老人が預貯金をもっていても株式投資する人が諸外国に比べて極端と言えるほど少ないのはなぜだろう?
 こうした疑問を持つ人は多いのではないか。
 実にシンプルな答えがある。日本人の伝統的なビジネス倫理に反しているというのがそれ。
 「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」
 というのは伝統的な商道徳であるが、そのほかにも多くの商家で受け継がれてきた家訓の中に「浮利を追ってはいけない」というものがある。住友家の家訓の中にもその条がある。
 濡れ手に粟をつかむような利益を追ってはいけない、商売は信用を第一にすべきということだ。たとえば、大震災でモノが値上がりしているときに、買い占めをして大儲けをしてはいけないということ。そういうときにも平時の適正な利益を守り、買い手に喜んでもらい、信用の実をあげろということ。日本では創業200年以上の老舗企業が他国に比べて圧倒的に多い。それは伝統的な商道徳を守り、信用を大事にしてきたからだ。
日本では泥棒にも倫理があって、一番いけないのは火事場泥棒。こいつは泥棒の風上に置けぬ者。人が困っているときに、チャンスとばかりそこに付け込んで一仕事するのは泥棒だっていけませんや。大地震があるたびに、避難して留守になった家から家財道具を盗む事件が後を絶たない。情けないね。平均的な倫理観が欧米や中国並に近づいているということ。

 株価は上がったり下がったり、博打のようなもので、そんなものに一喜一憂していたら、日常のビジネスが疎かになる。
 1970年代終わりから1980年代初頭にかけて、株価の値上がりが激しくて上場企業の株式投資が流行ったことがある。新聞紙上では財務担当取締役の手柄としてもてはやされた。本業の利益よりも大きな利益を手にできたからだ。そういう財務担当取締役はさらに株式投資にのめり込んだ。だが5年とたたぬうちに、結果は惨憺たるものになった。巨額の損失をだして責任を問われ会社を追われた。
 だいぶ遅れて、米国でも類似の事件が起きた。2001年に起きた全米7位の売上と21000人の従業員を雇っていたエンロンの粉飾決算事件である。負債額は400億ドルを超えていたとされている。

 ソフトバンクの孫正義氏がエンロンとよく似たビジネスモデルで事業を拡張している。あのやり方は案外古くとてつもなくリスキーなのである。
 日本の大企業はよく海外企業を買収して、経営できずに大赤字を出しては損切りして売却している。近くは日本郵便がオーストラリア物流会社のトール社を買収して4000億円の赤字を出して、減損処理している。

 わたしは臨床最大手SRL社の学術開発本部スタッフとして働いていた時(1990年ころ)に、米国の染色体検査会社を100億円で買収する案件を担当したことがあるが、染色体検査に関する日米の法律規制の違いと社内にマネジメントができる人間がいなかったので、買収提案拒否の稟議書を書いた。OKを出していたら、また「お前がやれ」ということになり米国で数年間経営に携わることになっただろう。日本でやりたい仕事がいくらでもあった。臨床検査会社を米国につくるための橋頭保として利用する手はあった。八王子ラボの自動化設備をもって米国進出すれば売上規模を2倍以上にできただろう。売上規模で見たら、世界ナンバーワンである。しかしわたしにはあまり魅力的な仕事ではなかった。

 日本人の老人たちが、利息が付かないのに預貯金を続け、一向に株式投資をしないのはこういう理由があったのだ。日本の伝統的なビジネス倫理に悖(もと)るのである。そんなビジネス倫理をもっているのは世界中で日本だけだろう。その日本人も、浮利を追う個人や企業経営者が増えて、怪しくなってきている。
 博打は胴元が儲かるようになっている。株価が変動して売買が増えれば、手数料収入を手にする証券会社がリスクなしで儲かるようになっている。
 米国には年金を株で運用して、老後資金を失った人がたくさんいる。そりゃ、儲かった人もいるよ。でもプロだってコンスタントに儲け続けるのはとってもむずかしい。ましてや素人の個人投資家が...

 日経平均とダウ平均の比較データを挙げる。
2017年5月末 日経平均19650.57  ダウ平均21008.65 差-1358.08 為替¥110.83/$

2021年5月末 日経平均28860.08  ダウ平均34529.45 差-5669.37 為替¥109.52/$

 対ドルレートはほとんど一緒だが、日米の株価は4311.29ポイントも拡大した。それも日銀がETFを30兆円も購入して株価を支えたからである。その株は2026年中に売却することになっている。日本の株式市場がどうなるか知れたものではない。

 弊ブログ#4544より引用
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日銀保有のETFは昨年11月末決算時点で簿価ベースで29兆円あり、2026年3月末までに売却処分することに決まっている。売却をはじめたら、日経平均は暴落するだろう。2013年に就任した日銀黒田総裁の任期は2023年4月までである。売却処分するのは黒田氏ではない、お利口な人だ。首相官邸参与の浜田宏一が「3か月で物価上昇2%」を達成できる人物と評したが、あれから8年、道いまだ遠し。
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23時
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