ、ebisuはここにはたどり着けませんでした、感謝しています。ほかに、Hirosukeさんと「合格先生」がたいへん興味深いコメントをたくさん書き込んでくれています。後ほどまとめて本欄へアップするので、パソコンで見ている人は、ワードに興味のある部分をコピーしたらいかがでしょう。

 文中に出てくる「枕冊子」は「枕草子」の別表記であることにほとんどの人が気がついたでしょうね。英語の先生たち、古典文学を読み、古典文法に親しんでください、きっとあなたの授業が百倍楽しくなります。

 じつはebisu、1年間市街化地域の3校の英語の授業を見学させていただいて、それなりに上手な先生がいらしたが、判で押したように似ていたので薄っぺらに(ごめんなさいm(_ _)m)感じてしまいました。マニュアルでもあるのかと思うほど似通っていましたよ。たまたま、見たときだけそうだったのかも知れませんが、こういわれて反省すべきこと、改善すべきことはありませんか?
 専門分野をきっちり教えきるためには英語の勉強だけでは英語は教えられないのです。假定法の次の回も面白いのでぜひご覧いただきたい。

 根室の子ども達の学力は全道14支庁管内で最低レベルの学力はまぎれもない事実です、そしてわが北海道が全国最低レベルの学力であることも事実。そう生徒に伝えると生徒はこう言います。
「え、先生おれたち(わたしたち)全国最低なの?」
 進学や就職を求めて生徒達の大半が根室を出てきます。学力は根室を出た生徒達にとって数少ない武器です。しっかりした学力をつけさせて根室から送り出してやるのは、わたしたち教育に携わる者の責任です。

 根室のこどもたちの学力を上げるためには、教える先生たちの学力が高くなければならない。
 教師になって何年たっても、こどもたちの一生を左右する職に就いているという自覚を忘れないでいただきたい
。だから、教師は「聖職」といわれるのです。

(昨日のアクセス数は3170件でした。この1週間でアクセスが3000を超えた日が2度ありました。やはり逆効果ですね。見るなといわれたら、余計に見たくなるもの、それが人間。
「#2521 ブログ「ニムオロ塾」をみていはいけない」はこれ以上とりあげるつもりはありません。だれしもまちがいは犯すものです、根室教育長は深く反省しわたしたち地域社会と協同して、根室の子ども達の学力を上げる仕事に専念して下さい。



*#2423 'IAEA members give grief over leaks' Sep. 28, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29

 #2435 "#2423の一文解説" Oct.4, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-04-1

 #2443 仮定法ってなんだろう?(1):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-09-1

 #2444 仮定法ってなんだろう?(2):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-10-1

 #2445 仮定法ってなんだろう?(3):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-10-2

 #2446 仮定法とは何か(1) : Boys be ambitious. Oct. 11, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-11

 #2447 仮定法とは何か(2): 概念規定と基本型 Oct.13, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-12

 #2449 假定法とは何か(3): P.E.UからSwanの説明 Oct. 14, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-13-1



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