<最終更新情報>7/6朝9時 <システム開発要員の質の問題>を追記

 文科大臣が学校現場での生成AI利用に関するガイドラインを公表しました。

 生成AI活用法について、「不適切な例」と「適切な例」をガイドラインとして挙げています。突然、生成AIがいくつかオープンになって、利用が進んでしまっているので、慌ててガイドラインを出したように見えます。

 生成AIに関する利用技術は利用することでしか磨けません
 結論から言うと、従来型の授業が成り立たないのが実情です。四つ理由をのべます。

 令和2年の調査によれば、小中高の学校は24723校あり、学校の先生の総数は90万人です。学校の先生のうちで、情報技術について基礎的なことを学校で学んだことのある人は1%もいないでしょう。
 中学校からは科目担当制になっていますが、その科目を大学で学んでなければ、教員にはなれません。教師が教える科目について確かな専門知識と教えるスキルを有しているということが、学校の授業の前提条件です。情報スキルに関してはこれが成り立ちません

 2つ目は、生徒の1割くらいは90%の先生たちよりも、情報ツールを使い慣れているということ。教えられる生徒の方が先生よりも使い慣れているという実態があります。これでは、従来型の「授業」が成り立たない。

 3つめは、文科省にすら、デジタル技術について専門的な知識と経験を積んだ官僚がほとんどいないということ。
 そういう官僚の育成を怠ってきたツケが回ってきました。いま旗振り役は大変な苦労をしていると思います。
 台湾がCOVID-19対策で、情報スキルの分野でめざましい効果を上げましたが、旗振り役がオードリー・タンという情報技術に関して専門知識と経験を有する人物であったからです。プログラミングもできないようでは仕事の差し建ができないので無理です。河野デジタル大臣がその典型、専門的な知識や経験ばかりでなく、謙虚さがないので、印鑑の廃止もマイナンバー制度も「人災」でしかありません。必要とされる専門知識や経験もなく、仕事のできない者が張り切って仕事すると碌なことにならないのです。知らないなら、謙虚にやればいいだけです。専門的な知識のない人と、対話するのは実に不効率で、話がなかなか伝わらないのです。専門用語を使うことで、対話は正確なものになるのですが、専門知識がなければそうした対話が成り立たないのです。

 4つ目は、高校の文系・理系の区分けがもう現実の人材要請と合わない時代になっています。高校教育と大学教育の根源的な見直しが必要だということ。
 例えば、文系コースや商業科でも、数Ⅲの選択ができるように変えるべきでしょう。総合大学では、文系学部でも理系学部の科目履修が可能なように変化を起こしているところが出てきていますが、30年以上遅い。
 情報科学に特化あるいは重視した学部配置の大学の設立もほとんどありませんでした。米国ではカーネギーメロン大学の対応が早かった。

 東大法学部卒の文系の官僚が主導するこの国の文教政策は、30年間遅れてしまったということです。だから、いま、文科省はたいへんです。ギガスクール構想で、小中校の生徒に一人一台の端末を配布して、ICT化を進めています。学校現場には情報スキルの高い先生はごくわずかしかいません。複数の学校をまとめて担当させるサーバー管理者すら配置できない。サーバー管理者はスキルが高いので、こういう人材配置があれば、一般の教員は利用技術でわからないところがあれば質問できます。でも、20-30年かかりそうです。
 だから、10年後に2割の教員が、情報技術について基礎的なことをマスターし、利用できるレベルを目指せばいい。当面は、ZoomやTeamsが使え、ロイロノートのようなものを補助教材として使えたらいい。慣れの問題だから、これくらいなら、問題なくできそうです。COVID-19で遠隔授業が浸透したので、このレベルならすでにできている学校が多い。COVID-19の果たした役割は大きい。そこへ今度は生成AIの利用が降って湧いた。

<システム要員の必要数試算>
 一部上場企業では、社員の2~3%程度のシステム要員を抱えています。仮に、教育村では2%のシステム要員が必要だとすると、「90万人×2%=1.8万人」ということになります。学校のさまざまな業務を生産性を上げる方向でシステム化するには、生産性の高い実務設計をすることになるので、その開発と運用と保守にすくなくとも1.8万人のシステム要員が必要ということになります。そうでないと、セキュリティの面からも、学校での様々な業務の生産性を飛躍的にアップすることは困難でしょうね。いまのままで、さまざまな業務を同じサーバーで運用すると滅茶苦茶になります。学校現場がシステムに慣れてくると、基礎的な技術を持っていない人たちがいろいろやりたがるようになって、セキュリティ面でのシステム障害の発生をとめようがなくなります。マイナンバーのついた、学力データが漏洩したら、たいへんなことになります。いまのままだとなりかねません。

