4月17日付けの北海道新聞に釧路の地域経済に関する調査報告書が取り上げられている。釧路支局の村岡さんの書いた記事である。

 わかりきったことだが、実情を調査してまとめる人が誰かいないといけない。データでの裏付けも大事だ。もっと大事なのはこの報告書にも結論として書いてあるようだが事業後継者の人材教育。そこはこの調査研究の埒外である。

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釧根の中小企業先細り
 「域内循環」が衰退
    仕入先 相次ぐ廃業
      行政は金融機関 事業継承支援を

 道中小企業家同友会釧路支部と釧路公立大、釧路市は「釧根中小企業経営実態調査研究」の昨年度の報告書をまとめた。釧根管内の企業の仕入先が、管内企業の廃業などによって他地域の企業に移り、商品やサービスを地域内で賄う「域内循環」が衰退し、地域経済低迷の一因となっていると指摘している。(村岡健一)

 同友会支部や釧公大調査

 調査は2008年度から毎年行い4回目。これまでに生きない循環の重要性を訴え、人材育成に公的支援が必要ーなどの指摘をしてきた。
 今回は5年間隔で釧路市が作成してきた釧路市産業連関表の05年度版を作成した上で、企業の実態調査も行った。調査は釧根管内の2229社に質問用紙を郵送し、218社が回答した。
 これらのデータを基に、釧路市や釧根管内の産業の強みと弱みを把握し、他地域との取引で稼いでいるかなどを検証した。
 10年前と比べ、域内企業から仕入れることが減った企業が38.1%を占め、増えた企業(17.0%)を大きく引き離した。減った理由として「域内の企業が消滅した」(53.0%)が第一位を占め、ついで「域外から仕入れるほうが安い」(20.5%)、「必要な商材を扱う企業が域内にない」(18.1%)と続く。
 調査を行った公立大経済学部の下山朗准教授は「企業が倒産や廃業をすると、域内での取引が行えず、その結果さらに地域経済が縮小、疲弊する。釧根の中小企業は経営者が代替わりの時期に来ており、後継者に事業継承できるよう、行政や金融機関の支援が必要と指摘する。
 また、新たな事業を展開できる人材を育成するため、一般的なマナー研修やパソコン研修ではなく、経営者感覚を磨く社員教育の重要性を説いた。そのための財政支援や教育プログラムの支援を、業界や市、道などが行う必要性を指摘した。
    
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 「人材育成に公的支援が必要」とあるが、どういう人材が必要かと言うと、基礎学力が高く良質の経験を積んだ人材だろう。

 釧路も根室も学力上位層が大学を進学してそのほとんどが戻ってこない。釧路はまだいい、いくらか戻ってきている。教育大と公立大があるし、市議には私大出の能力の高い人がいるし市役所にも北大出がいて市政を支えているが、根室市役所には道庁出向組みで北大出がたまにいるのみ、市役所に北大出身者はゼロではないだろうか。北大卒でも優秀なものはごく一部であるが、道内の市役所で北大卒がゼロというのは珍しいだろう。
 ある上場企業の役員が全員高卒だったことがあるが、その経営はそれなりのものであった。たまたま創業社長が若い頃同じアパートに1年ほど住んでいたので知っている。3年制の専門学校に通っていたが「これからは大卒でないとダメだ」と思いつめた顔で話してくれた。卒業後に東京理科大学の夜間に通ったところまでは知っていたが中退したのは二十年以上後のことだった。向学心があだになって、上場企業に成長したにも係わらす高校時代の同期を集めて役員にして、大卒を使えなかった。あまり具体的な事実を書くと個人が特定されるのでやめておく。1学年下の勉学意欲のある珍しい若者だった。
 根室では前市長が北大水産学部だったが、市長を辞めた後はさっさと札幌へ去った、だからといって地元出身の市長のほうがいいとは言わぬ、それは能力次第で出身地とは関係がない。全国レベルでの平均学力層や学力上位層がほとんどいない根室では、他地域から不足している学力上位層が流入してくれればいいのだが、はたしてそれに応えうる魅力のある民間企業がいつくあるのかということが次に問題となる。

