新病院が完成して、稼動し始めた。1月29日の北海道新聞根室地域版に根室支局の記者が取材記事を載せたくれた。なかなかいい記事だったが、突っ込み不足のところもいくつかあった。
 #2208「新市立根室病院開院」を書いた。問題点を具体的にひとつひとつとりあげ論じてはみたが、気が変わったのでアップしない。もう言っても詮がないことに気がついた。

 そもそも病院建て替え問題を採りあげたのは、古里の医療を破滅から救い、よい方向にもって行きたかったからで、300回近くとりあげて書いた。しかしもう病院は建ってしまっている。総事業費は70億円、どういう理由があるのか分からないが、市が招聘した病院コンサルタント提案の2倍以上のコストをかけた。
 にも関わらず問題点はいくつもある。療養病棟がないことや外断熱仕様ではないのでランニングコスト(燃料費)が倍もかかるであろう点や職員食堂がないこと、個室が多すぎることなどがあげられよう。電子カルテと外来診療実務デザインにも大きな問題があり、32個の外来ブースを設置してしまった。
 その一方で病院赤字は毎年膨らみ、ついに今年度16億円に達した、前市長時代の2倍の年間赤字である。毎年記録を更新し続けている。

 いずれももう取り返しがつかない。来年度は20億円前後の赤字が出る。市議会ではこのまま赤字が続くと市財政が持たないと答弁している。そうなれば市役所職員の給与2~3割カットで対応せざるを得なくなる。
 それで病院の経営が改善するわけではなく、もっと採算が悪くなる。定年退職する看護師の補充ができなくなり、閉鎖病棟が出て、病院収益は急激に減って赤字額がさらに拡大することになるだろう。すでにオーバーラン、もたない。
 住宅ローンを抱えている人や子どもの大学進学を控えている職員は、備えを固くしておくべきだ。

 小児科はついに北大医局のバックアップがなくなる。これで北大医局は根室から完全に手を引くことになった。本意ではないはずだ。そうせざるを得ない事情がこの2年ほどの間に起きてしまったと理解すべきなのだろう。#2173へ寄せられたたくさんのコメントを見ていただければいい。

*#2173 市立根室病院の小児科はどうなる? Jan. 12, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-12
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・・・定年を迎えられる医師は、引き継ぎ期間の後、ご退任されます。同時に、組織としても、応援を終了します。苦しい事情をご理解ください。・・・
常勤医を確保した院長の手腕は、素晴らしいと思います。1人で赴任する医師の負担が、心配されます。

by 札幌小児科医 (2013-02-11 20:32) 
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 たしかに投稿をいただいた人は札幌在住の小児科の先生だろう。そうとしか書けない。
 何も詮索せずに素直に行間を読めば、事情は推察がつく。根室市への「惜別の辞」だと理解した。立場を入れ替えてわたしが書いても、ほとんど文面は同じになる。

 コメント欄にはハンドルネーム「事情通」さんや名前のない方「by NO NAME (2013-02-10 16:03)」から医療現場の事情が詳細に書き込まれている。わたしも認識を新たにした。医療に携わっているドクターにしか知りえない事情が丁寧に解説されていた。投稿に感謝申し上げる。
 書き終わったら、また投稿が一つあったので紹介しておきたい。HN(ハンドルネーム)がふるっている、「市立根室病院指定管理者」、思わず吹き出しそうになった。

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札幌小児科医さん
・・・
札幌小児科医さんの詮索をしてもしょうがないのでここでやめておきます。

管理人である私から申し上げます。小児科の件ですが、2013年4月に小児科医師が赴任します。大阪からの研修医の件はありません。札幌から赴任する医師のもとで研修する形ではあるかもしれませんね。
小児医療は成人と違って日単位で病態が変化するものではなく時間単位で変化します。だから24時間管理が必要となるのです。小児医療をしたことない医師にはわかりません。小児科は循環器、内分泌、消化器、神経内科、血液内科と全て診ますが小児科です。成人の内科のように循環器内科、消化器内科、呼吸器内科といいません。医局内ではそれぞれのグループにわかれますが、一般病院での治療であれば専門グループでなくても診療出来ます。専門的治療が必要であればほぼ大学病院クラスに紹介され、治療方針がついてから戻されます。
管理人としては北大系小児科医局が築いた医師の派遣システムを今度は札医系小児科医局で引き継ぐ予定です。金額がかかりますが、一人では小児医療は無理です

