#3053 「読み・書き・計算」基礎トレーニングの成果 Jun. 2, 2015 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]
中学1年生と2年生の二人が30分の時間差で補習授業に来た。先に来た2年生がうれしそうな顔で報告する。
「先生、単元テストで98点とりました」
「おお、よくやった、ついに結果が出たな」
B4の用紙に裏表に計算問題と3の倍数の証明問題が載っている。1年前ならこの生徒は半分くらいしか手をつけられなかっただろう。計算速度が実に遅かったので、同じ計算問題を繰り返しやらせたが、なかなかやりたがらずてこずった。苦手なものはやりたくないのが通例だ。宿題にしてもほとんどやってこなかったから、嫌がるのを無理やり補習授業でやらせた。昨年4月に計測したら、速い生徒の1/35しか計算速度がなかった生徒である。だからほめてもほめ足りないくらいだ。1年間で計算力に途方もない差のあった生徒に勝ってしまった。勉強だけは結果が努力を裏切らないと言い続けた意味がわかっただろう。
併行して今年になってから北海道新聞の「卓上四季」の視写を課した。書くのが遅いので速度アップのためにやらせたのである。最初は目標値の分速40文字に対して15文字弱だった。1ヶ月ほどずるけていたこともあるが、努力をサボるとそれなりの結果がでる。補習授業のときに北海道新聞「卓上四季」を視写させてチェックしたら、分速30文字まで改善していたのに26文字に後退していた。
「ほら、こういうことになる、サボると元に戻る。分速40文字書けるようになったら元には戻らなくなるから、これから3ヶ月しっかりやれ」
このトレーニングには副産物があった。小さい字できれいに書けるようになった。「小さい字で書け」とはいったが、字がきれいになることは期待していなかった。字が撥ねる悪筆だったので、終筆をとめるように何度も何度も注意した。形がいびつで判読ができないひらがなの書き方も直した。現在は分速33文字だから、速度は当初の2倍以上になっている。これが計算速度にも影響したと考えてよいのだろう。
なんてことはない、この1年間「読み、書き、計算」トレーニングを繰り返しただけである。学年50人中、数学の単元テストでついに学年トップになった。定期テストや学力テストでの五科目合計点や学年順位も上がり続けている。1学期末テストでは五科目合計点でさらに順位を上げるだろう。学年10番くらいなら2年生のうちに届きそうだ。
おどろいたのはこんな簡単なテストで百点が一人もいないことである。3の倍数に関する証明問題が一つだけ出題されていたが、あとは計算問題と等式の変形の問題だけだから、10年前なら学年85人中5人は百点が出ただろう。
1年生がいった。
「単元テスト、僕百点だったよ、他には百点がいなかったから一番だった」
「君は百点であたりまえだ、「正負の数」のところだけだろう、お迎えテストでも総合点で学年トップなのだから当然のことだ、でもよくやった」
「予定より遅れているからスピードアップしてさっさと問題を解こう」といわれて、少し不満気だ。高校生の女の子が、「あんたは百点で当たり前でしょ」と横から口を出す。数学はよくできるので塾生の間では期待値が高い、文章題が半分あっても2回に1度は百点だろう。
簡単な計算力テストで1年生の平均点が65点付近にあるようだ。東京の中学校でやったら80点を超えるだろう。この程度の計算問題で平均点がほんとうに65点なら、80点以下の生徒は計算力に問題があるから、部活を休ませて放課後補習をやるべきだ。計算力は「方程式」の単元はもちろんのこと、「比例と反比例」「図形」でも基礎部分をなしているのでおろそかにしてはいけない。2年生になってからの数学の学力に大きく影響する。
この中1の生徒は今日は反比例と比例のグラフの交点座標と面積の複合問題をやっていた。夏休み終了までに塾用の1年数学問題集を全部やり終えさせるスケジュールで勉強させており、ハードルはかなり高い。夏休み明けから難易度が高めの中2の問題集をやる予定だ。学年トップを取ることが目標ではない、たかだか50人足らずの小規模の学校で難易度の低い問題で学年1番をとることにさしたる意味はない。
難易度の高い問題にトライしつつ消化速度を上げて、中学生の内に数ⅠAと数ⅡBを、高校1年生で数Ⅲをやりきること、そして英字新聞を読めるレベルまで英語力を上げることを念頭においた指導をしている。もちろんこういう戦略を採用したのは理由があるが、書かないでおこう。本人の進路希望にそった最適戦略ではある。
この生徒は「お迎えテスト(文協学力テスト)」で数学も国語も90点を超えたが、国語が学力テストで常時90点を超えられるかどうかも大事なポイントだ。そのために通常の国語の問題集を解かずに語彙力問題集(『言葉力ドリル』)をやり、併行して1年半にわたって音読トレーニングをしてきた。文章から具体的な情景がイメージできないタイプの生徒なので工夫がいる。数学の問題からは図形の具体的なイメージを形成することができるのだが、短歌から雄大な自然の情景がイメージできない。
