#2966 『資本論』と経済学(22):「相対的貧困率上昇と富裕層増大」 Feb. 9, 2015 [A1. 資本論と21世紀の経済学(初版)]
「資本論と経済学」シリーズの第22回目をアップするが、もう1節書き加えたい。同志社大学の浜矩子教授が、今朝(2月9日)のNHKラジオ番組ビジネス展望(10分間)で平成27年度予算案をとりあげ、公共経済という概念メスで腑分けして見せてくれた。このメス、なかなか切れ味がいい。21世紀の経済学の公理・公準に関係があるので、ピケティの節の次に書き加えることに決めた。新しい経済学はいろいろな人の意見と対比することで、その輪郭がはっきりしてくる。
20.<相対的貧困率上昇と金融資産1億円超の富裕層増大>
第11章<学としての『資本論』体系解説>で学問の演繹的体系の代表例として経済学と数学を「学の体系という点から」並べて論じてみた。数学は公理・公準や定義が大事である、もちろん経済学もその点では同じである。ものごとを学問的に扱うときには、その定義をしっかり決めなければならない。決めたら決めたで、それにぴったりのデータを探さなくてはならない、そこにも困難が待ち受けている。
具体的な事例で説明したほうがわかりやすいだろうから、経済記事に出てくる用語を三つとりあげて、定義とデータをセットで論じてみたい。
【相対的貧困率】
相対的貧困率とは国民の所得格差を表す指標で、全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合を指す。預貯金や不動産の所有は考慮していない。
2009年のOECD調査では16.0%で、イスラエル(20.9%)、トルコ(19.3%)、チリ(18.5%)についで4番目に高い。この年は米国の調査がなされていない、2010年の調査では17.3%だから、日本は先進国では3番目(1.イスラエル、2.米国、3.日本)に貧困率の高い国ということになる。だんだん、米国社会に近づいてきている。お隣の韓国は所得格差の大きな国だが、韓国が15.3%である。
2007年度の調査では、2006年度の等価可処分所得が127万円未満となっている。
*「貧困統計ホームページ」…計算式の説明
http://www.hinkonstat.net/
http://www.hinkonstat.net/相対的貧困率/
【子供の貧困率】
子供の貧困率というのがあるが、考え方は相対的貧困率と同じである。2014年7月の厚労省発表データでは16.3%(6人に一人の割合)と過去最悪を記録した。所得格差や貧困問題は子供たちに及んで、一日一回しか食事が摂れない、慢性的な低栄養状態、栄養失調など深刻問題を起こし始めている。
【金融資産1億円超の富裕層】
次にとりあげるのは金融資産1億円超の富裕層である。預貯金や株そして投資信託の純保有額(負債と相殺後)が1億円を超える層をいう。
2013年度は初めて100万世帯を超え、100.7万世帯となった。全世帯数に対する割合は2%で、国民の50人に1人は金融資産1億円超の富裕層である。2011年比で28.1%増加している。
その一方で、資産ゼロ世帯が一昨年から30%を超えている。2012年には26%弱だったから、アベノミクスで金融資産1億円超の富裕層が増えると同時に、資産ゼロ層が5ポイント跳ね上がった。アベノミクスの負の側面である。
話を戻そう。専門用語の定義の問題だった。定義は細かいところになるとなかなか専門的で小難しいもので、相対的貧困率は「全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合を指す」と定義されているのだが、実際の計算法は世帯ごとに年収を合算し、それを人数の平方根で割った値を高い順に並べ、中央値を引っ張り出して、その半分以下の世帯が相対的貧困世帯とされる。「年収」は税金や社会保険料を差し引いた手取り収入(可処分所得)で計算される。なぜ、世帯人数の平方根で割るのかを考えてみてほしい、このようにデータをグリグリいじくることはいろいろ考えないといけないから楽しいのである、トメ・ピケティもきっとそういう種族なのだろう。答えは厚労省作成の「国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質問*」に載っている。
* http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf
子供の貧困率については、「考え方は相対的貧困率と同じである」と書いたが、ちっとも簡単ではないし、「金融資産1億円超の富裕層」も金融資産にどこまで含めるかということが厳密に定義されていなければならない。金融資産は1億円以下だが、10万坪を超える土地を首都圏に持っている場合もある。そういう人は「金融資産1億円超の富裕層」には入らないから、「真の富裕層」を想定した場合にはどこまで勘定に入れて定義したらいいのか、これはこれで定義も、それに即したデータを集めるのもなかなか困難である。だから、適当なところで狭く限定した定義をして、データを集める他はなくなる。
次の章で、トマ・ピケティ『21世紀の資本』をとりあげるが、主要なデータを定義して、長期のスパンでそれに見合う先進6カ国のデータを集めることは至難の業である。ピケティはずいぶん妥協していることが明らかになるだろう。図表がふんだんに使われていて精密に見えても、集められたデータは比較性を欠くから、周辺データから攻めることでずいぶんとラフな議論にならざるを得ない。データの扱いがなかなかむずかしいのである。ピケティはデータの扱いおいて豪腕の持ち主のようだ。
*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25
