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#1570  学力と語彙力の関係(1):総論 July 5, 2011 [64. 教育問題]

 母語の語彙の広がりと運用能力が中学生の学力全般に大きな影響を及ぼすことは漠然と感じていたが、今回の期末テストデータを分析したら国語の成績が50点以下の生徒と51点以上の生徒にきれいに分かれたので驚いた。
 全学年を通じて国語の点数が50点以下の生徒には5科目合計点が250点を超えた者は一人もいなかった。70点以上の生徒は全員330点を超えていた。国語が80点を超えないと5科目合計点は400点を超えないようだ。中1年生は国語の成績のいちばんよかった生徒がその学校の学年最高得点の450点付近にいる。
 国語の成績が50点以下の生徒のグループと70点以上のグループの5科目合計点にはおおよそ200点の開きがある。明日データを「#1572 学力と語彙力の関係(2)」**にアップするので見て欲しい。日本語力はこんなに総合学力に差をつけている

 中1のクラスにとくに日本語語彙の貧弱な生徒が多いと私は感じている。日本語で説明しているのにもかかわらず、通じないケースがままある。
 数人の生徒は私の話す内容のうち、自分たちが理解できる語彙のみをピックアップして聴いているようだ。前後の脈絡がなくなるから、聞き違いが頻繁に出る。
 たとえば、単純な英作文「彼のお父さんは先生ではありません」という日本語文を説明するときに「主語は三人称」というと、「三輪車?え??」と声を上げる。この問題は英作文の三番目の問題だから、話の前後関係から三輪車が出てくるはずはないのだが、"主語"という言葉を聞き逃しているから、知っている語彙の中から脳が「三輪車」を選び出してくるようだ。
 そこで「"主語"って言葉知っているか?」とこちらから訊いてみると案の定わかっていない。"言葉の説明をする。コンテキストが読めていないのである。本を音読させてもそうした傾向は顕著に出る。先読みができないから、つかえるし、ひらがなが続くとどこで区切ったらよいのかわからなくなる。中1は日本語の音読テキストに『読書力』(斉藤孝著/岩波新書)を使っているが、ときに1ページで10個も読めない漢字がある。日常会話以外の語彙がほとんど頭の中にないのである。本を読んでいないからだ。読まないものは読めるようにはならぬもの。読書力は本を多読することでしか身につかぬものということだ。
 もちろんこれらの生徒たちは普段の学校の授業でも先生たちの話す内容がわからないだろう。発せられる単語のうちから自分の頭の中にある語彙を選択して、それのみを前後の脈絡なく聞いているようでは先生の話のほとんどがわからないから退屈になりお喋りが始まったり、手が動いて別のことをし始める。他の生徒に比べて集中力が格段に落ちてしまうのである。
 こういう生徒たちが30%を超えると、クラス全体の集中力や学力へも影響し始めるから要注意だ。ニムオロ塾では指名して放課後補習に強制的参加を義務付けることになる。放置しておくと他の生徒へ迷惑がかかる。

 国語=日本語能力はすべての科目の基礎力をなしているから、そこが劣る生徒たちは学力底辺層形成することになる。母語の語彙のゆたかさ=日本語力は学力に大きく影響しているのである
 語彙の貧弱なお子様向けの恋愛小説を読み漁って、読書レベルを上げられない女子がいる。読む速度はクリアしているのだが読解力がついてきていないから、国語の成績が不安定になり、総合成績が下位層を抜け出られない。生徒がもっていた本を見せてもらってチェックしたが、語彙力強化という点から見ると中学生向けの恋愛小説の類は漫画の本や児童書と同レベル。
 中学生は読む本のレベルを意識的に上げて、母語の語彙力アップをすべき季節にいるといえるだろう。成長しているのは身体だけではない、精神が急速に成長し始めるのが中学生であり、読書は精神レベルをあげるために重要な栄養素のひとつに数えられるだろう。季節にふさわしい本あるいはすこし背伸びしたレベルの本を読むべきだ。

 話を転じて、英語を理解する上で母語の語彙が重要になることを例示したい。「英語を英語のままで理解する」重要性を強調する人もいるだろう、そして長い時間をかけて自然にそうなることを認めつつ、「英語を日本語に置き換えて理解すること」もある時期はそれ以上に重要なのである。母語の語彙力が貧弱な者は英英辞典を有効に使えないと思うのだ。
 どういうことか具体的に話さないと納得がいかないだろう。次の文は7月3日のジャパンタイムズ紙の社説からの抜粋、時事英語の授業で採り上げる予定のものである。
 根室は沿岸漁業が主力産業の町だから、海に関する記事には注目して授業で採り上げているが、今回採り上げたeditorialのタイトルは"The Dying oceans"となっている。「臨終の瀬戸際にある海洋」あるいは「死の淵にある海」。沿岸漁業で生きる町、根室の問題として捉えてほしい。

 ・・・
 ISPO found that entire ecosystems, like coral reefs, are dying, complete populations of certain species of fish are close to extinction and population is at an all-time high. These various factors are bad enough in isolation, but the comprehensive study found that add up much more quickly than previously understood.
 ・・・

*IPSO:a consortium of scientists, the International Program on the State of the Ocean (海洋の現状に関する国際問題・科学者協会)

  記事本文は次のURLにあるので、興味をもった人はクリックして全文をお読みいただきたい。
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/ed20110703a1.html


 中1の生徒たちは、書き言葉が理解できないと日常会話ではない話(授業)すら聞き取れないことを示してくれている。コンテキスト(前後関係)の中で語彙を捉えないと、語彙の意味すら確定できないことがあることも。
 さて、英語の学力の高い高校生用の教材にピックアップした記事からの抜粋だが、緑色の部分を日本語語彙に置き換えてもらいたい。もちろん、文全体の意味もつかんでほしい。そうでなければこの2語を適切な日本語で表現できないからである。
 英英辞典を引いて利用するにはその人がもっている日本語の語彙が重要であることがわかるだろう。英語の学力もあるところから母語の語彙力に左右されると言える。populationという単語を知らない高校生は少ない、英語のできる生徒たちには常識的な単語である。

 ニムオロ塾では英文を読むときにスラッシュリーディングで速度を上げて意味をつかむやり方と生成変形文法を応用した構文解析まで踏み込む精読を併用している。
 試験時間内に長文を3回読むためには速度が要求されることと、大事なところは精読しないと文意をつかみきれないことが多いから時事英語授業ではジャパン・タイムズの記事を採り上げて高校生に二つの読み方をトレーニングしている。
 大学を卒業した後、大学院に進学する際の英語試験や社会人となったときに仕事で英語を使う場合に、肝心なところの訳ミスは致命的となるから精読ができたほうがよい。
(私は100億円の投資案件の稟議書を書くために国際的な金融会社が作成したある会社に関する分厚い調査・分析資料を3日で抄訳したことがある。仕事では速読と精読両方が要求されるから、両方のトレーニングが必要だ。民間会社の意思決定はスピードを要求される。)
 次々回に抜粋したジャパン・タイムズの記事の単語の解説をするつもりだ。
 

*#1566 「問題の中1・1学期期末テスト顛末記」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-06-30-1

**#1572 「学力と語彙力の関係(2): 5科目合計点が高い⇔国語の得点が高い?」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05-3

#1573 学力と語彙力の関係(3): 英英辞書と母語の語彙 July 7, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-07


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