ぴんぽんさん

毎年市立根室病院の医師が必ず辞めています。
原因はいろいろあると思います。今後常勤医師と嘱託医が混在していくものと思われます。
大学医局派遣については大学と病院の間に信頼関係がある限り続くと思われます。
札医とは現在信頼関係が構築されつつあります。そのおかげで整形外科1人、外科1人、消化器内科1人の派遣はおそらく当分は続きます。
ただ派遣は1年または半年と入れ替わりになります。
旭医系眼科は不明です。

招聘で旭川に行くより札幌に行ったほうがいいからです。
でも道外に招聘に行く方が楽しいです。
札幌への医師招聘で札医とある程度方向性着いたら、今度は道外に医師招聘に行きます。東京近辺だと中標津から出ているけど、関西方面なら新千歳経由でもいけるからね。

事情通さん

>最近色々な方面から市立根室の「医局の暗さ」や「医師と周りのスタッフとの不協和音」が聞こえて来ます。
大変申し訳ありません。この時期は常勤医師が辞めていきます。医局だけでなく、事務局も暗いです。

明るいのは管理人だけです。申し訳ありません。
by 市立根室病院指定管理人 (2013-02-13 00:48)
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ハンドルネーム「市立根室病院指定管理人」さん

投稿ありがとうございます。32件目の投稿、楽しく読ませていただきました。
ハンドルネームが気に入りました。洒落てます。
書いてはいけないことは途中で言及を避けて、どうやらしっかりした方のようです。

噂の大阪の医師の件はとりあえずはないという「内部情報(?)」、情報の確度はさっぱり分かりませんが、あなたの情報が現時点では正しいのでしょう。文面から信用していい、そんな気がします。

札医大との関係は現状維持ということでしょうか?地域派遣枠がなくなっても、継続してくれる。
>大学医局派遣については大学と病院の間に信頼関係がある限り続くと思われます。
>札医とは現在信頼関係が構築されつつあります。そのおかげで整形外科1人、外科1人、消化器内科1人の派遣はおそらく当分は続きます。

増員は無理という結論なのでしょう。

旭川医大から眼科医派遣の件は不明としています。学長のご好意でしょう、眼科を残してくれました。道内の大学だから地域医療への配慮があったのだろうと思います。
そして、もうじき起きる北大医局の撤退。

あなたの解説でよくわかったことが一つあります。市立根室病院は道内に医師派遣増員をお願いできる大学がなくなったということ。このことこそが一番重要な情報でした。それを心配していた関係者は私の知る限りでも数人いらっしゃいます。もちろん心配している方は他にもいらっしゃるでしょう。

>招聘で旭川に行くより札幌に行ったほうがいいからです。
でも道外に招聘に行く方が楽しいです。

>札幌への医師招聘で札医とある程度方向性着いたら、今度は道外に医師招聘に行きます。東京近辺だと中標津から出ているけど、関西方面なら新千歳経由でもいけるからね。

市立根室はヘッドハンティング・ブローカにとっては上客であると書いているようにも聞こえます。
出張医を関西圏まで手を伸ばしたら、市立根室病院の経営がどうなるかは、はっきりしています。

「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」

これでは「売り手」のヘッドハンティング企業のみが濡れ手に粟、買い手(市立根室)は早晩経営破綻、世間(患者と市民と職員)は踏んだり蹴ったりの構図です。

でも、どうしようもない、あなたのご意見に従えばそういうことのようですね。
ふるさとの医療の明日を憂える私としては、ショッキングな情報ですが、とりあえず正直で率直、そしてユーモアを交えた解説に御礼申し上げます。
貴重な情報とご意見ありがとうございました。
by ebisu (2013-02-13 08:37)
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 真偽不明な記述があるので、アンダーラインを引いて示しておいた。札医大小児科が医局としてバックアップするなら、非常勤の医師を交替で張りつけるはずだが、そういう「気配」はない。赴任予定の医師が医局派遣の形で来るという話しでもあるのだろうか、そうではないようだから、この箇所だけは我田引水かもしれぬ。時間がたてばわかることだから、経緯を見守り、情報の信頼度を判断すればいい。

