1月19日の北海道新聞一面に標記の記事が載っていた。紙面の3分の1ほどの大きな扱いである。
 市内の西尾建設がシカ肉加工処理の別会社「ユック」を立ち上げ、新規事業として取り組んでいる。海霧を含んだ草を食べているのでミネラル分が多い良質の肉である。処理さえきちんとしたらブランド化は可能だが、取り組む人がいなかった。
 5年前に、モンサンミッシェルの羊肉のことを弊ブログで取り上げたことがある。海霧の多いモンサンミッシェルの草を食べて育てた羊はフランス料理の高給食材として人気が高い。根室も半年ぐらいはオホーツク海と太平洋の両方から海霧が発生してミネラル分をたっぶり運んでくるから、そこで飼育した羊や牛はブランド化可能だ。シカ肉に目をつけたところが素晴らしい。

 考えているのとやるのとはぜんぜん違う。立ち上げ当初は苦労が多かったようだ、何もないところからブランド化を目指してやるのだから苦労はあたりまえ。親会社もろとも倒産するかもしれないリスクを背負ってがんばりぬくところに企業家精神が育つ。
 東京丸の内のキッテビルに出店した回転寿司のはなまるの清水社長といい、この西尾祐司社長といい、根室にもしっかりした企業家がいる。

 こういう事業は民間会社がリスクを犯して立ち上げてこそがんばりぬける。対照的なのはベトナムサンマ輸出である。市が主導してやるような事業はハナからダメだ。及び腰で、自分でリスクをとらず、市の予算におんぶにだっこでは、うまくいくはずがない。水産加工業者の中でも見識の高い経営者は参加していないよ、地元の一部の企業家にはそれくらいの判断力はある。

 アベノミクスの三本目の矢である「成長路線」は民間企業の問題だ。政府がやれるのは規制緩和ぐらいなもので、積極的にリスク・テイクする企業家群が育ってこないことには絵に描いたもちに終わる。
 
 新規事業には大きなリスクがあるからその立ち上げには覚悟がいるが、その覚悟があるからいくつかの失敗を繰り返しながらそこから学び成功事例が出てくる。「失敗は成功の栄養素」くらいのキモチでチャレンジしないことには成功はおぼつかないということだろう。何があろうとも自分のリスクでやりぬく覚悟をもつことの大切さを、根室の地元企業家たちは「ユック」の事例から学んでほしい。

 根室市の予算に寄生している地元企業経営者はリスクが恐くて及び腰になる。寄生したままでは根室市が財政的な問題を生じたときに共倒れとなる。

 市内の中学校や高校はこういう地元企業家を呼んで生徒に話しを聞かせたらいい。社員に夢を語り具体的な行動を起こせる企業家は強い、そういう企業家からは学ぶべきものがある。


  1月19日北海道新聞朝刊、いい記事だ。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/topic/516120.html
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北海道・根室産シカ肉、東京・大阪で好評 海霧スパイス?、食べる草にミネラル豊富

(01/19 06:25、01/20 10:03 更新)

 

 【根室】根室産のエゾシカ肉が東京や大阪の高級ホテルで人気を集めている。提供するのは根室市内唯一のエゾシカ専門の食肉加工会社「ユック」(西尾裕司社長)。海霧に含まれるミネラル分たっぷりの草を食べることで、肉質がフランス料理に合うなど、高く評価されているからだ。

 西尾社長(51)がユックを創業したのは2005年秋。道の補助も活用して加工工場を建設した。創業当初を振り返り、西尾社長は「ノウハウもないし販路もない。周りからは笑われ、建設会社ごと駄目になるのではないかと何度も思った」。

 根室管内1市4町ではエゾシカによる食害や交通事故が深刻で、「厄介もの」のイメージが強い。根室振興局のまとめによると、12年度の農林被害額は9億3100万円と過去最高を記録。被害は根室市だけでも1億6300万円に上る。

 しかしユックは根室産にこだわり、シーズンの10月~翌1月はハンターからの受け入れのほか、囲いわなで捕獲したシカを中心に生肉で出荷。夏場は冬に捕獲したシカを根室市内の養鹿(ようろく)場で飼育する。

 ユックの肉の卸値は最高級のロースで1キロ4500円で、他社より2~3割高め。初年度は4・7トンの出荷にとどまったが、食品衛生管理の国際規格「HACCP(ハサップ)」を取得していることなどが評判を呼び、「食の安全」を求める専門業者を中心に需要が拡大した。出荷量は09年度以降、右肩上がりで推移している。(根室支局 笠原悠里)<北海道新聞1月19日朝刊掲載>

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有限会社ユック ホームページ
http://www3.ocn.ne.jp/~yukku/char.html


 根室産食肉ブランド化に関する弊ブログ記事
*道内人口急減 知恵絞り地域守らねば(道新・社説)
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-04-17

【抜粋引用】
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 雇用創出については地方自治体ができることは限られているので、過大な期待はできない。原料供給基地としての地位に140年間甘んじてきたが、加工を盛んにして販路を押さえることが、北海道の雇用を増やすことにつながる。
 高品質を誇る北海道ブランドの加工製品群を育てるためにはどうすればよいのだろうか。
 たとえば、歯舞漁業協同組合が開発した商品群にその萌芽をみることはできないだろうか?漁業協同組合が製品開発の拠点になりえないだろうか?農業高校は酪農加工製品開発の重要な拠点にはなりえないだろうか?
 手造りの魚の燻製、原料を厳選した高級チーズ、モンサンミッシェルのようにミネラル分の多い牧草で育てた羊など、テーマを絞って検討すれば10年くらいで具体的な成果が得られそうなものもある。わたしにはアイデアがないが、根室人の叡智を結集して10年間手間隙をかければ、高品質の地域ブランド商品がいくつか開発できる可能性があるだろう。問題は人材である。とりあえず情熱の塊のような人が欲しい。そして確かな技術をもった人も
 漁業と農業が広域で手を組む。たとえば、漁業の根室、漁業と酪農の別海、酪農の中標津、これら三つの地域が手を組めば、全国に通用する地域ブランドが確立できるのではないだろうか。
 北海道の人口減をとめるためには、センター(札幌)が繁栄するのではなく、ペリフェリ(札幌から遠く離れた地域)が自立して繁栄することが必要条件である。
                                                 備えあれば憂いなし

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