 さて、若い人たちが良質の経験をつむことができるかという問題だが、根室は旧弊の塊で改善を嫌う土地柄、それは志の低さとともに風土の一部と化してしまった。弊ブログでも何度も取り上げたが年中行事と化した北方領土返還運動や市立病院建て替え問題にも旧弊が象徴的に現れている。商売上の利害を絡ませて市政におもねる種々の経済団体やその他の団体はいまもいくつも存在する。市政と地元経済界の癒着構造が、批判を封じマチから活性を奪い、長期にわたりマチを衰退させたと考えざるをえない。
 地元経済界と市政が健全な批判精神を失いなあなあで仕事をすれば域外との競争力がどんどん低下していく。いまも根室ではそういう経営者が過半を占めて、井の中の蛙を決め込み、足元の土が水に流れていくことに気がつかぬ。まっとうな努力の仕方を知らないのだろう。事業後継者の育成難は自らが作り出しているもの。
 そうした釧根の状況がこの調査レポートにも如実に現れている。

 小売業を例にとれば、域内どころか、メーカーと直結した道外仕入を主体にしなければ大型店は生き残れぬ。いつまでも便利な道内仕入に依存していた小売業の老舗は根室からあらかた消滅した。仕入のイージーさから生き残ることができなかった。規模を拡大して仕入コストを下げなければ域外から進出してくる大型店に対抗できるはずもない。中標津では東武サウスヒルズが徹底的に仕入コスト削減にこだわって生き残り、根室は全滅した。仕入れコスト削減にかける情熱と能力に大きな差があったためだろう。小規模店はセイコーマートやセブンイレブンに置き換わった。域内仕入が減るのは当然のことで今後もこの傾向は止まらぬ。
  根室家具センターが昨年閉店した。釧路のニトリと競合、道路と車がよくなったから商圏としては釧路・根室・中標津は一体化しつつある。老舗高級家具店の苅部が何年も前に閉店し、ついに根室には家具店がなくなった。これは経営努力によってなんとかなるレベルではない。たとえば釧路にニトリを立ち上げるくらいの力のある家具店が根室にあれば話しは別だが、なかっただけのこと。広くなった同一商圏内で生き残ることは至難の業である。回転寿司ハナマルのように札幌にいくつも支店を出し繁盛する企業はたった一つだけ。地元企業経営者が育っていないことはたしかだろう。旧弊を守り続ける事業経営者ばかりだとしだいにその数が減っていくのはあたりまえだ。

 この調査報告書は結論部分で正しく「経営者感覚を磨く社員教育の重要性を説い」ている。改善の意欲の高い企業で基礎学力のある若者を鍛え抜けば人材は育つが、釧路ですらそういう民間企業が数えるほどもないのでは?大事なのは次の三つのことだろう。
 ①子供たちの基礎学力を高める(良質の労働力の育成)
 ②高学歴層が就職したくなるような企業にをめざして経営改革を断行する決意をする
 ③オープン経営とは何かを知り、そちらへ舵を切る
 
 この三つをきちんと抑えれば企業は活性化し人は育つ。
 東京の最前線で良質の経験を積んだ釧路出身者が何人かいるかもしれない。団塊世代でそういう経験を積んだ者たちに地元経済界が協力を仰ぐのがいいとわたしは思う。ボランティアで古里の役に立とうという首都圏の道産子はいるだろう。話しを聞いただけではダメで、実際にやってみなければ意味がない。実務ではいろいろ問題が出るから、相談する経験者がいると安心してできるだろう。根室と釧路は共通の問題を抱えている。

(次回は生活保護世帯数が増え続けている根室の現況を道新根室支局の栗田記者が取り上げたので、俎上に載せたい。根室の地域経済の衰退や子どもたちの学力低下問題は生活保護世帯を増やすことになる。市の財政はこういう傾向に備えて準備をしなければならぬ。空き家も人口が5000人減れば千数百件出てくる、その中には持主が不明の倒壊のおそれのある家屋が相当数になるだろう。条例をつくりお金を積み立てて取り壊しの用意をせざるを得ない。備えあれば憂いなし)

*#1910 2022年根室と中標津人口逆転 Apr. 18, 2012 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-04-18


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