 「指定管理者」を名乗る人の文面からは他にも読み取れる情報があるが、解説はやめよう。野暮だ、読み手の皆さんが行間を読めばいい。
 それにしてもよく内情をご存知のところとそうではないところがあるのも理由のあることなのだろう。(笑)
 これが市立根室病院関係者か元関係者なら、病院経営が赤字を増やし続け、破綻する理由がよくわかる。こんなにあけすけで、「正直」な投稿は珍しい。
 ドクターでないと知りえない経験智への言及がないから、内容から判断してドクターではない。そして医師獲得について経営上の配慮が露ほどもないから、この人は大局的な判断の苦手な人なのだろう。酒を飲むだけなら面白そうな男ではある。
 こういう人が医師招聘活動に携わっているとしたら、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと行き当たりばったりの迷走は実によくわかる。

  一つ忠告しておきたい。(文面に自然に出てしまっているが)実務ではこういう"ブラフ"は通用しない。すぐに見抜かれ、まともなところは2度までは会ってくれても3度目はないだろう。相手がそれなりの地位や身分にあり、相応の見識を持ち合わせていればブラフは簡単に見抜かれる。わたしも実務ではそれなりの権限をもち、そうしてきた。仕事のできぬ輩はなるべく相手にしない。安全できちんとした信頼できる仕事相手は世の中にいるからだ。相手を選んで仕事をするというのは自分の信用を維持するためにも大事なことなのである。
 想像できることは、北大医局からは相手にされていない、旭川医大に行っても詮がないことをご本人自身が書いてあるから、やはり相手にされていない。そうだとすると札医大医局との関係だって脚色がありそうだ。
 道内には相手にしてくれる大学がなくなった、そういう告白と読んでいいのだろう。だから千歳から関西へ飛ぶと。
 文面をもう一度注意深く読んでみてほしい。(古里根室のために私のプロファイリングが外れていることを願う)。
  前回の弊ブログ記事#2209の匿名のドクターの投稿と比べて読んでみたらいい。ブラフはひとつもない。そういう必要がないからだ。
*#2209 学ぶ: チーム医療と同門 Feb. 13, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-13

  HN「事情通」さんからコメントが追加されている。
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>この時期は常勤医師が辞めていきます。医局だけでなく、 事務局も暗いです。

かなりふざけた言い方ですね。「常勤医が辞めて行く」と言う表現は定期的な医師の交代とは違うでしょう。定期的な医師の交代ならば医師の数は減らず誰も暗くはならない。事務まで暗くなるのは、「このままではどんどん医師が減り病院が成り立たなくなる」と言う不安が有り、またその原因に薄々勘付いてはいても自分たちの立場ではどうにも出来ないもどかしさ(腹立たしさ)が有るからでしょう。

また医局が淋しいのは、”様々な人間関係”から居ても楽しくないから皆自分の現場から医局に行く機会が減り、医局にはお互いが見知らぬ出張医ばかり。これでは会話も生まれず医局も暗くなる一方・・・。

違いますか?



by 事情通 (2013-02-14 10:03)

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 市立根室病院の経営は行き着くところが見えてきてしまったようで、もはや避けようがない。どのようなクラッシュが待ち受けているのだろう?

 これらの投稿は根室の地域医療がどうあるべきかを考える際に、貴重な資料となる。根室の地域医療の将来に不安をもっている市民は、ぜひ全部に眼を通していただきたい。
 このコメントから学ぶべき人の筆頭は根室市長であるかもしれない。
 地域医療に関心の深い経済団体や諸団体もあるようだから、きちんと読んで考えてもらいたい。あなたたちにはやるべきことがあるはずだ。

 暇のある人は300近くも書き綴った古里根室の地域医療問題に関する弊ブログ記事をお読みいただきたい。5つのカテゴリーにまとめられているから、選んでクリックしてほしい。具体的な提言がたくさん見つかるはずだ。

 当分の間、わたしは病院問題をとりあげるつもりがなくなっている。「指定管理者」を名乗る投稿でげんなりしたこともある。これほどとは思わなかった。つける薬がないと言うのが本音。
 コメント欄は事情をご存知の方や、ご意見のある読者が自由に使っていただいていい。よほどひどい投稿やプライバシーの問題に抵触しない限り、意見が違ってもコメントの削除はしない。
 ebisuは古里の地域医療のために祈りつつ、経緯を見守りたい。しばらく沈黙。一週間かもしれないし、一月かも知れぬ。



*#2208 市立根室病院の小児科はどうなる? Jan. 12,
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-12



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