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#4264 公営企業の営業収益とは?:赤字改善ができないのには理由がある June 6, 2020 [26. 地域医療・経済・財政]

 地方公営企業法が平成25年2月に改正施行されている。それまでの会計基準では公営企業の経営実態を表さないので、民間の企業会計基準に合わせて行こうというのが改正の趣旨であったが、そうなっているだろうか?
 枝葉末節のところばかりいじくって、肝心なところを落としている。基本中の基本を見落としてしまうか、意図的に脱落させたとしか思えない、なぜこんなことが起きるのかも考えてみたい。

 #4262に市立根室病院の損益計算書概要をアップしてあるので、それを例にとって議論を進める。問題の焦点は「営業収益」である。病院の営業収益は外来患者売上と入院患者売上以外にはないが、そこに一般会計繰入金を含めている。(民間の)企業会計基準では営業収益に営業以外の収益を含めてはならないのは当然である。そこに営業以外の収益を含めたら、意図的なら粉飾決算になるし、意図的でないなら作り直しになる。
*弊ブログ#4262:https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2020-06-02

 地方公営企業法改正の総務省の資料に39頁に「真の損益構造が明らかになる」と新しい地方公営企業法の改正点の説明が載っている。
*地方公営企業会計制度の見直しについて(平成25年12月)総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000266292.pdf
 
 改正のポイントは「真の損益構造が明らかとなる」こと。
(1)赤字構造か黒字構造か  
(2)どの程度公的支援に依存しているか 」
 
 市立根室病院は17.5円の赤字なのだが、一般会計繰入金17.2億円を営業収益に含めることで0.3億円の赤字という損益計算書になっている。17.5億円の赤字が0.3億円の営業損失では「真の損益構造が明らかとなる」とは到底言えまい。粉飾そのもの、従来の公営企業会計と変わらぬ。

 総務省の解説を読んでも、どこにも営業収益に一般会計繰入金を含めてはならないとは書いていないが、一般会計繰入金を営業収益に含めてはならぬとも書いていないから、従来からの方法、つまり営業収益に含めてよしということなのだろう。
 これは民間会計基準で判断するとやってはならぬ規則違反である。17億円もの営業赤字が損益計算書上から消えてしまうからだ。

 どうしてこんなことになるのだろう?財務省も総務省もキャリア官僚は民間会計基準を字面だけ読んで意味を理解していないのではないか?
 東大法学部を卒業までに簿記の勉強をしたことのある人がほとんどいないだろうし、経済学部卒でもキャリア官僚には簿記の勉強をちゃんとやった人がいないのではないか?もちろん、民間企業での財務・経理の経験もないから、複式簿記や会計基準、そしてその背景にあるものを知らないのではないだろうか。

 どうように、全国の市役所財務課で、簿記の資格を持っている人はほとんどいないのではないかと思う。根室市役所の昨年度の予算規模は290億円を超えている。これほどの予算規模なら上場企業に匹敵するが、この規模なら日商簿記1級や税理士資格や公認会計士資格をもった財務担当が一人もいないという企業は想定しにくい。市役所の予算や決算実務だけで簿記勉強をしたことがないから、営業収益に一般会計繰入金を含めて表示することに何の違和感もないのだろう。

 「真の損益構造が明らかになる」ためには、営業収益に損失補填の一般会計繰入金を含めてはならないことは不可欠の要件である、それが地方公営企業会計基準見直しの扇の要にならなければならない。
 そして、全国の市役所の財務課職員には日商簿記2級か、全商簿記1級の資格取得を義務付けるべきだ。そうしないと、営業収益と営業外収益や特別収益の区別すらつかぬ財政課職員だらけということになる。まともな複式簿記の感覚が身につかないということ。
 現金主義の単式簿記の収支計算書しか知らないなんて実に恥ずかしいレベルなのである。民間企業の経理や経営管理担当部門の専門職の人間とは対話が成り立たない。経営の実態を捉える複式簿記による損益計算という共通の知識の土台がないからだ。

 数日前に、根室市役所財政課へ「広報ねむろ6月号」記載の予算データや病院事業会計について問い合わせの電話をした折に、「病院事業会計の営業収益から赤字補填目的の一般会計繰入金を外さなければ、財政課職員以外の市民全員が市立根室病院の経営実態を誤解するから、そうしてもらいたい」と主張したが、根室市役所だけの問題ではなく、この国の地方公営企業会計制度自体に大きな瑕があることがはっきりした。根室市役所はそれに従ってやっているだけ。
 でも、市民への報告は民間企業会計基準の損益計算書や、年度予算の当初予算との予算実績差異分析表は作成公表できる。ようするに、市民が根室市の予算の実態や病院事業の経営実態を市民に正しく理解してもらおうという気持ちがあるかどうかということになるのでは?

 政府予算も市町村の予算も、収支を合わせるだけの現金主義の単式簿記である。赤字になれば、借金(国債や地方債を発行)すればいいだけ。同じ感覚で、地方公営企業も運営されている。地方公営企業の経理課長の主要な役割は、予測される事業赤字金額相当の一般会計繰入金を市の一般会計からもって来きて、事業赤字を消すことだ。こうして損益計算書上の赤字はなくなる。だから、公営企業の赤字削減努力がなされない。表面上は赤字でないのだから努力の必要もなくなる。危機感ゼロ。
 市立根室病院の17億円の赤字のうち9億円くらいが国負担分となっている。国の財政も苦しいから、赤字補填を減らそうと病院統廃合を声高に叫び始めている
 公営企業である自治体公立病院が赤字削減努力をしなければ、いずれ全国の公立病院の何割かが統廃合でなくなってしまうことになる

 だから、公営企業会計基準は見直すべきだ。その要点は一般会計繰入金は特別利益区分に表示して、営業収益には含めないということ。
 年間赤字額を知らず、いくら赤字を出しても賞与や給料に影響がなければ、改革の必要性すら感じられぬことはモノの道理というもの

<余談:茨木市の水道事業の実例>
 検索していると茨木市の水道事業の説明資料「公営企業会計の仕組みと財務諸表」がヒットした。平成30年度損益計算書が載っているが、営業収益区分に「他会計負担金」が含まれている。
*https://www.city.ibaraki.osaka.jp/material/files/group/93/05h30kaikeinosikumi.pdf

 下水道使用料 35.9億円
 他会計負担金 10.2億円
 その他      0.2億円
 営業収益   46.4億円

 営業費用が50.7億円だから、営業損失は4.3億円。

 しかし、「真の損益計算書」では、10.2+4.3=14.5億円の営業赤字である。 



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