小説家や文学者になるわけではないから、文章を論理的に読めればそれで十分だ。斉藤孝の音読破シリーズ2冊と『声に出して読みたい日本語』の「1」と「2」の2冊を音読授業で消化した。所々遊びと解説を入れながらやったから、楽しかっただろう。
準備運動期間が終わったので、そろそろ次のステップへ踏み込む時期だから、高速音読トレーニングを今日から始めた。斉藤孝『読書力』(岩波新書)を段落ごとに交代で読む。意識して速度をアップして手本を見せるが、当分の間は真似ができない。しかし、平均的な中1の生徒に比べると読める漢字の範囲が広いし読む速度も大きい。だが、速度を上げると誤読(先読みの際に知っている別の漢字に置き換わってしまうことや「てにをは」の読み違い等)の頻度が大きくなる。具体的な目標やチェックポイントを指示しながら丁寧な高速音読トレーニングをやるつもりだ(興味を広げて濫読をするかどうかは本人次第、こればっかりは自発性がないと無理である)。
縦書きの本だから、行の下まで読んだら次の行を先読みしていないとスムーズに読めない。そこに意識を集中して読むように注意した。先読みスキルの練磨がしばらく続くことになる。先読みの際にそのセンテンスの文意まで適確につかまないとスムーズな折り返しはできないから、案外むずかしい。高速音読はトップクラスの生徒でも頭をフル回転させないとできない。
高速音読だから短時間でたくさん読める。授業の前に10~15分やるだけで、今年は3冊消化することになる。読むテクストの質を上げていくので、論説文の読解力が確実に身につく。読んだ文章に出てきた漢字の書き取りや意味調べも併行してやらせる、日本語語彙を増やしていくことも目的の一つである。
河合塾の全国模試問題の国語は本文が20ページほどもあり、文章の難易度も高いから、いまからこうしたトレーニングを課しておけば、難易度の高い全国模試の国語でも90%前後の得点が可能になる。スピードと読解力が増せば他の科目の予習にとられる時間を削減できる。短い時間でたくさんの文章を読み、たくさんの問題を解けるようになる。
目標は高校生になったときに、河合塾の全国模試で国数英3科目合計偏差値70をクリアすることだ。進研模試なら偏差値80超。クラスメイトが競争相手ではない。
<余談>
中高の6年間、ゲームの時間を削って勉強に専念するだけで、その後の50年間の生活レベルがとてつもなく違ってくる。裏返して言うと、この6年間に部活三昧で、勉強の努力を怠った者にはそれなりの厳しい人生が待ち受けているということだ。
現在の家庭環境がどうであろうと、中高生は学力で這い上がれる。這い上がりたかったら、たった6年間だけでよいから、死に物狂いで勉強してみたら?
<余談-2>
高速音読でとりあげる予定のテクスト。
『国家の品格』藤原昌彦著
『風姿花伝』世阿弥著・林望訳
『方法序説』デカルト
『春宵十話』岡潔
いまのところ、予定しているのはこれだけだが、もう数冊読めそうだから、追加を考えておく。新書版の専門書の入門書(医学と経済学)で2冊、日本の古典文学から2冊。高速音読には適さないが、万葉集、奥の細道が日本的情緒を育むにはいいし、読みやすさを考慮するなら徒然草や方丈記も良書である。「すらすら読める」シリーズから、枕草子を原文対訳で読むというのも日本的情緒を育みながら楽しめる。
学部のゼミの指導教授であった市倉宏祐先生の翻訳書がいくつかあるが哲学科の学生でないととても無理だから、『和辻哲郎の視圏』と和辻哲郎著『古寺巡礼』を一緒に読むというのが面白そうだ。西洋哲学に興味が出れば『ハイデガーとサルトルと詩人たち』や『現代フランス思想への誘い』も候補に入るかも知れぬ。これらですら普通の高校生が読むようなレベルの本ではない。
これも新書版ではないが内田義彦先生の『内田義彦の世界1913-1989』も読む価値のある本だ。商学部会計学科の学生だったときに内田先生の経済学の講義を聴いた。使われたテクストは『経済学の生誕』だったような気がする。大学院の学内試験の口頭試問では30人ほど並んだ真ん中に座っておられた。経済学研究科長ではなく大学院長だった。
大学院時代に1年間学んだ増田四郎先生がおそらく弟子の阿部謹也さんの『中世の窓から』に刺激を受けて書いたと思われる『西洋中世世界の成立』も、若い人たちには刺激の多い本だろう。専門家が専門分野について書いた本だから学問の臭いを嗅ぐには好適だ。
新書版以外は生徒の興味と好奇心次第としておこう。
(こんな程度のことは塾でトレーニングしてもらわなくても、成績上位の生徒は自力でできる。わたしは小学4年生のときから北海道新聞の卓上四季と社説を国語辞典を引きながら読み始めた。当時の新聞はルビが振ってあった。中学時代は光洋中学校の図書室にあったSF小説の濫読をした。高校時代は簿記・会計学・原価計算論・経済学・哲学などの専門書を片っ端から自力で読み漁った。だから、ある水準を超えた成績上位層の生徒には、例として挙げた本を音読トレーニング教材として十分に使えると判断している。)
*#2647 問題消化速度1対35の衝撃(1):学習量=速度×集中力強度×時間 Apr.18, 2014
