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#4633 Sapiensを読む:高校生と大学生と社会人のために Oct. 20, 2021 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]


ハラリ’Sapiens’の読解授業の対象だった高校3年生が卒業して、半年間ほど休止していたが、以前とは少し異なる趣向で再開したい。どこか田舎の高校生が難関大学合格目指してネットで弊ブログを見て勉強しているかもしれないので、半年くらいやってみる。
 もちろん、人類史に関するベストセラーとなったこの本を翻訳ではなくて原著で読んでみたいと思う社会人にも役に立つでしょう。週に
2回程度段落ごとにアップして行くつもりです。
 ところで、英作文問題と解説集の原稿がすでに966回、8520題になっているので、作文という観点からもハラリの文章を批判的に味わってみたい。幸い、WORDには英文の校正機能があるのでそれを利用してやってみます。

The Original Affluent Society(原初の豊かな社会)

<51.1> What generalisations can we make about life in the pre-agricultural world nevertheless? It seems safe to say that the vast majority of people lived in small bands numbering several dozen or at most several hundred individuals, and that all these individuals were humans. It is important to note this last point, because it is far from obvious. Most members of agricultural and industrial societies are domesticated animals. They are not equal to their masters, of course, but they are members all the same. Today, the society called New Zealand is composed of 4.5 million Sapiens and 50 million sheep.

チャンク(意味のカタマリ)ごとにスラッシュで区切ってみよう。あまり細かくスラッシュを入れると、文意がつかみにくくなり、少なすぎたら文意を再構成するために読む速度が落ちる、どの程度がいいかは自分の読解力に合わせて試してみたらいい。やってみて、自分の力に見合ったスラッシュの入れ方がだんだんわかってくる。


What generalisations can we make about life/ in the pre-agricultural world/ nevertheless? It seems safe/ to say /that the vast majority of people lived/ in small bands numbering several dozen or at most several hundred individuals,/ and /that all these individuals were humans. It is important to note this last point,/ because it is far from obvious. Most members of agricultural and industrial societies/ are domesticated animals. They are not equal to their masters/, of course,/ but/ they are members all the same. Today, the society called New Zealand is composed of 4.5 million Sapiens and 50 million sheep.
domesticate:(v)家畜化する
domesticate /dəˈmes.tɪ.keɪt/ verb [ T often passive ]
to bring animals or plants under human control in order to provide food, power or companionship

(食糧、労力あるいは連れとして動物や植物を人間の支配下に置くこと)
Dogs were probably the first animals to be domesticated.
(犬がおそらく最初に家畜化された動物であった) 


①(どんな一般論が生活について言いうるのか/農耕以前の世界で/それでも
②(・安全である/云うことが/大多数の人々が暮らす/数十あるいは最大で数百の個体を内包する小さな集団で/そして/それらの個体すべてが人類である)
形式主語のitのうち漠然としたものを受ける場合を除いては、それを説明する語句が後続します。ここではto sayである。that節はsayの目的語になっています。’it’を「・」で表記したが、これは大西泰斗先生の流儀です。
 スラッシュを入れて訳したら、おおよそこのようなわけのわからぬ訳になることがあります。
 細かく刻みすぎたようです、これでは文意がつかめませんね。スラッシュを減らしてみます。
that以下といった方が安全である/大多数の人が小さな集団内で住んでいる/その小さな集団というのは数十あるいは最大で数百の個体を内包している/そして/それらの個体すべてが人類であるような小さな集団)
③(最後の点を書き留めることは重要である/なぜならそれは明白だとは言い難いからだ)
④(農業と工業社会の大多数の構成員のほとんどは/家畜化された動物たちである)
⑤(家畜化された動物たちはその飼い主とは対等ではない/しかし/家畜化された動物たちはすべて同じ構成員である)
⑥(今日、ニュージーランドと呼ばれている社会は450万人の人類と5000万頭の羊から構成されている) 


<文法解説>
What generalisations can we make about life/ in the pre- agricultural world/ nevertheless?
We can make something about life in the pre-agricultural world.
(わたしたちは農業以前の世界について何かをつくることができる)
makeの目的語であるsomethingの部分が疑問詞句(どのような一般論)となっている。


<ワード英文校正機能4を使ってハラリの書いた文をチェック>
①の文のこの箇所「in the pre- agricultural world nevertheless?」はworldneverthelessの間に「,」を入れるべきだとワードの校正機能が警告しています。そのとおりですね。文末にこれらの副詞を用いる用例ではカンマありでしか見たことありません。英作文問題の方でこの手の副詞が何度か出てきました。
②の文中で使われている「the vast majority of people」は「most people」のほうが適切だと、ワードの英文校正機能が警告してくれています。しかし、ハラリがここで「most people」を使わずに「the vast majority of people」とビッグワードを並べたのは、ここを強調したかったからだという解釈が成り立ちえます。ハラリは「ほとんどの人が」と軽く通り過ぎたくなかった。翻訳者の柴田裕之氏はそこまで意識して「大多数の人々」という日本語を選んだのでしょう。
③の「this last point, because」の「,」は不要だとワードの英文校正機能の警告アリです。なるほどその方がいい。
これら三つの点を訂正した文を挙げておきます。
What generalisations can we make about life in the pre-agricultural world, nevertheless? It seems safe to say that most people lived in small bands numbering several dozen or at most several hundred individuals, and that all these individuals were humans. It is important to note this last point because it is far from obvious. Most members of agricultural and industrial societies are domesticated animals. They are not equal to their masters, of course, but they are members all the same. Today, the society called New Zealand is composed of 4.5 million Sapiens and 50 million sheep.