#2948 『資本論』と経済学(12) : 「学としての『資本論』体系解説」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-30
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20.<相対的貧困率上昇と金融資産1億円超の富裕層増大>
第11章<学としての『資本論』体系解説>で学問の演繹的体系の代表例として経済学と数学を「学の体系という点から」並べて論じてみた。数学は公理・公準や定義が大事である、もちろん経済学もその点では同じである。ものごとを学問的に扱うときには、その定義をしっかり決めなければならない。決めたら決めたで、それにぴったりのデータを探さなくてはならない、そこにも困難が待ち受けている。
具体的な事例で説明したほうがわかりやすいだろうから、経済記事に出てくる用語を三つとりあげて、定義とデータをセットで論じてみたい。
【相対的貧困率】
相対的貧困率とは国民の所得格差を表す指標で、全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合を指す。預貯金や不動産の所有は考慮していない。
2009年のOECD調査では16.0%で、イスラエル(20.9%)、トルコ(19.3%)、チリ(18.5%)についで4番目に高い。この年は米国の調査がなされていない、2010年の調査では17.3%だから、日本は先進国では3番目(1.イスラエル、2.米国、3.日本)に貧困率の高い国ということになる。だんだん、米国社会に近づいてきている。お隣の韓国は所得格差の大きな国だが、韓国が15.3%である。
2007年度の調査では、2006年度の等価可処分所得が127万円未満となっている。
*「貧困統計ホームページ」…計算式の説明
http://www.hinkonstat.net/
http://www.hinkonstat.net/相対的貧困率/
【子供の貧困率】
子供の貧困率というのがあるが、考え方は相対的貧困率と同じである。2014年7月の厚労省発表データでは16.3%(6人に一人の割合)と過去最悪を記録した。所得格差や貧困問題は子供たちに及んで、一日一回しか食事が摂れない、慢性的な低栄養状態、栄養失調など深刻問題を起こし始めている。
【金融資産1億円超の富裕層】
次にとりあげるのは金融資産1億円超の富裕層である。預貯金や株そして投資信託の純保有額(負債と相殺後)が1億円を超える層をいう。
2013年度は初めて100万世帯を超え、100.7万世帯となった。全世帯数に対する割合は2%で、国民の50人に1人は金融資産1億円超の富裕層である。2011年比で28.1%増加している。
その一方で、資産ゼロ世帯が一昨年から30%を超えている。2012年には26%弱だったから、アベノミクスで金融資産1億円超の富裕層が増えると同時に、資産ゼロ層が5ポイント跳ね上がった。アベノミクスの負の側面である。
話を戻そう。専門用語の定義の問題だった。定義は細かいところになるとなかなか専門的で小難しいもので、相対的貧困率は「全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合を指す」と定義されているのだが、実際の計算法は世帯ごとに年収を合算し、それを人数の平方根で割った値を高い順に並べ、中央値を引っ張り出して、その半分以下の世帯が相対的貧困世帯とされる。「年収」は税金や社会保険料を差し引いた手取り収入(可処分所得)で計算される。なぜ、世帯人数の平方根で割るのかを考えてみてほしい、このようにデータをグリグリいじくることはいろいろ考えないといけないから楽しいのである、トメ・ピケティもきっとそういう種族なのだろう。答えは厚労省作成の「国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質問*」に載っている。
* http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf
子供の貧困率については、「考え方は相対的貧困率と同じである」と書いたが、ちっとも簡単ではないし、「金融資産1億円超の富裕層」も金融資産にどこまで含めるかということが厳密に定義されていなければならない。金融資産は1億円以下だが、10万坪を超える土地を首都圏に持っている場合もある。そういう人は「金融資産1億円超の富裕層」には入らないから、「真の富裕層」を想定した場合にはどこまで勘定に入れて定義したらいいのか、これはこれで定義も、それに即したデータを集めるのもなかなか困難である。だから、適当なところで狭く限定した定義をして、データを集める他はなくなる。
次の章で、トマ・ピケティ『21世紀の資本』をとりあげるが、主要なデータを定義して、長期のスパンでそれに見合う先進6カ国のデータを集めることは至難の業である。ピケティはずいぶん妥協していることが明らかになるだろう。図表がふんだんに使われていて精密に見えても、集められたデータは比較性を欠くから、周辺データから攻めることでずいぶんとラフな議論にならざるを得ない。データの扱いがなかなかむずかしいのである。ピケティはデータの扱いおいて豪腕の持ち主のようだ。
*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25
#2948 『資本論』と経済学(12) : 「学としての『資本論』体系解説」 Jan. 29, 2015
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2015-02-08 23:35
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