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ご無沙汰していました。
当方、坐骨神経痛と気管支炎症、多分喘息で青息吐息でした。今朝やっと体調が上向きになったようです。他の凄い先生のコメントや管理人様の記事すら読解力がなく、難しい話だと思うしかなく、コメントなどできませんでした。
今日の記事、やはりたぐいまれな塾の先生だと感心した次第です。家の家族4人、特に私と息子と娘の勉強法とは全く違うのだと思いました。私は自分の手法が適しているのは帰宅生だと思っています。
やっと、教材の絵本が完成しました。数部差し上げたいと思います。お宅かどこかのお店で渡します。場所と、会えない時のリカバリーの方法を教えていただけたら幸甚です。ダメなら仕方ないです。
今、実演できないほどの体調でしたが、やれそうまで回復しました。小学生相手が今の許容範囲ですが。高校生や中学生にはそれなりの体力と喉がいるのです。
付言です。息子は小学校の1年から3年生まで普通だと言われ、短距離競走に力を入れていたようです。4年になり、クラスの中に塾に行く人が現れて、2学期から通い始めました。四谷大塚系の近所の塾でした。
本は全く読まない子供でした。今もです。今は物理の専門書ですが。息子は4年の初めからZ会の通信講座を始めました。
塾に行くようになり、課題の返信が遅れ、赤を入れてくれる期限までためて、半年ほどでしたか、全部郵送していました。まとめて短時間に回答していたのです。6年生までしていました。このあたりが変わっているかも。
四谷大塚は最下位クラスから毎回ランクアップ、6年生の時は最上位クラスになったようです。まぐれだと思いましたし、塾の先生も海上か巣鴨が良いと言ったのですが、記念受験のため開成を受けました。落ちたら最寄りの公立中学を考えていました。
開成はまぐれで合格してしまいました。そんな仲間の友がたくさんできました。皆さん普通の子だと担任から言われていました。普通だからバドミントンの会場でも試験勉強し、何とか赤点をとらなかった人が複数いました。多くは、今は弁護士や高級官僚です。政治の世界に踏み込んだ人もいます。
家は理転してしまいました。不正が嫌いで教授をめざし始めたのでしょう。
東大に合格し普通の子だと教授に言われ、何とか卒論をまとめられました。教授は理系、私の後輩だったので話を聞けました。院でも普通でした。今の先生稼業でも周囲から普通と言われているようです。でもバドと世界の研究者には抜群の日本人と言われてもいるようです。
単にバドと量子ドット領域では成果のある研究者であることくらいです。活動の世界は自然と広くなり、得意領域は自然と狭く深くなってきただけです。それが人の成長の一つのパターンかも。
娘は全く違う育ち方でした。中学で一番をとったり、学年で100位にもなりました。全く勉強せず読書三昧で小学校から40歳の今まできたようです。でも、今は東大の数学も英語も簡単ね、やればできたかもなんて呑気です。今は国語を高校で気楽に教えています。バドがメインかも。(笑)
当方、いよいよ陽明学の絵本に挑戦を始めました。1月で原案ができ9月までに絵も完成するはずです。バドだけでなく、陽明学と創造性で小学生の帰宅生に挑戦します。御代はただ、希望者が居たらですが。
とにかく根室は見に行きます。絵本を携えて。そのまま持ち帰るかしれませんが。(笑)
by tsuguo-kodera (2015-06-02 07:10)
tsuguo-koderaさん
おはようございます。
>家の家族4人、特に私と息子と娘の勉強法とは全く違うのだと思いました。私は自分の手法が適しているのは帰宅生だと思っています。
子どもが10人いたらいたら10通り、先生が10人いたらさらに10通り、両方の組み合わせで100通りのやりかたがありそうです。実際には同じ学年で見ても百万人、先生の数も百万人はいそうですから、なんでもありですね。
結果で勝負でしょう。
お見事な成果だと思います。
小学校4年から四谷大塚系の塾へ通うのは有名私立中学への進学コースとしては当時はセオリーどおりです。
息子さんの4年からZ会は少し早い気がします。紹介した中1年生は通塾開始と共にチャレンジテストをやめて、Z会の問題を解いています。
それにしてもみごとな子育てですね。
学齢期前の躾と、小学校低学年で基礎的トレーニングだけみっちり積ませたら、あとは本人の興味の赴くままが一番良いのです。
娘さんをそういう育て方をしたようですね。
>娘は全く違う育ち方でした。中学で一番をとったり、学年で100位にもなりました。全く勉強せず読書三昧で小学校から40歳の今まできたようです。でも、今は東大の数学も英語も簡単ね、やればできたかもなんて呑気です。今は国語を高校で気楽に教えています。バドがメインかも。(笑)
陽明学に基づく絵本を創ったのですか、お目にかかることを楽しみにしています。
会えないときのことを心配されていますが、宿泊先もあなたの携帯電話も承知しているので、大丈夫です。わたしの携帯電話番号や当方の住所も通知済みですから、ご心配要らないと思います。
by ebisu (2015-06-02 08:42)