 <用語解説>
ハラリは「一般化」にgeneralisationを使っている、これは英国の表記だ。米国ではgeneralization、音は[z]であるから、米国ではいつの間にか音の通りの表記に変ってしまったのだろう。ドイツ語も英国表記と同じでdie Generalisationである。ドイツ語の発音は「ゲネラリザチオーン」、sの発音は[z]である。英語というのはケルト語の上にドイツ語が混じり、そのあとでさらにフランス語語彙が混ざった、大まかにそう考えていいのではないか。そして語幹や接頭辞や接尾辞はラテン語やギリシア語に由来するから、それらを広く比較検討してみないと、よくわからないケースが多いのです。


 英英辞典のCALDから引用。
 generalization , UK usually generalisation /ˌdʒen. ə   r. ə l. a  ɪˈzeɪ.ʃ ə n/ /-ɚ-/ noun [ C or U ] mainly disapproving

a written or spoken comment in which you say or write something very basic, based on limited facts, that is partly or sometimes true, but not always, or when someone generalizes by using such statements

The report is full of errors and sweeping (= extreme) generalizations.
Generalization can be dangerous. 

 ゼネラライゼーションは諸刃の剣。


<柴田裕之訳>
そうはいうものの、農耕以前の世界での暮らしについて、どんな一般論が語れるのだろうか?大多数の人は、数十、最大でも数百の個体からなる小さな集団で生活しており、それらの個体はすべて人類だったと言って差し支えなさそうだ。「すべて人類だった」点に言及することは重要だ。なぜならそれはおよそ明確とは言い難いからだ。農耕社会と工業社会の成員の過半数は家畜だ。もちろん彼らは自分の主人とは対等ではないが、それでも社会の成員であることに変りはない。今日、ニュージーランドと呼ばれる社会は、450万人のサピエンスと5000万頭の羊で構成されている。 


<文脈読み>
①で、農耕以前の社会で何が一般論として言いうるのかという問題提起をして、②で数十から最大で200-300人の集団で一つの社会が構成されており、それらの成員のすべてが人類であったと述べている。
③では、農耕以前の社会には言いうるが、その後の社会には言い得ない点に言及する。つまりは農耕社会以前では社会の構成員が人類だけだったと「一般化」しうるのである。しかしそれは、農耕社会の訪れとともに変容する。社会の構成員は人類のみではなくなるのだ。
ついで、④で農耕以後の社会の構成員の大多数が家畜であることを指摘する。
⑤では、家畜とその飼い主は対等の関係ではないが、同じ社会の構成員であり、人類よりも家畜化された動物の方が多いと主張する。
⑥で具体例としてニュージーランドの住民の数と羊の数を挙げている。

ハラリが「起承転結」を意識して論を展開しているはずはないが、あえて強引に適用してみると、起承転結の<起>が①、<承>が②、<転>が③、④と⑤が<結>で、⑥は具体例での挙証である。具体例で自分の論を証明して見せるという論理展開はよくある形式だから、覚えておくといい。論理展開に予測がつくと英文はそれ以前に比べて格段に読みやすくなります。著者の考えていることとこちらの脳が同期している状態が、相手の論の展開を予測できるということなのです。
こうした段落ごとの論理運びに慣れてくると、次に何が出てくるのか内容の展開に予測がついて、的確にそしてスピーディに読めるようになる。だから、読む速度をアップするためにも、字面を追いかけるだけでなく同時に同じ段落内での論理展開も追いかけて読む必要があるのです。読み間違えると、論理展開に齟齬が生じるから、気がつきやすくなるというメリットもあります。
この1年と10か月間は英作文問題と解説集の作成に時間を取られていたが、暇を見つけて週に2回程度のペースで「サピエンス」をアップして行こうと思ってます。


Sapiensは共通テスト対策用のテキストではありません。難関大学の二次試験対策用ですね。大学院入試では重要な箇所の精読が要求されるので、それ用にも使えます。
 目的は人それぞれでしょうね。英語の本を読んでみたい、動機はそれだけで十分です。


Sapiens: A Brief History of Humankind

Sapiens: A Brief History of Humankind

  • 作者: Harari, Yuval Noah
  • 出版社/メーカー: Vintage
  • メディア: ペーパーバック


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