<システム開発要員の質の問題>
 昨日、投稿欄で「四谷怪談」というハンドルネームの方のポスティングを読んでいて知ったことがあります。SEには開発系と、運用系と保守系の三種類があるということです。わたしが仕事していた1980年代は開発系のSEだけが「SE]と名乗れました。運用・保守系の担当者はシステムデザイン能力がない人たちがやっていました。現在は、運用や保守業務が複雑になって専門化しているようで、そこを担う人たちもSEというようです。認識を改めました。
 ところで、ロイロノートやZoomやTeamsはその都度便利なものを使えばいいだけで、自前で開発する必要がありません。ところが、学校の業務の生産性をアップするためのシステム開発は、開発に熟練した高度なスキルをもったSEが必要になります。利益の管理をしなければならない民間企業とは違って、学校の業務がそれほど複雑とは思いませんが、それでもいままでやったことのないシステム開発にはなります。このレベルのSEは業界でも人数が少なく、奪い合いになっています。デジタル庁は民間からのレベルの高いSEのスカウトなしに業務がこなせないことはマイナンバーでも明らかです。住所表記が不統一で、入力データを突合するのに考慮しなければならない事項であったことは、基本に属することですが、そういうことが簡単に見落とされているほど、担当したSEもそれをチェックしているはずの上司の仕事も、請け負った会社の仕事の体制も怪しい。文科省の官僚が仕様書を書けないのだから、面倒くさくて無視した可能性は小さいがありそうです。
 1980年代に株式上場準備のために経営統合システム開発をしましたが、オービックのトップレベルのSEのSさんと日本電気情報サービスのトップレベルのSEであるTさんと仕事しています。1984年にはNCDさんの3人のレベルの高いSEとも仕事していますが、その経験を踏まえて言うと、開発系のSEで、経営情報系の実務デザインができるSEは一人もいませんでした。いままでにない実務を設計するのですから、使う帳票をまったく新しいものにデザインし直さないといけません。そしてデザインした実務がトラブルなく動かなくてはいけないのです。
 輸入業務もあるので為替の知識や輸入業務の専門知識、実務知識は不可欠です。真ん中に計系システムがあるので簿記の専門知識も公認会計士レベル以上で必要になります。工場やラボがあれば原価計算に関しても公認会計士以上の専門知識と経験が必要になります。経営改善のために経営分析に関する知識も、日本ではなく米国のトップレベルの知識が必要です。在庫管理に関しても専門知識が必要になります。支払いとつながるので、会計システムの知識もなければいけません。売上債権に関しても同じことが言えます。固定資産管理と投資に関しても予算システムとの関係で、予定減価償却費が精度よく計算されなければいけないので、今までないシステム開発が要求されました。そしてそれらのシステム間のデータの整合性を保障する仕組みも考えておかなければなりませんでした。つまり、これらの複合分野のアプリケーションに関する知識と経験なしにはこの手の経営統合システム開発は不可能なのです。1997年に製薬メーカー向けの臨床治験データ管理パッケージシステムを開発したのが、システム開発では最後の仕事でした。これは具体的な事業分野開拓の方針と、開発に必要なツールとラックマウントの強力なNTサーバーを用意してやっただけで、実際の開発業務は精鋭の4人が担当してくれました。その結果、設立後3年で、赤字会社が黒字転換できました。
 学校の業務はずっと簡単ですが、生徒の学力データを扱うので、セキュリティ・レベルは高いものが要求されます。運用も熟練したSEが監視していないと危ういのです。
 だから、学校の業務をシステム化するのが一番困難な仕事になるでしょう。担えるレベルのSEが日本には少なすぎます。20年あるいは30年かけて育てなければならない。長期戦略が必要です。
 

<二つの課題:応急手当と長期戦略>
 ふたつの課題に同時に取り組む必要があるのでしょう。
 暫定的な方法としては、スキルの高い生徒が教えるという授業スタイルの導入が必要だということ。なにをどうやっても混乱は避けられませんが、いまある資源を有効に使うには、スキルの高い生徒を授業で上手に使うということ。そして、情報科学について高度なスキルを持つ大学・学部の定員を増やして、技術者を2倍程度にもっていく長期戦略を立案し、実行すること。

<学校業務の生産性アップいう課題>
 応急手当と、長期的に情報スキルを担当できる人材を2倍に増やせるように戦略立案・実行の両方が必要です。
 たいへんな仕事です。一人一台の端末配布は、一部上場企業では1990年代半ばには実現していました。そこから25年以上遅れて、学校現場にようやく生徒一人一台の端末配布が実現し、新型コロナの影響もあり、遠隔授業には慣れました。これからはさらに生成AIの利用技術に関する(優秀な生徒をリーダとする)授業と、生成AIの活用を適切に指導できる教員育成、そして生産性向上を目的とする学校業務のシステム化という三つの課題に取り組まないといけない事態になりました。
 学校業務の生産性をアップして労働環境を改善しないと、優秀な人材が集められないので教員の数と質を維持できません。すでに、各地で教員採用の応募倍率が激減しています。2倍になっているところが増えています。一部上場企業では数十人の採用に、1万人が応募してきます。100~500倍の難関企業が少なくありません。それに比べると、教員採用が2倍というのは、希望したらほとんどが採用されるということです。これでは授業の質の維持は無理でしょう。教育村に優秀な人材を集められません。業務の生産性も自分たちでアップすることがはなはだ難しいものになります。外部依存するしかなくなります。
 自分たちの業務の生産性改善もできないような学校という組織に、子供の教育をゆだねられますか?そういう深刻な問題が起きているということなのです。

<正解のない未知の分野へのチャレンジ>
 いま、文科省では人材がいない中でがんばるしかありません。受験勉強をし過ぎた頭の固い東大法学部出身の官僚にはとても無理です。彼らが得意なのは、正解のある問題を高速で解くことにあります。教育分野へのICTの導入・普及は決ったやり方や決まった正解のない未知の分野ですから、受験エリートには無理です。そうではない人に白羽の矢が立ちました。意義の大きい仕事ですが、旗振り役のMさん謙虚ですから、きっと命を削るような仕事をしています、健康に留意している暇なんてないのでしょう。誰かが担わなきゃいけない。



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